アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第95話

 曇天の砂漠、完全なる夜闇に呑まれたオアシス跡地。一寸先も見えず、普段であれば静寂に包まれているだろうそこは轟音と火花が満ちていた。

 

「ギュゥウォオァアアアアアアアアア!!」

 

 ディアブロスの咆哮が轟き大地を揺るがし、荒れ狂う。

 

 圧倒的体躯と膂力を持って振るわれる角と尾は尋常ではない破壊力を生み出し降り注ぐバリスタを薙ぎ払い弾き跳ばし、凶器と化す。無惨にもひしゃげたそれらは乱雑に、だが高速で跳ね回り地面に突き刺さっていたバリスタを巻き込みながら散弾の如く少女達へと迫り、一瞬で叩き落とされた。

 

 雑に吹き飛ばされたバリスタであった鉄屑に一瞥もせず最強の称号を持つ少女達の視線は唯真っ直ぐにディアブロスを捉え続ける。

 

 閃光が瞬き、直後に銃弾の雨がディアブロスに殺到する。『空崎ヒナ』が周囲への配慮の一切を廃し全力で放つ紫色の弾幕。普段の治安維持ではまず行わない殺傷を目的とした弾丸の壁。

 

「ルゥオォオオオオオオオオオッ!!」

 

 それを、ディアブロスは唯純粋なフィジカルを持って突き破る。

 

 銃弾に甲殻を傷付けられながらも猛進するディアブロス。その角が狙うは弾幕を張り続けるヒナ、ではない。彼女を置き去りに進み視線に捉えるは、必死に援護を続けている砂上船の一つ。

 

 瞬時に把握、勢いよく振り返り自分を無視したディアブロスの背に向かって追撃。同時に、ディアブロスの側面を取るように疾走する『剣先ツルギ』は、武器を手放していた。

 

 それは彼女がディアブロス特異個体との戦闘を経験していたが故の行動。現在の狩猟用武装を、より正確に言えばアビドス産狩猟用特殊弾が使えない今の自分では火力不足であると確信したからだ。勿論、気合いを入れれば先程の空崎ヒナの様にビームを撃てなくはないが、それでも足りないと彼女は考えた。

 

 さてどうしたものかと考えていた時に、狩猟経験で言えば自分よりも遥かに上の後輩が一言。

 

 

『委員長ならそこら辺にある岩でも何時かのドラム缶みたいにぶん投げれば有効打になりそうですよね』

 

 

 即、意見を採用した。幸いドラム缶代わりの弾は其処ら中にあると、彼女は流れるように突き刺さっているバリスタの矢を掴み引き抜き。

 

「きぃぇえあああああああああっ!」

 

 全力でぶん投げた。

 

 轟っと音を響かせ彼女の手から射出された矢は瞬く間にディアブロスに迫り、その横顔に直撃し甲殻を大きく傷付け、僅かに勢いを鈍らせた。手応えとしては十分と、彼女は追撃をと再びバリスタの矢を引き抜きながら、見る。

 

 ヒナやツルギの攻撃を受けながらも尚、砂上船を狙い突進を続けるディアブロスの眼前にスルリと純白が、『聖園ミ』…もとい『プリティプリンセス☆クルルン』が躍り出て。

 

 

「よぉい、しょぉおおおおおっ!」

「ルゥオアアア!?」

 

 

 下から上へ。ディアブロスの顔面をハンマーでかち上げた。

 

 ヒナやツルギの攻撃で勢いが鈍り、意識も砂上船に向いていたからこその会心の一撃。想像以上の衝撃に勢いそのままにディアブロスは体勢を崩し、普段の狩猟風景を知っている生徒以外の全員が…ちょっとひいた。

 

「今です! 拘束用バリスタ弾、てぇえええええ!」

 

 だが、引きながらもその隙を見逃さない。オアシス跡地全体に響く『不知火カヤ』の号令と共に、四方八方から放たれた特別製のバリスタが半数は強固な甲殻に弾かれながらも確かに翼や足に突き刺さりディアブロスを繋ぎ止める。

 

 これ以上は無い好機。少女達は各々得物を握り直し一気に前へ踏み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポタリッと、血が流れ落ちる。全身を痛みが苛む。ずっと、ずっと、ずっと、戦い続けた体が上手く動かない。ぐらぐらと揺れて定まらない視界に、向かってくる強者達の姿が映る。

 

 それを、ディアブロスは静かに理解した。自分はここで死ぬのだと。

 

 故に思うことはただ一つ。

 

 

 

【関係ない】

 

【唯、鏖すだけだ】

 

 

 

 瞬間、殺意がその場にいる全員を貫いた。

 

「っ!?」

 

 勘、或いは経験から来る反射的行動。ディアブロスに向かって踏み出そうとしていた体を強引に動かして後方へと無理矢理跳ぶ。そして、尤もディアブロスに近かった故に即座に間に合わないと察したクルルンは咄嗟にハンマーを盾にするように突き出した。

 

「ギュゥウォオァアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 直後に咆哮と共にディアブロスから、何かが爆ぜた。

 

 

 衝撃が跡地全体に駆け巡り砂を巻き上げる。その瞬間だけ、砂嵐の最中に居るかのように錯覚する程に。風圧を受けながらも大きく後退した空崎ヒナは翼で顔を庇いながら、視線を走らせる。何かが、勢いよく吹き飛び転がっていく姿を見つける。

 

「ミカ様!?」

「く、うぐぅ…だい、じょうぶっ!」

 

 ツルギの言葉になんとか受け身を取り立ち上がりながらそう返す。だがとても言葉の通りとは思えない。少なくとも何時もの名前を訂正する言葉が言えない程度には、余裕がない状態なのだろう。

 

 彼女は下がらせるべきだろうと冷静に判断しながらヒナは翼をはためかせ眼前の砂煙を振り払い愛銃を構える。幸い、深く刺さっていたバリスタは今もディアブロスを拘束している。もって十数秒だろうが猶予しては十分だろうと判断して…直後に見る。

 

 

 ディアブロスが翼を引き千切る事で深く突き刺さったバリスタを外し拘束から逃れる光景を。

 

 

「なっ!?」

 

 声が溢れる。想定外の行動に一瞬、行動が遅れる…それが致命的な隙となった。気が付けばディアブロスが眼前に迫る。今までとは比べようもない速度。回避は、不可。

 

 凶相を紅に染め上げたディアブロスの突進が空崎ヒナに直撃した。

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