アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第79話

 思わず溢れた少女の言葉をディアブロスの咆哮がかき消す。

 

 風圧が少女の髪と制服を揺らす。だが、動けない。何故なら目の前に居る生物が危険だから。

 

 少女にゲネポスと呼ばれたその小型…と言うには大きいそれらはアビドス砂漠に生息する生物たちの中でも特に危険とされているものの一つ。 その特徴的な牙に麻痺毒を有し、生徒達の中にはそれが原因で抵抗も出来ず腕が食われたなんて被害報告があるほどだ。

 

 背後で荒れ狂うディアブロスとはまた違った形の脅威。ここまで入り込まれたのは普段監視を行っているアビドス生たちがディアブロスの対処や避難誘導に駆り出されているからか。

 

 幸いと言える事は長である『ドスゲネポス』が居ない事と、ゲネポスたちもまた少女の背後で暴れまわっているディアブロスを恐れているのか吠えて威嚇はすれど踏み込んで来ない事位か。

 

 

 逆に言えばそれら以外は全て最悪である。

 

 

 恐らく、形振り構わず全力で走れば追いかけられても振り切れるだろう。だが、そもそも入り込んだゲネポスがこの三匹だけとは限らず他にそれらに出くわせば流石に対応は無理だ。更に言えばもし追って来ずにディアブロスの相手をしている生徒達を横から襲撃したらそれでアウト。

 

 そして一番起こって欲しくないゲネポスが他自治区へと進出してしまう事に関してはもうそうなっていない事を祈る位しか出来ないのが最悪だ。

 

「…ん? これは」

 

 全てかもしれないと言う粋を出ないが否定しては行けない可能性。どの選択も間違ってはいないが正解とも言えないと言う状況がどうしても少女に足踏みをさせていた。自分がツルギ委員長の如く凄まじい強さを持っていたならあっという間に蹴散らして終わりなのだが、残念な事にそうではない。だから、冷静に考えて。と、思っていたところで背負っているツルギから声が掛かる。

 

「…おい」

「なんですか委員長、なんと言われても貴女を下ろす積もりは」

「いやとりあえず一歩下がれ」

「え? あ、はい」

 

 突然の言葉に、反射的に言われた通りに一歩下がる少女。

 

 

 

 直後に、飛び出してきた車がゲネポスたちを撥ね飛ばし少女たちの眼前でギャリギャリと音を立てて急停止した。

 

 

「ひぃゃ!?」

 

 突然の事に驚き思考が一瞬止まる。危険、だが何が起こっているのか分からず慌てているのは撥ね飛ばされたゲネポスたちも同じな様で。三匹の内の一匹が痛みに悶えながらも何事かと見渡しながら起き上がり。

 

 車から転がり出た生徒によって追撃を受け再び倒れ沈黙する。

 

「クリア!…で、良いのかこれ!? なんかすごいの暴れてるけど!?」

「多分、良くないかなー?」

「雑談はそこまでです! 大丈夫ですか!」

 

 言いながら続いて車から降りて周囲を警戒しつつ近寄ってくる生徒が一人。彼女は確かとツルギは思い出す。そう、連邦生徒会の防衛室長が良く連れていた。

 

「お前は、SRTの…月雪ミヤコ」

「はい、数日振りですツルギ委員長」

「た、助かったよ! どうしようか本当に迷っててってそれ所じゃなかったちょっと車貸して委員長の治療したいから!」

「分かりました。RABBIT2! 治療用器具の用意を!」

「了解!」

 

 手伝いますと肩を貸すミヤコにありがとうと言いながらも慌ただしく車に駆け寄る。されるがままの車に乗せられるツルギ、だがその視線は鋭く周囲を見渡しており、視界の端。建物の影から顔を覗かせこちらの様子を伺っているゲネポスの存在にいち早く気がつき。

 

 故に、それが遠くから飛来した弾丸に撃ち抜かれる瞬間をしっかりと目にした。

 

「…狙撃か、気配も感じさせないとは随分と腕が良い」

「え、なにをってうわぁ新手!?」

「!? RABBIT2!」

「なんだ!? 治療用のはってそういうことか! 分かった今止めを」

「いや待て」

 

 起き上がってきたゲネポスに車で治療の準備をしていたRABBIT2、空井サキは慌てた様子で車から降りようとしたが、ガッと服をツルギに掴まれ止まる。

 

「え、なんって動けない!? 力強っ!?」

「どうしたんですか委員長?」

「止めは良い、早く車を出せ」

「それは…」

「ごめん皆なにかに掴まって!」

「え? うわぁ!?」

 

 どうしたのかと言いかけて運転席に居る少女、風倉モエの叫び声が聞こえると同時に車が急発進する。車の中で転げながらそれでも言われた通りに掴まり…じっと後方を睨むツルギに釣られて何気なく同じ方向を見る。

 

 

 さっきまでいた場所に、ディアブロスの巨大な尾が叩きつけられていた。

 

 

 衝撃が突き抜け、車が勢い良く跳ね車内に居る生徒達が転げ回る。

 

「おぎゃあああー!?」

「お、ぼ、おごご!?」

 

 大惨事。物に人にと勢い良く車内を飛び回り大変危ない。が、全員そんなことを気にしてる余裕はない。なにせ、ディアブロスが突進しながら追いかけてきているからだ。

 

「モエ、モエ! もっと速度を上げて!」

「無茶言わないでよ!」

「なんだって急に攻撃してきたんだ!? 私たちあいつになにもしてないぞ!?」

「というかさっきの戦車といいこの車といい。なんか車両に対しての辺りがきつくありませんあいつ!?」

「なんでぇ!?」

「いや知らないよ何となくそう思っただけですもん! なんかこう危険だと思ってるとかめちゃくちゃ恨んでるとかそういう感じなのでは!?」

「なんだその適当なのはあああああ!? モエ避けろぉお!!」

「う、お、ぉああああああああ!」

 

 視線の先で追い付いたディアブロスが頭を振り上げる。悲鳴の様な、あるいは雄叫びの様な声を響かせハンドルをきり車が速度はそのままに滑るように方向転換し、ギリギリの所で回避する。幸いにもひっくり返って止まると言う事態には陥らなかったが、車内はすごい事になっていた。

 

「う、うわぁああ!? ツルギ委員長がびちょびちょになってるー!?」

「すみません委員長すぐ、に、治療したい所なんです、がぁ!? 余裕と言うかがなくてぇええええ!」

「…良い、気にするな。それより予備の物で良いんだが狩猟用武装があれば借りたい。あと焼き魚があれば貰いたいのだが」

「え、あ、は、はい。狩猟用のって焼き魚!? なんで!?」

「必要だからだ」

「だからなんで!? いや、だとしてもそんな事急に言われても焼き魚を常備なんてして」

「あ、いえ。カヤ防衛室長が必要だからってそこに転がってる三番箱に積めてましたよ」

「そうか、貰うぞ」

「どうぞ」

 

「いやだから何でだぁあ!?」

 

 サキの絶叫が響き、それにこうするようにディアブロスの咆哮が轟き、大地が揺らいでると錯覚するほどに震え。

 

 いや、違う。本当に揺れている…地震が起きている。

 

「ちょ!? なんでこんな時に限って!?」

 

 想像以上の揺れに、ハンドルがうまく効かず大きく揺れる車をなんとか持ち直そうと奮闘するモエ。それを嘲笑うかのように不運が襲う。目の前の道が崩れ陥没したのだ。

 

「あこれダメだ皆対ショック姿勢ー!」

 

 そう叫ぶが早いか。車の中でふわりと浮遊感に襲われる少女たち。あ、今車が浮いているのだなと理解すると同時に。

 

「ぐえ」

「おごぁ」

「あぼし」

「んぎぃ」

 

 凄まじい勢いでなにかに引っ張られ気がつけば外に放り出され地面に転がっていた。何事と思うより前に派手に音を立てて転がっていく車が目に入り、かと思えば更に凄まじい音を立てて天井を突き破り…近くに剣先ツルギが着地する。

 

 バリバリと焼き魚を食べながら。

 

「ん、ぐむ…んぐ、全員無事か?」

「は、はい!」

「そうか、ならばすぐに立て。そして離れていろ。ここからは死地だ」

 

 言いながら調子を確かめるようにくるりと借りた狩猟用武装を回してから肩に担ぐ。彼女の視線の先には、黒煙を吐くディアブロス。ミシミシと筋肉が軋む音を響かせながらすぐにでも突進を繰り出さんとしていて。

 

 不意に、なにかに気がついたように明後日の方向に視線を向ける。

 

 

 

「ハイパーカヤちゃんトラックバスター!」

 

 直後に、そんなバカみたいな声と共にディアブロスにトラックが衝突した。

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