アビドス砂漠で狩りに生きる。   作:春山乃都

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変化
第99話


 キヴォトスの歴史に刻まれる事となるだろうディアブロスの襲撃と言う災い、或いは大自然からの試練を乗り越えたアビドス自治区は、ゆっくりとだが着実に復興を進めていた。

 

 壊れたものは直すのは容易ではなく、失ったものはもう戻らない。その悲劇は類を見ない出来事だった。故に、内外問わず多くの人がアビドスから離れるだろうと予測していて、それも仕方の無いことだと思っていた。けれど…実際にはアビドスから離れる人は想像以上に少なかった。

 

 あんな事があったのにどうしてと訪ねてしまった黒見セリカが、元より危険なのは承知の上で、それでもここが好きだからと…そう言って貰えて、思わず人前で泣いてしまったのは彼女にとって忘れられない少し恥ずかしくも暖かな思い出となることだろう。

 

「あぁもう…穴があったら入りたい」

「まぁまぁ、あれはしょうがないって。あたしもうるっと来ちゃったし」

 

 なんて会話をする少女達が居るのは大きな倉庫の中。普段であれば砂漠で採集された鉱物や植物、狩猟された生き物の素材等が保管されているそこには今、様々な学園や企業から送られてきた大量の支援物資が詰め込まれていた。

 

「よいしょっと…ふぅ、それにしても多いわね」

「だね。いやぁ、感謝しかないね」

「本当にね…まぁまさかカイザーからも支援が届くとは思ってなかったけど」

「それな、いやほんとになにを企んでるんだろね?」

「さぁ?」

 

 なんて会話をする二人の眼前には高く積み上げられた支援物資の山。だが、これでもまだほんの一部に過ぎない事を彼女達は知っている。さて次だと段ボールを倉庫に運び込んだ二人が外に出ると駐車場に停まるトラックが数台、と幾つものコンテナ。それらがキヴォトス三大校からの物資…の一部である。何というか他と比べて規模が違い過ぎて流石と言う他なかった。

 

「さてと次はっと、そう言えばそろそろ時間が」

「あぁ、そう言えば他に用事があるんだっけ?」

「本当にごめん! こんなに中途半端な所で」

「良いって良いって気にしなくて。牧場だっけ? 行くの」

「えぇ、人手が足りなくなるだろうからって理事長に頼まれたのよ」

「あそこが人手不足になるって珍しいね。何かあるの?」

「ディアブロスの時とか復興の手伝いをしてくれてる他校の生徒とかスケバンやヘルメット団の人達を招いてバーベキューをするらしいのよ。感謝の印として」

「成程、良いねー。本当に助けられてるからわたしも手伝いたい位」

 

 

「美食研究会も来るわよ?」

「…生きて帰ってきてね?」

 

 

 その時、友人が浮かべていた表情はディアブロス討伐に赴く生徒達を送り出した時とそう大差無かった事を後にセリカは語った。

 

 

 そんな感じで友人に見送られたセリカ。道中は何事もなくかいざー牧場にたどり着いた彼女は、今。

 

「はい、御待たせしました! 新しいお肉よ!」

「「「「あざーっす!!」」」」

 

 割りと普通に手伝いをしていた。

 

「あーうめー、まじ旨い」「だな!」「何というかこう…質が違うって言うか」「えぇ本当に。私からしても極上の逸品と言えますわ」「おぉ、美食研のお墨付きだ」「ねぇ、焼き鳥ある?」「え、焼き鳥?」「あるわよ、ほら」「あ、本当だ。て事はあたしの焼き鳥用の秘伝のタレの出番か」「いやなんでタレ持ち歩いてんのよあんた」「んーっ! このソース美味しー!」「え、どれだ」「これかな?…なんか凄い色してる」「あぁそれアビドス産の野菜を使った特製ソースだよ」「へー…でもなんでこんな色してんの?」「さっぱりとして美味しいのですよねそれ」「ねぇだからこの色は何!?」「これとこれと、あとこれも美味しそうですね★」「持ちすぎ持ちすぎ!?」「そんなにとって食いきれ…お、おぉ」「えぇ何これやばぁ」「でも食べ方綺麗…ちょっと憧れる」

 

 わいわいと、がやがやと賑わう光景を横目に一通り運び終えて一息つくセリカ。と、彼女に近づく人物が一人。

 

「問題は無いようだな」

「あ、理事長」

「元を付けて長を外せ。全く…ほれ、これでも食いながら休憩しろ」

 

 なんて言いながらカイザー元理事、現かいざー牧場主であるつなぎ姿の彼から肉巻きおにぎりとお茶を差し出されるセリカ。素直にお礼を言ってから一口、うん美味しい。やっぱりこの甘辛いタレが良いのよね、なんて思いながら食べ進めていると何気なく元理事はバーベキューを楽しむ生徒達…いや美食研究会を眺めながら呟く。

 

「しかし美食研の連中には困ったものだ。急に複数生徒を招いてバーベキューがしたい等と言い出しよって。どういう積もりだ?」

「んぐっ、んっ…はぁ。理由かは分からないけど『バーベキューを沢山の人で騒ぎながら楽しみ食べるのもまた一つの美食の形ですわ』とか言ってたわね」

「成…程、まぁ分からなくは無いな」

 

 まぁ少人数でのそれとは別の良さがあるのは確かにだなと頷く元理事。そして、そもそもこれ美食研究会が切っ掛けだったのね、なんて思いながら何気なく元理事を見ていると、ふと牧場に来る前に友達と話していた事を思い出す。

 

「あ、そうだ理事長。ちょっと聞きたい事があるのだけれど」

「だから…はぁ、まぁ良い。それで何が聞きたい?」

「なんかカイザーコーポレーションから支援が届いてたんだけどあいつら何企んでるのかなって」

「む?…あぁいやそう言う事か。安心しろ、懸念しているような裏はない」

「そうなの?」

「あぁ、恐らくカイザーが認識を改めてアビドスの崩壊はそのままキヴォトスの崩壊に繋がる、と結論付けた。だから支援して潰れないように、と言うだけの事だ」

「それは…え、なんで?」

「例のディアブロスが、かの三大校の中でも最強と名高い生徒達が揃って尚苦戦する様な個体が出現し得ると言う前例が出来たのだ。カイザーにとって…いやそれだけには止まらんな。あらゆる企業、学園。あえて言うならばキヴォトスにとってアビドスと言う地の意味や価値が変わったと言うことだ」

 

 

 

「良くも悪くも…な」

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