アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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ワイルズ楽しい!


第93話

 それは巨大な群れだった。

 

 通常に比べればかなり数が多い…が、別に何かが異常があった訳では無い。ただ餌が多くて、天敵がとても少なかった。それだけ。そう、それだけ条件が揃えば数が増えていくのは当然の事だった。まぁそうだとしてもちょっと多くね? と、自分達で思う程には増えてしまったがそれでも問題にはなっていなかった。

 

 

 あの、二体の化け物が暴れ始めるまでは。

 

 

 それは嵐等と言った災いと何ら変わりなく。巣である横穴を粉砕し乱入してきたその二体の争いに運悪く巻き込まれた同胞達が、文字通り磨り潰されていく光景は群れを恐慌へと叩き込むには十分だった。

 

 群れは恐ろしき存在から逃れる為に、何かを追って移動を始めた荒れ狂う化け物が向かった方向とは逆の方向へ逃げていく。進む先に広がるのが人々にアビドス自治区と呼ばれている場所であることも知らず。混乱の最中、群れの長とはぐれてしまった故に誰も止められず。

 

 そうして…『ジャギィ』の群れは人類の領域に近づいていく。

 

 

 

 

「あ、来た!」

「その様ですね。では…お掃除の時間ですね」

【あぁ…火力は程々で頼むぞ?】

「…ふふ」

【いや、ふふじゃなくて】

「点火ー!」

 

 その直後、爆発がジャギィ達を呑み込んだ。

 

 

 

 爆発音が響き、少し遅れて粉塵混じりの黒煙が立ち上り爆破地点から離れた位置で銃を構えるミレニアムがメイド部所属の少女、『角楯カリン』の元に僅かだが届いた爆風に髪を揺らしながらため息を溢す。

 

「はぁ…全く」

 

 思わずか頭が痛いと言わんばかりに額を押さえてしまった彼女の視線の先にあるのはアビドス高校から提供された自然公園の地図には載っていなかった横穴。恐らく例のビナーに依って生み出されたのだろうそこが…派手に音を立てて崩落し、更にはモクモクと粉塵と黒煙が一緒に吹き出している。

 

 状況が状況だからと、カリンと同じくメイド部所属の『室笠アカネ』が事態を把握するや否や手際よく爆弾を設置し始めるのを止めなかったが、不味かったかもしれない。なんて思っていると横穴だった場所から煙以外のものが、ジャギィが飛び出してくる。

 

 それも一匹、二匹ではない。慌てた様子で横穴から飛び出してくるジャギィ達の数は軽く数えるだけでも二十は越えていた。爆発や崩落に巻き込まれたものやはぐれたものが居るだろう事を考えればもっと数が居ただろうジャギィの群れ。

 

 それが、まるで一つの巨大な生き物の如く蠢きながらゆっくりとアビドス自治区へと向かっている…のを、何となくと言う理由で自然公園内を散歩していたメイド部の先輩である『一ノ瀬アスナ』が発見したので、彼女達は今こうしてここに居る。

 

「行くよー!」

 

 なんて言いながら混乱しているジャギィ達の前に躍り出て銃撃を叩き込み更に混乱を深めていく彼女にたいしてカリンはなんかもう…アスナ先輩は何時も通りだなと頭の片隅で思いながら、意識を切り替えて集中する。

 

 今回の任務内容は、アビドス高校に助力し自治区を防衛する事。それを考えればディアブロスの討伐は勿論だが、獲物を狩りに行こうとしているのか唯ディアブロスから逃げようとしているのか、それとも別の何かがあるのかは分からないがアビドス自治区へと向かおうとしているこのジャギィの群れは無視できる存在ではない。

 

 故に…排除する。

 

 呼吸を整え狙いを定め引き金を引く。放たれた弾丸はアスナを避け迂回するようにして先に進もうとしている個体に直撃する。

 

 殺傷目的の急所への狙撃を受けたジャギィは吹き飛ばされ地面を転がり一瞬だが大きく全身を痙攣させたかと思うとそのまま動かなくなった。それを見てしっかりと止めを刺せた事を確認し、アビドス砂漠の生き物達の頑強さを知っているカリンは少し驚いた。正直、一撃で仕留められると思っていなかったからだ。

 

 やはり爆発や崩落に依って酷く消耗しているという事かと改めて認識しつつ、また別の個体へと狙いを定めた。

 

 

 直後にまた爆発が起こりジャギィ達を吹き飛ばす。

 

 

 混乱しきっているジャギィたちは爆風に対処できず地面を転がり…そこでまた爆発。どれもアカネが仕掛けた物、彼女もまた何時も通り設置場所も爆破タイミングも完璧で…そして、過剰火力だった。

 

「あははは! それー!」

 

 なんて楽しげに声を上げながら器用に爆発を避けながらジャギィ達への銃撃をし続けるアスナ。と、不意にその場でジャンプしたかと思えば爆風をを背に受け一気に前へと加速し攻撃してこようとしていたジャギィにカウンター気味に蹴りが叩き込む。そして蹴られたジャギィは吹き飛ばされる連続する爆発の中に呑まれていった。

 

 自然公園に音が響く。それはジャギィ達の逃げ惑う悲鳴であり、今だ続く爆発音であり…凄い勢いで地面や岩が抉れ吹き飛び崩れていく音だ。

 

 その酷い音を聴きながらもカリンは淡々と狙い撃ち続け…同時に思う。

 

 アビドスはミレニアムに多くの利益をもたらしてくれた。そして同じくミレニアムもまたアビドスに多くの利益と、それ以上に多大な迷惑を振り撒いてしまっている。例を上げると砂漠の固有生物によく分からない薬品を投与しようとした生徒が居たり、岩山を爆破して崩し大騒ぎを引き起こした生徒が居たりと言った具合に。

 

 そんな事もあって申し訳なさと個人的アビドス自治区の事を気に入っていたカリンは今回のアビドス防衛任務へのやる気はかなりの物だった。

 

 だったのだが、だからこそ彼女は改めて思う。

 

「これ、寧ろ荒らしてる様な」

 

 という溢れた呟きは一際大きな爆発に依って引き起こされた岩の崩れる音に掻き消された。

 

 悲鳴を上げながら崩落に巻き込まれていくジャギィ達を見ながら、確信する。

 

「うん…やっぱり私たちの方が荒らしてるなこれ」

 

 せめてもの救いは間違いなくアビドス自治区防衛には必要な行為ではあると言うことだろう。

 

 

 

 一方、自然公園の一部がメイドによって割りと酷い状態になっている事をまだ知らないアビドス自治区はと言えば。

 

『ぐもぉおおおおおっ!』

「いや多すぎるってぇええええっ!!」

 

 押し寄せる大量の草食動物たちの狂乱に呑まれかけていた。




・プチ情報

 実は室笠アカネはアビドス出禁リスト入り最速記録保持者だったりする。
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