アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第77話

「ありがとうございます!」

「いい、行け」

 

 やり取りとしてはそれだけ。言われるまでもないと少女達は助け出したゲヘナ風紀委員会の少女を背負い駆けていく。離れていく彼女達を横目で確認し。

 

 その場から一気に飛び退く。

 

 直後に、先ほどまで立っていた場所に飛び込んできたディアブロスの頭突きが叩き込まれる。アビドス以外ではまず見られない人を殺しえる破壊力を秘めたその一撃は道路や建物を容赦無く粉砕し、強烈な風圧と共に瓦礫を周囲にばら蒔く。

 

 風圧を諸に受けたツルギは、器用に翼で電柱を掴み吹き飛ばされないように自身を固定し向かってくる直撃しかねない瓦礫だけを打ち落としながらしっかりと視線はディアブロスを捉えていた。

 

 速い。セルレギオスの鋭い素早さとは違う、全てを薙ぎ払う強さを持った速さだ。しかしと、ツルギは思考する。速さ自体は対応出来る。でか過ぎて距離感が狂う上に一撃受ければ自分でもただでは済まないと言う点が強い緊張を生むがそこはまだ良い。本当に問題なのは別の事だ。

 

 薙ぐように振るわれた尾を跳び回避する。粉砕された建物の瓦礫が飛んでくるが、寧ろ具合の良いもの選んでは蹴り空中で体勢を整え利用し、へし折られ宙を舞っている先ほどまで翼で掴んでいた電柱を再び掴み。

 

「キィイイェエェエエエっ!!」

 

 ディアブロスに思いきり叩き付ける。

 

 弾け飛ぶ電柱であったもの。飛んでくる欠片を避けながら牽制代わりの銃撃を撃ち込みつつバックステップで距離を取る。手応えとしてはそこらの戦車ならば一発で廃車に出来る程度の威力は出ていたと思うが。

 

「やはり、か」

 

 体に乗っている破片を鬱陶しそうに震い落とすディアブロスの甲殻には凹みが一つ。あれがダメージになっているかと言われれば、否だろう。接触時の突進の進路を強引に変えるために蹴った時に感じていたが確信した。威力が、火力が足りていない。

 

 それならばと思考を巡らせながら、思う。以前のセルレギオスの時といい、目の前のディアブロスといい。アビドス砂漠に生きるものは常識を何処かで落としてきたのかと疑う程だ。

 

 なんて事を考えながらチラリと横を見てからだらりと脱力し両手を下ろす。ディアブロスを前にしてのその行為は自殺に等しく、これ以上無い隙にディアブロスは突進せんと構え。

 

 横から飛んできた爆弾が眼前で炸裂し出鼻を挫かれる。

 

 突然の事にディアブロスは視線をさ迷わせ、意識が自分から外れたと判断した瞬間、脱力していたツルギは一気に前へ向かって飛ぶ様に駆け距離を踏み潰し顔面に蹴りと一緒に銃弾を撃ち込む。

 

 だが、やはり効き目が薄い。これならザボアザギルの時の様に火薬を詰め込んだドラム缶を全力投球した方が効果的かと思いながら、ディアブロスが鬱陶しげに振り回す頭にぶつからない様に距離を取り。ふっと息を吐きリロードを行いながら視界の端で動く生徒達を見る。

 

「爆弾足りねぇぞもっと持ってこい!」「今運んでる所よ!」「正実の委員長に当てないように投げろよ!」「難しい事言ってくれるなおい!?」「リロード終わり次第片端から叩き込むから合わせろ!」「バカ、効き目薄いんだから爆弾の方がいいだろ!」「そっちこそバカかよちょっとでも意識をこっちに向けさせるんだよ!」「怪我が酷いやつは今のうちに治療してこい!」「分かった! じゃあバリスタの運搬手伝ってくる!」「休めってんだよボケがぁ!」

 

 皆、走り回り自分達の出来ることを全力で行っている。怪我をしていない者など居らず、人によっては足を引きずりながらも必死に。

 

 強いなと、思う。自分のような戦い勝利する強さとは違う、立ち向かえる強さだ。自分が同じ様な立場であったならばあぁも覚悟を抱くことが出来るだろうかと、少しだけ考えて。

 

 と、眼前のディアブロスが動く。リロード中のツルギを無視して駆け回る生徒達を強く睨み付け足に力を込めていた。突進か、飛びかかって頭突きか、それとも別の何かか。いずれにせよ今の傷だらけの彼女達では対応出来る物ではない。

 

 

 故に自分が…いいや、自分達が対応する。

 

 

 頭を下げ構えるディアブロスの背甲に一発の弾丸が撃ち込まれる。その弾丸は大した威力はなく、ガンッと音を立てて甲殻に弾かれそのまま小さく音を立てて割れてしまい。

 

 中から飛び出した幾つもの小さな爆弾が一瞬の間を置いた後、強烈に爆発した。

 

「ルゥォアアアアア!?」

 

 今まで見せなかった明確な痛みを感じさせる声。ひび割れ欠片が舞う甲殻。ツルギは再び駆ける。前を見据える彼女の視線とディアブロスの視線が交わる。ミシリと軋む音を響かせながら頭部を振り上げる。頭突きを繰り出すつもりなのだろうと理解する、だが止まらない。

 

 止まる必要がない。

 

「総員! 撃てぇえええええ!」

 

 号令と共に放たれる正義実現委員会所属生徒達による一斉掃射。効き目は薄く、僅かに行動を遅らせた程度。だが、ツルギからすれば十分だった。

 

 振り下ろされる頭を避け、風圧を目の前にある角を翼で掴む事によって耐え叩き付けられる破片を無視してディアブロスの体を駆け上がり傷ついた甲殻のひび割れへと銃口をねじ込み、これでもかと銃弾を叩き込む。

 

「ルゥオァアア!」

 

 ミシミシと音を立てて甲殻が軋み罅が広がっていく。しかしディアブロスの今まで以上の抵抗にツルギは無理をせず、ついでと言わんばかりに蹴りを叩き込むとそのまま舞うように飛び退き、建物の屋上で銃を構える羽川ハスミの横に降り立つ。

 

「さっきの弾はなんだ?」

「アビドス産の『拡散弾』ですよ。威力、範囲共に凄まじいので扱いに注意との事です」

 

 言いながら見る。視線の先には今まさに突進しようと構えるディアブロス。

 

「盾構えぇええええ!」

 

 号令と共に少女達が動き、身の丈程ある盾をズラリと隙間無く大袈裟に地面に叩き付けて構える。それで防げるかと言えば、無理だと断言できるだろう。寧ろ視界を遮ってしまう行為だ。

 

 だが、それでいい。今まさに盾に守られながら動く少女曰く、狩猟を確実に成功させるのに重要なのは体を鍛えることと装備を整え準備を確り済ませる事。

 

 

 そして、それら以上に…生態を理解し、それを利用して何もさせない事である、と。

 

 

 盾の叩き付けられる音に反射的にディアブロスの視線が並ぶ盾へと向かう。直後に投げ込まれ炸裂した閃光弾の光は盾に守られた少女達には届かずディアブロスの視界だけを強烈に焼いた。

 

「アァアアアア!?」

 

 大きく仰け反り、隙を晒す。バキリと、音を響かせツルギは建物の屋上を一部踏み砕きながら、一気に突撃する。

 

 直前に、ふっと影が指す。

 

 なんだと反射的に視線を向けると、ヘリが一機。ボロボロで辛うじて飛べているだけのヘリがそれでもまっすぐ目が眩んでいるディアブロスに向かって飛んでいく。

 

 

 大量のドラム缶爆弾をくくり付けた状態で。

 

 

「これでも食らえ糞がぁあああああああっ!」

 

 叫び声を上げながら、操縦席からアビドス生が飛び降りる。操縦者を失ったヘリは力無く墜落していく。

 

 

 ディアブロスの真上に。

 

 

 衝突と共に、今まで見た事も無いような大爆発がディアブロスを飲み込んだ。

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