アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第89話

「やはりと言いますか。予想通り、予定通りにはいきませんね…」

 

 なんてスクリーンを眺めながら不知火カヤが溢した言葉に浦和ハナコは静かに頷き、同じくスクリーンに視線を向ける。そこに映し出されているのは、ディアブロスの突進が直撃した事によってビナーが千切れ飛び砂上を転がっていく映像。

 

 勝利を示すように轟く咆哮を聴きながら、視線を手元のタブレットに向ける。書かれているのはアビドスの今。オアシスの迎撃地点完成度は凡そ5割。これは元々戦闘用と言っても過言ではない砂上船を利用した事とミレニアムの生徒が手伝ってくれたから予定よりも進んでいる。

 

 次に、狩猟用武装の強化改造が終わっているのは…5つ。いや、砂漠奥地で実験という形で既に改造が施されている砂狼シロコの物も含めれば6つか。報告を見ればあと少し時間があれば羽川ハスミの武器も強化が完了する見込みだったそうだ。

 

 どう考えても十分とは言えない。そんな状況でディアブロスが接近して来ていると聞かされた彼女達は…意外と落ち着いていた。

 

 だって、そもそも準備を十全に行えるとは誰も思っていなかったからだ。人手が足りず時間が足りず、その上で自治区へと侵入を試みるパニック状態のアビドスの野生生物相手に防衛を行っている。そんな状況で完璧な準備なぞ求められないと分かりきっているし、出来る事…いやすべき事は限られる。

 

 視線を巡らせれば部屋に居る幾人かの生徒が見える。

 

 一人目。トリニティが正義実現委員会委員長、剣先ツルギ。

 

 現在、全身に巻き付けられている包帯を苦戦しつつほどいている。普通に引きちぎれば良いのではと思いそう発言したら必要でないなら備品の消耗は抑えるべきだと言われた。普段、壁をぶち抜いている人とは思えない発言である。

 

 二人目。ゲヘナが風紀委員会委員長、空崎ヒナ。

 

 現在、先程まで行っていた治安維持活動関係の書類作業を行っている。曰く、巨大な紫色のモンスターが暴れていたとかなんとか。そんな良く分からない物が出現するゲヘナを恐れれば良いのか。それを鎮圧した上でディアブロス接近中の知らせを受けてゲヘナからアビドスまで数分で走ってきた彼女のスペックにおののけば良いのかちょっと分からなかった。

 

「来たぞっと、あたしらが最後か」

 

 そして、そんな事を言いながら若干悔しげに入ってきた三人目。ミレニアムがメイド部、いや特殊部隊C&Cリーダー、美甘ネル。

 

 

 と、彼女に続いて入ってくる砂狼シロコに…謎のプリティプリンセス☆クルルン。

 

 

 浦和ハナコは二度見した。それはもう見事と言えるほどキレの在る二度見だった。ついでに言えば視界の端でツルギ委員長が横目で一瞥した後に包帯が千切れる程の勢いで同じく二度見していたし、カヤも飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出していた。平然としているのはヒナだけである。

 

「ゲホッ、ゴホッっ!…あぁー、えっと良いんですか?」

「何がどういう事なのかは分からないけど、ここに居るのが答えじゃんね☆」

「あ、はい。じゃあそう言うことで!」

 

 もう来ちゃったものはしょうがないとカヤは速攻で切り替えて戦力が増えたことを喜び。ツルギは胃と頭の両方に痛みを感じていた。

 

「さて、では改めまして。ここに居るということは既にご存じでしょうが現在、ここアビドス自治区に先日襲撃を行ったディアブロスが再び接近してきています」

 

 その言葉に空気が変わる。全員の視線がカヤに集まり、彼女はやっぱり若干のウザさを感じる笑みを浮かべながら言う。

 

「些か急な事ではありますが、私たちの作戦に変更はありません」

 

 目標を迎撃地点であるオアシス跡地まで誘導して叩く、それだけ。正直、作戦とは言いがたい大雑把なものだが。在る意味でこれで十分だとハナコは思う。

 

 なにせこの場に居るのはキヴォトスが誇る三大高の頂点、即ち最強と呼ばれる者達。彼女達が本気で暴れられる場所を用意する以上の最適解はそもそも無い可能性が高い。

 

 

 だからこそ、この作戦は大きな賭けである。

 

 

 なにせこの場に居るキヴォトスでも最上位に位置する生徒たちにアビドスの強者。それらの補助にかの有名なSRTより2小隊と各学園の精鋭。小さな所か中規模の学園自治区程度であれば更地に出来てしまえるだろうこの戦力を越えるものを用意することはまず不可能だろう。だから…もしもだが失敗してしまえば、最早キヴォトスには抗う手段がないと言える。

 

 

 そして、その失敗があり得るのが今回の相手だ。

 

 

 気づけば、嫌な汗が流れていた。そっと拭いながら息を吐き、続くカヤの言葉を聞く。

 

「さて、一番重要な迎撃地点への誘導ですが…残念ながら予定していた誘導に利用する積もりだった装甲車両の用意が間に合いませんでした。ので、非常に不本意ではありますがシロコさんが提案したプランBでいこうと思います」

「ん、不本意とは失礼」

 

 と、若干膨れるシロコ。だがそれも仕方の無いことだ。なにせ彼女が提案した誘導方法は…彼女自身が囮と成って誘導するというものなのだから。

 

「改めて確認しますが、本当に大丈夫なんですね?」

「いける。ホシノ先輩がいない今。最速は私」

「…あ? 今あたしに喧嘩売ったか?」

「いえそれで喧嘩云々は流石に無理がありません?」

「ん、当然。いくらネル先輩でも砂漠での競争なら負けない。むしろ圧勝」

「あ、売ってた」

「上等だよ。事が終わったらボコボコにしてやるから覚悟しとけよ」

「こっちのセリフ」

 

 そんなやり取りをしながら火花を散らす二人を、尻目にそれではと言葉を告げる。

 

「それでは、些か大雑把が過ぎましたが話し合いはここまで。シロコさんの準備が整い次第、始めましょう」

 

 

「文字通りに、総力戦を」




・アビドス砂漠自然公園で競争した場合の順位。


三位・美甘ネル。

 純粋な速度なら最速だが、若干の砂漠という環境への不慣れからこの順位。

二位・砂狼シロコ。

 砂漠だろうが岩場だろうが自転車で爆走できる。

一位・小鳥遊ホシノ。

 慣れと技術の賜物。あと普通に足も速い。



殿堂入り・空崎ヒナ。

 飛べる。
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