アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第96話

 あの空崎ヒナが撥ね飛ばされる。

 

 誰かの悲鳴が響く。放り投げられた人形か、或いは全力で蹴られたボールの様に宙を舞い…そして、彼女が空崎ヒナであると信じられない程に力無く地面に落ち倒れる姿は悲鳴を上げるには十分な衝撃的光景だろう。

 

 だが、美甘ネルはそれを気にしている余裕はなかった。

 

「ルゥオォアアアアアアアッ!!」

 

 千切れかけた片翼を振り回し血を撒き散らしながら咆哮を轟かせ、ヒナを撥ね飛ばした勢いそのままに視界に映る砂上船に向かって突き進むディアブロスに、彼女は並走しながらありったけの弾丸を傷に向かって叩き込む。

 

 だが、止まらない。

 

 それは先ほどまでと変わらない全力の突進でしかなく。更に言えば自らの片翼を引き裂いたのだから相応に消耗している。だと言うのに、寧ろ加速している。

 

 不意に彼女の耳に届く風切り音。直後に小鳥遊ホシノによる砲撃が直撃し、続くように剣先ツルギによるバリスタの投擲が砲撃によって赤熱化した甲殻を貫き深々と突き刺さる。

 

 それでも、止まらない。

 

 それらの光景を目にしたネルは疾走しながら思考し、結論を出す。何らかの理由で、例えば今もディアブロスから吹き出している何かが原因で攻撃が効いていない訳ではなく、だが単純に我慢していると言う訳でもない…唯、無視しているだけだ。どれだけの苦痛だろうと、例えそれが原因で命を失う事となろうとも全て無視して唯一つの目的の為に動き続けるだろう。

 

 ではその目的とは? いや考えるまでもなく、ディアブロスが全身から漲らせこの場に居る全員を貫いている殺意と憎悪を感じればすぐ分かる。

 

 

 即ち、殺す…ただそれだけだ。

 

 

 彼女は視線を走らせディアブロスの殺意の矛先を今まさに突きつけられている砂上船を見る。船上ではディアブロスが真っ直ぐ自分達の船に向かって突進して来ている事を理解した少女達が皆大慌てで走り回り幾人も船上から飛び降りていく。

 

 だが、間に合わない。最強の称号を持つ少女達の攻撃を無視しディアブロスは突き進みその凶角が未だ多くの生徒を乗せた砂上船を貫いた。

 

 

 それと同時だった。

 

 

「着火ぁああああああっ!!」

 

 船上に取り残された少女の叫びに慌てて飛び降りたせいで顔面から地面に突っ込んでしまった一人のアビドスの生徒が砂まみれの髪を振り乱し手に持ったスイッチを押し込んだ。直後に、砂上船が内から爆ぜ、強烈な衝撃を撒き散らしながらディアブロスを呑み込んだ。

 

 砂上船にこれでもかと載せていた爆薬の類いの全てを一気に爆破し船そのものを爆弾としたのだ。その威力は凄まじく、着火役の生徒や待避することの出来なかった生徒が派手に吹き飛び、ある者は地面に転がり、または頭から地面に突き刺さり抜け出そうと足をバタつかせる者に、何故か髪型がアフロになっている者まで居る。

 

 が、それらに意識を向けるものは居ない。元より銃弾やちょっとした爆弾程度では痛い程度の感想しか出て来ないキヴォトスの住人、その中でも一等頑丈な生徒である少女達だ。それこそ常軌を逸した何かが無い限りは気にする必要がない故に、その常軌を逸した存在であるディアブロスから意識を外してまで気にする訳がない。

 

「ルォオァアアアアアアアアアッ!!」

 

 ディアブロスが咆哮を轟かせ爆炎を振り払い、砂上船であった瓦礫を吹き飛ばす。その甲殻は爆発に焼かれ焦げ、大きく傷を刻みながらもより強く殺意を漲らせ一歩踏み出す。

 

 そこに起き上がった生徒達が一斉に手にしたネットやワイヤーを全力で投擲しディアブロスを拘束する。

 

「ゴオァアアアアッ!!」

「おわぁあああああ!?」

 

 積もりだったが力及ばずディアブロスがただ身じろぎしただけでネットは裂けワイヤーを手にした生徒は振り回される。分かっていた事だ。自分達の行動が、投げたワイヤーが、放った銃弾がほんの一瞬の時間稼ぎにしかならないと全員が理解していた。だがそれで良い。

 

 

 それは、彼女達にとって十分な時間だ。

 

 

 一瞬、だが確かに動きを止めたディアブロスの背に美甘ネルは飛び乗り再び疾走する。その鋭い視線の先、一切のぶれなく向かうは…剣先ツルギの投擲によって突き刺さったバリスタだ。

 

「おぉっらぁああっ!!」

「オォアアアアアア!?」

 

 速度をそのままに威力に変えて、渾身のかかと落としをバリスタへと叩き込む。甲殻を砕き血を撒き散らしながら更に奥へと深く、深く奥へと押し込む、だが止まった。

 

 足から伝わる感触が硬い、運悪く骨にぶつかってしまいそこで止まってしまったと推測したネルは何度目かも分からない舌打ちを溢しながら背から飛び退く。置き土産の銃弾をこれでもかと叩き込む事も忘れずに。

 

「ルゥオォオオッ!」

「うぉ!?」

 

 だが、ネルを逃がさぬとディアブロスの追撃の尾が振るわれる。幸い彼女は空中で器用に身を翻し尾の一撃を見事に回避して見せた…だが、それによって生じた風圧が容赦なく彼女の全身を叩き体勢を崩す吹き飛ばす。

 

 それでも瞬時に体勢を整え着地する。だがネルの眼前にはなんとか食い止めようと投げられたワイヤーや銃弾の全てを無視して突進を繰り出さんとするディアブロスの姿。

 

 避けきれない、そう判断したネルは咄嗟に防御体勢を取り、ふと影が差す。

 

 視線が走る。そして見たのは爆弾として爆ぜた砂上船の一際大きな瓦礫の上を駆ける一人の少女、砂狼シロコが思い切り足に力を込めて跳ぶ瞬間。そして…。

 

「んっ!!」

「オォオオオオオオ!?」

 

 シロコが、今まさに駆け出さんとしたディアブロスの顔面に飛び乗った。

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