アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第80話

 ディアブロスの巨体が揺らぐ。

 

 爆弾ヘリの特攻を受けた時と同じく、トラックに依る突撃と言う純粋な質量攻撃はディアブロスにたたらを踏ませ強固な甲殻を砕き飛び散らせる。

 

 だが、それだけ。

 

「ルゥウォオアアアアアアア!」

 

 咆哮と共にお返しだとタックルを繰り出しトラックに叩き込む。余りにもあっさりとトラックは吹き飛ばされ。

 

 

「おぎゃああああああー!?」

 

 

 運転席から不知火カヤが情けない悲鳴を上げながら射出された。特徴的な狩猟用装備に身を包んだ彼女は腕をバタつかせながら宙を舞い、顔面から地面に着弾。したかと思えばそのままゴロゴロゴロと盛大に転がり…月雪ミヤコたちの前でビタンと盛大に伸びながら止まった。

 

 一瞬の、間。兜が外れて乾いた音を立てて転がり、直後にガバッと勢い良く起き上がる。

 

「ふ、防衛室長不知火カヤ! 華麗に登場ですよ!」

「無様の間違いじゃないか?」

「点数的には百点中の零点かなー」

「スッゴいぼろくそに言うじゃないですか」

 

 まぁ良いですけどと言いながら立ち上がり、チラリッとカヤはツルギを見る。

 

「で、どう思いますツルギ委員長?」

「討伐はまず不可能だな」

「貴女が断言するほどですか」

 

 二人の視線の先にはディアブロスがトラックへと追撃を叩き込んでいる所。かなりの大きさと重さがあるはずのトラックが粉砕され吹き飛んでいく。

 

「…あれは、確かにやばいですね」

「私も一撃貰って死にかけた」

「その割には元気そうですね」

「治ったからな」

「成程、では頼らせて貰いますね」

「あぁ」

 

 やり取りはそれだけ。さてと落ちている兜を拾おうとして、先に誰かの手が伸びて拾い上げる。

 

「カヤ防衛室長、これを」

「あぁ、ありがとうございますミヤコさん。怪我はありませんか?」

「はい…ツルギ委員長に、助けていただいたので」

「そうですか」

 

 兜を受けとり、それから何気なくカヤは言う。

 

「良く頑張りました。流石は誇り高きSRTの生徒です」

 

 なんて事はない、労りの言葉。カヤからすればただ単純に頑張ったと、そう思ったから口にしただけの言葉。

 

 

 それが、どうしようもなくミヤコの心を軋ませ悲鳴を上げさせた。

 

 

「どこが、ですか…っ!」

 

 絞り出すような声。

 

 思い浮かぶの苦痛と悲劇の光景。ディアブロスの元へと向かう道中、幾つも見てきた。無惨に壊された建物、怪我をした生徒達…そして、知り合って間も無いと言うのに良くしてくれていた人たちの、死体。

 

 止めなければと、そう思っていた。役に立たないにしてもなにか出来る事は無いかと考えていた。ゲネポスに襲われそうになっていた二人を助けられた時はどうにかなる気がした。だが、結局は逃げて助けられた。

 

 頑張った? どこが。

 

 誇り高い? どこが。

 

 そんな言葉を向けられるほどの存在なのか自分は。余りに無力で、無様でどうしようもなく悔しくて惨めだ。分かっている、こんな事をしている場合ではないと。だがどうしても押さえられず思わず唇を噛み手を震えるほど握りしめる。

 

 

「もっとも勇気が必要とされる行為とはなにか、知っていますか?」

 

 

 唐突に、カヤが語る。一体何をと突然すぎて理解が追い付いていないミヤコにカヤは兜をかぶりながら続ける。

 

「曰く、最初の一歩を踏み出す事だそうです」

 

 あれ、なんか収まりが悪いなと呟きながら兜を弄りつつ、更に言葉にする。

 

 

「ヒーローと呼ばれる存在になる方法を知っていますか? 曰く、誰かを助けたいと立ち上がる事だそうです」

 

「正義と言うものが何時その胸に宿るのか知っていますか? 曰く、邪悪を許せぬと奮い立った瞬間だそうです」

 

 

 コンコンと兜を叩き位置調整をしながらカヤの言葉は止まらない。

 

「どれも私の言葉ではありません。それが正解なのかは今も分かりませんが間違ってはないと思っています。ですので、それを基準に考えさせて貰いました」

 

 ミヤコさんと、カヤは改めて向き直る。

 

「貴女は、悲劇を前に助けたいと立ち上がりました。貴女は、惨劇を前に止めようと奮い立ちました。貴女は、地獄の様なこの場所にそれでもと踏み出しました」

 

 コツンッと軽くカヤの手がミヤコのヘルメットに辺り小さな音を響かせて。

 

「ほら、貴女ほど頑張って勇気をもって行動した誇り高きSRTはいないでしょう?」

 

 だから当然の事だと彼女は言う。

 

 その言葉にミヤコはただ俯き震え、ここにいる全員が静かに聞いていた。そんな事をしている場合ではないのに、どうしても考えてしまう。その言葉をカヤに言ったのだろう誰かの事。それって、もしかしてと。

 

 それに答えるように、カヤはふっと兜の奥で微笑み。

 

「しかし、改めて実感しましたが言った自分さえ心を揺らされるとは…やはりすごいですね」

 

 ふっと息を吐きどこか遠くを眺める様に、言う。

 

 

 

 

「漫画の格言は」

「うぉい!」

「あいたぁ!?」

 

 全力だった。今の状況とか相手が誰であるとか関係なく心の赴くままに全力で空井サキはカヤの頭をひっ叩く。その威力は凄まじくぐらぐらとカヤの体が揺れカコンと何かが填まる音がする。

 

「お前ぇ! お前なぁああああ! それはないだろお前えぇえ!」

「ちょ、なんですか!? 痛いのですが!? 私防衛室長なのですよ!? すごい偉い私に暴力&お前呼ばわりとは随分な、あ、でも兜がちゃんと填まりましたね、ありがとうございます」

「どういたしまして! ってそうじゃなくて! もっとこう、あるだろう!?」

「と言うかディアブロスこっち見てない?」

「…カヤ防衛室長」

「あ、つ、ツルギ委員長」

「なんですか」

「その格言の出てくる漫画の題名教えてくれないか?」

「良いですよ」

「ツルギ委員長!?」

「ねぇだからディアブロスこっち見てると言うか突進しようとしてるんだけど!?」

 

 モエの悲鳴の様な声にサキはハッと正気を取り戻し視線を向ける。そこには姿勢を低くし今にも突っ込んでこようとしているディアブロスの姿が。

 

「っ!? カヤ防衛室長!」

「言っておきますけど、別に無関係と言うわけではないんですよ? もっとも勇気を必要とする第一歩を踏み出させる理由になるものですから」

「そうだな」

 

 なのに、カヤとツルギの二人は動かない。いっそ自殺するつもりかと思うほどに、襲ってくれと言わんばかりに隙だらけで。

 

「漫画であれなんであれ、何かに憧れた。それは前に進む大きな原動力になるものです」

 

 

 

「貴女たちもそう思うでしょう?」

「否定はしない」

 

 背後から聞こえた声に反射的に振り返り、視線を何かが横切る…閃光弾だ。投げ込まれたそれがディアブロスの前で炸裂し視界を焼き動きを止める。だが、そちらにミヤコの視線は向かない。ただ、自分達の横を通りすぎながら優しくヘルメットを叩いていった少女たちに釘付けになっていた。

 

「だとしても、先ほどの発言は時と場合を完全に間違えていたと思う」

「でも私に労られているんですよ? もっと喜んでほしいじゃないですか」

「り、理由が酷い」

「でも憧れから前に進むっているのは分かる気がするな。あ、ツルギさんこれ回復薬です」

「あぁ、ありがとう…私もそうだった」

「え、すごい気になる。今度話聞かせてくれない?」

「あぁ、構わない」

「私も気になるのでご一緒させて貰いたいですね」

 

「まぁ、それは無事に事を済ませてですけど」

 

 全員が前を向く。脅威を前にして、それでも真っ直ぐと。後輩に出来て先輩が出来ないではいられないと確かに一歩を踏み出す。

 

 それを、彼女はしっかりと見ていた。何時かの光景と被るそれは間違いなく。

 

「それじゃあ行きましょう」

「ケヒっ…あぁ」

「了解」

 

 一人の少女が、憧れた…。

 

「FOX小隊、行くぞ」

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