動かなくなったテツカブラを前にアケミは深く息を吸って、体に籠っている余分な熱を一緒に吐き出し気分を落ち着かせる。と、彼女に向かって駆け寄ってくるスケバンの二人。
「やりましたね姐様!」
「えぇ、お二人は怪我などは?」
「大丈夫っす」
「ちょっと石ころが右足にぶつかった位で問題ないです!」
「そうですか、それは良かった」
無事を確認してから周囲への警戒を怠らない様に気にしつつ隠れているヘルメット団の方へと視線を向ける。
「そちらは大丈夫ですの?」
「あたしらも怪我とかはないぞ…まぁそれはそれとしてテツカブラの事見て良いか?」
「えぇ、どうぞ」
そう頷くアケミにそれじゃあと言って彼女たちは互いに見合ってから辺りを見渡し、それから二手に分かれて動く。二人は崩れた採掘地点のあった壁へ向かい、また二人がパタパタと駆け足でテツカブラへと近づき軽く確りと生き絶えている事を確認する。
「うわ、やばぁ。額の部分がすげぇ事になってる」
「多分これ、中身ぐちゃぐちゃよね」
「言うな言うな、そんな事。全く…取り敢えずあまり長居はしたくないからさっさと写真撮ってそこら辺に転がってる素材を回収するぞ」
「分かった、とは言ってもまぁそもそも加工できないから素材と言って言いか微妙だけど…あ、いや龍石炭あれば加工出来るんだっけ?」
「正確には目処が立ったって段階らしいがな…あれ、折れた牙は何処に行った?」
「あっち」
会話をしながら手慣れた様子で写真や動画を撮ったりそこら辺の地面に散らばった甲殻や鱗を無理の無い範囲で拾っていく二人。そこに、壁を調べていた二人の内の一人が駆け足で近づいてくる。
「どうだった?」
「思っていた以上に大丈夫な感じだった。多分脆いというか柔い部分が崩れただけで済んだみたい」
「なら取り敢えず崩落は気にしなくても良い感じか…掘れそうか?」
「うーん、ちょっと微妙だと思う。要するにさっきの騒ぎでびくともしないくらい確りしてるわけだから難しいかも。一応、行けそうな場所は探してるけど」
「そうか、無理はするなよ」
「分かってるよ」
頷いて再び崩れてしまった壁へと駆けていくの横目に、拾ったテツカブラの素材を鞄に詰め込みながらアケミたちの元へ向かう。
「急で悪いんだがここに龍石炭が在っても無くても関係なく拠点に帰還しようと思うんだが」
「あん? 在ったらって言うなら良いけど無かった場合手ぶらで帰る事に成るけど良いのか?」
「まぁ良くないがここで掘れなかった場合、もっと奥のまだ全然調査が進んでない地底湖とか縦穴の辺りに向かう事になるから…それはちょっと、というかかなり危険だろ?」
「…それは、そうですわね」
言いながら見るのは無惨な状態に成っている愛用している弓、であった物。一纏めにしたそれを改めて見てから軽くため息を吐いた。ここは常識外れの生物が蔓延るアビドス砂漠、その奥地。武器を持たずに出歩く危険性はキヴォトスの比ではない。
向かうのが未知の領域という武器があっても危険な場所となれば尚の事だ。
「そう言うことでしたら、分かりましたわ」
「助かるわ、まぁあんたらのお陰でテツカブラって言う新種の素材が手に入ったから手ぶらって訳じゃないから大丈夫だろう。少なくともあんたらの評価が下がるってことは無いだろうし」
「それはそれで心苦しいですわね」
「言っておくけど採掘は安定して量取れるとも限らない運任せな所在るから評価云々はあんまり気にしてないからあんたらも気にしなくて良いからな?」
「そう言っていただけるなら幾分は気持ちが軽くなると言うものですわ」
軽くなるも何も気にするなって言ってるのにと思いながらも口にする事無く、それじゃあと次する事を考えていると採掘地点の調査をしていた二人が何かを抱えて駆け寄ってくる。二人が持っているのは数は少ないが、間違いなく龍石炭だった。
「お、それ。掘れたのか?」
「いや掘れなかった。けど今回は掘る必要が無かったんだよ」
「崩れた壁の一部に幾つか混じってたんだよ」
「え、そんな都合の良いことあるの?」
「あー、いや元々採掘地点の一部が崩れたんだからそこに混じってる可能性はまぁ無くはないぞ」
運が良いって言うのはその通りだがと言ってから龍石炭から視線を外す。
「これで全部か?」
「いやまだもうちょっとあると思う」
「まじか、じゃあそっち手伝いに行くわ、あんたらも手伝ってもらって良いか?」
「えぇ、言われるまでもありませんわ。とは言っても私たちは見分けがつきませんから運ぶ位しか出来ませんが」
「十分だよ」
「あと、なにか近づいてきてるよ」
と、何気なく言われた言葉に一斉に視線が向く。直後に全員に緊張が走る。
「騒ぎを聞き付けて、もしくは血の匂いに釣られてと言った所でしょうか?」
「まぁ、だろうな。お前ら全員切り上げ! さっさと離れるぞ!」
「分かったわ!」
「おい、どっちから音がするか教えてくれ」
先程のテツカブラの件もあって誰も疑うこと無く動き、問いかけると少し耳を済ませるような仕草をしてから指差す。その方向にあるのは、地下に流れ無数に広がる川。
そちらから、なにかが来るとアケミは視線を向けながらどうにも加減できずすぐ武器を壊してしまう己を内心で罵る。
「あっちからエンジンの音がする」
「…はい?」
「え、まじ?」
「まじ」
が、どうにも話が変わってきた様で…
地底湖へ繋がる川、その一つが光に照らされていた。
光を灯すは一隻の船。なぜか大漁旗の掲げられたそれはスケバンもヘルメット団もよく知っている。
当然、その船の持ち主の事も。
「はぁーまさか漁師染みたことする羽目になるなんて」
「まぁ元々漁船だったんだから可笑しくはないんじゃない?」
「あ、確かに…っていやいやいや納得しそうになったけどやっぱり可笑しいわよ!?」
「すみませんすみませんすみません!」
「あぁいや別に責めてる訳じゃ!」
「あ、社長、釣糸切れてるよ」
「な、なんですってー!?」
なんて騒がしいのは船の持ち主である『便利屋68』の面々。
「あぁ、めっちゃ寝みぃ」
「寝てはダメですわよ! 死にますわよ!」
「何でだよ、雪山じゃないんだから普通に寝かせてよ…」
「お、おおおお遅い、遅過ぎるよこれ。ダメだってこれ未熟な私でも分かるよもっと速さ求めてるよこの船。行ける? 行けるか? 行けるな! 良し行こういざ改造!」
「ってなに人様の船を改造しようとしてるんですの!? 貴女は眠りなさい!」
「あばしゃ!?」
「まじで寝かせて」
と、なんでか一緒に乗って居る『狩猟愛好会』の面々。どういう面子だよとは思うが取り敢えず言いたいことは一つ。といった所で不意に川辺に立っているスケバンやヘルメット団を見つけた陸八魔アルが、ぎょっとした様子で白目を向いて叫ぶ。
「こ、こんな所に人が居るー!?」
「いや割りとこっちの台詞なんだけどそれ」