アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第78話

「まだだ」

 

 小さく、しかしはっきりと呟くツルギは踏み砕かれた屋上の一部を吹き飛ばしながら今度こそ凄まじい速度で前へと跳ぶ。

 

 同時にその場に居た全員が動く。

 

 離れた場所に居た生徒さえ吹き飛ばされ転がるほどの大爆発。未だに燃え盛り黒煙を立ち上らせているが、しかしそれで終わったとは誰一人として思っていなかった。

 

 今なおこの場に満ちる殺意がディアブロスの健在を証明しているから。だからこそ一切の迷い無く追撃を加えるためにどんどんと加速し接近するツルギ。

 

 

 黒煙が揺らめき、ディアブロスと視線が交わる。

 

 

 次の瞬間には薙ぐように振るわれた尾が迫っていた。

 

「っ!?」

 

 強引に、前に進もうとする体を捻る。ブチブチと嫌な音と痛みが走るが気にしている余裕はない。紙一重の回避、受け身も何もなく地面を転がりながら認識する、動きが速くなっていると。先ほどまでは余裕と言う程ではないがそれでも対応出来ていたが今のはあと一歩近ければ、あと一瞬でも避けるのが遅ければ直撃していた。

 

 目を離してはいけないとツルギは素早く跳ねるように起き上がり視線をディアブロスへと向けると。

 

 

「ギュゥウウアアアアアアアア!!」

 

 

 咆哮が轟く。

 

 遠く果てまで揺るがす尋常ではない殺意の込められた轟音は、強者であるツルギでさえも動きを止め、反射的にその身を強張らせる。衝撃が走り、黒煙を薙ぎ払いディアブロスが姿を晒す。背中の甲殻こそ大きく割れ砕けているが、それだけ。

 

 やはりかと内心で思いながら大きく全身を使って伸びをするように咆哮するディアブロスを無理矢理強張る体を動かそうとしながら鋭く睨み付け、そして見る。

 

 咆哮を上げていた筈のディアブロスが急激に動きを変え、今まさに突進を繰り出さんとするその瞬間を。

 

 

 そして、その直後にディアブロスの突進がツルギに直撃し彼女の全身を衝撃が貫く。

 

 

 身体中から千切れ潰れ砕ける音が響く。少しでも衝撃を逃がそうと反射的に動こうとして腹部から違和感、恐らく何かが貫いている。それならばと腕を動かしディアブロスの顔面に銃口を叩き付けるありったけの弾丸を叩き込む。効き目事態は皆無ではあったが、それでも鬱陶しげに頭部を振り回しツルギを放り投げる。

 

「オゴ…ゴホッ、ゥオゲェ…ッ!」

 

 貫いていたものから抜け吹き飛び地面に転がるツルギ。

 

 血を吐きながら手をつき立ち上がろうとして、倒れる。見てみると、左腕が千切れかけていた。いや、そもそも全身の骨は折れているし内蔵だって幾つも潰れている…所か腹に穴が空いているのだ。重傷どころではない、正直自分でもなんで生きているのか不思議な状態だ。

 

 なんて思いながら懐に仕舞っておいた回復薬を取り出して、見事に割れて中身が溢れているのを確認する。これが理由の一つかとどこか納得するツルギ、血で濡れていた服がさらに薬で濡れて若干気持ち悪い訳だと。とはいえ、それのお陰か感覚的には半日位安静にしていれば問題なく動ける様になる程度で済んでいるのだから気にする程ではない。

 

 尤も安静云々に関してはそれが、出来る状況であったならばの話だが。

 

「ギュゥウアアアアア!」

 

 視界の端で、ディアブロスが暴威を振るう。黒煙の如き吐息を溢し青黒い甲殻を僅かに赤く染めながら、目の前の存在に敵意と殺意を叩き付け荒れ狂う。

 

 なんとか食い止めようといつの間にか駆け付けていたボロボロの戦車が振るわれる角と尾によってあるものはひっくり返り、またあるものは吹き飛ばされ建物へと突っ込んでいく。状況が、良くない方向に向かっていると、理解する。

 

 倒れたまま、震える手で銃を構えて…見事にひしゃげ使い物にならない状態であることに気がつく。仕方ないと言えばそれまでだが運が悪いと内心で吐き捨てながら放り捨てる。左腕に持っていたもう一丁は何処かに行ってしまって行方知らずだ。

 

「委員長!」

 

 現状で出来ることはと考えていると声が聞こえた。視線を向けると慌てた様子で近寄ってくる少女が一人。

 

「これ、は…委員長、回復薬は!?」

「割れた」

「えぇ!? あぁいやでも、それはそうなりますよね! それなら私のを使ってください!」

「あぁ…ハスミは?」

「無事です! 現在、目標を討伐から撃退に変更し、その様に行動しています。なにか問題が?」

「はぁ…あぁいや、それで良い。今のやつを相手に粘っても被害が広がるだけだ…距離を取りつつアビドス郊外へ誘導しろ」

「はい」

「それと…私は」

「休んでください!」

「いや、今戦力が減るのはまず」

「休んでください!!」

「…あと少しすれば足は直る」

「だとしてもです! そもそも委員長、今は武器がないじゃないですか。どちらにせよ一旦下がる必要があるんですから素直に治療を受けてください!」

 

 言うだけ言って失礼しますと無理矢理ツルギを背負う正実生徒。その一連の動きの淀みの無さと強引さに何処か、知り合いの救護感を感じたツルギは黙ってされるがままに身を任せる。多分、変に抵抗すると救護と言う名の拳が飛んでくるだろうから、自分が上司だろうが関係なく全力で。

 

 ツルギは思う…なんで自分の部下から救護騎士団的精神を垣間見ているのだろうかと若干遠い目をするのだった。いやまぁ、悪いことではないのだが。

 

「それじゃあ行きますよ委員長、結構揺れると思いますけど暫く我慢してくださいね!」

 

 そう言いながら力強く駆け出す。

 

 

 

 

 直後に足が止まる。一瞬足りとも気を抜く事の出来ない状況で少女は驚き目を見開いていた。彼女の視線の先にそこには恐竜を思わせる姿の獣が…三匹。

 

「ちょ、ま、なんでゲネポスがこんな所に居るのぉ!?」

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