アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第76話

 銀鏡イオリは、夢を見ていると思った。

 

 気がつけば銀鏡イオリは瓦礫にもたれ掛かっていた。意識がはっきりとせず、何故か目に見える景色が半分赤く染まっている。耳鳴りが酷くて良く聞こえない上に体もうまく動かない、夢を見ているのではと思った…思いたかった。

 

 朦朧とする頭を動かし、思い出すのは少し前の事。

 

 何時も通りアビドスで巡回をしていたら悲鳴と破壊音が聞こえてどうしたのかと現場に向かおうとしたら見上げる程巨大な怪物が建物を壊しながら姿を表してそれから、どうしたのだったか…確か、何時も通り自分が前に出て。

 

 

 一蹴された。文字通り蹴られて建物に叩きつけられた。

 

 

「う、ぼぉえぁ」

 

 意識が今へと引き戻されると同時に、口から血が溢れた。肉の混じった粘りけを帯びた血が大量に。遅れて鈍痛が腹部を中心に広がる。何故か異様に冷静な思考が内蔵が潰れているのかも知れないと判断していると、誰かが近くに転がり込む。

 

 さっきまで一緒に行動していた同僚だった。何時も丁寧に整備していた愛銃が半ばから折れており、片腕はあり得ない方向にねじ曲がり…脇腹に、抉られた様に穴が空いていた。重傷、所ではない。見たこともない様な量の血が流れている。だが、辛うじて生きている。

 

 頑丈なキヴォトス人の中でもさらに頑丈な生徒だからこそ、辛うじて耐えられたのだろう。今にも命を落としかねない危険な状態だが、即死はしていない。

 

 

 

 そう、『生徒』は…だ。

 

 

 

「う、ぁあ……」

 

 何時もごみ拾いを率先して行っていたロボットの住人の頭部以外が鉄屑と化していた。

 

 良く何だかんだ理由を付けて格安でうどんを提供してくれたうどん屋台の猫店主の体がそこら中に散らばっていた。

 

 もうすぐ新作が完成するパンの味がどうも微妙なんだよなと愚痴を溢していたパン屋の犬従業員の下半身が転がっていた。

 

 ついさっき、日頃のお礼だと飴をくれた雀の住人が…目の前で死んでいた。

 

 

 

 幾つもの住民達の死体と崩壊した建物が並ぶ…正真正銘、地獄絵図がそこに広がっていた。

 

 あり得ない、こんな事現実な筈がない。だから彼女はこれを夢だと思いたかった、それもとびきり質の悪い類いの悪夢。きっと、次の瞬間には飛び起きて気分が悪いと思いながら何時も通りに過ごすのだと、再び意識が薄れていく中、願い。

 

「ギィイイイイイアァァアアアアアアアアッ!!」

 

 現実を叩き付けるように咆哮が轟き、声が衝撃となって吹き飛ばされたイオリの意識は無理矢理叩き起こされる。受け身を取る余裕もなく地面を転がり、痛みに呻くことも出来ないままに視線を向けた先では怪物が暴れ狂い。

 

 

「怯むなぁあああああああ!」

 

 

 それに立ち向かう人々が、居た。

 

「行け、行けぇええええ!」「なんでも良いから使ってここで押し止めろ! 少しでも多く人が逃げる時間を稼げ!」「痛い、あぁ糞が! 姐様に頼まれてんだよ! この程度で止まると思ってんじゃねぇぞ糞がぁ!」「そこは一旦止まって下がれ! んで用意されてる回復薬がぶ飲みして来い!」「追加の弾薬と爆弾を持ってきました!」「ナイス! ありったけぶん投げろ!」「了解! おらぁ!」「たらふく食らっとけ!」「戦車やヘリは!?」「真っ先に出て潰されたよ! 今辛うじて無事だったのを応急修理中!」「モンスターかよこいつ!?」「移動式バリスタの到着まであと十分とのことです!」「なげぇなおい! あぁもうもっと勝手の良い場所に保管しておくべきだった!」

 

 怒号を響かせながら、それでも戦い続けている。アビドス生が、スケバンが、ヘルメット団が、なんの関係もない筈の他校生徒が、皆傷だらけになりながらそれでも目の前に脅威に一丸となって挑んでいる。一撃を受ければ重傷で済まず。もし追撃を受ければそこら中に転がっているものと同じになると言うのに、それを承知の上で止まらない。

 

 それは、なぜなのか。きっと理由は単純だ。

 

 

 彼女たちが、狩人だからだ。

 

 

「!? 下がれ!!」

 

 叫びが届くとほぼ同時に、怪物はその凶悪な尻尾を振るう。字面だけならば可愛らしいとも言えるそれは、しかし余りに凶悪な破壊力と共に振るわれた。掠めたビルが崩れ、避けきれず受けてしまった生徒が幾人も吹き飛ばされる。その内の一人、もっとも前で盾を構えていた少女がイオリの近くまで吹き飛ばされ転がってきた。

 

「げほ、ぁあが…っ!」

 

 ボタボタと口から血を溢し腕がへし折れ持っていた盾が落としながらも、それでもまっすぐに怪物を見据え立ち上がり無事だった手で盾を持ち直す少女をイオリは知っていた。

 

「うぁ、ゆ、ユメ、せい、か」

「え、あ、い、イオリちゃん!?」

 

 声を聞いてやっと気がついたと言わんばかりに驚く梔子ユメ。慌てて、少し足を引きずりながら近づいてくる。

 

「だ、大丈夫…じゃなぁい!? ひぃん! し、しっかりイオリちゃん! 皆ごめん負傷者発見! ちょっと下がるね!」

「やっと下がる気になったかばか会長! しっかり治療してこい!」

「ひぃん!」

 

 なんて飛んできた罵倒に涙目になりながら器用に片腕だけでイオリを背負い前線から離脱するユメ。

 

 走るユメの背で揺られながら同僚はどうなったのかと視線を巡らせ、見つける。イオリと同じように咆哮の衝撃によって吹き飛ばされていた彼女は瓦礫に埋もれており、今まさに幾人かが協力して助け出している所だ。助かるのだと、安堵する…だが。

 

「あぁくそやばい逃げろぉおお!」

 

 絶叫、反射的に振り返るユメ。怪物が幾人もの生徒を吹き飛ばし突進を繰り出し突き進む。その先には、助け出した同僚を背負った生徒たち。駄目だ避けれないと、理解してしまった。

 

 

 怪物の一撃が、少女たちを踏みにじるように轢き潰す。

 

 

 

 その直前に、何かが怪物の横顔に着弾した。

 

 突然の衝撃。怪物の勢いはそのままに、しかし突進の進路がねじ曲がり建物を破壊する。降り注ぐ瓦礫を、怪物に着弾した…いや、蹴り飛ばした少女がその両手に持つ狩猟用のショットガンで吹き飛ばし、間に立つように着地する。

 

「…『砂漠より来る悪魔によって屍山血河が築かれキヴォトスが崩壊する』とは仰られて居たが、成程」

 

 少女は、ぐちゃぐちゃになった足を軽く確認するように振ってから…次の瞬間には完治したその足で力強く地面を踏み締める。

 

 漆黒の制服を身に纏い畏怖をもたらす翼持つその少女は、トリニティ総合学園が正義実現委員会委員長…『剣先ツルギ』

 

 

「ゲヘナより余程、悪魔らしい面構えだ」

 

 正義の剣が、戦場に立つ。 

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