アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第71話

「やっぱりクンチュウは面倒だねー」

「そうですわねってまた弾かれた! あぁもう! 殴る!」

「いや落ち着きなって」

 

 銃弾を受けた衝撃でごろごろと転がっていくクンチュウにストックで殴り掛かろうとするトリニテイの少女をきっちり目の前のクンチュウに止めを刺してから止めるミレニアムの少女と言う他自治区ではまず見られない組み合わせで、彼女たちの事を知っている人物からしたら何時もと逆だなと思う光景だ。

 

 実の所、取り敢えず殴ると言うのはクンチュウへの対処としては間違っている訳ではない、のだが頭に血が昇っているだろう状態でそれを行うのは非常によろしくない。そういう時は些細な事で失敗するからだ。

 

「ぐ、ぐぎぎ…っ!」

「ちょっと良いところのお嬢様がして良い表情じゃないよ。ほら、あそこの蛮族見て落ち着いて」

 

 言いながら指差す先には普段と違いゲヘナの制服の上に防備用チョッキを着込んだ生徒が居て。

 

「ヒャッハー!」

 

 絶賛、火炎放射機でクンチュウを火炙りにしていた。普段の様子からは想像も出来ないはっちゃけっぷりである。

 

「……なんと言いますか。あぁ言うところとかやっぱりゲヘナなのですわよねあの人」

「だねー。あ、落ち着いた?」

「えぇ、お陰で」

 

「ふぅー…やはり火、火は良いな。ってどうしたの二人ともそんな変顔して、なにかあった?」

「「いや別に」」

 

 そうかと言い汗を拭う、それから火炙りにされたのにまだ生きているクンチュウに止めを刺しながら呟く。

 

「しかし、まじで今回はクンチュウが多いな。ここまで多いと頼まれてなかったとしてもまずクンチュウを減らす事から始まってたかもな」

「だね…と言うか今までどれだけの勢いで狩ってたんだろうあの人」

「ですわね」

 

 と、軽くシロコの執念というか恨みの深さに戦慄しつつテキパキとクンチュウの素材を剥ぎ取っていく。

 

「…なんかさ」

「なに?」

「こんがり焼かれたクンチュウって美味しそうじゃない?」

「えぇー? そうでもなくなーい?」

「そうですわよ。クンチュウは焼くより茹でるか揚げる方が美味しいですし」

「そうか…え」

 

 食べたの? と問いかければ、以前美食研究会の方々と一緒にと答えた。とても美味しかったとの事。それは良かったなとしか言えなかった。

 

「あー…うん、良し。こん位狩れば良いだろ」

 

 クンチュウの素材をドローンに押し込み、軽く手を拭きながら言う。パッと見える範囲に居るクンチュウはかなり減った。これならアヤネの頼みを果たしたと言えるだろうし、ドスジャギィの狩猟を邪魔される可能性もグッと低くなるだろう。

 

「さてじゃあ本番って事で…ちょっと装備変えてくるわ」

「まぁ火炎放射機じゃちょっとねー。私も誘き寄せる用の餌取ってこないとだし一回キャンプに戻ろっか。あ、でも一応監視用ドローン飛ばしとこ、ちょっと待ってて」

「はいよ」

「あの、出来れば早めに…ちょっと弾薬の数が心もとなくて」

「クンチュウ狩りに使いすぎた?」

「…お恥ずかしながら」

 

 と、恥ずかしそうに頬を掻くのを見ながらそれなら仕方ないと肩を竦めながら少し急ぎで狩猟用ドローンのカメラ機能を起動し浮かべる。そのまま軽く調子を確かめるように動かす。

 

 

 

 その直前に、地面が大きく揺れた。

 

 

 

「おぅえ!? え、なに地震!?」

「にしてはなにか変と言うかどんどん強くなって」

「これなにか来てっ!?」

 

 眼前の地面が、爆ぜる。

 

 巻き上がる土煙と、降り注ぐ大小様々な岩に石。当たり所が悪ければ気絶しかねないそれが降り注ぐ中、しかし彼女たちは動けず、ただ目の前に現れたそれに視線を奪われていた。

 

 

 その、巨大な二本角を持つ竜に。

 

 

「ディ…ディアブロスッ!?」

 

 絞り出されるように溢れた言葉は続かない。視界に映り込むのは破壊槌の如く重厚な尾をしならせ振り向くディアブロスの口元から溢れる黒煙。それは、記憶に間違いが無ければ激怒している証明で。

 

 ふと、なにか軋む音が耳に届く。固いものが無理矢理曲げられている様な、或いは知り合いである栗浜アケミの得物である弓が限界まで引き絞られている時の様な、そんな音が聞こえて。

 

 

 次の瞬間、ディアブロスが間近に迫っていた。

 

 

 避けろと、そう叫んだ積もりだったがうまく言えたか分からない。

 

 それを気にする余裕など無くただがむしゃらに地面に向かい跳び転がる。それは本当の意味で緊急用の回避手段。相手が見上げるほどの巨体である事を利用して、地面に転がり大型生物と地面との隙間に入り込んで当たらない事に賭ける…ただの運任せ。

 

 それでも、あのただ走るだけで地面を抉り飛ばす程の尋常ではない脚力から繰り出される異常な速度の突進を遣り過ごす手段はこれ以外には無い。

 

 故に少女は頭を守るように抱えながら祈り、他の二人は大丈夫かと一瞬、視線を巡らせた。

 

 だから、それを見た。

 

 

「…あ」

 

 

 何処か気の抜けた様な声が、聞こえた。

 

 視界の端。其処には引き裂かれたミレニアムの校章の刻まれた制服が…それを纏っていた少女と一緒に宙を舞っていた。まるで放り投げられた人形の様に力無く、或いは紙のひらひらと、ゆらゆらと視界の中それはやけにゆっくりとと飛んでいたと思えば、そのまま下に向かって落ちてきて。

 

 頭から地面に叩きつけられる瞬間を、はっきりと見た。

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