アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第72話

 パタリと、力無く地面に倒れる少女を見てからの行動は早かった。

 

「あいつの事は任せた!」

「わ、分かりましたわ!」

 

 言って、起き上がり駆ける。視界の端に映る少女の銀髪が赤く染まっていくが、最悪の事態ではない。無事ではないのは見て分かるが踏み潰されたのではなく吹き飛ばされたのならば無事である可能性の方が高い。キヴォトスの民の耐久力は並みではないのだ。

 

 とはいえ、放置すればどうなるか分からない。だから出来る限り早く、そして確実に助けて治療しなくてはいけない。その為に、囮として動き意識を自分に向けるべきだと判断し、角に巻き付けた髪がほどけ視界を遮るのも機にせず懐から手榴弾を取りだし、自分の進行方向に向かって投げる。

 

 なにも無い場所で炸裂する手榴弾。ただ衝撃と音を撒き散らして終わったがそれで良い。記憶が正しければディアブロスは耳がとても良く、だから音に敏感だとあった筈だ。

 

 情報や記憶に間違いないことを祈りながらの行動だったが、効果は…あった。音に反応して視線を向けてきたディアブロスと目が合ったのだ。

 

 かと思うとぷいと背を向けて…その巨大な尾を凄まじい勢いで振り下ろしてきた。

 

「お、ぼぉあああああああ?!」

 

 変な絶叫が溢れるが気にしている余裕なぞ皆無だった。後先を考えない全力疾走でなんとか避けるが、尾が地面に叩きつけられた際の衝撃が全身を叩き吹き飛ばされる。なんとか受け身を取ってすぐに立ち上がるが、擂り鉢状に窪んだ地面を見て破壊槌のようだと思った事は間違いではなかったようだ。

 

 と、僅かに顔を動かし何かを探すような仕草をするディアブロス。二人の事を探しているのだろうか。だとすれば不味いと一瞬視線を向けると、背負おうとしているが完全に気絶しているせいか思ったより苦戦している様だった。このまま見つかると不味いと判断し、咄嗟に背負っていた火炎放射機の燃料タンクを思いきり顔面に向かって投げつける。

 

「余所見してんじゃねよボケがぁ!」

 

 次いでとばかりに罵倒を吐く。それに反応したのか、それとも顔面でタンクをぶつけられて不快に思ったのかは分からないが特性燃料を滴らせながら改めて視線を向け強く睨み付けてくるディアブロス。正直に言ってめちゃくちゃ怖いがそれどころではない。その全身からはまた軋む様な全身の筋肉が引き絞られる音が響き、良く見れば頭部を低く構えているからだ。

 

 突進が来る。身構えちゃんと回避出来るように備える。そしてズドンッと地面の爆ぜる音を轟かせながら突っ込んでくるディアブロスを見て、理解する。

 

 

 あ、これ避けられないわ…と。

 

 

 だから、少女は開き直って避けることを諦めて逆に突っ込んだ。

 

 直撃。腹から何かが潰れた様な、砕けた様な音と激痛が全身に駆け巡る。だが、それだけだと笑う。突っ込んだ勢いを利用してディアブロスの角と角の間に無理矢理体を捩じ込み引っ掛かるようにしがみつく。

 

「おぼぉぇ…あ、は! 風紀委員長のガチ蹴りの方が痛いわ雑魚が!」

 

 完全な強がりを血の塊と一緒にディアブロスの顔面に吐き捨てる。そしてしがみつかれたと理解したディアブロスが振り払おうと頭を振り回すより前に、ずっと片隅で飛んでいた『ミレニアム』製の狩猟用ドローンを左手で掴み、燃料まみれの顔面に叩き付けた。

 

 

 大爆発が1人と1匹を巻き込んで炸裂した。

 

 

「グゥォアアアアアアアア!?」

 

 爆風に呑まれ吹き飛び、今度は受け身も取れず地面に転がる。血と煙を撒き散らしながら仰け反るディアブロスの悲鳴の如き声が響く。分かりやすい隙、これ以上無い逃走のチャンス…なのだが全く動けなかった。

 

「な、何をやっていますの!?」

 

 視線を向けると、上手く背負えたのだろうがトリニティの少女が白い制服が血で汚れるのも気にする事無くこちらに向かって叫んでいた。なにやってるんだはこっちの台詞だよ大声出したら駄目だろと言いたかったが、血の塊が出てきてうまく声が出なかった。何気なく自分の状態を見るとゲヘナの制服は爆風に巻き込まれ見るも無惨な状態で下半身は上手く動かず…左腕に至ってぐちゃぐちゃだ。

 

 なんでか痛みを感じないので無事だった右腕を動かし無理矢理上半身を起こすとまたディアブロスと目があった。爆発によって片目から血を流し象徴とも言える双角の片割れがひび割れている…が、それだけ。他の違いと言えば明確に自分に向かって敵意を向けている事だろうか。

 

 こうも駄目だと分かりやすいと諦めも簡単につくなと他人事の様に思えてしまう。

 

 なにせ今まさに再び突進して止めを刺そうと全身から筋肉が引き絞られる音を響かせていた…かと思えば急にまた辺りを見渡し始めた。瀕死の自分よりも他の二人を優先しようとしているのかと思ったが、違う様で。

 

「…あ?」

 

 掠れた声が溢れる。音がする事に気がついた。それもボガンッドゴンッと言う爆発音だ。気付けばディアブロスと同じように視界を巡らせて音の出所を探っていてそのまま視線が岩山へと向かう。

 

 

 直後に盛大に爆発し岩山が崩壊した。

 

 

「今度はなんですの!?」

 

 なんて悲鳴を上げながらも隙を付いて駆け寄ってくる。そこは普通に見捨てても良いのにと思いつつ何が起こるのかと動けないながらも警戒していると、立ち昇る土煙から飛び出す…三つの人影。

 

 彼女たちの事は知っている、1人足りないが便利屋68の三人だ。そう言えば近くはないが同じく自然公園で狩りをしていたなと思いだし、すごいタイミングで登場するなと考えたところで…気がつく。全員が傷だらけで在る事に。

 

 一体何が起こっているのか、その答えは…直ぐに。

 

 

「ギュゥォオオオオオアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

 世界そのものが揺らいでいると錯覚する程の咆哮によって多量の瓦礫と共に土煙を吹き飛ばした存在。その象徴たる双角の片割れは禍々しく三ツ又に枝分かれ、重厚な甲殻を青黒く染め上げた。

 

 

 余りにも異質なディアブロスが、殺意を漲らせ姿を表した。

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