アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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第97話

「アァアアアァアアアアッ!!」

「くっ! ぐぅうううっ!!」

 

 ディアブロスが吠え、顔面にへばり付く不快な存在を振り落とさんと暴れ狂う。

 

 熱い。

 

 砂漠の暑さとは違う熱が砂狼シロコを焼き、手から感覚を奪っていく。それでも彼女の勘が、狩人としての経験が言っているのだ。今、手を放しては駄目だと。腕が引き千切れるかと思う程の激痛を歯を食い縛り耐えながら己の勘に、経験に従って掴んだのは良く手に馴染んだ武器では無かった。だが一瞬の迷いも無く、普段はドローンに納められているそれを。

 

「うあああああああっ!!」

 

 

 素材採取用のナイフを、全力でディアブロスの眼球に突き立てた。

 

 

「ルゥオァアアアアッ!」

 

 響く咆哮を間近で叩き付けられ、聴覚がイカれるのを自覚しながらもナイフを手放さず寧ろより力を込める。肉を貫く独特の感触が手に伝わり…直後に再びディアブロスから炸裂した何かが直撃し一瞬の激痛の後、シロコは意識を手放した。

 

 砂狼シロコが瞳に突き立てたナイフと共に吹き飛ばされる。一目見るだけで重傷だと分かる状態で地面に横たわる意識の無い彼女の元へ真っ先に向かうのは美甘ネルと…殺意を漲らせるディアブロス。

 

 シロコが狙われていると理解した少女達がなんとか止めようと投げたネットとワイヤーの悉くを引きちぎりディアブロスは真っ直ぐにシロコの元へと駆け…勢いそのままに気絶している彼女に向かって思い切り頭を、角を振り下ろす。

 

「やらせるかよっ!」

 

 だがその一撃はシロコを押し潰す事なく。声と共に美甘ネルが最短最速で意識の無い彼女をディアブロスの眼前からかっ拐っていき、頭突きは誰も居ない地面に叩き込まれ衝撃と共に砂をただ撒き散らす。

 

「ルゥオォオオッ!」

 

 しかしこのままでは終わらないとナイフに貫かれた瞳から血を撒き散らし、残された瞳は蠢き幾つもの生きているものを…己が殺すべき存在を捉える。そしてディアブロスは地面に突き立てられた角をそのままに地を抉りながら突進を開始する。

 

 ディアブロスが向かって来る。殺意の矛先を向けられた少女達は、だがそれでもなお手にした武器をディアブロスへと向け続ける。元より狙われた時点で逃げられぬと察していた、だからこその決死の抵抗を、止めはしない。

 

 だが少女達には覚悟はあっても力は足りず。このままただ蹂躙され踏み潰されることだろう。

 

「あぁああああああああああっ!!」

 

 故に、そうはさせてなるものかと剣先ツルギは絶叫と共に渾身の投擲を放つ。

 

 放たれたバリスタは音を越え衝撃波を撒き散らしながら突き進みディアブロスの胴体、拘束から逃れるために自らの翼を引き裂いた故に生まれた傷へと深く深く突き刺さる。

 

 衝撃が突き抜け、ディアブロスも僅かに揺らぎ…それでもなお一歩前へ踏み込み。止まらない、いいや分かっていた事だ。元より今更バリスタが突き刺さった程度でディアブロスが止まらない事位。だから、投げられたそれは唯のバリスタではない。

 

 ディアブロスが翼を引き裂いて取り外した故に消耗が最低限であった拘束用バリスタだ。

 

 だが、幾ら拘束用バリスタとそれに繋がるワイヤーが無事であったとしてもたったの砂上船一隻ではディアブロスを止める重しにはなり得ない。故に。

 

「ミカ様ぁっ!!」

「じゃなくてっ! クルルンねクルルンっ!!」

 

 ツルギの叫びにそう、何時もの調子で訂正を入れつつ聖園…もといクルルンはワイヤーを掴み取り。

 

「おぉおおりゃぁあああああっ!」

 

 全力でワイヤーを引く。ワイヤーからギシリッと軋む音が響き、だがその確かな強度により引きちぎられる事なくその役割を果たし、力が拮抗しディアブロスの巨体を止めた。

 

「ルゥオォオオァアアアアッ!!」

 

 けれど、それも一瞬の事。ブチリッと音を響かせながらディアブロスは再び進む。その音はワイヤーの千切れる音…ではない。

 

「っ!? こいつまた!」

 

 ディアブロスが己の甲殻を、肉を千切りバリスタを引き抜く。

 

「駄目よ」

 

 直前に、空崎ヒナが飛翔する。撃ち放たれた弾丸の如き速度を威力に変えて、へし折れ力なく揺れる腕をそのままに、全力でバリスタを殴り抜き押し戻す。その瞬間、確かにディアブロスを押し止めた。

 

 だからこそ生まれた刹那の静寂にトンッと小さく地面を蹴る音が響き、先程のシロコの様に一人の少女が…小鳥遊ホシノがディアブロスの顔面に飛び乗り…勢いよく銃口を傷付いた瞳に突き刺し、そして。

 

「これで…終われっ!」

 

 

 引き金を引いた。

 

 

 放たれた砲撃がディアブロスの顔面に、いいやその内側で炸裂する。爆炎が、爆風が荒れ狂いホシノさえも吹き飛ばす。体勢を整え着地し高温に焼け銃口が弾け飛んだ銃に思わず表情が歪むが、それでも視線を前に向ける。

 

 ディアブロスの頭部が、半分に欠けていた。

 

 今までの狂騒が嘘であったかの様に、静かにディアブロスの巨体が揺らぎ。

 

 

 

 一歩、前に踏み出した。

 

 

 

「はっ?」

 

 声が誰かから溢れた。何がと思うよりも前に殺意と共に視線が眼前のホシノを貫く。

 

「っ! まだ生きっ―――」

 

 

 

 

「ギュゥウウウオォオアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 

 三度目の、そして今までで最大の爆発が空を覆う雲さえも薙ぐ。轟く咆哮は何処までも遠く、遠く、果てまで届き震わせ。そして、静かに…血が滴り落ちた。

 

 再びの静寂。だが少女達に言葉は無く。一瞬何が起こっているのか理解するのに時間が掛かった。

 

 

 

 それ程までに、今までの狂乱が嘘であったのかと錯覚するほど静かに…ディアブロスは生き絶えていた。

 

 

 

 あぁ…けれど、生き絶えてなおその巨体は地に伏し頭を垂れる事を拒み。

 

 幾多の戦いを越え、幾つもの命を奪ってきたその狂角は数えきれぬ程の傷を刻みながら。

 

 

 天に浮かぶ月を穿ち続けていた。

 

 

 『ディアブロス特異個体』……死亡。

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