第70話
いつもと変わらぬ休日の事。さて今回はどうしようかとわいわい話し合いながら狩猟愛好会の面々は何時も以上に賑やかで騒がしいアビドス高校の『巨竜対策委員会』の元に訪れた。
「こんちはー、今大丈夫っすか?」
「あ、はーい! 少々お待ちください!」
なんて軽い調子でゲヘナ生徒が挨拶をしながら教室に入れば、資料の整理をしていたらしい『奥空アヤネ』が応え少し急ぎながら手に持っていた束を机に置き、駆け足で寄ってくる。
「お待たせしました! それで本日はどのようなご用件で?」
「何時も通り自然公園での狩猟許可を貰いに。あ、あとここ最近の公園内の状況も教えて」
「分かりました。えっと…はい、こちらにサインをお願いします!」
「はいよ」
差し出された何枚かの書類を受け取り、目の前で揺れる髪の毛を角に巻き付けてから確りと目を通してから慣れた様子でサインをしていく。それを横から眺めながら手持ち無沙汰に何となくトリニティの制服を弄りながらそういえばと彼女はアヤネに問いかける。
「随分と皆慌ただしい様子ですが何か問題でもあったのですか?」
「あぁ、はい。問題と言う訳ではないのですがちょっと倉庫の掃除に手間取っていまして」
「倉庫掃除? 言ってはなんですが何故今それを?」
「別に可笑しな事ではないんじゃない? 確かもうちょっとで砂漠の奥地に行ってた調査隊の一部が帰ってくるって話だし。それも奥地で見つかった新素材を乗せて」
そう軽く袖を揺らしながら言うと、はいと頷きながら続ける。
「一応は現地で取り敢えず危険性は無かったものだけではありますが、何が起こるか分かりませんから。きちんとした保管場所を用意しようとしたのですが思ったより苦戦していまして…埃を被っている素材が多量に在りますから」
「でも、それも解消されそうなんでしょう? 龍石炭だっけ? って言う燃料を使えれば加工が可能であるって話だし」
「はい。ですから、それをモチベーションに素材の山と格闘しているんですよ」
「ってことはより良い装備が手に入るかもしれないって訳か」
と横から会話に加わりながらほいと書類をアヤネに手渡す。
「これで良い?」
「確認します…はい、はい。問題在りません。それとこちらを、ここ1ヶ月の自然公園の状態を纏めた物です」
言いながら渡されるタブレット。それを三人で覗きながら会話が続く。
「しかし、新素材に今までの素材も使えるとなるとかなり変わりそうだね…ジャギィの群れが見られてないの珍しいね」
「ですわね。あ、でもこちらで確認されてるそうなので単純に巣を移しただけかも知れませんわね」
「と言ってもすぐには無理なんじゃないか? 色々と試して確認してってしないとだし。うわ、ジャギィが居た辺りで『ゲネポス』が確認されてるのか。こいつらに追い出されたのかね?」
「かもしれませんわねってアンジャナフ居ますの!?」
「え、あ、本当だしかも結構近い場所で確認されてる。え、これ大丈夫なの?」
「いえ、全然大丈夫じゃないです」
まさかの即答。思わず視線を向けると、しかしその表情は非常に落ち着いていた。
「ですので、既に便利屋の皆さんに討伐を依頼済みです」
「あぁ、そっか。まぁ彼女達なら大丈夫か」
腕が確かで引き際を間違えず、仮に引けなくともその場のノリと勢いでなんだかんだあって乗り越える実にゲヘナらしい便利屋68。彼女達が依頼を失敗するとしたらそもそも目標であるアンジャナフが居なかったとかとか誰かに邪魔されたとか、そんな事が起こった時位だ。
「そういうことなら活動は彼女たちの邪魔にならない場所で行った方が良いですわね」
「なら、ここら辺は? アンジャナフの活動領域からは遠いよ。ジャギィの群れはあるみたいだけど」
「そうだな。この群れでドスジャギィは…あぁ確認されてるのか。こいつは狩っても?」
「問題在りません。近く討伐依頼を出すつもりだった個体ですので」
「なら今回の標的はこいつって事で良いか?」
「異議無し」
「同じく、ですわ」
「うっし、じゃあそういうことでよろしく」
「分かりました」
「他になにかここに書かれてない様な注意点はあります?」
タブレットを返しながらそう問いかけると、そうですね…とアヤネは少し考える素振りを見せてから、あっと声を溢し言う。
「注意点とは違いますが。クンチュウを狩猟していただけると助かります。報酬も支払いますので」
「クンチュウを? いやまぁ別に良いけど頻繁に狩猟依頼出してるのにそれでも間に合ってないの?」
「それはそうなんですが。その、今まで率先して狩っていたシロコ先輩が現在アビドス砂漠の奥地調査に行っているので、その分がどうしても…その、実は今回帰還するメンバーの中にシロコ先輩も居まして。もしあの人が以前よりクンチュウが繁殖して増えている事を知ったら何をしでかすか分からなくて少し報酬を増やして多めに狩って貰おうかってちょっと悩んでいたんですよ」
「あー、そういう」
三人とも納得したように頷く。思い浮かぶのはキメ顔を浮かべながらサムズアップする砂狼シロコの姿。この世でもっともクンチュウが嫌いと宣言していた彼女が現在砂漠奥地に行っているのでそれを考えれば確かにとしか言い様がない。そして割りと思考が蛮族と言うかゲヘナ的なシロコの事だ。最悪絶滅させてやると言わんばかりに狩り始めかねない…実際似た様な事しようとしたし。
「まぁ、そう言うことなら積極的にとまでは言えないけど見かけたら狩る位はするよ」
「ありがとうございます!」
「よっしそれじゃあ、サクッと準備して」
「一狩りいこうぜ!」
「おーって、なんですのそれ?」
「え、いやなんか前に砂祭りで誰かが叫んでたの聞いてなんか良いなと思ったから言っただけだけど…え、良くないこの掛け声?」
「唐突過ぎてなにそれ感の方が強い」
「まじかぁ」
「私は良いと思いますよ」
「うん、ありがと」