アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第87話

 燃えていた。

 

 月雪ミヤコの目の前でごうごうと炎が立ち上ぼり揺らめいている。熱い、余りに強烈な熱に思わず一歩下がってしまう。そして、自分の横に立つ少女、空井サキが言葉を溢す。

 

「ミ、ミヤコ、これは…もう」

「ま、まだです! まだ何とか成る筈!」

 

 否定するように炎に手を伸ばす。揺らめく炎の熱にも負けず、しっかりとそれを掴んで見せた。だが、しかし遅かった。彼女の手の中にあるものは…ただ黒かった。

 

 

「完全に黒焦げだな」

「またですかっ!?」

 

 

 崩れ落ちるように膝を付くミヤコの手の中にあるもの、それは魚の形をした…ただの炭だった。

 

 

 

「むぅ、どうにも…うまく行きませんね」

 

 なんて呟きつつ仕方ないなとか言いながらサキが何処から引っ張り出したのか『焼き魚の全て・七輪編』なる謎の本を片手にミヤコは新しい魚、サシミウオを七輪に乗せる。

 

 何故、この様な事をしているかと言えば単純で、現在待機中の自分達が命令違反にならない範囲で何か出来ることはないかと話し合った結果、自分達だけでなく他の人たちも戦闘等で利用する物資を出来る限り用意しようと言う事になったのだ。

 

 もっとも、知らない人が見れば戦闘に焼き魚関係ないだろうと思うかも知れないし、まぁ正直ミヤコ自身も思っていた。

 

 が、アビドス産の焼き魚は食べるだけでも掠り傷程度であれば負った次の瞬間にはもう治っているレベルの自然治癒能力の強化が行える凄まじい代物なので本当に戦闘で役立つのだ。当然の様に何故か魚の種類によっては生のまま食べても効果があるのだが焼いた方が高い効果があると確認されている為、こうして焼いているのだ。

 

 まぁ、一般的な焼き時間ではまっ黒焦げになってしまうやけに火の通りが良すぎるサシミウオに現在大苦戦している訳だが。アビドスは魚まで常識外れなのかと改めてミヤコは思うのだった。

 

 因みに他RABBIT小隊員もそれぞれ出来ることを行っている。サキは苦戦するミヤコの近くで携帯用食料を整理確認をしており、霞沢ミユはゲストハウスの一室で黙々と回復薬を調合している、そして風倉モエも同じく回復薬の調合を…していたのだが途中からなんか変なのを作り始めたので現在はプランターで育てられている薬草の手入れをさせられている。

 

「ここ!」

 

 気合いの入った言葉と共に勢い良く掴み取る。普通で駄目ならばとかなり早いタイミングで炎から持ち上げられた魚は見事なまでに…生焼けだった。思わず肩を落とし溜め息を吐く。それを見ながらサキが呟く。

 

「なぁミヤコ」

「何ですか?…あ、生焼けでも美味しい」

「食うなよ、全く…なんと言うか、変わったな」

「はい? 変わった?」

「あぁ、雰囲気が落ち着いたと言うか…なんと言うか、こう」

 

 言葉に、ミヤコは視線を向けると腕を組んで考えているサキの姿が。暫くしてからそうだと彼女は手を叩き言う。

 

「カヤ防衛室長に似てきたなって」

「え、それは…遠回しにうざいと?」

「…すまん。そんな積もりは無かったがそう受け取られても可笑しくない事言った」

 

 と、言ってから恐らくカヤのイラッとくる感じのどや顔が脳裏に浮かんだのか頭を下げるサキに別に気にしていないと言う。それから、生焼け食いかけのそれを何気無く揺らしながら彼女の変わったという言葉について考えて。

 

「…私は別に変わっていませんよサキ…ただ思い出しただけです」

「? 何をだ?」

 

 疑問に、サシミウオを七輪に乗せながら答えた。

 

「ずっと探していた物が何処にあるのかを、ですかね」

 

 あの日、SRTの休校が決定したと告げられた時からずっと。皆、悲しくて悔しくて…それ以上に情けなくて、けれどそれでも歯を食いしばり涙を流しながらも受け入れたあの時からずっと。

 

 ただ大切な何かを失くしてしまったと、それが何であるのかも分からぬままに暗闇をさ迷う様に探し続けていたもの。

 

 何を失くしてしまったのか。

 

 何処に行ってしまったのか。

 

 ずっと、探して、考えて、けれど見つからなかった。

 

 もう見つからないのだと諦めかけていた大切なもの、それが何であるのかを一人の少女の…不知火カヤの言葉をきっかけに思い出した。

 

 それを、失くしてなんかいなかった事も。

 

 ずっと失くしたと思っていたそれは、正義と憧れは変わらずミヤコと共にあった。そう思ってしまったのは、そこにあった筈の進むべき道を見失って、恐怖と迷いから眼を閉じてしまっていたから。

 

 そう、そうだ。思い出してしまえばなんて事は無かった。目指す場所は変わらない、ただ進む道が変わっただけ。

 

 故に、月雪ミヤコは何も変わってなどいない。

 

 

 閉じていた眼を開き、正義と憧れを胸に再び道を歩み始めた…ただそれだけの事だ。

 

 

「…それだけ、か」

「えぇ、それだけです」

 

 そうかとサキが頷くのを見て、ミヤコは今度こそ成功させると七輪へと向き直り確りと見る。その七輪を見つめる姿を見て、何気無く呟いた。

 

「ミヤコ、お前。やっぱり、カヤ防衛室長に似てきてるな」

「そこまでですかね?…今回は誉め言葉として受け取っておきます」

「あぁ、今回はそのつもりで言ったからな」

「誉め言葉としては微妙に喜びづらいです…ねっ!」

 

 鋭く動き、掴み取り持ち上げる。そして、見る。手の中にあるサシミウオの焼き加減は…完璧だった。ただ綺麗に焼けた、それだけの事が本当に嬉しくて思わず、ガッツポーズをする。

 

「良しっ、上手に焼けましたっ!」

「おぉー、綺麗に焼けたな!…いやけど幾らなんでも焼くだけの作業に手間取りすぎじゃないか?」

「…そこまで言うならサキ、貴女もやってみたらどうです?」

「あぁ良いぞ。見てろ? こんなのいつも通り基本に忠実に焼けば簡単だ」

 

 と、言って七輪と向き合うサキ…それから少しして彼女の声が響く。

 

 

「何でだー!?」

 

 そう叫ぶサキの手には見事にまっ黒焦げになったサシミウオが握られていたとか。

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