「皆さん、お集まりいただきありがとうございます!」
アビドス高校会議室にて。そう声を響かせるのは横にFOX小隊の一人であるニコを控えさせた連邦生徒会防衛室長、不知火カヤ。
相変わらずのどや顔を浮かべる彼女の言葉を聞きながら奥空アヤネは見渡して会議室に集まった人たちを見る。
ゲヘナより。風紀委員会委員長、空崎ヒナ。
トリニティより。正義実現委員会副委員長、羽川ハスミ。
ミレニアムより。セミナー所属会計、『早瀬ユウカ』及びメイド部部長、『美甘ネル』。
そして、シャーレの先生。
アヤネは、思う。なんか、とんでもない面々が揃ってるな…と。
ハスミ副委員長にヒナ委員長は言うまでもなく。シャーレの手伝いに行った時に会った事のある早瀬ユウカはミレニアムに於ける生徒会的組織のセミナーに所属しており。メイド部の部長である美甘ネルに至ってはミレニアム最強の生徒なのだとか。
キヴォトスが三大校のトップに近しい、或いは一組織の頂点その人たちである。ただそこに居るだけで空気が重く感じられる。特に早瀬ユウカから感じられる圧が凄い、あと隈も。内心で自分は場違いなのではと思わずにはいられなかった。用事があるから少し遅れるかもと言っていた梔子ユメ生徒会長に速く来てと願う。
と、ガラリっと扉が開き一人の生徒が入ってきた。部屋に居た全員の視線をそちらへと向かう。入ってきたのは片腕をガッチリと固定されているアビドス生徒会長梔子ユメ。走ってきたのか息を切らしている彼女の様子に皆緊張が走り。
「みんなー! 差し入れ貰ってきたよー!」
弾けるような笑顔を浮かべながら良い香りを漂わせる袋を掲げて見せた。凄い勢いで空気が緩んでいくのを感じた。それはもうダルンダルンである。
「…ユメ生徒会長」
「え、なにアヤネちゃん?」
「空気読めてますけど空気読んでください」
「ひぃん!? どういう事!?」
訳が分からないと困惑しながらテーブルに袋を置き、料理を並べていくユメ。それを眺めながらカヤはコホンと咳払い。
「では、気を取り直して」
そう言って。
テーブルに置かれた焼きそばを手に取った。
「ズルズル、へはほひはえふ、ズルル、へいほうほみへ、ズゾゾゾ、モグモグ…ゴクン。下さい」
「いや食べるんですか!?」
心底驚くユウカ。どういう状況なのか分かっているのかと非難の眼差しを向ける。と、意味を理解したのかカヤはキリリと顔を引き締めて。
「料理は暖かいうちに食べた方が美味しいですよ?」
「いやそうでは無くて! 皆さんもなにか言って」
「ん…この焼き鳥美味しいわ、先生も一つどう?」
「あの、ハスミさん。デザートを少し分けて欲しいのですけど」
「え?」
「え、じゃねぇよ。なに独占してんだよ。つーか食うのはえぇな」
「凄い勢いで口の中に消えていく。あ、防衛室長、ちょっと焼きそば下さい」
「いいですよ、はい」
「普通に食べてる!?」
なにこれおかしいの自分なのかと困惑するユウカの前に差し出されるおにぎり。見れば、先生と目が合いどうぞと言っている。それを見てユウカはしかしどこか遠慮気味に言う。
「いえ、その…今は、お腹が空いて」
「あぁもう面倒くせぇな!」
断りの言葉を遮るようにネルがテーブルからつま楊枝を掴み先に刺さっていたたこ焼きをユウカの口の中に突っ込んだ。
「おぼふ!? な、なにふあっふ!?」
「あぁうるせぇうるせぇ。こっちはお前が昨日からなにも食ってねぇって先生から聞いてんだよ。栄養の足りてない頭で考えてもろくな考えが浮かばないのくらい計算するまでもなく分かりきってる事だろうが」
「へ、へも」
「黙って食え」
食わないならもっと詰め込むと両手でたこ焼きを構えるネルに仕方ないとあつあつのそれを食べる。と、ユウカの動きが止まる。どうしたと首を傾げる人たちの前でゆっくりと手で口元を押さえながら咀嚼し、呑み込む。
「…あの、ユメ会長。これの中身なんなんですか?」
「え、お餅」
「餅!?」
「まじか…まじだ」
「あむ…んむ、こへはこへへ、んぐ、美味しいですね」
「んぐ、そうね。でもたこ焼きの積もりで食べると違和感凄いわねこれ」
「では、私も一つ…ユメ会長、これタコが入っているのですが」
「うん! そっちはたこ焼きだからね!」
「…なんでしょう、この敗北感」
わいわいと、食べ物を前に一喜一憂する生徒達。そんな彼女達を見ながら先生は優しく微笑んでいると。ついと、袖を引かれる。視線を向けるとユウカが若干顔を赤らめながら。
「あの、やっぱりそのおにぎり。貰っていいでしょうか?」
やや遠慮がちに言われる言葉とやっと空腹だと自覚したように小さく鳴るお腹。勿論、先生の返答は決まっている。笑顔でおにぎりを差し出すのだった。
突発的な食事会から少しして。アヤネは仮眠室で静かに眠るユウカに毛布を掛けていた。
皆のお腹が満たされたのとほぼ同時、ほっと息を吐き緊張を和らげた彼女がカクンと力が抜けて倒れ、そのまま眠ってしまったのだ。
「おう、悪かったな。手間掛けさせて」
「! いえ、大丈夫です」
仮眠室を出ると同時、待っていたのか壁に背を預けて立っていたネルの言葉にそう返す。
むしろ悪いと言いたいのはこちらの方だとアヤネは思う。先生の護衛として、当時シャーレの手伝いをしていただけの彼女には色々と助けられた。本当に、別学園に所属しているとは思えない鬼気迫る様子で没頭するように色んな事を。
そこで、気が付く。そうだ、真っ先に駆けつけてくれた先生と一緒に訪れたのだから、あの光景を死体の転がるアビドスを見てしまったのかもしれない。だと、すれば。
「…普段通り、ではいられませんよね。普通に考えればそうなるのも当然だったのに気が付かなかったなんて」
「状況が状況だったんだ。気が付かなくても仕方ないだろ。そもそもあぁ成ったのは普段の激務が原因な所もあるだろうしな。気にすんな」
そう、軽く手を振りながら返すネルにありがとうございますと言い、一緒に会議室へと戻る。
「あ、お帰り! ユウカちゃん大丈夫だった?」
「あぁ、ぐっすり眠ってる。ユメ会長もありがとな、急に差し入れの用意頼んで」
「全然大丈夫! 皆お腹空いてただろうし気にしなくていいよ!」
グッと力強くサムズアップして見せるユメ。彼女の言っていた用事はそれの事だったのかとアヤネは内心納得し。パチンッと手を叩く音がする。音の出所は…カヤ。
「では、揃った事ですし」
「対策会議、始めましょうか」