『龍墓調査拠点』から少しばかり離れた場所に広がる草原。アビドスではまず見られない広大なそこを小鳥遊ホシノは疾走する。当然ながら整備などされていないが然程気にした様子もなく、何故か普段浮かばせているドローンを抱えながら速度を落とすこと無く時おり軽く跳ねるように駆けていく。
と、彼女の視線が前から上にすなわち空へと向けられる。その先にはなにかが羽ばたき飛んでいるのが見える。断言は出来ないが目撃情報等を考えればセルレギオスである可能性が高い。
見つかったら面倒だとさっと視線を周囲に走らせ、目に止まった小さな穴に滑り込み身を隠す。
「ふぅー、隠れられる場所が多いって言うのは助かるね」
なんて独り言を溢しながらチラリと空を見れば先程より近づいてきているそれはやはりセルレギオスだった。その個体は縄張りを見回っているのか頻繁に顔を動かしながら飛び続け徐々に離れていく。
ここから出るのはもう少し時間を置いてからの方が良いかなと思いながらついでにちょっと休憩だと懐からチョコバーを取り出して咥える。
モソモソとした食感と甘さを感じながら抱えていたドローン内の情報をスマホに移し確認する。
写し出されたのは地図。ホシノがドローンを抱えたりワイヤーに繋いで凧の如く引きながら駆け回る事によって凄まじい速度で調べ上げた草原地帯の地形などが事細かに記されている。かなり正確であろうそれを見ながらしかしホシノは顔をしかめながら、数日前に簡単に調べた際に作った地図を映し見比べて。
「…やっぱり、地形が変わってる」
チョコバーを飲み込み、呟く。無かった筈の場所に丘が出来ていたり洞窟が無くなっていたりととんでもないことになっている。なんとも常識外れなと思いたいがそもそも数日程目を離していたら樹齢何十年だと言いたくなるような樹が生え、あるいは逆に樹海で在った筈の場所が禿げ上がり荒野の様になってた…かと思えば数日後には草原の一部になっているような環境なのだここは。
更に言えば、地形を変えられそうな化け物事大型生物が幾つか確認されてるし。
「これは、正確な地図を作るのは諦めるしかないかなぁー」
と、若干気の抜けた声溢す。出来れば自然公園や水没工業地帯の様に確りとしたものを用意したかったのだが。まぁそもそもあそこら辺の地図が確りしてるのは地形を変えられるような大型生物をそうなる前に狩っているからなので、それが出来ない時点で諦める他無いのだろう。
ある程度人員や設備が整ってくれば話は変わってくるだろうがと思いながら地図を消し、メッセージアプリを立ち上げる。なにか緊急の物がないかの確認だ。
とはいえ、写し出されるのは代わり映えない内容が大半だ。
ここに来て何度目かも分からない新素材が発見されたという報告、研究に夢中でシャワーを浴びてない生徒が居るから帰ってきたら叩き込んで欲しいとか、便利屋と狩猟愛好会を見つけたとか、今日の晩御飯はアプトノスのカツカレーですとか。そんな内容ばかりで。
「…ん? は? 便利屋? え、愛好会? なんで?」
と思っていたらいつもと違うものを見つけ綺麗に二度見。見間違いかと確認するが、やはりこんな場所に居る筈のない少女たちの名が記されている
なんでどうしてどういう事なのかと軽く混乱しながらも立ち上がり安全を確認してから急いで拠点へ帰る。心の何処かで書き間違えか、変な冗談の類いかと疑いながらホシノは草原を駆け抜ける。
「…本当に居る」
が、どうやら偽りも間違いも無かったようで帰ってきたホシノの視線の先には便利屋68や狩猟愛好会の面々が毛布に包まりながらスープを呑んでいる。
「あ、おかえりなさいホシノさん」
「うん、ただいま…それで、なんであの子達がここに?」
若干、唖然とした様子のホシノを見つけパタパタと駆け寄って来た少女に問いかける。
「いえ、まだなにも…なにかがあったのは、間違いないでしょうが」
「そう、だね」
言いながら再び視線を向ける。半泣き状態のアルに、彼女を見てからかう様に笑うムツキ、静かにスープを呑んでいるカヨコとその横で薬草の生えた鉢植えを抱えながら眠っているハルカ。それぞれの行動に違和感はない…着ている衣服がボロボロで其処ら中に治療の跡が見られなければだが。
「…あの人たちがあんな状態になってるの始めてみました」
「うん、私も久しぶりって感じ」
それこそ、アビドスで活動を始めたばかりの頃以来か。それも元々のスペックの高さからかすぐに慣れた様だったが…そんな彼女たちがあそこまで消耗するとは、本当に何があったのか。あと、なんで狩猟愛好会の子達と一緒に居るんだろうと思っていると、気がつく。一人足りない事に。
「あれ、愛好会の子もう一人いたよね? たしかゲヘナの」
「あ、はい。彼女なら今治療中です…その怪我が酷くて、特に左手の状態が」
「…本当に、何が」
「私が説明しますわ」
言いながらホシノたちに近づいてくるのは狩猟愛好会の少女、毛布の隙間から見えるトリニティの制服は酷く汚れているが怪我自体は他の子達に比べて軽度な様だ。一瞬、視線を交わしてから頷く。
「悪いけど、お願いして良い?」
「はい」
その言葉に、頷き返し静かに語る。
「大体、一週間ほど前の事なのですが。自然公園で狩猟をしていた私たちは…『ディアブロス』に襲われたのです」
後の後まで語り継がれる事となる…『最悪』の始まりを。