アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第62話

 ベースキャンプには何故かシャワーが存在する。

 

 それも簡易的なものではなく割りとしっかりとした物が設置されている。正直、砂漠という環境での活動中、あるいはその後にシャワーを浴びれると言うのはとてもありがたい事ではある、のだがやはり空井サキとしては何故態々? という疑問が以前からあった。

 

 

「う、ぐう、うぅうーっ、おぉん…!」

 

 

 その答えが現在、シャワーを浴びながら念入りに体を洗っているミヤコが溢している悲壮感に溢れた啜り泣く声とベースキャンプに漂う血生臭さが示していた。まぁ、なんだ、確かにシャワーが必要だなと珍しくゴミ箱から出ているがどうしたら良いのか分からないのかオロオロと右往左往している霞沢ミユを見ながら思う。

 

 聞こえた悲鳴に思わず飛び出したサキが見た文字通り尻尾を巻いて逃げていくアンジャナフと地面を転げ回るミヤコの姿は暫く忘れられないだろう。あと、助け起こそうとしてそれに気がついて思わず逃げてしまった事も、ミヤコは暫く忘れてはくれないだろう。

 

 なんて、嫌悪感を感じさせる生臭さに顔をしかめつつ若干現実逃避気味に考えながら汚れた手を濡れタオルで拭っているとサオリが近づいてくる。

 

「あ、終わりましたか?」

「あぁ、ちゃんと卵の保護は完了した…そちらは?」

「こっちも終わりましたよ、最低限の事しか出来ませんでしたけど」

 

 言いながら、視線を先ほどまで自分が居た場所へと向けるサオリに釣られる様に同じ方を見る。

 

 

 そこには、血で制服を赤黒く汚した二人の生徒が居た。

 

 

「…どうするべきなんだこれは?」

 

 分かる範囲で調べて彼女達の制服が山海経の物であることは分かった…それも、酷く血で汚れていたせいで結構苦労したが。恐らく彼女達がアンジャナフがベースキャンプ手前に居座っていた理由だろう。二人の内、一人の制服の背中が酷く汚れている事からなにかしらをした結果アンジャナフに襲われて重傷を負った生徒をベースキャンプまで背負って逃げてきたのだろう。お陰で帰って直ぐに強い血の匂いを嗅いだせいで噎せてしまった。

 

 まぁ何故かサオリは平然としてたしミヤコはそれどころではなかったので噎せたのは自分だけなのだがとサキは何故か釈然としないと思いながら愛銃…は狩猟場には持ってきていないので拳銃を持ちながら警戒する。

 

 一応は必死に出来る限りの処置を施したからか危険域から出たと思われる生徒はしかし血を失いすぎたのか気絶しており、その生徒の手を握りながら所々にやけどの跡が見られる少女は小さくただありがとうと繰り返しているが、警戒しない理由にはならないだろう。正直、心苦しくはあるが。

 

【おぉいサキー、分かったよー】

「おい、RABBIT3、任務中だぞ?」

【いやもう終わったじゃん】

「それは、まぁ…はぁ、それでどうだったんだモエ?」

 

 仕方ないと言わんばかりにため息を吐いてから問いかけると、うんと言って。

 

【アビドスに聞いたけど現在私たち以外に自然公園での活動許可が出てる生徒は居ないって】

 

 やはりかと小さく呟く。違和感と言うか、可笑しな点が多かった。まず装備が狩猟用のそれではなかった、いや採取だけを目的としているならと一瞬思ったが、武器がそれようにカスタマイズされている様子が無かった。

 

 そして一番おかしいと思ったのは、狩猟用の補助ドローンが見当たらない事だ。壊れたと言うのならアビドス側が把握してる筈だがそうではなかった様だし、忘れたなんて事はそれこそあり得ない事だ。あれは一種の許可証の様な物だからだ。

 

 それらの情報を元に考えるに、彼女達はまず間違いなく。

 

「…密漁者か」

 

 ボソリと、呟かれたサオリの言葉に少女の肩が跳ねた。

 

 図星、という事なのだろう。再び、サキは溜め息を吐く。正直、SRTの生徒として色々と言いたい事はある、がそれよりまずアビドスでの活動を短いとは言え行っている身として言いたいことが一つ。

 

「なんで態々、アンジャナフに喧嘩を売るような事したんだお前達は」

 

 これだ。確か現在確認されているアンジャナフの狩猟が成功した記録は3回、それがアビドスの実力者チームによって成されている。言ってはなんだが目の前の生徒二人はもっと装備がちゃんとしたものだったとしても、運が良ければ生き残れるからギリギリ問題なく逃走出来るになる程度のレベルでしかない。

 

「…違う」

「ん?」

「私達じゃ、ないっ。わ、私たちはただ、植物を取りに来ただけで、い…一番安全だからって、なのに急にあ、あれに襲われて…っ!」

 

 カタカタと体を震わせながら言葉を溢す。その時の状況を、恐怖を思い出したのかそれからはただ涙を流し震え続けた。

 

 サキは、ヘルメットを外し乱暴に頭を掻いた。正直、信じられるかと言えば難しい。だが嘘を言っているとも思えない。仮に、彼女が言った事が本当だとしたら考えたり報告しなくてはいけないことが増える。結局、アンジャナフがこんな場所まで出て来た理由も分からないままだし。

 

「あ、そうだ。アンジャナフの事なんだけどもしかしたら原因が分かったかも」

 

 何時の間にか、横に立っていたミユに思わず驚きで肩を跳ねさせながら本当かと問いかけると、頷きながらスマホを取り出して手渡す。

 

 

『クエェー』

 

 

 受け取ったスマホをサオリと一緒に覗き込む。映し出された動画はクルルヤックが抱えている卵を食べている画像。それだけなら、まぁよくある生態映像でしかないのだが。

 

【んー?…あ】

「どうしたモエ?」

【いやーそのさ。なんか持ってる卵に見覚えがないから調べたらさ…アンジャナフの卵の特徴と一致したんだよね】

 

 もう一度、動画を見る。卵に嘴を突っ込んでいるクルルヤックは心底美味しいと言わんばかりに鳴いている。まぁ、詰まりこれが意味することは一つ。

 

 

 クルルヤックがアンジャナフの巣を漁った…という事である。

 

「お前が原因かよ!」




・自然公園で起こっていた事。


 1、セルレギオスが暴れたせいで捕食者が減り、更にそのセルレギオスも討伐されたため天敵が減り草食動物が増える。

 2、クルルヤックが増えすぎた草食動物の数の暴力によって撃退されて卵が食べられず、どうしても卵が食べたいクルルヤック、何を思ったのかアンジャナフの巣に侵入し卵を強奪しようと試みる。がアンジャナフに見つかり撃退。

 3、撃退したクルルヤックを怒りに身を任せアンジャナフが追撃、追いかけまわすが見失い、探しているところに密漁していた生徒達を発見、襲撃。生徒による咄嗟の反撃に苛つき追いかけまわす。

 4、しれっと再び巣に忍び込んだクルルヤックが卵をゲット。大体こんな感じ。
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