アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第9話

 彼女は非常に不快に思っていた。

 

「こ、の! また弾かれ!?」「もっと大型を! 早く!」

 

 まるで挑発するように縄張りにばら蒔かれた匂いが不快でならなかった。

 

「止まれ止まれ止まれぇー!」「あ、あぁああああああ!?」

 

 こんなにも不快な匂いだと言うのにふらふらと誘われて飛んでいく雄にも苛立ちを隠せず、微かに匂いを感じた建物を粉砕しながら突き進み、途中に見つけた呑気に眠っている雄を尻尾で掴み振り回す。

 

「な、なんで!? これは雄を誘因する効果しかないんじゃ!?」「手を加えた結果変質でもしたんだろう! あぁ糞なんでこんな!」

 

 自分に向かって放たれるそれらが鬱陶しくてならない。苛立ちが収まらず、雄を掴んでいる尻尾を眼前まで動かし力を込める。

 

「!? な、なんだこの音!?」「少なくともろくな事じゃない! ジェネラル! 早く避難を!」

 

 

「糞糞糞ぉ! この、化け物がぁ!」

 

 

 轟音、そして衝撃。後に残るのは瓦礫のみ。バラバラになった雄の破片を貪りながら彼女は進む。未だに不快な匂いが漂っている。不遜にも領域を侵す不埒者を誅するまで彼女は、女帝は進軍を続ける。

 

 彼女の歩みを阻む事が出来るものは…いる。

 

 

 

 

 アビドスには狩人がいる。

 

 

 

 

「ギ、ギギギギギィギィイイイイイ!」

「ん、こっち」

 

 生物から発せられているとは思えぬ音を背に、シロコはアビドス自然公園をかける。軽やかに岩に窪みにと障害になり得るものを越えながらチラリと後ろを見る。

 

 そこには表情が無くとも分かるほどに怒りの感情を滲ませた巨虫、『ゲネル・セルタス』がシロコが飛び越えた岩を粉砕しながら追いかけて来ていた。

 

「…ん」

 

 見上げるほどの巨体を誇るそれに、冷や汗が流れる。資料で見たときは戦車のようだと思ったがそれどころではないと今なら思える。だからといって臆するわけには行かないとトンッと軽く跳びながら振り返り挑発するように射撃。いや、様にではなく挑発を目的とした攻撃である。

 

「ギ、ギィゴガガッガ!」

 

 カンカンと生物に銃弾が直撃したとは思えない音を鳴らしながら軋む音をさらに強く響かせ速度を上げてシロコに迫るゲネル・セルタス。速度もそうだが一歩の大きさが違いすぎ、このままでは追い付かれる。

 

 そう思った瞬間、スモークグレネードが脇から投げ込まれ吹き出した煙がゲネル・セルタスを飲み込む。

 

「シロちゃーん!」

「! ん!」

 

 声がし、視線を向ければ岩にある小さな隙間から手を振る生徒が一人。急いで生徒のいる場所まで走り、伸ばされた手を取り隙間へと勢いそのままに滑り込む。

 

「大丈夫かシロコ!?」

「ん、大丈夫」

「はい、これ水だよー。冷えてた方が嬉しいかもだけど常温だよー」

「ありがとう」

 

 隙間の先にはちょっとした空間があり、二人の生徒がシロコを向かえる。

 

「ん…はぁ、ゲネル・セルタスは?」

「シロちゃんの事見失って辺りを探してるみたい」

 

 問いかけに、ゲネル・セルタスを監視している生徒が答える。

 

「しっかし、なんでゲネル・セルタスがこんなところに居るんだよ!」

「僕たちドスジャギィの観察に来ただけなんだけどねー。まさかの鉄火場だねー」

「ん、もしかしてドスジャギィがここに来たのはゲネル・セルタスに追われてたから?」

「あり得ないとは言えないけどあいつがドスジャギィを追う理由が分からん」

「それよりも、なんでゲネル・セルタスがまっすぐアビドス市街地の方角に突き進んでたのかの方が気になるわね」

 

 警戒しながらも会話に加わる生徒に皆頷く。とっさにシロコが挑発して自身を囮にしていなければ今頃アビドス市街地に到着し建物を片端から粉砕していたことだろう。考えたくもない光景が脳裏に浮かぶ。

 

「気になると言えばゲネル・セルタスの状態も気になるよな」

「妙にボロボロだねー。縄張り争いの敗北者ー?」

「いえ、それもあり得ないとは言えないけどあの傷の感じは銃弾や爆発を受けたそれよ。つまり一番考えられるのは」

「ん、密漁者」

 

 そこまで考えた上で彼女たちがたどり着いたもっとも有り得る原因はと言えば。

 

「…密漁者が素材目当てで襲ったは良いけど返り討ちにあってアビドスに逃げ帰り、それを追っかけて来たって所か」

「それなら激おこなのも納得する他なしー」

「全く、なんて迷惑な」

「ん、絶対見つけて捕まえる」

 

 と、固く誓うシロコはふと問いかける。

 

「そう言えば、アヤネからの連絡は?」

「いや、あたしらが報告してからなにも」

「あっちはあっちでー。アルセルタスが向かってきてるって慌ててたからねー。仕方なしー」

「街の事は気になるけど私たちはゲネル・セルタスをなんとかしなきゃ…私たちが狩猟に参加出来ればどうにかなったのに」

「ん、気にしないで。役割が違う」

 

 言いながらシロコは落ち込む三人、『新生態系観察部』の生徒を励ます。そもそも彼女たちは狩猟を目的とした活動をしておらず、生態系の調査観察を目的としている。そのため身に付けている防塵マスクにゴーグル、頭から被っている砂漠用迷彩シートは気づかれないように息を潜める為の物で、さらに武装も最低限の自衛が出来る程度に抑え、咄嗟にすぐ逃げられる様に身軽にしているのだ。

 

 そのため、現状ゲネル・セルタスと相対する事が出来るのはシロコ一人なのだ。だが彼女の言う通り役割が違う。だから気にする必要はない。

 

 そもそもいち早くゲネル・セルタスの接近に気がつくことが出来たのは彼女たちのお陰なのだ。誇ることはすれど落ち込む必要など本当に無いのだ。

 

「! シロちゃん、ゲネル・セルタスが移動しようとしてる!」

「ん!」

 

 気を取り直して対策を考えようと言ったところで、警戒していた生徒が叫び。答えるようにシロコは武器を手に取り立ち上がる。放置すれば市街地に向かう可能性が高いゲネル・セルタスとの命がけの鬼ごっこの再開だ。

 

 シロコは深呼吸をし、勢い良く飛び出しゲネル・セルタスの前に姿を曝し射撃を叩き込む。

 

「ゴギキギィイイ!」

 

 自身に撃ち込まれた弾なぞ気にも止めず漸く見つけたと勢い良く尻尾を振り回しシロコに向けて叩きつける。

 

「ん」

 

 余裕をもって回避するシロコはそのまま適度に攻撃しつつ距離を取り始める。攻撃が当たらず離れていくシロコにゲネル・セルタスはいよいよ我慢の限界だと強く足を地面に叩きつけながら、なにかを噴出させた。

 

「!? これって」

 

 離れていても感じる異臭。思わず顔を覆いながらも思考を巡らせそれがどういう意味を持つ行為だったのかを思いだし。

 

「不味い」

 

 あれは確か雄のアルセルタスを呼び寄せる為の行為だった筈。今この場にアルセルタスまで加われば不味いことになると視線を走らせ、見つける。

 

 ふらふらと今にも落ちそうになりながらも飛んで近づいてくるアルセルタスが一匹。なぜか傷だらけで、というか上になにか、いや誰かが乗って居て。

 

 彼女は軽やかにアルセルタスの上から跳び、ゲネル・セルタスの背に乗るとズドンッと強烈な一撃を叩き込む。あまりの衝撃に姿勢を崩し倒れるゲネル・セルタスから降りシロコの眼前に着地したのは。

 

 

 アビドス高等学校最高戦力、小鳥遊ホシノ。

 

 

「ホシノ先輩!」

「シロコちゃん! 無事!?」

「ん! 大丈夫!」

 

 グッとサムズアップしてみせたシロコによかったと息をはくホシノはしかし直ぐに表情を引き締め前を見る。そこにはアルセルタスが倒れたゲネル・セルタスを起き上がらせて、直後に尻尾で掴まれ地面に叩きつけられそのまま捕食されていた。

 

「…うわぁ」

「ん、鬼嫁」

 

 あんまりな光景に引きながらもシロコは伝えるべき事を言う。

 

「ホシノ先輩、このゲネル・セルタスはアビドス市街地に向かおうとしてた。後、アルセルタスが侵入したともアヤネが」

「分かった、それと侵入してきたアルセルタスは大丈夫。みんなが頑張ってくれたからね」

「ん、良かった」

 

 と、一つ息を吐き。

 

「それじゃあ後は」

「うん、こいつを狩るだけ!」

 

 

 ゲネル・セルタス…狩猟開始。 





 アルセルタスです。
なんか呼ばれた気がして向かったら良く分からん奴らに襲われたとです。

 アルセルタスです。
なんとか逃げられたけどまた呼ばれた様に感じたので向かったら目的地を見失ったとです。

 アルセルタスです。
雌が何処にいるのか探してたらなんかピンク色の化け物に襲われたとです。

 アルセルタスです。
ピンク色の化け物に引っ付かれてボコボコにされてたらまた呼ばれたのでそのまま向かいました。そして食われたとです。


 アルセルタスです、アルセルタスです、アルセルタスです…
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