アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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鏖す悪魔
第75話


 その日は、雲一つ無く晴れ渡っていた。

 

「理事ー!? 大変ですー!」

「元を付けろ。それでどうした?」

「なんか急にアプケロスやリノプロスたちが暴れだして止まらないんですよ!」

「何?…貴様、まさか餌に何かを混ぜたんじゃないだろうな?」

「今回はしてませんよー!」

「…今回は?」

「あ」

「はぁ、取り合えず説教は後だ。今は落ち着かせるのが先決だ」

「はい!」

「あ、だが減給は覚悟しておけ」

「うぼぁー」

 

 

 

 その日は、痛い程に日差しが降り注いでいた。

 

「クエ、クエエエエエ!?」

「わわわわ!? ど、どうしたのヤッくん!? おち、落ち着いて!?」

「クエエエエエエ!?」

「うわあああああああ!?」

 

 

 

 その日は、不気味な程に風が凪いでいた。

 

「…おや?」

「? どうかしましたか室長?」

「いえ、これは…ふむ。すみません、やっぱり休暇は無しでお願いします」

「あ、はい…え、なんで急に」

「詳しい事は後です。ちょっと私の狩猟用装備を身に付けるのを手伝ってください。それが終わり次第早急に避難を」

「ほ、本当に何を?」

「良いから早く!…『彼女たち』にも話をしておかなければ」

 

 

 

 その日は、異常な程小さな命が姿を見せなかった。

 

「委員長、これって」

「……セイア様が態々常駐するように言っていたのは、こういうことか」

「どうしますか?」

「当然、出るぞ」

「分かりました、では!」

「ツルギ、見てください。体重が減りましたよ。これはお祝いにケーキを食べても」

「ハスミ」

「はい?…いえ、分かりました。私の狩猟用装備はどちらに?」

「はい、こちらです」

 

 

 

 その日は、何時もと変わらない日常が続いていくと思っていた。

 

「見て見てイオリちゃん。飴貰った」

「…またか。貰いすぎじゃないか?」

「とは言っても日頃のお礼って言われたら断れなくない?」

「うぐ…それは、まぁそうだが」

「でしょー?…って、あれ? なんか騒がしくない?」

「ん?…本当だ。誰かが暴れているのか?」

「かねぇ、いやでもこれって」

 

 

 

 その日は、何事もなく過ぎ去って行くことを願っていた。

 

「モ、モエちゃん、流石にそれはちょっと」

「くひひ、後ちょっとだけ。これが完成すればきっと今までにない破滅的な体験が出来るかも!」

「だからって肥やし玉に火薬仕込むのはダメだろ。見ろ、ミヤコが全く近寄ってこない」

「別に気にしていませんが? だた近づけないで欲しいだけですが?」

「めっちゃ必死…って、ん?」

「どうした? やっと止める気に…あれ?」

「…これって」

 

「…悲鳴?」

 

 

 

 その日は、その出来事はキヴォトスの歴史に刻まれる事となる。

 

「まだ見つかりませんか?」

「うん…どうにもこの前出来た大穴に落っこちちゃったみたいで」

「そう、ですか。例の置き去りにされた狩猟用ドローンに記録されていたディアブロスや機械の蛇の件もありますから出来るだけ早く見つけ出したいのですが」

「うん…本当に、何処に行っちゃったんだろうあの子達。大丈夫かな?」

「今は、出来る事をするしか」

「やばいやばいやばい!」

「わわ、ど、どうしたのセリカちゃん!?」

「やばいのよ!」

「いったい何が」

 

 

「例のディアブロスが市街地に侵入したのよ!」

 

 

 

 キヴォトス史上…最悪の厄災として。

 

 

 

 

 

 

 それはある晴れた日の事。アビドス自治区に聳える廃ビルの屋上に佇む人影が一つ、それは双頭の紳士服を身に纏う…人であって人でなしの異形。

 

「…素晴らしい」

 

 彼は、カタカタと震え音を響かせていた。

 

「…芸術とは、只そこにあるだけで心震わせるものであるというのならば。今まさに、私の心を純粋な恐怖で震わせている汝もまた、正しく芸術と言えるだろう」

 

 ゆっくりと、両手を広げ眼前の三ツ又の角持つ竜へと向ける。

 

「故に汝の憤怒に祝福を、汝の憎悪に喝采を。例え誰もが忌み嫌おうが私は汝を受け入れよう」

 

 だが、まだだと強く拳を握る。

 

「汝と言う芸術は、生命の果てに至ってこそ完成する。終わりと言う結末をもってこのキヴォトスに存在が刻まれるのだから」

 

 故にと、彼は高らかに宣言する。或いは己の同類に、宣戦布告するように。

 

「例えどのような結末が訪れようとも、この『マエストロ』の名にかけて…汝の復讐を何者にも邪魔なぞさせぬ」

 

 その、直後に彼は不意に首を傾げ考え始める。

 

「だが、そうだ。芸術には名が必要だ。どれだけ美しく研磨されようが名が無くば宝玉も只の石であるように。どれだけ心血注ごうが名が無くば落書きでしかないように。汝にもまた、名が必要だ」

 

 であるならば、なんと呼ぶべきか。

 

「砂漠の暴君?…いいや、これでは他と代わり無い。では、悪因より出でる魔?…いいや、これは安直か。しかし悪くはない」

 

 であるならばと、彼は思考を巡らせて。顔をあげる。

 

「そう、そうだ。汝は余すこと無く命を狩り踏み潰すもの。それは己自身とて例外ではない、悪辣より生まれ出た憎悪に染まりし魔。であるならば呼ぶべき名は」

 

 

―――【鏖す悪魔】と、言った所か。

 

 

 彼は静かに納得したように頷き、再び手を伸ばす。

 

 さぁ

 

 さぁ

 

「汝と言う生命の果てを見届けさせてくれっ! そして私に作らせてくれ!」

 

 

 

「汝を生を! あり方を! 復讐を芸術として完成させてくれ! 『崇高』へと至る至高の芸術を!」

 

 咆哮が、轟く。

 

 ディアブロスの、『鏖魔』の進撃が、最悪が…始まる。




・大暴露、悪い大人達の今!


マエストロ「さて、かの芸術の完成を、命の果てをモデルにするのは良いが…どのように形作るべきか。彫刻か、だが音楽も捨てがたく。いやここは絵画とすべきか…であるならば油絵か水彩画か。あぁここまで心踊る迷いは何時ぶりか!」(全力で他悪い大人の妨害中)

マダム「ちょ、おま、お前ええええええ!?」(なんとか取り繕った新儀式が破綻の危機のため動こうとしたら全力で妨害されている図)

駄目服「くっくっく…ちょ、ま、死ぬ!?」(酒飲んでたら巻き込まれたので全力逃走中)

ゴルデカ「彼がどのような作品に仕上げるのか、非常に楽しみですね」「そういうこったぁ!」(ポップコーン片手に鑑賞中)
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