アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第67話

 その弓を一言で言い表すなら、武骨と言ったところか。

 

 とある大型生物。小鳥遊ホシノと死闘を繰り広げたと言う一本角の竜から採取された巨大な骨の中から形の良い物を選び、そのまま利用すると言う強引な手法で作り出された代物。

 

 ただの骨と言って侮る事無かれ、一度弓を引けばミレニアムが新素材開発部特性の合金製の金具が先に悲鳴を挙げる程の強固さを誇っており。一般的な弓と比べても大きく、そして遥かに分厚いその弓の一矢は強靭極まる大型生物の甲殻を容易に貫くだろう剛弓と呼ぶに相応しい逸品。

 

 もっとも完成すると同時に発覚した問題が、でかすぎる、重すぎる、そして何より固すぎるせいでそもそも使える人間処か持てる人間すら限られて殆ど居なかったと言う致命的なものだった訳だが。

 

 とある理由からあの小鳥遊ホシノが持てはしたが引けなかったと言えばどれ程か分かる事だろう。そう言う事で、悲しい事に倉庫送りとなった剛弓は、しかし…幸運な事に使い手と出会った。

 

 

 それも、栗浜アケミと言うこれ以上無い使い手に。

 

 

「すぅぅふぅぅう…むんっ!」

 

 息を、吸って吐く。弓を構え引き、そして放つ。ただそれだけで放たれたその矢は確かに空を貫き、文字通り目にも止まらぬ速度でテツカブラへと向かう。

 

「グルォアァ!?」

 

 直撃、あまりに鈍い音を響かせながら矢は甲殻を吹き飛ばし側面に突き刺さる。突然の衝撃と痛みに思わず仰け反り、何が起こったのかと穴掘りを止め周囲を見渡す。そしてアケミたちの姿を目にすると同時に放たれていた二の矢がテツカブラ自慢の牙に直撃する。

 

 更に激しい衝突音。衝撃にテツカブラは僅かに後退する、がそれだけ。撃ち込まれた矢は弾かれ、鉄の固まりである筈の巨大な鏃はひしゃげて地面に転がり、牙には僅かな傷を刻むだけに止まる。

 

「やはり見た目相応の硬さですわ、ねっ!」

 

 分かりきっていた事だと溢しながら放つ。ボッ! と音を立てて放たれたその矢はしかし、今度は正面から額で受け止められた。一瞬、突き刺さるがすぐに溢れ落ちる鏃のひしゃげた矢を見るに、骨で受け止められたと言った所か。

 

「―――ゲロォオアアアアアアアアアアッ!」

「ッ!?」

 

 確りとアケミたちスケバンを見据えながらテツカブラの咆哮が轟く。洞窟と言う環境によって増幅された敵意と殺意の籠ったそれは、慣れ不馴れ関係なく反射的に体が竦み上がり思わず耳を塞いでしまう。

 

 そんな身動きを封じられたアケミにテツカブラは向かってなにか液体を吐き出す。

 

「――ッゥ! むんっ!」

 

 頭からなぞの液体を被りそうになるギリギリで、自由を取り戻した体を転げるように動かし回避する。ベチャリと地面に広がるその液体。受け身を取りながら横目で見るが、汚いと思うより前に先にジューと地面が溶ける音が聞こえた事にあれは危険だと判断する。胃酸か、そうでないかは分からないが酸性であることは確かだろう。

 

「全く、やはりアビドスに住む生き物は凄まじい物ばかりですわねっ!」

 

 何て声を聞いて避けられたと分かったからか牙を地面に突き刺し勢い良く抉りながらアケミに向かって突き進むテツカブラ。それを見据えながらしかし回避行動に移ること無く弓を構え引く。

 

 明らかな危険行動だが、彼女は一人でないゆえに問題なし。

 

「よいさぁー!」

 

 衝突まであと僅かと言った所でテツカブラの眼前にスケバンがポニーテールを揺らしながら投げ込むのは手榴弾。速度、位置、タイミング全てが噛み合い、コンと地面に当たり跳ねると同時に丁度テツカブラの口の中。直後に、炸裂。

 

「ルォアァ!?」

「そこぉ!」

 

 思わぬ衝撃に勢いを弱め僅かに仰け反るテツカブラの口内にアケミの一矢が突き刺さる。痛恨の一撃だろうそれはしかし、多量の血を撒き散らすがテツカブラは健在。恐らく骨に当たり想定より浅かったのだろう。

 

 バキリと口に突き刺さった矢を噛み砕くテツカブラにもう一発。続けざまに放たれた矢はしかし、牙を地面に突き刺したかと思えば勢い良く抉り取り牙に乗せ挟む様に存在する岩に阻まれ届かない。

 

「随分と大胆な盾の作り方ですわね」

 

 岩の半ばで突き刺さって止まった矢を見て、言いながら思考を回らせる。あれを破壊することは出来なくはないがそれをするくらいなら岩に守られていない部分を狙うべきかと思いながら弓を構え引きながら動く。

 

 そんなアケミに、テツカブラは岩を噛み砕きその破片を吹き飛ばす。

 

「っ!?」

 

 反射的に構えを解き片手で顔を庇う。幸い大した威力は無く僅かに傷を作るだけで済んだ。が、問題はある。それは足を止めてしまったアケミに向かってテツカブラが飛び掛かってきている事だ。ご丁寧に先ほどの爆発を警戒しているのか口を閉じて押し潰しに来ている。

 

 避けるべきか、或いは弓を手放し受け止めるか。一瞬の迷い。それを振り払ったのは…遠目に見えたヘルメット団のサムズアップである。

 

「今」

「あいよ」

 

 スケバンとヘルメット団の簡単なやり取りと共に放たれた銃弾は真っ直ぐにテツカブラの頭上の天井、そこに走る罅に撃ち込まれ一気に広がり音を立てて天井の一部が崩落する。丁度真下にいるテツカブラに向かって。

 

「ゲルォアアァ!?」

 

 跳んでいたゆえに対応できず、崩落に巻き込まれ叩き落とされるテツカブラ。墜落の衝撃と岩の直撃が重なり自慢の牙が1本が半ばでへし折れ、悶えながらも怒りを抱きながら岩を振り払い視線を一瞬さ迷わせ下手人を探す。

 

 

 が、それはアケミから視線を外したと言う事。

 

 

「はぁああ…っ!」

 

 深く息を吸って吐く。それ即ちアケミの産み出したスケバンの真髄込められし特別な呼吸法。スタミナを大きく消費しながらも、一気に弓を限界を越えて引き絞る。

 

 そして放たれる竜すら落とす一矢は轟音響かせ空切り進む。

 

 狙うはテツカブラの額の傷。そこに迷い無く狂い無く、ねじ込まれた鏃は弾け跳びながらも確かに骨を砕き、前から後へと衝撃が貫く。

 

 天井を仰ぎ見るように仰け反るテツカブラは、ガチンッと口を閉じ睨む様に視線をアケミに向け数歩進み…アケミの眼前で崩れ落ちた。

 

「…なんと言いますか、あの状態で即死しないのは生き物としてどうかと思いますわね」

 

 手の中の金具が壊れ弓の体を無していないそれを眺めながら言い、崩れ落ちた衝撃は風圧となって揺られる彼女の誇り。スケバンの魂。

 

 即ち、深紅の特攻服に刻まれし『天下無敵須怪婆云』の文字に偽りは無し。




・狩猟チーム『亞美怒須紅蓮隊』

 伝説のスケバンと名高き栗浜アケミを中心としたスケバンたちによって組まれているチーム。狩猟スタイルはアケミが攻め、他がその補助をする形を基本としており、その攻撃力はかの有名な便利屋68を上回るとの噂。

 それだけではなく、栗浜アケミにおんぶにだっこと言われない様、尊敬する姐様の足を引っ張らない様にとスケバンたちは各々自ら修練を欠かさず投擲技術や狙撃を磨き、今となってはスケバン全員が極めて高い練度を誇っている。

 とはいえ現在も栗浜アケミの実力が頭一つ抜き出ている事は確かであり。大型生物と組み合って投げ飛ばしただの拳で角をへし折っただのと逸話は尽きない。


 が、以外な事に大型生物の狩猟数事態は少ない。その原因がアケミが頻繁に狩猟用の弓を破壊しその修繕を行っている為である。その為、アビドス狩猟用装備開発部ではしょっちゅう申し訳なさそうに体を縮こまらせるアケミとどうにか出来ないかと頭を抱える開発部員の姿が見られる。


 そして、渾身の出来の新素材新合金が粉砕されたことを知った新素材開発部の断末魔がミレニアムに響き渡るとか。
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