走り屋はキヴォトスを最速で生きる 作:速さが足りないッ!
――キヴォトスの走り屋。刹那ソウは、キヴォトスでも、類まれな能力と神秘を持っている。それは、彼の出せる時速が200kmと言う新幹線レベルな所からも察せるだろう。それすらもソウの
彼の神秘は、言わば
彼の神秘には彼自身を最速に走らせると言う能力を持たされていた……そうらしい。幼い頃に、謎の黒い服の男に言われた記憶がソウにはある。
そんなソウの出せる最大時速は……不明。
というよりも、測定不可能と言ったほうが正しい、限界そのものはあるのだろうが……その限界を出した時は、即ち刹那ソウと言う人間の死を表している。
昔にそんな事があった…………それは、現在、高校二年生のソウが義足になった理由の一端でもある。
幼い頃に、ソウはとある砂漠地帯へ向かった事がある。アビドス砂漠と言われる所で、昔はさぞ栄えた学園だったらしいが、ソウが向かった頃には既にすっかりすたびれた街となっていた。
ソウは、子供心にその砂漠がどこまで続くのか気になった……ソウは思い切ってその砂漠を走ってみることにした。
砂漠を走るというのは、思ったよりも辛かったが、思ったよりもはるか風を感じれて楽しかった。
砂を体に受けたりもしたが、それすらもまた速さを感じる一端に過ぎなかった。この頃から、速さに拘るソウの片鱗はでていたのかも知れない。
しかし、楽しかった時間もとある出来事で絶望の時間へと変わる……ふとした時に、ソウはなにか叫び声の様な物を聞いた。
まるで怪物の雄叫びのような声だったが……その声の主は、ソウは疑問に思い声の方を振り返ると同時にその姿を現した。
巨大な機械仕掛けの蛇と鯨の合わせ子の様な存在……口からビームを撒き散らし、周りの焼けた砂漠を熱線でさらに焼いていく。
まだ幼かったソウにとって、その姿は途方もなく巨大で未知の……まさに化け物と呼んで差し支えない存在だっただろう。
ソウは逃げた。自身の足を用いて、ただ只管に逃げた……後ろでは機械仕掛けの蛇が、熱線を撒き散らして、ソウの側も掠めたが、考える余裕はなく、ソウはただただ走っていた。
……人間は、普段は力に無意識的にブレーキを掛けていると言われている。キヴォトスの人間でもそれは例外ではない。
その時のソウは、まさに命の危機だった……だからこそ、ソウの脳は、無意識的に体に、神秘にかかったブレーキを外したのだろう。
……その最速の神秘に、幼いソウの体が耐えられるかどうかなんて事は、考えもせず。
ソウが必死に走れば、物の数秒でアビドス砂漠の奥地からアビドスの町中に入る事が出来た。
しかし……町に入ったその瞬間、……脚からグシャリと嫌な音が聞こえた。次の瞬間、足に力が入らなくなる、次の瞬間体から地面へと倒れる。次の瞬間、脚が熱く痛む。
何が起こったのかわからないまま、ソウは転び唖然とし、痛みに焼かれ、意識を手放す。
再び意識を取り戻したときには、そこは知らない天井……下半身、脚に関しての感覚がなくなり、あるのはあの焼けるような痛み――幻肢痛だけ。
間抜けな話だ。
急いで逃げようとするあまり、スピードによって体のほうが耐えきれずに脚が引き千切れるとは
暫くの間、ソウはかなりメンタルをやられた。砂漠もかなりのトラウマになった――このトラウマがキッカケで一人の少女を救う遠因になったのはまた別の話だ。――
……これで多少メンタルをやられたで済むのは、この頃からソウが常軌を逸していたのを表している。
しかも、へこんだ一番の理由は、「もう走れないこと」についての後悔だった。もっと色々あるだろうに……やはりまともな人間じゃない様だ。
……数年後、そんなソウに手を差し伸べたのが、後にマイスターと呼ばれる物作りの天才と呼ばれる称号を手にするウタハと言う少女だ。
彼女は、何処からかソウの噂を聞きつけたのか「絶対に壊れない義足」を設計開発しソウに手渡した。渡した理由は使用感が聞きたいからと言うこれまた何とも言えない理由。
まぁ、それは表向きで、キヴォトスでめったに起こらない人体欠損を哀れんでと言う面もあるのかも知れない。
そんな絶対に壊れないと、後のマイスターからお墨付きをもらった義足。
ソウは3日で壊した。
ソウの使い方が悪かった訳では無い……ただソウが速すぎた。それだけだ。
それで、ウタハのモノ作りの人としての意地が目覚めたのか、兎に角沢山の義足を作り上げるソウに渡し、ソウはそれらを次々とその圧倒的な速度で壊してきた。
現在のソウの義足――名をフォトン・エンダー――は、既に39代目の義足だ。
その執念にソウも遠慮する事もあったが「ソウに負けない絶対的不破の義足を作る」と目標立てられる始末。それがきっかけで、ウタハと言う少女と縁が出来たのだから存外悪いものでもないだろう。
***
ミレニアムサイエンススクール、エンジニア部にて。ソウはその部室の戸を叩く……すると出迎えてくれるのは、先に話したウタハだ。相棒の雷ちゃんも一緒だ。
「おぉ!ウタハ、久々!」
「っ!ソウか、一ヶ月ぶりか?その様子だと……義足の方は……」
「あぁ、問題無しだ!」
ソウがそう言ってサムズアップすると、ウタハは満足げに頷く。
「よしっ。これで10ヶ月23日目、23代目の11ヶ月13日目の記録を破れるぞ!」
「ただ、一ヶ月間メンテなし生活だったから少しガタがきてな……治してくれるか?」
「お安い御用だ、さぁ入ってくれ。」
そう言ってソウをエンジニア部へ招き入れる……ソウは工房で椅子に座って、ウタハに義足を脱がしてもらう。
「しかし、1ヶ月何をしていたんだ?」
「キヴォトス一周。」
「半年前にもしたろう?」
「半年も前だ。キヴォトスを走り回るのは気持ちがいいぞ!」
「そりゃそうかも知れないがね……」
ウタハは呆れ気味にそう呟く……ソウとしては、自分のために39個も義足を作った目の前のウタハという少女も大概だと思うのだが……あまり彼女にたいそれた口は聞けないので黙っておく。一体どれだけお世話になっているというのだろうか。
「しかし、そうか。フォトン・エンダーは2度のキヴォトス一周に耐えたか。」
「大抵の義足は一度やるとお釈迦になるからな。」
「ふむ、我ながらかなりの傑作を作ってしまったかも知れない……今回のメンテも使い捨てパーツを新しくすればすぐにでも使えるようになるぞ。」
「ぶっちゃけ俺お前の義足ないと生きていける気しないわ。」
「おや?それは告白かい?」
ウタハはいたずらっ子のような顔をソウへ向ける。ソウは無い足をバタバタさせながらジト目で呟く。
「好きに受け取れよ。」
「おぉ、堂々としてるね。よっ、色男。」
「やめろや。」
こんなからかい合いもいつもの事だ……ソウは普段から早口で捲し立てるように言葉を話すが、この時間だけは違った。
こんななんてことない友達の会話……こんな会話こそ、ソウは時間をかけているから話していたいと思えるのだ。