【完結】聖魔法少女マルタの一日   作:ほいれんで・くー

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幕間三/第四章「俺は聖書の言葉を聞かせるだけで倒せるぞ!」

幕間三

 

 クリニックへ行く日はいつも曇っている。その日もどんよりと曇っていた。医師は言った。「お変わりないですか?」 私はにこやかに答えた。「ええ、仕事も順調でよく眠れてもいます」 医師は私の顔を見ないでPCに情報を打ち込んでいる。「それではまた六週間分薬をお出ししておきますね」「ありがとうございます」

 

 私は不安でたまらないのだが、それを医師に打ち明けるわけにはいかなかった。今、作品を書いているのですが、不安でたまらないんです。理由は分からないのですが、なぜか不安なんです。どうすれば良いでしょうか? そんなことを訊いて何になる?

 

 私の不安は膨らみつつある。そう、あの黒い風船の不安のように。第三章で、私はマルタの敵を勢揃いさせた。ラスボスである大魔王ヴァヴェルも部分的にではあるが出現させることができた。なにより、マルタの味方であるメイドも出すことができた。

 

 マルタたちは能力を発揮しながら敵を倒していく。それはあたかも、普通の超能力バトル小説のように。そして最後には大魔王ヴァヴェルと戦って勝利する……予定調和的に。 

 

 だが、それは私が本当に作品で書きたかったことなのだろうか? すべて順調に書き進められているように見えて、いつまで経っても不安が消えない理由……私はそれが分かったような気がした。

 

 私が書きたかったのはただのバトル小説ではない。私が書こうとしていたのは、これまで誰も書こうとしてこなかったような小説だ。それは、作者である私自身が作品の一部としてメタ・フィクション的な語りを展開していくという小説だったはずだ。

 

 それなのに、作品内の私はすでに、黒猫のコテクとして独立した存在になりつつある。黒猫のコテクは間違いなく私自身であるが、同時に独自のキャラクターとして私とは異なった思考・行動・心情を示すようになってきている……バトル小説の一部分として。

 

 それはつまり、作品コンセプトが崩壊してきているということではないか? 作中内の私はすでに私ではなくなりつつある……つまり、語りが無意味なものとなりつつある。

 

 心の中の不安が増大するのを私は感じた。いったいどうすれば良い? どうすれば方針転換ができるのか? このままだと、この作品は無惨な失敗作になるだろう。

 

 まあ、良い。私は開き直った。しばらくはマルタたちに戦ってもらおう。戦っているうちに、きっと見えてくるものがある。そのように信じよう。

 

 それでも、私の心から不安は消えなかった。

 


第四章「俺は聖書の言葉を聞かせるだけで倒せるぞ!」

 

 それはさながら百鬼夜行のようだった。

 

 先頭を行く怪物は紫色の巨大な毛玉のようなアンドロギュノス、その後ろをのろのろとした足取りで進むのは亀のような竜のような怪物タラスク、ちゃっかりとタラスクの甲羅の上に乗って楽をしているのは真っ赤な爪の死せる王女シチシガで、数メートル離れた後方をとぼとぼとした足取りで来るのは双子の怪物ゲミニだった。妖女ラタヴィツァの姿はゲミニからさらに後方数メートルのところに見えた。彼女は歩きスマホをしていた。電柱が目の前に迫っているのに気が付かなくて、ラタヴィツァは思いきり頭部を堅いコンクリートの柱に打ち付けてしまった。その衝突の結果、折れたのは電柱の方だった。腐ってもラタヴィツァは怪物だった。

 

 マルタとメイドはさらに離れたところを歩いていた。ちょうど久我山駅前の商店街を抜けるあたりで、老舗の畳店の看板が視界に入った。マルタは後ろへ振り返った。久我山駅北口の前は巡航ミサイルでも着弾したかのように滅茶苦茶になっていた。もしあそこで戦闘を繰り広げていたら被害はもっと大きくなっていたかもしれない。マルタはそう考えてぞっとした。

 

 それと同時に、マルタはもっとぞっとするような事実に気が付いてしまった。マルタはメイドに言った。

 

「大変だわ……私、大変なことになってるの……」

 

 メイドが答えた。

 

「どうしたんだ? もしかしてトイレに行きたいのか? そういえば、紅茶には利尿作用があるからな。あそこで気を利かせたつもりで御給仕をしたのは失敗だったか……?」

 

「いえ、そうじゃないのよ」とマルタは言った。マルタは胸の上で輝いている十字架を指先で細かく撫でながら、さらに言葉を続けた。

 

「私、最初は主人公なんてやりたくないって言ってたし、それに魔法少女なんてやりたくないって思ってたの。でも、いつの間にか、私はだんだん自分が魔法少女になったことを受け入れている……たぶん、この先、あの前を歩いている怪物たちと戦うことになっても、私はきっと魔法少女としての自分に疑問を抱かないだろうっていうか……」

 

 私はカバンの中からマルタにツッコミをいれた。

 

「ただの魔法少女ではありません。あなたは聖魔法少女マルタです。ここは特に重要なところなのでお気をつけください」

 

 マルタはカバンを振り回した。そして言い残した言葉を続けた。

 

「私はきっと主人公の聖魔法少女として、あの怪物たちを倒すために全力を尽くすと思うわ。なんか、そういうことになってしまったのよ。いつの間にか」

 

 メイドが慰めるような口調で言った。

 

「それは仕方がないことだと思う。物事というものは一度変わってしまえば、後は変わり続けていくしかない。それに、変わるというのは悪いことばかりでもないように思うぞ。私も、元々はあまり気が利くタイプではなかったし、図体が大きいだけでいつも鈍臭い動きばかりして家族からは呆れられていたが、今こうしてメイドになったことで機転は利くようになったし、動きも俊敏になった。マルタもきっと、これから、魔法少女として生まれ変わったことの恩恵を知ることになるんじゃないかな」

 

 ああ、私は普通の小説を書いている。なぜなら私は疲れているからである。

 

 ところで、私のこの「疲れている」という直接的な書き方について、何らかの意見をお持ちの方もいるかもしれない。「わざわざそんなことを書かなくともよろしい」とか、「作者というものは書いている時に感じている感情とか、つらさとか、そういうものは読者に隠すべきだ、それが作者としての倫理というものだ」とか、そういう意見をお持ちの方がいるかもしれない。つまり、彼らの意見を総括するとこうなる。「言い訳をするな」

 

 しかし、私からすると、そういう倫理こそぶち壊す対象なのである。なぜ作者が書いている時の自分の感情について述べてはならないのか? なぜ作者は作中において、作者自身の言葉として、作者の考えを直接的に述べてはならないのか? なぜ、ありとあらゆる形式から解放されることを目的としてスタートしたはずの小説において、かくも無数の「べからず」が存在するのか? なぜ作者は「言い訳をしてはならない」のか?

 

 私は、創作をする上では常に「素直」でありたい。素直な気持ちに基づいて、「率直な」文章を書きたいと思っている。そして私は作者であり、また作中内存在としてこの物語の世界内にいるのであるから、この物語において「素直に」「率直に」自分の感情や意見を語っても良いのである。

 

 というより、私は「素直に」「率直に」書きたいから、自分をあえて作品内に放り込んだのだ。そうであるからして、私がこれまでに述べてきた数々の愚痴、不満、泣き言は物語的な意味と性格をまとっているはずであり、それは単なる言い訳とはまったく性質が異なるはずである。たぶん。だが、不安だ。正しい手順を踏んで思考できているか不安である。第三章でマルタに論破されたからなおさら不安である。

 

 マルタのちょうど十メートル後方に、あの黒い風船が浮かんでいた。風船は声を発した。

 

「不安だ」

 

 風船はちょっとだけ大きくなった。その大きさは子どもが縁日で見かけたらテンションが爆上がりするくらいの大きさだった。描かれた顔は焦慮に満ちていた。

 

 住宅街は静かだった。タラスクの巨躯が立てる地響きと足音がさながら戦車のような騒音を立てているだけで、それを除けば静かだった。怪物たちのスマホは頻繁に通知音を発していた。それを確認するたびに怪物たちは泣き声と呻き声を上げるのだった。アンドロギュノスが叫んだ。「ああ、大魔王ヴァヴェル様に叱られる!」 タラスクも、タラスクの上のシチシガも泣いた。シチシガの嘆きは深かった。「私、そろそろ遅刻の回数がヤバいことになってるのよ。このままだと留年かも……はぁ」

 

 通知が来るたびに、メイドはマルタにそのスマホの画面を見せた。

 

「『まだ来ないの!? 先生たち怒ってるよ!』」「『このままだと私の監督責任になるじゃない! さっさと来なさい!』」「もしかして、どうせ遅刻だからって開き直ってちんたら歩いてんじゃないでしょうね!』」「『ダッシュで来なさい!』」「『ダッシュ!』」

 

 メイドはマルタに言った。

 

「相当怒っているな」

 

 マルタは頷いた。頷きながらも、彼女は疑問の色を浮かべつつ答えた。

 

「いったい、大魔王ヴァヴェルってどんな奴なのかしら……というより、私はその名前だけなら知っているのよ。ヴァヴェルといえば、私の祖国では有名だし……」

 

 メイドはマルタに尋ねた。

 

「どんな奴なんだ? 求人サイトには『アットホームな職場です』としか書いていなかったから、私は奴について詳しい情報を知らないんだ」

 

 マルタは答えた。

 

「ヴァヴェルは邪竜なの。ある日、邪竜ヴァヴェルはポーランドのクラクフの町に突然現れて人々を支配し、毎日三頭の牛を献上するように要求した。過大な負担にたまりかねた人々は王に討伐を頼んだ。そこで王は二人の王子を派遣するの。でも邪竜ヴァヴェルは強力で、とてもではないけどただの剣と弓矢では倒せそうにない。そこで王子たちは一計を案じて、罠にかけてヴァヴェルを倒すことにしたのよ。それは……」

 

 私は叫んだ。「あー!」 私はさらに叫んだ。「あー!!」 もう一回、私はさらにさらに大きな声で叫んだ。「あー!!!」

 

 いかにもうるさそうな顔をしたメイドが手を耳に当てつつ、冷ややかな口調で、マルタのカバンから頭を出している私に向かって言った。

 

「うるさいぞ、猫。いや、猫というものは本質的にけっこううるさいものだが、それにしても度を超している。せっかくマルタが倒し方について話そうとしていたのに……」

 

 マルタもメイドとそっくりの仕草、そっくりの声音で言った。

 

「ちょっと、コテク! 静かにしなさい! 大声を出したら近所の方々に迷惑でしょ! この間も『登校中の生徒たちの雑談の声がうるさい』って苦情が来てたし!」

 

 だが私はここで挫けるわけにはいかない。私はマルタに言った。

 

「申し訳ございません。ですが、マルタさんにはそれ以上邪竜ヴァヴェルについて話してもらいたくないのです。というのは、大魔王ヴァヴェルはこの作品のラスボスになる予定だからです。そのラスボスの弱点というか倒し方を、今ここで詳しく話してしまうのはいかにももったいない。もったいないというか、これから私が書くことがなくなってしまう。だから、どうかやめてください」

 

 メイドが手をあごに軽く添えて、なにか考える素振りを見せながら言った。

 

「たしか、この猫は自分のことを作者だとかなんとか言っていたな。まあ、それが本当かどうかはさておき、既に序盤からしてラスボスの弱点なり倒し方なりが分かっているというのは、それはそれで面白い作品になるのではないか? 大抵の作品は話が進行していくにつれて、敵を倒したり、仲間の犠牲を払ったりしながら、徐々にラスボスの弱点を明らかにしていくという構図をとるが……」

 

 自分で作り出し、自分で書いた存在でありながら、私はこのメイドのことを気に入りつつあった。このメイドならば動かしやすい。いや、この言い方はとんでもない間違いだ。正確には、「このメイドは自分からよく動いてくれる」 ついでだから、このメイドに喋ってもらうことで、私はここで今後の作品の見通しのようなものを立ててしまおう。作中内存在にプロットについて語らせることはメタ・フィクションにもなるし。

 

 なるのか? ちょっと不安だ。

 

 黒い風船のような「不安」がまたちょっとだけ膨らんだ。

 

「不安だ」

 

 私はマルタとメイドに言った。

 

「ちょうど良い機会なので、マルタさんとメイドにもっとさっきのことについて、つまりプロットについて話を続けてもらいたいのですが。私としても、今後の展開についてまだまだ疑問点が残っているので」

 

 メイドが露骨に嫌そうな顔をした。

 

「なんというか、頼りない作者だな、自分の作品について疑問点があるというのは。作者というものは、自分の作品についてすべて知悉しているものではないのか?」

 

 マルタが私の代わりに答えた。

 

「このコテクは、プロットを書かないタイプの作者らしいのよ。だから今後の展開について常に不安を抱いているんですって」

 

 メイドはさらに嫌そうな顔をしてマルタに答えた。

 

「プロットを書かないタイプの作者は、紛れもない天才か、あるいは有能な怠け者か、もしくはただの怠け者だと小説執筆の指南書に書いてあるのを読んだことがある。この猫はどちらなのかな。私としては、ただの怠け者のような気がしてならないが。猫っていうのは、つねにゴロゴロしているしな」 

 

 そこまで喋った時、メイドはマルタの先に水溜りがあるのを見つけた。メイドはマルタを軽々と抱え上げると、マルタの靴が濡れないように水溜りの上を運んで渡り、そしてまたその先に下ろした。「はい、どうぞ」

 

 ここで私はメイドの細かな仕草を入れることで、彼女がどれだけ有能なメイドであるか、また有能ではあるがどこかピントがズレていることを示そうとしたわけである。

 

 運ばれたマルタはちょっと顔を赤らめていた。

 

「そこまでしてくれなくて良いのに……」

 

 メイドはマルタの言葉に答えず、先ほどの話の続きを口にした。

 

「さて、プロットの話に戻るか。今ここで大魔王ヴァヴェルの弱点や倒し方がすべて分かっているということにすると、それはそれで意外性のある筋になると私は思うぞ。例えば、初戦でいきなり大魔王と戦うとする。マルタは予め持っていた知識に基づいて戦う。しかし、大魔王にはそれが通じなくて一旦撤退を余儀なくされる。どうやら大魔王は強化されているようだ。だから配下たちとの戦いを通じて弱点を探る……」

 

 そこまで言っておいて、メイドは激しく首を左右に振った。

 

「いや、これでは既存の物語のストーリーラインの変種に過ぎない。ならば……」

 

 私がメイドの言葉を引き継いだ。

 

「ならば、逆に大魔王を初戦でそのまま倒してしまう。それでおしまいかと思ったら、大魔王の後継者たちが現れて激しい跡目争いを開始する。大魔王によってそれなりに秩序が保たれていたのに、聖魔法少女によってあっさりと倒されてしまったことで、世界が混迷を極めていく。戦争が起こり、被害が拡大し、マルタはそんな状態をもたらしてしまった原因が自分であることに心を痛めつつ、後継者たちとの戦いに身を投じていく……」

 

 メイドは切れ長の美しい目で私をじっと見つめて言った。

 

「作者に対して……仮にこの猫が本当に作者であるならば、という話ではあるが、その作者に対してダメ出しするのは気が引けるのだが、言っておくぞ。ここは東京都杉並区宮前四丁目だ。とてもそんな重厚なファンタジーを展開する舞台としては相応しくない。そんな気がしてならないのだが」

 

 確かに、メイドの言うとおりだった。こんなひなびた住宅街を舞台にして重厚なファンタジーを書くことはとてもできない。気を取り直して、私はさらに言った。

 

「では、最初に大魔王ヴァヴェルを倒す。すると、聖魔法少女マルタの聖浄な力によって浄化された大魔王は小さな女の子になってしまう。女の子の小魔王はマルタの家に居候するようになる。マルタは小魔王が善良な存在になるために共同生活を送って教育を施していく。そんな感じで始まるドタバタ日常劇……」

 

 マルタが言った。

 

「でも、いまさらそんなふうに作品を方向転換できるの? ジャンルがだいぶ違ってくるし、それに女の子の小魔王が出てくるのが遅すぎじゃない? それはいわば第二の主人公になるんでしょう? 今、私たちは第何章めにいるんだっけ?」

 

 私は答えた。

 

「今は第四章ですね。ようやく第四章に入りました」

 

 マルタが言った。

 

「全部で何章の構成にするつもりなの?」

 

 私はまた答えた。

 

「先ほども申し上げたとおり、私にはプロットがありません。ですから、正確には『あと何章で物語は終わり!』と言うことはできないのですが、大まかな考えではこの第四章と次の第五章で、今私たちの目の前をとぼとぼと歩いている怪物たちと戦っていただき、第六章で大魔王ヴァヴェルとの最終決戦という形になると思います」

 

 マルタが呆れたような口調で言った。

 

「そういう構成なら、もう小魔王とのドタバタ日常劇ものに方針転換するのは不可能ね。もはや手遅れよ」

 

 メイドも頷いた。

 

「ここはオーソドックスに、マルタが学校で怪物たちと戦っていくという展開が良いんじゃないか? ページ数が限られているのだろう? 私としては、今私たちがこうして生きているこの世界が、変な黒猫の『ページ数が尽きたから』などというふざけた理由で突然終わるとはとても思えないが、物語にはしっかりとした結末があった方が良い。アリストテレスも確か『詩学』で……」

 

 またアリストテレスの『詩学』かよ! 私は「にゃあ」と鳴いてメイドの言葉を中断させた。私が今ここで殊更に猫っぽい行動をとったのは、そろそろ私も作中内存在としてマルタを本格的にサポートしなければならないからである。このままだと私が最初に猫の姿を取ったことが「死に設定」になってしまうからだ。

 

 念を押すように、私はまた鳴き声を発した。

 

「にゃあ」

 

 しかし、私の猫の鳴き声に対して、マルタの反応はあまり芳しいものではなかった。「なんで今になって猫っぽいことをしてるのよ。なんか気持ち悪いんだけど……」

 

 私は諭すように彼女に言った。

 

「マルタさん、あなたは聖魔法少女でしょう? で、魔法少女ものといったら、なぞの小動物というか、なぞの不思議生物がマスコットキャラとしてくっついている。これはお約束なので外せません。それで、そのマスコットキャラたちは、戦い方のアドバイスとか、敵の分析とか、激励とか、あるいは世界観の説明とかをするわけですよ」

 

 マルタの返答を待つことなく、私はさらに言った。

 

「そういうわけなので、私は聖魔法少女マルタの使い魔の黒猫であるコテクとして、これからはさらに役割を発揮していこうと思います。私は作者ですが、作中内存在でもありますので」

 

 突然、声が響いた。

 

「不安だ」

 

 それは後方から聞こえてきた。

 

 マルタとメイドは後ろへと振り向いた。そこには、あの黒い風船の「不安」が浮かんでいた。風船はかなり大きくなっていて、幼稚園児ならばきっとギャン泣きするレベルになっていた。私も、ちょっとだけその迫力に気圧された。風船はまた「不安だ」と言った。

 

 マルタが首を傾げた。

 

「あの『不安』って、あなたが不安を覚えれば覚えるほど大きくなるって話だったわよね? でも、ここまで道を歩いている間に、あなたはメイドと大魔王を倒す流れについて話をしたり、プロットというか、今後の流れについて話をしたりしたじゃない。それで大部分の疑問点は解消されたんじゃないの? それなのに、まだあなたは不安なの?」

 

 私はマルタへ答えた。

 

「実は、疑問点はまだ解消されていないのです。というよりも、まだ最大の疑問点というか、問題点が残っていまして……それがある限り、私の不安は消えないのです」

 

 メイドが言った。

 

「それは何だ?」

 

 マルタが言った。

 

「そろそろ学校に到着するわ。さっさと話しなさいよ」

 

 私は答えた。

 

「端的に言うと、主人公マルタが戦う理由ですよ。なぜ主人公マルタが大魔王ヴァヴェルと戦うのか、それが決まっていない」

 

 マルタは私の言葉に対して首を傾げた。

 

「えっ? そんなこと? でも、私は主人公なんでしょう? 主人公なら、ラスボスである大魔王ヴァヴェルと戦うのは当然なことなんじゃないの?」

 

 私はマルタに言った。

 

「それはそうなのですが、よく考えて欲しいのです。読者の立場になって考えてみてください。『魔法少女だから大魔王と戦う』というのは、はたして魅力的なストーリーかどうかということを」

 

 マルタはよく飲み込めていない顔をしていたが、メイドは得心がいったように頷いた。

 

「なるほど、分かったぞ。言われてみればそのとおりだ」

 

 マルタがメイドに言った。

 

「メイドは分かったの? ちょっと説明してくれない?」

 

 メイドが答えた。

 

「たとえば野球漫画で、『野球部員だから試合で勝つことを目指す』というストーリーだったとして、それが魅力的になるかどうかと言えば微妙なところだ。警察ものだとしたら『刑事だから犯人を逮捕する』というストーリーだけで読者や視聴者を得られるのかという話でもある。『魔法少女だから大魔王と戦う』というのは、それは魔法少女ものというジャンルの一般的な性質とでもいうべきものであって、ストーリーの面白さをいったものではない。いうなれば、当然なことを当然にやるだけの話では面白いストーリーにならないということだ」

 

 マルタはようやく納得したようだった。

 

「分かったわ。そう言われてみるとそうね。つまり、当たり前のことを当たり前にやってもストーリーにはならない。ストーリーには、何か『捻り』のようなものが必要ということでしょ?」

 

 こう書いていて私は、いくらマルタであっても「捻り」という難しい日本語を言えるかどうか疑問に思った。設定上、マルタは「日本語能力試験」で最高の「N1」を取得している。だから、たぶん「捻り」という言葉も知っているとは思うが……話が逸れた。私はマルタとメイドに言った。

 

「概ね、あなた方のおっしゃるとおりです。聖魔法少女マルタが大魔王ヴァヴェルと戦うというストーリーには、何かもうひとつかふたつの捻りが必要です。たとえば、ヴァヴェルがマルタさんの祖国ポーランドを滅ぼそうとしているとか……」

 

 私がそう言うとメイドが静かに首を左右に振った。

 

「大魔王なんだからポーランドだけではなく全世界を滅ぼして支配しようとするだろう。それは捻りでもなんでもない」

 

 私はめげずにまた言った。

 

「他には……世間からは不俱戴天の仇同士と思われている大魔王ヴァヴェルとマルタさんが実は友達同士で、大切な友達の暴走を止めるためにマルタさんが戦うとか」

 

 マルタは首を傾げた。

 

「それはそれでありかもしれないけど、でもおかしくなってしまった友達枠ならここにメイドがいるじゃない。そんなことをしたら二番煎じというか、焼き直しみたいにならない? それに私、大魔王ヴァヴェルについてまったく知らないし」

 

 こう書いていて私は、いくらマルタであっても「二番煎じ」とか「焼き直し」という難しい日本語を言えるかどうか疑問に(中略)。私はさらにめげずにまた言った。

 

「それなら、マルタさんの妹を出しましょう」

 

 マルタは「はぁ?」と怒ったような口調で言った。

 

「なんでマリアが出てくるのよ? あの子は無関係でしょ」

 

 マリアとはマルタの妹である。現在中学校二年生で(ポーランドの中学校は日本と同じく三年制である)、ポズナンの実家に暮らしている。マルタは比較的年齢の近いこの妹を溺愛している。彼女のホームシックが重いのは、妹と離れて暮らさなければならないというのが大きく影響している。そういう設定である。今考えた。

 

 なにか嫌な予感を覚えたのか、マルタはだんだん表情を強張らせ始めた。のみならず、肩を震わせ始めた。怒っているのである。マルタは激情を内包した冷たい声で私に言った。

 

「言っておくけど、マリアに何かしたらただじゃおかないから」

 

 だが、私は叫んだ。

 

「素晴らしい! そういうあなたが愛してやまない妹だからこそ、あなたが大魔王ヴァヴェルと戦う理由になるじゃないですか!」

 

 メイドが呆れたような声で言った。

 

「猫よ、何か良からぬことを考えているようだが、やめておいた方が良いと思うぞ。マルタは優しい子だが、怒らせると物凄く怖いんだ。たとえばここで『大魔王ヴァヴェルのせいで妹マリアが不治の病に罹ってしまったので、妹を救うために大魔王を倒す』とか、『妹マリアが大魔王ヴァヴェルに攫われてしまったので、救い出すために戦う』とか、『妹マリアが大魔王ヴァヴェルの呪いによって怪物になってしまったので、それを元に戻すために大魔王と戦う』とか、そういう話にしようとしているのならば、悪いことは言わない、絶対にやめた方が良い」

 

 そこまで話したメイドを、マルタはものすごい顔で見た。メイドは「しまった」というような顔をして、「すまない、マルタ」と小さな声で言った。

 

 一方、メイドの言葉を聞いた私は狂喜して「にゃあーお!」と叫んだ。まさに、持つべきものは良いプロットではなく良いキャラである。まさか自分の生み出したキャラクターが最良のプロットを持ってきてくれるとは。私はマルタに言った。

 

「よし、決めました。こうしましょう。『マルタが日本に来たのは、祖国ポーランドで妹マリアを襲って異形化(ドラゴン娘化)させた邪竜にして大魔王ヴァヴェルの手がかりを探るためだった。留学生生活を送りつつも実りのない探索を続けていたマルタはある日、登校時に謎の黒猫のコテクと出会う。黒猫はマルタに聖魔法少女としての力を授け、大魔王ヴァヴェルが彼女の通う高校にいることを告げる。マルタは妹を元に戻すために戦うのであった』 いいですね、これでかなり魔法少女ものっぽいストーリーになりましたよ!」

 

 よし、そのような話にしよう。そして、今、この物語はそのようになった。

 

 私が話し終えた、その瞬間だった。

 

 マルタの修道服のポケットの中にあるスマホが通知音を発した。マルタはスマホを取り出して、画面を見、そしてその美しい表情を凍り付かせた。通知はFacebook Messengerのものだった。マルタはポーランド語で書かれたその内容を読み上げた。

 

「『ねえねえ、マルタ! 見て見て! なんか突然手とか足にカッコいいウロコが生えてきたの! ドラゴンみたいでカッコいいでしょ! お姉ちゃんがポーランドに帰って来る頃には、私、本当にドラゴンになっちゃったりして!』」

 

 メイドはマルタのスマホを覗き込んだ。そのメッセージには画像が添付されていた。本物のウロコの生えた左手がそこに映っていた。無論、それが右手ではないのは、右手でスマホを持って撮影をしているからである。メイドが言った。

 

「なんということだ。本当にドラゴン化しているな」

 

 マルタは猛然とキレた。

 

「うちのマリアに何してくれてるのよ!」

 

 アメリカ製の遠心分離機もかくやと言わんばかりの勢いで、マルタは私の入ったカバンを振り回した。ぎゃあ! 目が回る! しかし、これで私の不安は解消されたはずだ。これで、ようやく何の心配もなくマルタと大魔王たちとの戦いが書ける!

 

 少し離れたところに浮いていた黒い風船が、一回り小さくなった。風船は言った。

 

「不安だ」

 

 しかしその声は小さかった。

 

 あまりのキレ気味を目の当たりにしたメイドは半歩分だけ横にずれて距離を取りつつ、溜息をついてから言った。

 

「だから言ったじゃないか。そんなことはするなと。しかし、どうする? このままだとマルタの妹は本当にドラゴン化してしまうかもしれない」

 

 マルタはカバンを振り回すのを止めた。そして、荒い息をしながら私に言った。

 

「直ちにさっきの話を書き直しなさい。直ちに。そうすればすべて解決するでしょう? 作者なら可能なはずだわ。さっさとしなさい」

 

 あまりにも強烈に振り回されたせいで私は嘔吐をする寸前だったが、なんとか堪えて、ちょっとだけ息を整えてからマルタに言った。

 

「残念ながら、それはできません。私は作者ですが、作者とは『一度書いたものを書き直すことはできない』存在だからです。『できない』ことがあるからして、作者は万能の存在ではありません。私はもう、マルタさんの妹マリアさんがそうなってしまったと書いてしまいました。それを解決するには、方法はひとつしかありません」

 

 マルタは燃えるような冷たい目で睨みつつ、一言だけ言った。

 

「それは?」

 

 私はマルタに答えた。

 

「あなたが主人公として大魔王ヴァヴェルを倒すことです。そうすれば物語は一件落着、あなたの妹さんは無事に人間へと戻ることができるでしょう」

 

 マルタは溜息をついた。

 

「はぁ……やるしかないのね」

 

 メイドがマルタを慰めるように肩を優しく撫でながら言った。

 

「大丈夫だ、私がついている。戦闘では役に立たないかもしれないが、その他のことではけっこう手助けができるだろう。掃除とか、洗濯とか、食事の支度とか、メンタルケアとか……その黒猫の世話はできないかもしれないが」

 

 マルタはようやく笑顔を見せた。

 

「ありがとう、メイド。あなたがいれば心強いわ」

 

 メイドははにかんだような顔をした。

 

「ストレートにそう言われるとなんだか照れるな。それじゃあ、改めてよろしく頼む……」

 

「あのー、すみませんが……」

 

 突然、声が響いた。マルタとメイドは虚を突かれたような顔をして、声のした方向へと顔を向けた。

 

 そこは学校の正門だった。

 

 正門の横には「東京都立西方浄土高等学校」という高校名が黒い銘板に刻まれていた。その正門の前に、アンドロギュノスら怪物たちが行儀良く一列に並んでいた。彼らはなんとなくもじもじとしていて、一様にどこかバツの悪そうな顔をしていた。マルタたちの会話を中断させてしまったことに罪悪感を覚えているようだった。

 

 アンドロギュノスが声を発した。

 

「あのー、すみませんが……」

 

 彼は、いや彼女は……どっちだ? アンドロギュノスは両性具有であるから、彼でもあり彼女でもある。ああ、ややこしい。どんな代名詞を使えば良いのか? こんなことならアンドロギュノスなど出すのではなかった。とりあえず彼で良いだろう。

 

 私がこのように書くと、アンドロギュノスは途端に顔を曇らせた。

 

「俺、今どこかで、今この世界のどこかで、『お前なんて生まれてこなければ良かった』という旨のことを言われたような気がする」

 

 アンドロギュノスはもはや泣きそうだった。周りの怪物たちが彼の体を優しくポンポンと叩きながら慰めた。ラタヴィツァが言った。

 

「あなたはここにいるわ。そして、ここにいて良いのよ」

 

 うざったいほど湿っぽい雰囲気だった。

 

 メイドはそういう雰囲気があまり好きではないようだった。彼女は胸を張り、背筋を伸ばして、腕を組んで怪物たちに向かって言った。

 

「それで、何の用だ? いよいよ戦いでもしたいのか?」

 

 マルタもメイドに呼応するように言った。

 

「こっちはいつでも良いわ。妹があんなことになってしまった以上、私はあなたたちを倒して大魔王ヴァヴェルの元へ行かないといけない。さあ、最初の私の相手は誰? それとも、久我山駅前でそうだったように、全員がいっぺんに私と戦うの?」

 

 突然そのようなことを言われるとは思っていなかったのか、怪物たちは戸惑いを隠しきれない様子だった。彼らは敵意を浴びせるのには慣れているが、敵意を浴びせられるのには慣れていなかったからである。

 

 アンドロギュノスとタラスクはどこか俯いており、シチシガは我関せずとスマホを弄っていた。ゲミニたちもスマホを弄っている。宇宙人のUFOは馬のハンスに何やら怪光線を浴びせていた。どうやらスキャニングをしているようだった。

 

 そういうわけで、怪物たちの中でマルタとメイドに対して返答をしたのはラタヴィツァだった。ラタヴィツァは言った。

 

「いいえ、まだ戦いはしないわ。その前に、あなたたちにやってもらいたいことがあるのよ、ちょっとした頼み事よ」

 

 油断せず、戦意を緩めずにマルタは答えて言った。

 

「何かしら? できることとできないことがあるけど」

 

 ラタヴィツァは髪の毛をいじりながら言った。

 

「大したことじゃないわ。ちょうどここに全員が集まっているから、記念写真を何枚か撮って欲しいのよ。たぶん、この後私たちはあなたと戦うでしょう? そうなると戦死者が必ず出る。今のうちに『かつてこの世界に私たちが確かにいた』という証拠が欲しいのよ。だから写真を撮って欲しいなって」

 

 メイドが頷いた。

 

「なんだ、そんなことか」

 

 そう言うと、メイドはスマホを取り出して怪物たちの前へと歩いていった。

 

 マルタは呆気にとられたように言った。

 

「なんていうか、けっこう重いことを言うのね……私としては、あなたたちを殺すつもりなんて毛頭ないんだけど……」

 

 私も「にゃあ」と鳴いてマルタに賛同の意を示した。

 

「最近の風潮として主人公の殺害行為は読者にとって最大のストレス要因になるらしいですから。私としてもそのようなストーリーにはしないつもりです。うっかり殺してしまうということはあるかもしれませんが、まあ、それなりに全力を尽くしますよ」

 

 私とマルタがそのように話している間にも、撮影は続いていた。メイドは軽く声をかけ、怪物たちに立ち位置を指示していた。怪物たちは何歩か小刻みに動き、位置を調整して、全員がなんとかメイドのスマホカメラの画面内に収まるようにした。それを確認すると、メイドは写真を何枚か撮った。メイドはすぐにその画像を大魔王ヴァヴェルのグループLINEに送った。

 

 すぐに大魔王ヴァヴェルからの返信があった。メイドがそれをマルタに見せた。メイドが読み上げた。

 

「『あら、学校前に着いたのね』」「『素敵な写真』」「『みんなカッコいいわ!』」「『それじゃあ、初戦はアンドロギュノスね。マルタをやっつけなさい!』」「『他の子は教室に行くこと』」「『先生たちには大魔王ヴァヴェル様のせいで遅刻しましたって言って良いからね。それで話が通じるわ。じゃあ、みんな授業頑張ってね』」

 

 メイドが感心したように言った。

 

「思ったよりも部下に対するサポートが充実しているな。もしかすると、あの『アットホームな職場です』というのは釣り文句ではなかったのかもしれない」

 

 マルタがちょっとだけ懸念の色を浮かべてメイドに言った。

 

「なら、今からでもこっちから向こうへ鞍替えする?」

 

 こう書いていて私は、いくらマルタであっても「鞍替えする」という難しい日本語を(中略)。マルタの言葉に対して、メイドは笑って首を左右に軽く振るだけだった。

 

 またもや突然、声が響いた。

 

「はい、そういうわけででしてね」

 

 声はさらに続いた。

 

「俺が第一戦目の先鋒ってわけですね」

 

 それはアンドロギュノスだった。アンドロギュノスは周りにいる仲間たちを一人一人見つめた。そして言った。

 

「じゃあ、ちょっと行ってくる。たぶんすぐ死ぬ。あとは頼んだぞ」

 

 怪物たちは憐憫と同情の視線を送りつつ、一人一人校門の中へと入っていった。

 

 校内へ消えていく仲間たちを見送ったあと、アンドロギュノスは途端に口調を変え、獰猛な雰囲気を纏って言った。

 

「さあ、やろうか、聖魔法少女マルタよ! お前の生き胆を引き抜いて、大魔王ヴァヴェル様の夕餉として献上してやる! いざ、勝負!」

 

 メイドが呆れたように言った。

 

「生き胆っていう単語はどうも魔法少女ものに相応しくない言葉だが……しかし、奴の戦意は本物だ。油断しない方が良い。本当に臓器を抜かれるかもしれない。肝臓とか」

 

 マルタは胸にある黄金の十字架をぎゅっと握った。それは彼女が恐れを感じている時、不安を感じる時にいつもする仕草だった。

 

 私はマルタに言った。

 

「にゃあ。マルタ、落ち着いて戦うんだにゃあ。君なら絶対に勝てるにゃあ。聖魔法少女がその初戦から負けるなんて展開的にあり得ないんだにゃあ。それにこの第四章もそろそろ字数がなくなってきたから、複雑な展開はこれ以上盛り込めないんだにゃあ」

 

 メイドが「うざっ!」と言った。「なんだその『にゃあ』というわざとらしい語尾は」

 

 私はメイドに答えた。

 

「いよいよマルタが聖魔法少女として戦うんだから、こちらとしても使い魔の黒猫コテクとしてキャラクター性を発揮しなければならなくなったんだにゃあ。安心して欲しいにゃあ。台詞以外の文ではちゃんとした日本語を喋るにゃあ。いちおうこちらとしても読みやすさというものは重視しているにゃあ」

 

 強烈な殺気を放つ紫色の巨大毛玉人間と対峙しつつ、マルタが私に向かって言った。「それで、私はどうやって戦ったら良いのかしら?」

 

 私はマルタに言った。

 

「聖書を使って戦うんだにゃあ。聖書を適当に開いて、適当に目についた章句を唱えれば、それがマルタの魔法になるんだにゃあ」

 

 マルタは途端に渋い顔をした。

 

「なんか……なんていうか、いかにも日本人的な発想ね。聖書が魔法になる、なんて。別に聖書ってそういうものじゃないのよ。確かに聖書を読むことによって魔法みたいに不思議な力が湧くってことはあるけど、でも聖書自体が魔法なわけじゃない。なんか、聖書とオカルトを同列に語られるのはあまり気分が良くないっていうか……」

 

 メイドが言った。

 

「しかし日本ではお経を唱えることによって幽霊が退散するというスキーマ(図式)がある。それはお経にオカルト的な力があるからではない。そうではなくて、お経に含まれているありがたい教えを聞くことによってありとあらゆる執着が虚しいものだと知り、この世への未練が断ち切られるから幽霊が消えるんだ。聖書もそういうものじゃないかな。聖書に書かれているありがたい神の教えによって、怪物たちが抱えている恨みや憎しみ、憤懣、怒りが消える。そういう意味での魔法じゃないのか? なあ、猫よ」

 

 いや、そこまで私は考えていたわけではない。単純にマルタが聖魔法少女だから聖書が武器になれば面白いだろうと思っただけである。しかしメイドがなんだか良い感じで説明をしてくれたので、それをそのまま採用することにした。私は「にゃあ、そうだにゃあ」と答えた。メイドは一瞬だけ、「こいつ、本当にそう考えていたのか?」というような疑わしそうな表情をした。しかし、マルタの方は納得したように頷いた。

 

 だが、アンドロギュノスが大きな声でこちらに水を差してきた。

 

「残念だが、そういう意味で俺に聖書の文句を唱えるのならばそれは無駄だぞ! 俺は典型的な日本人だからな。聖書という書物についてはその『聖なる書』という名前以外何も知らん! だから仮にそこの聖魔法少女が本当に何らかの意味でありがたい教えが含まれている聖書の文句を唱えたところで、俺は聖書を知らないからまったく効果はない! 聖書が何らかの意味で聖なるものであることはその名前の形から知っていてもな!」

 

 そこまで言ってからアンドロギュノスは急にその球状の体を傾けた。どうやら首を傾げていることを示すポーズのようだった。怪物は言った。

 

「しかしそう考えると、そこのメイドが言っているお経と幽霊のスキーマというのも怪しくなってくるな。なぜなら当然こういう疑問が出てくるからだ。つまり、昔の幽霊はみんなお経の内容を知っているほど教養があったのかという疑問だ。今の日本人よりもはるかにお経に触れる機会は多かっただろうが、はたして昔の日本人、昔の幽霊はみんなお経がどんなことを説いているのか知っていたのか? 今の俺が般若心経とは具体的にどういうことを説いているお経であるか言えないように、昔の人間も般若心経を一言で説明することはできなかったという可能性は高い。いや、そう考える方が自然ではないか?」

 

 アンドロギュノスはさらに考えを進めながら言った。

 

「そうなってくると、それではなぜ幽霊はお経を聞いて退散したのか、というそもそもの疑問へと話が戻ってくる。なぜ幽霊はお経を聞いて退散したのか? それはやはりお経に聖なる力があったからか? そうかもしれないが、俺としてはこう考えざるを得ない。つまり、幽霊たちはその意味は分からなくとも、なんとなくお経の響きがありがたくて聖なるものだと信じていたから、お経を聞かされると退散したのだ! 中学生や高校生が意味は分からなくとも洋楽を聞いて喜ぶのと構図は同じだ。そう考えてみると、お経は確かに音楽的なダイナミズムがある。その場にいる人間のバイブスを上げるという意味では、お経も音楽も同じだ。案外、幽霊たちはお経というありがたい音楽を聞いてテンションがあがり、そのまま昇天してしまったのかもしれない」

 

 アンドロギュノスは小刻みにその球状の巨体を動かした。どうやら一人で頷いているようだった。

 

「なるほど、そう考えると、今の俺が何かしら聖書の文句を聞いたら、けっこう効果があるのかもしれない。俺は典型的な日本人だが、典型的な日本人であるからこそ『聖書というのはなんとなく聖なるものである』と思い込んでいる。宗教に対して限りなく無関心であり、そうでありながら公的な場においてはむしろ嫌悪感を示すことがいっぱしの人間として当然な態度であると信じており、その実、心の奥底では宗教の持つ神秘性に憧れている、そういう典型的な日本人が俺だ。その具体的な内容を知らずとも、聖書というものはなんとなく難しくてありがたいものだと思っている。心の半面ではなんとなくうさんくさいとは思っていてもな」

 

 長いこと大声に出して思考を続けてきたアンドロギュノスだったが、ようやくここで結論に至ったようだった。彼は言った。

 

「だから、そこの聖魔法少女マルタが何かしら聖書の文句を唱えたら、やはりそれは俺に効果があるだろう! 良かったな、聖魔法少女! お前は俺を倒すことができるぞ!」

 

 アンドロギュノスは締めくくるように言った。

 

「さあ、かかってこい! 俺は聖書の言葉を聞かせるだけで倒せるぞ!」

 

 その言葉を聞いたマルタは軽くアンドロギュノスに向かって頷くと、カバンの中から革製のケースに包まれたポーランド語の聖書を取り出した。マルタは適当にパラパラと聖書を捲ると、目についた箇所をポーランド語で読み上げた。

 

「『なんぢ悪しき人を羨むことなかれ、またこれとともにおらんことを願ふなかれ。そはその心に暴虐をはかりその口唇に人を害ふことをいへばなり』」

 

 マルタの美しい澄んだ声で朗々と紡がれる聖書の言葉は、さながら目に見えないエネルギーの奔流だった。

 

 メイドがその後に続けて言った。

 

「『箴言』第二十四章第一節から第二節かな。しかし、なんで私が出典を正確に言えるのかな? 私だってろくに聖書を知らないのだが」

 

 それはもちろん作者である私がそのような役目をメイドに負わせたからである。

 

 マルタの朗誦を聞いたアンドロギュノスは目に見えて苦しみ始めた。

 

「ぐ、ぐおおおっ! く、苦しい! 苦しいけど、なんか気持ちいい! なんかエクスタシーめいたものを感じる! これは俺が日本人だからか、それとも怪物だからか!? どちらのせいかは分からないが、とにかく苦しい!」

 

 しかしアンドロギュノスはまた言った。

 

「しかし、俺を倒すにはあともうちょっと朗誦が必要だぞ! もう少し何かを唱えろ! そうしないと俺は倒れんぞ!」

 

 そこでマルタはさらに続きを唱え始めた。

 

「『家は知恵によりて建てられ、明哲によりて堅くせられ、また室は知識によりて様々の貴く美しき宝にて充たされん。知恵ある者は強し、知識ある人は力をます』」

 

 メイドがその後に続けて言った。

 

「『箴言』第二十四章第三節から第五節かな。ところで猫よ、この世界がお前の言うとおりお前の書く作品であるとして、なぜ聖書を文語訳にしたのだ? 口語訳の方が読みやすいし理解しやすいと思うのだが」

 

 私は答えた。

 

「それは私の趣味ですにゃあ。あと、最近は聖書の口語日本語訳に関してなんか色々面倒なことが起こっているんですにゃあ。著作権の関係とかで。だからここは無難な文語訳を選ぶしかないんですにぁ」

 

 メイドは頷いた。

 

「著作権か。それなら仕方ないな」

 

 そんな会話をしている間にも、さらなるエネルギーがアンドロギュノスを貫いていた。怪物はよろめき、たたらを踏み、舗装を踏み砕いた。苦しむ怪物の姿は激浪に翻弄される小舟のようだった。

 

 そして、ついに、『箴言』をたっぷりと聞いたアンドロギュノスは「ギャ――!!」と叫んで爆発した。

 

 紫色の剛毛がそこらじゅうに飛び散り、尖った毛先がコンクリート製の壁や鉄製の校門に鋭く突き刺さった。都立西方浄土高校の正門付近はまるで乾燥してボロボロになったパンのようになった。

 

 しかしマルタとメイドは無事だった。マルタの修道服は高速徹甲弾のように飛んでくる紫色の毛をすべて弾き返した。なぜなら彼女は重戦車タイプの聖魔法少女だったからである。そしてメイドはメイドであるから無事だった。彼女の大きくて柔らかい胸は毛をすべて弾き返した。

 

 マルタはものすごく微妙な顔をして言った。

 

「効果があるとは思っていたけど、こんなふうに爆発するとは思っていなかったというか……ていうか、爆発するのが早いのよ。私はこの後の節を言いたかったんだから。『汝よき謀りごとをもて戦闘をなせ、勝利は謀る者の多きによる』 バトルものの漫画とかアニメでも最終的には知恵比べになるでしょ」

 

 メイドが言った。

 

「『箴言』第二十四章第六節。なあ、私はこの後も出典を言わないといけないのか?」

 

「にゃあ、そうですにゃあ」と私は答えた。「出典を明示するのは重要ですからにゃあ」

 

 爆発して毛がすべて抜けてしまったアンドロギュノスは見るも無惨な様相を呈していた。それはピンクのミートボールそっくりだった。ところどころに血と膿の滲んだ吹き出物ができていた。なぜなら彼は高校生だからである。四本の腕と四本の足はぐったりとしていて、二種類の性器には相変わらずモザイクがかかっていた。ふたつある顔のうち、一つは背面にあってよく見えなかったが、もう一つの顔は正面にあってよく見ることができた。目を回しているようだった。「ごぼっ」という音を立てて、その口から紫色の吐瀉物が飛び出した。

 

 アンドロギュノスは息も絶え絶えに言った。

 

「『目が回る、目が回る、目が回る』」

 

 メイドが呆れたように言った。

 

「カート・ヴォネガットか」

 

 これは『猫のゆりかご』に出てくるボコノン教徒の言葉である。気になる人はぜひ読んでみると良い。掛け値なしの名作だから。

 

 ともあれ、私はマルタに言った。

 

「マルタ、おめでとうだにゃ! 君の勝利だにゃ!」

 

 マルタはアンドロギュノスから目を背けながら言った。

 

「全然嬉しくない」

 

 アンドロギュノスはさらに紫色の吐瀉物を吐き出した。それがマルタの靴先の地面に落ちた。ちょっとだけマルタの靴が汚れた。マルタは泣きそうな声で言った。

 

「おうちに帰りたい」

 

 マルタは重度のホームシックだった。マルタはまた言った。

 

「ポズナンのおうちに帰って、自分のベッドで横になって休みたい」

 

 メイドがマルタの肩に手を置いて、優しく撫でながら慰めるように言った。

 

「大変な戦いだったが、よくやったな」

 

 そしてメイドは綺麗な布を取り出してマルタの靴をピカピカに磨き上げた。

 

 こうして書いていて思ったが、アンドロギュノスとの戦いはもっとアニメ的というか、漫画的というか、もっとエンタメ的に書いても良かったのではないか? マルタが魔法をバーッと出して、アンドロギュノスがガーッと動いて、激しい戦いを繰り広げる。その方が面白かったのではないか? しかしすべては手遅れである。

 

 最初の強敵を倒したマルタは、その場を去って学校の中へ入ろうとした。しかしメイドがマルタを引き留めて言った。

 

「待て、マルタ。ここは倒したアンドロギュノスから大魔王ヴァヴェルについて情報を引き出した方が良い」

 

 マルタは頷いた。

 

「そうね、そうしましょう」

 

 マルタはまだ目を回したままでいるアンドロギュノスに声をかけた。

 

「ねえ、あなた。大魔王ヴァヴェルはどこにいるの? ていうか大魔王ヴァヴェルは何者なの? どういう力を持っていて、何を目的としているの?」

 

 アンドロギュノスは掠れた声で答えた。

 

「質問は一度にひとつ。それがこの世のルール。それを守れない大人が多すぎる。ともあれ最初の質問には答えよう。大魔王ヴァヴェルは二年A組にいる。行ってみると良い」

 

 マルタは「ありがとう」と言ってその場から去ろうとした。その前に、ふとマルタは立ち止まり、アンドロギュノスに向かって言った。

 

「はやく保健室に行った方が良いわ。それで、今日はもう早退しなさい」

 

 メイドもまたマルタに続いた。

 

「そうだな、その方が良い。私がお前の代わりに大魔王ヴァヴェル様にLINEをしておいてやろう」

 

 メイドはスマホを起動してLINEを書き始めた。見事な高速フリック入力だった。

 

「えーっと、『残念ながらアンドロギュノスはマルタに破れました。割と重傷なので保健室に行かせます。今日は早退するようです。取り急ぎ、ご報告として』 こんなもんで良いだろう」

 

 すぐに返信が来た。メイドが読み上げた。

 

「『よく頑張ったわね、アンドロギュノス。傷を癒したら反省会をしましょう。今日はよく休みなさい。メイド、悪いけど私の言葉をアンドロギュノスに伝えておいて』……ということだそうだ、アンドロギュノス。分かったか?」

 

 アンドロギュノスは頷こうとしたが、変なふうに体を動かしてしまったため、彼の体に妙な弾みがつき、あっという間もなく彼はどんどん道の上を転がり続けていってしまった。

 

 アンドロギュノスに今後出番はあるのだろうか? 私は考えた。彼が終盤になって出てくるというのはあり得る話だ。それも、マルタの味方として出てくるのは。それは大変美味しい展開であろう。だから私は、ここでこういうような対アンドロギュノス戦の締めくくりにしておく。

 

 運動会の大玉転がしもかくやといわんばかりの勢いで向こうへ転がっていってしまったアンドロギュノスを見送りながら、マルタが心配そうな声で言った。

 

「大丈夫かしら……?」

 

 メイドが言った。

 

「大丈夫だろう、腐っても怪物の一体だ。さあ、学校へ行こう」

 

 そこに、黒い風船が浮かんでいた。

 

 風船はさきほどよりもさらに大きくなっていた。球形のアンドロギュノスを三回りほど小さくした大きさだったが、それでも尋常ではない大きさの風船となっていた。

 

「不安だ」

 

 その声と共に、風船はまた一回り大きくなった。その白い歯が妙にいやらしく目に映った。マルタもメイドも風船を目にして嫌そうな顔をした。マルタが私に言った。

 

「おかしいわね、ようやく私とアンドロギュノスとの初戦というひとつの山場を書き終えたんだから、作者であるあなたとしては安心感を覚えるところじゃない?」

 

 私も不思議だった。

 

「不思議ですにゃあ」

 

 確かに今は最初の戦闘シーンを書き上げて、気分も良く、不安感らしいものも何もないはずなのに。

 

 しかし私は言った。

 

「まあ、無視しましょうにゃあ。どうせあいつは無害ですからにゃあ」

 

 マルタは言った。

 

「それもそうね」

 

 メイドも言った。

 

「無視をしよう、無視無視」

 

 マルタとメイドはそういって、正門内へと足を踏み入れた。そこには登校指導の先生が立っていた。先生は年配の優しい漢文の先生で、二人に柔和な顔をして話しかけてきた。

 

「すごい戦いだったね。二人とも怪我はないかな? ポーランドからの留学生のマルタさんに、それから君は……えーっと……誰だっけ?」

 

 メイドが答えた。

 

「私はメイドであり、メイド以外に名はありません。今朝のある時点までは手造好という名前でしたが」

 

 先生はにこやかな顔をしてうんうんと頷くと言った。

 

「二人はマルタさんに、手造さんだね。今日の遅刻はやむを得ないものであったということで私から先生方に説明しておくよ。さあ、二人とも早く教室へ行きなさい。二人は二年D組だったね」

 

 マルタとメイドは軽く礼をして先生に言った。

 

「ありがとうございます」

 

 そう言ってから素早く彼女たちはその場を去った。

 

 その瞬間だった。第一限目が終わるチャイムが学校の敷地内に響き渡った。マルタはうんざりしたような顔をして言った。

 

「ああ、そういえば一限目は数学だったわ。小テストの再試験を受けないと……」

 

 嘆くマルタに対して、メイドが冷静な声で言った。

 

「いや、マルタ。今日はいつもとは考え方を変えた方が良い。この分だと、マルタは今日一日、ずっと大魔王ヴァヴェルの手下たちと戦うことになりそうだ。授業を満足に受けるなどとても不可能だろう」

 

 マルタは「はぁ」と溜息をついた。そして「まあ、それもそうね。私も覚悟を決めるわ」と言った。

 

「それに、私の妹の未来がかかっているんだもの。ここで逃げ出すわけにも負けるわけにもいかないわね」

 

 メイドは「そうだ、その意気だ、マルタ」といつものクールな表情で言った。そして、どこかから紅茶のセットを取り出し、マルタの前にテーブルと椅子を据え、彼女を座らせて、カップに紅茶を注いで差し出した。メイドは言った。

 

「ここで一息入れた方が良い。初戦で心身共に消耗しただろうから」

 

 マルタは「ありがとう、メイド」と言って椅子に座った。聖魔法少女はとても上品な仕草と雰囲気だった。湯気の立つ紅茶がなみなみとカップに注がれた。それだけではなく、メイドはどこかからまたケーキや焼き菓子、サンドイッチの類、あるいはコールドビーフにコールドチキンまで持ってきた。各種の瓶詰めのジャムに、ハチミツ、フルーツのゼリー寄せまであった。

 

 メイドは言った。

 

「どうせこの一日が普通の学校生活にならないなら、こうして今、大いに楽しめば良い。『何か困難な状況、大変な状況になった時は、なるべく窮屈に、なるべく苦労をしてそれを耐え忍ばなければならない』という考えは、やはり間違っていると私は思う。大変な時、苦労をしている時、とても乗り越えられそうにない苦難に直面している時こそ、人間は人生を楽しまなければならない。おいしいものを食べたりしてな。私はそう思うのだが、家族からは『お前は能天気すぎる』と言われるんだ。謎だ」

 

「あのー……」という声が響いた。

 

 ぎょっとして、椅子に座ったマルタが椅子ごと飛び上がった。私も驚いてカバンの中で飛び上がり、ファスナーの金具に首の毛が挟まって「ぎにゃあっ!」という変な声を上げた。動揺していなかったのはメイドだけだった。

 

「あのー……」という声がまた響いた。それは、ちょうどマルタの真正面のテーブルの下にいるようだった。マルタとメイドはそこへ近づいた。そして、そこに何者かが横になっているのを見た。

 

 そこにいたのは、古代の王国の死せる王女、シチシガだった。指から生えた赤い爪が青空に食い込むように上へと伸びていた。

 

 マルタは途端に戦闘態勢をとった。

 

「あなたはシチシガだったかしら? いったい何の用かしら? 私と戦いたいの?」

 

 しかし、シチシガは欠片も戦意のない声で言った。

 

「あのー……すみません。なにか食べるものを……朝から何も食べてないので……」

 

 メイドが溜息をついた。

 

「第二の敵はシチシガか。それにしても、また変な戦いになりそうだぞ」

 

 おお、なんだか良い感じで次章へと話を続けられそうだ。次章には他にもまだ沢山色々なキャラが登場する予定ですので乞うご期待。

 

 だが、ここでルールをひとつ追加しておく。「そろそろ物語の終わりを意識しつつ書くべし」 だってこの物語は、この第四章でもう半分以上が終わってしまったのだから……

 

(つづく)




 次章もどうぞお楽しみに!

・2025/07/25/金
※幕間三を追加しました。
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