アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第8話

 飛ぶ、まっすぐ導かれるように。

 

 特徴的な二股の角を持つ虫『アルセルタス』、何故か一部生徒は亜種と付けて呼ぶその生物は人類がアビドスと呼んでいる街に向かって翔んでいく。数は4匹。それぞれが別方向から別々の場所に向かっており群れと呼ぶべきかも怪しいところであるが、街に壊滅的な被害を引き起こす可能性は極めて高い。

 

 尤も、アルセルタスは被害を出すことを目的になどしていない。いや目的などないと言えるかもしれない。

 

 ただ本能にしたがって、飛んでいるのだ。呼ばれている故に。

 

 

 

 

 

 

 そこはアビドスの食事処、化け鮫横丁。朝から夜まで絶え間なく人々の声に満ちたそこは今、声の意味が変わっていた。

 

「あぁもう! なんでピンポイントでここに来るのよ!」

 

 おかしいでしょう! と、横たわる自動車の影から狩猟用に改造された銃を目標に向けるセリカ。確かに少なくない頻度でアビドス砂漠から新生態系の生物が侵入してくる事はあるが、なんでここなんだと。他の施設とか無視してきたとしか思えないと愚痴りながら的確に弾を撃ち込んでいく。

 

「キュイィイイイイイイィィー!」

「!? やっば」

 

 セリカの攻撃が効いているからか、それとも単に煩わしいと思ったからなのか、強い敵意をもってセリカを見るアルセルタス。虫とは思えぬ巨体から虫らしいと言える俊敏な動きで突撃する。間にあった電柱を自慢の角で両断しながら向かってくるアルセルタスに慌てて隠れていた自動車の影から転がり出る。

 

 直後、強い衝突音とガリガリと自動車が引きずられ道を削る音が響く。慌てて体勢を整えて視線を向けると見るも無惨にひしゃげた自動車と深々と突き刺さった角を引っこ抜こうと暴れるアルセルタスの姿。激突していたらと一瞬思って冷や汗を溢すセリカ。積極的に相対しての狩猟は得意じゃないのにと思わず愚痴を溢しながら改めて武器を構え直し。

 

 直後に四方からワイヤーが飛びアルセルタスを拘束する。そして勢い良くアビドスに住まう住人達が群がっていく。

 

「キ、ギュィイー」

 

「おらぁ! 大自然がなんぼのもんじゃい!」「アビドス舐めんな!」「ただで蹂躙できると思うなよボケが!」「店と隠してたへそくりの仇!」「あんた、後で話あるから」「ひょえ」

 

 放たれる弾丸に投げつけられる手榴弾と何故か混ざるアロワナに金魚。なんかなんの関係の無い火種を無駄に産み出しながらも力の限り強大な生物に立ち向かっていく。

 

「キ、ギ、ギィイイイイ!」

「やべぇ拘束が! 逃げろ逃げろ逃げろ!」

 

 しかし、それでもアルセルタスを狩るには届かず。自動車から角を引き抜き、ワイヤーを強引に引きちぎる。慌てて離れていく住人に被害が及ばないようにセリカが注意を自身に向けるように射撃を叩き込む。敵意が再びセリカへと向けられ、大きく翅を動かし突進の体勢を取る。

 

 来るとセリカが身構えた直後、スルリと一人横を抜け前に出る。危ないと、叫ぼうとしたセリカの目に映ったのは白い制服と美しい羽、そして担がれたハンドベルを巨大化させたような何かと、クルルヤックのマスクだった。

 

 風を切りアルセルタスが向かってくる。それと同時に目の前の少女は担いでいたベルを構え、ミシリッと力の溜まる音がセリカの耳へと届き。

 

「えい☆」

「キィギィイイイイイイイ!?」

 

 アルセルタスに向かって勢い良く振り抜かれる。角を粉砕しながら顔面へと直撃しそのまま道へと叩き落としめり込ませる。リンゴゴンッと澄んだ音色と衝撃が響く。よいしょと持ち上げられたベルの先では道路の中でピクピクと痙攣するアルセルタスの姿があった。

 

「みんなー、大丈夫だった?」

「お、おう! 建物は幾らかやられたが怪我はないぜ! ありがとうな!」

「どうしたしまして☆」

 

 ワイワイガヤガヤと、声が広がる。そんな声を聞きながらセリカは武器を下ろし、改めて道に埋まるアルセルタスを見て、思う事。

 

 凄いけど自分が目指す方向ではないわね、と。

 

 憧れはすれども盲目でなく。被害が少なく済んだことを喜びつつ、割りとしっかり自分が見えているセリカなのだった。

 

 

 

 

 

 

 所変わって、アビドス商店街では銃声が鳴り響いてた。

 

 現在のそこは凄惨と表現する他無い光景が広がっていた。突如襲来したアルセルタスのみならず、まるでそうなることを知っていたかのようにアビドス外から侵入してきた不良達が暴れ始め。

 

 

 直後に、一人の生徒によって制圧された。

 

 

「キ、ギュイィイイ」

 

 悲鳴の如く鳴くアルセルタスに絶え間なく銃弾の雨が叩き込まれ続ける。専用の弾丸ではないからか効き目は薄いようだが、そんなこと関係ないと言わんばかりの数の暴力によって着実に消耗していく。

 

「な、なんで」

 

 呻き声、放たれた銃弾に巻き込まれ地面に転がっている不良の生徒が絞り出す様に言葉を溢す。

 

「なんでここに『空崎ヒナ』が居るんだよぉ!?」

「うるさい」

「あふん」

 

 叫ぶ不良に、転がっていた石を雑に蹴り直撃させて気絶したのを確認し、ふわふわとした白い長髪と厳めしい角が特徴的なゲヘナ風紀委員会の長、『空崎ヒナ』は軽くため息を吐きながら手に持つマシンガンを撃ち続ける。

 

 なんで、と不良は叫んでいたがゲヘナの風紀委員会がアビドスの治安維持の手伝いをしているのだ。その長である彼女がここに居るのはそうおかしな事ではない。

 

 因みに、今現在彼女がここに居る理由は何故か持ち出しの禁止されているアビドス産の薬草を何故か所持していたゲヘナの生徒達がいつもの三割増し位、元気に暴れまわっていたので少しばかり何時もより気合いを入れて鎮圧したヒナはそのまま問題が発生していると報告のあったアビドスにとりあえず先に行くとだけ部下に言い残し駆け足で来てみたら騒ぎの現場に出くわし現在に至る、と言うだけの話で。

 

 要するに相手の運とタイミングが悪かったと言うことである。

 

 銃撃を受けながら今だ逃げようと蠢くアルセルタスに。やっぱり頑丈ね、自分も専用の物揃えようかしらなんて事を考えながら建物の上を駆け抜けていくピンク色の影を横目に、銃弾の雨を降らせ続けた。

 

 

 

 

 

 

 そしてかいざー牧場では、今回の騒ぎでもっとも早くアルセルタスの襲撃に合い。

 

「ギ、キ」

 

 もっとも早く、4人の生徒によってアルセルタスの討伐が成されていた。

 

 アビドス最高峰の狩猟チーム、『便利屋68』によって。

 

「…ふむ、流石と言うべきか。手慣れているな」

 

 偶然とはいえ、助かったと感謝の言葉を口にしながら元理事は安全を確認しながら彼女たちに近づいていく。言葉を聞きながらその生徒は肩にかけたコートを翻し答える。

 

「えぇ、でも感謝は必要ないわ。寧ろこちらが謝罪すべきかしらね。受けていた依頼の達成が石を退かすのに時間が掛かったせいで遅れたのだから」

「石、石と来たか、ククク」

「? と、取り合えず依頼の品よ、確認してちょうだい。『ハルカ』!」

「は、はい! どうぞ!」

「うむ、おい」

「は!」

 

 ハルカと呼ばれた生徒が牧場の職員へと大きな鞄を手渡す。それを見て元理事は頷いて見せる。

 

「うむ、それでは」

「ねぇねぇ理事長、なんで使用済みのスモークグレネードなんて持ってるの?」

「む?」

「ちょ、ちょっと『ムツキ』!?」

「いや、構わん。疑問に思うのは当然といえば当然だろうからな…ただ元をつけて、いやそもそも長はどこから来たんだ? まぁ良い。これについては、そうだな。言うなれば邪魔な石を退ける為に必要なゴミ拾いといったところだ」

「ふーん、なっるほど。そう言うことね」

「あぁそう言うことだ」

 

 と、楽しげに笑うムツキと呼ばれた生徒と元理事。そして元理事から何処と無く滲み出る悪のオーラ的なやつを感じとり何処か憧れるような瞳を少女が向けていると、後ろから声がかかる。

 

「ねぇ、社長。ちょっと良い?」

「え? え、えぇ良いけど、どうかしたの『カヨコ』?」

「どうかしたと言うか」

 

 言いながら困った様子のカヨコと言う生徒に彼女が首をかしげると。

 

「渡した依頼品の入った鞄、さっき思いっきり引っくり返ってた気がするんだけど」

「…え?」

 

 

「あ」

 

 

 そう、声がした。視線を向けると先ほど鞄を受け取った職員が中身を改めていて。申し訳なさそうにしながら鞄の中が見えるように傾けると、そこには無惨にも割れて見事なまでに中身がぶちまけられた卵であったものが入っていた。

 

「あらら、見事にぐちゃぐちゃだね。さっきの戦闘に巻き込まれたのかな?」

「え、えっと、この場合は」

「まぁ、依頼失敗だろうね」

「…な」

 

 三人の言葉を聞いて、少女は叫ぶ。

 

「な、ななな―――」

 

 『陸八魔アル』の絶叫が響き渡る。

 

 

「なんですってー!?」

 

 

 便利屋68、アルセルタスの討伐、成功。

 

 かいざー牧場からの依頼、草食竜の卵を二つ納品せよ…失敗。




・試作ヴァルキリコーダー(ただの鈍器)

 アビドス狩猟武装開発部がとある資料を元に作り出した試作武装の一つ。本来ならば様々な音色を響かせ多くの恩恵を与える、と言う特殊な武装であるらしいのだがそう言った効果は一切確認されておらず。そもそも資料に記されていた材料とは全く異なるものを使用し、そもそもこれならまだ作りやすそうだと言うだけの理由で形だけ真似て作られたただ振り回すと割りと綺麗な音がすると言うだけの金属の塊である。

 しかし金属の塊であるがゆえに鈍器として振り回すことが出来れば新生物相手でも十分以上の、それこそキヴォトスで一般的に広がっている銃器の類いよりよっぽど効果的である。

 が、これまた金属の塊であるゆえに振り回すことは愚か持ち上げることも困難であり、これでは使い道がないとしてこれまで作ってきた試作品同様倉庫で埃を被ることとなる。

 はずだったのだが、「デザインが可愛いから気に入ったじゃんね☆」と言う一言と共に聖園、もとい謎のプリティプリンセス☆クルルンが手に取ったそれは今となっては彼女の代名詞であり。

 己達の努力は決して無駄なだけではなかったことを象徴する作品である。
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