アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第88話

「ん?」

 

 ふいに砂狼シロコは立ち止まり辺りを見渡す。それは今何か叫び声の様なものが聞こえた気がしたから、具体的に言えばこう嘆くような『なんでだー』って言う感じの叫びが。なにか良くない事でも起こっているのかと耳を澄ませて集中するシロコ。

 

 けれど、忙しそうに動き回る生徒達の声以外にこれといって聞こえてくるような事は無く。気のせいだったかと思い、素材の詰め込まれた箱を持ち直して再び歩き出す。

 

 砂漠奥地から自治区へと帰還してから、彼女はこうして何かしらの手伝いを行っていた。

 

 瓦礫を片付けたり。回復薬を作るための薬草を畑から取ってきたり。自治区付近へと近づいてきた小型生物を狩ったり、どうしても出来てしまう防衛網の隙間から侵入されてしまっていないか見回りしたり。今しているような物資の運搬だったり。

 

 それこそ一日中アビドスを走り回っているレベルだ。

 

 とは言っても別に無理をしている訳ではなく、きちんと休憩時間という名のヤッくんと戯れる時間を作っているので結構元気一杯だったりする。

 

 そんな彼女が今居るのは狩猟装備開発部の部室。そこら中から怒号が響き生徒達が忙しなく、そして鬼気迫る表情で作業に打ち込んでいる中でちゃんと聞こえるようにと大きな声を響かせる。

 

「頼まれてた追加の素材の持ってきた」

「ありがとうそこ置いといて!」

「ん、分かった」

 

 視線も向けず声だけでの対応だったがシロコは別に気にすること無く、彼女達の邪魔をしないように気を付けつつ見て分かるだろう位置にまで運んで置く。

 

 と、タタタンッと発砲音が耳に届く。ピクリッと耳が跳ねて音のした方へと視線を向ける。その動きに焦りはない、何せ音のした方向には製作した装備の性能テストをする為の部屋があるから音が聞こえる位は普通の事だ。まぁ、仮にそうでなかったとしてもキヴォトスでは発砲音位は日常の一部でしかないので基本的に焦る理由にはなり得ないのだが。

 

 とはいえ、誰が居るのか気にならないと言えば嘘になる。ので、シロコは確認することにした。別に見学が禁止されているわけでもないので遠慮無く部屋に入る。

 

 当然だが中では誰かが武器の性能を確かめていた、が残念ながらシロコにはその姿を見ることが出来なかった。何せ、目で追えない程の速度で動いていたから。だが、目で追えない程の速度で動いているゆえにそれが誰なのか見当がついた。

 

 タン、タン、タタタンと響く駆ける音と発砲音。放たれた三発の銃弾がターゲットに一つ二つと直撃し…最後の一発だけが僅かに脇に逸れて外れ、直後に強烈な蹴りを少女がターゲットに叩き込み宙を舞う。

 

「よっと」

 

 吹き飛ぶターゲットを横目にそう声を溢しながらメイド服の上にスカジャンという何とも特徴的な格好をした少女が、美甘ネルがシロコの前に着地する。

 

「あー…まぁ数日ででっち上げたものとしては上出来だ、なっと!」

 

 言いながらクルリと銃を手の中で回し、再び射撃。タタタンッと放たれた三発の弾丸は、今度こそ全てターゲットへ叩き込まれた。

 

「うっし、こんな感じか…で、あたしになんか用か?」

「ん、見てただけ。こんにちはネル先輩」

 

 深々と頭を下げて挨拶をするシロコ。彼女はわりとしっかりと挨拶が出来るタイプである、だって昔散々小鳥遊ホシノに教え込まれたから。まぁそうでなかったとしても自分よりも強いネルに対しては同じ様な対応をしていただろうが。

 

「それが?」

「おう」

 

 チラリと視線を向けると見やすい様にと銃を持ち上げるネル。間違いなく強化改造が施された最新の狩猟武器だった。

 

「癖は強ぇし粗も目立つが、強度は間違いなく一級品と言って良い代物だと思うぞ」

 

 成程と頷きながらシロコは思う。なんかデザインというかが雑だな、と。元々、ネルが所持していた狩猟用の武装を強化改造した物なのだろうが…なんと言うか、素材をペタッと張り付けただけのように見える。だが、こんな感じの改造でもネルがそう言うくらいには確りとした物になっているのだろう。或いは速度重視でデザインを気にせず作った結果なのかも知れないと思う。

 

「他の人のも間に合いそう?」

 

 そう言ってから彼女に訊いても意味ないかと思ったが、ネルは少し険しい表情を浮かべた。

 

「いや、微妙だな」

「そうなの?」

「あぁ、あたしのこれみたいに狩猟用武器の強化ってのはなんとか間に合いそうだがこの前の襲撃時に武器が破損して修理所か一から作り直さなきゃならねぇって奴が多すぎる。その上で余裕がないせいかいきなりくそでけぇカボチャをいじり始めたりと、うちの連中みたく暴走し始めてる。正直に言えばかなりきついと思うぞ」

「え、カボチャ?…あ、あれか」

「あん?…何かあんのかあれ」

「ん」

 

 言葉に頷きそのまま答える。

 

「ネル先輩が見たカボチャは武器」

「…あれがか」

「ん、現状のアビドス最強の武器」

「あれがかよ!? 誰が使うんだよあれ!?」

 

「私だよー☆」

 

「あ?」

「ん?」

「やっほー」

 

 なんて軽い挨拶をしながら入ってきたのは可愛らしくデコレーションされた翼とトリニティが生徒会『ティーパーティー』所属を表す純白の制服…等が目に入らないほどのインパクトを持つ棒の突き刺さった巨大カボチャを背負った超リアルなクルルヤックを模したマスクを身に付けた少女。

 

「ん、久しぶり『クルルン』。今日もナイスヤッくんフェイス」

「久しぶりシロコちゃん。そっちも元気そうで良かったよ☆」

「クル…あーそういえばそんな風に名乗ってるんだったな」

 

 そうだったなと呟くネルは、同時に意外そうにシロコと戯れ始めた彼女の事を見る。

 

「しっかし、今のやばい状況のアビドスに来るとはな」

「やばいからこそ来たんだ。下手するとアビドスだけじゃなくてトリニティも危ないし、なにもせずには居られなかった感じだね。あ、ここ使わせてもらうね」

「あ?…あぁいやまぁそうか。ほらよ」

「ありがと☆ あ、もしかして次シロコちゃんが使う積もりだったり?」

「ん、私はただの見学」

「そっか。それじゃあ失礼するねー」

 

 言いながら、アホ程でかい代物を背負っているとは思えない軽やかな足取りで進む。それから転がっていたターゲットを起こしてから、武器を手に取る。

 

 直前に、誰かが走り込んできた。

 

「ありゃ?」

「今度は誰だ?」

 

 その場に居た全員の視線が出入り口へと向かう。そこには息を切らせた正実の生徒が一人。

 

「はぁ…はぁ、い、居た! 美甘ネルさん、緊急連絡です!」

「…何だ?」

「私にも聞かせてー」

「は、はい実はって『ミカ』様ぁ!? なんでここにぃ!?」

「クルルンじゃんね。ってそれは今はどうでもいっか。何があったの?」

「あ、そうでした。緊急連絡です!」

 

 

 

「アビドス砂漠自然公園にてディアブロスによるビナーの撃破が確認されました! 現在、暴れながらアビドス自治区へと接近中です!」

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