コールブランド召喚 作:比叡たん♡
午前十時ごろ。
ここ最近の異様な平穏のため少なくなっている書類仕事を片付けた垣根は、扶桑と共に工廠へ足を進めていた。
「どんな子なんでしょうね」
「身元が分かり次第所属国に引き渡すから共に過ごす期間は短いだろうが、いい子であってほしいな」
「にしても、どこの船なのでしょうか」
「三連装砲塔が三基だったのだろ?だったら巡洋艦ではないんじゃないか?」
「戦艦だと?そう言われると、真っ先に思いつくのは大和さんですが、天霧が言うには顔立ちが全然違うそうで」
「んー、扶桑、まだ〝出てない〟戦艦は大和型とIowa級の末妹以外に覚えているか?」
「確か、米国のAlaska級の二番艦が出てませんね。お名前は確かGuam。主砲塔はちょうど三連装三基ではなかったかしら」
「てことは、送り先は
そのようなことを話しているうちに、二人は工廠の中に入り、件の艦娘が運ばれた第四ドックのドアの前まで来ていた。
「さ〜て、どちらかな」
そう言いながら垣根は扉を開け———
「あ、提督!今艤装調査の途中ですのでご用は後ほど———」
———明石が見知らぬ艦娘の服に手をかけているのをみて速やかに扉を閉めた。
垣根は困った様子で扶桑を見た。扶桑は垣根の脇を抜けて扉を開け、明石へ向けて一喝した。
「明石さん!何をしているのですか!」
「げぇっ、扶桑!」
「誰が関羽ですか、この恥知らずッ!」
明石は見知らぬ艦娘の服から手を離し、身振りを交えて弁解を始めた。
「は、恥知らずって、扶桑さん、これにはちゃんとした理由があってですね……」
「ちゃんとした理由?あなたがそんなことを気にするような人だと今初めて知りました」
「うぐっ」
「で、そのちゃんとした理由とやらは一体どのようなものなのですか?当然、強制わいせつまがいのことをしでかしてもいいと思われる程には
「……ふ」
「ふ?」
「服の素材が、気になったので……」
「はあっ?」
扶桑は呆れた。
「服の、素材……? 金屑を吸い込みすぎて、とうとう馬鹿になってしまったのですか?服の素材はそれぞれ建造された年代に一般的だった素材でしょう?第一、最初の服は確かに艤装の一部ですが、その物理的特性からかけ離れた耐久力は神秘に由来するのですよ?素材とは微塵も関係ありません。常識さえも忘れてしまいましたか?念のためもう一度言ってあげましょうか。
「ふ、扶桑さん。さすがに常識を忘れたりはしませんから」
「でしたら、先ほどの理由は一体どうゆう意味でおっしゃったのですか?」
「だ、だって……」
「だっても糸瓜もありません」
「しかし……」
「しかしも案山子もありません」
「で、でも」
「でももストもありません。どうしてはっきりおっしゃらないのですか?確とおっしゃっていただければそれだけで済みますのに、ねぇ」
扶桑ほどの大物に敬語を使われて話されることほどやりづらいものはなかなか無い。しかもそれが薄い
であれば、明石が大声で叫んだのも何の問題もない。
「い、異世界の服の素材を調べられる機会をみすみす逃せるわけがないでしょうがーッ!」
「い……いせ、かい?」
「あ」
ここに来て明石は、前提条件の説明をすることを忘れたことに気がついた。
「あの〜」
ここで声をかけられて初めて、扶桑は件の艦娘に意識を向けた。
その服装はこれまで見たこともないものだった。
どこか神聖な印象すら与える、純白のワンピースのようだが決してそうではない服*1に、ワニか何かの皮でも使ったのかというような緑色の革*2でできた長靴を履き、その間の絶対領域を隠すように黒のタイツを身につけ、腰元にはポーチのついた革のベルトを締めていた。上衣の襟元には、明石の手の跡が黒いシミとしてしっかり残っていた。地が白なだけに、とても目立つ。
しかし、その汚れよりももっと目立つものを、彼女はつけていた。仮面である。
顔の上半分を覆い、目だけを出した漆黒のそれはまさしく仮面舞踏会のドミノマスクだった。
扶桑も垣根もそれを見て言葉を失ったその隙をついて、彼女は発言した。
「……そろそろ自己紹介をしてもいいかしら?」
「……え、ええ。いいわ」
扶桑の返事はかなり困惑の色が滲んでいた。
「私は神聖ミリシアル帝国海軍第零式魔導艦隊旗艦ミスリル級魔導戦艦一番艦コールブランドです」
「第零式……?」
「魔導艦……隊……?」
扶桑と明石*3が声を上げた。
「確かに全く聞き覚えがないな。こりゃ異世界ってのも嘘じゃなさそうだ」
そう言いながら垣根が入ってきた。
「提督!」
「帝督!」
扶桑と明石が声を上げる。
「遅れたな。俺はこのショートランド泊地に駐屯する日本国海上自衛隊自衛艦隊艦娘艦隊第十三艦娘隊群の司令官、垣根帝一海将補だ。提督と呼んでくれ………………あとあの明石?いいかげん
颯爽と入ってきた
「そういえば、艤装はどちらに?」
扶桑の問いに、コールブランドは指差しで答えた。
その方向を見やると、機械部品の山があった。主砲らしきSFじみた砲身が山腹から顔を覗かせている。
扶桑の怒気が膨れあがった。
「ひっ!?」
「あぁ、すみませんねコールブランド。あなたに対して怒っているわけではないのでご安心を。他に何か、あの女にされましたか?」
「いっ、いえ。ぎ、艤装の調査と引き換えに採血をやめてもらったので、あれ以上のことは、何も……」
「採血、ねぇ……ありがとう、コールブランド。あの女を叩く理由が一つ増えたわ」
そう言うと、扶桑は提督に素晴らしい笑顔で彼女がこの1時間に解明し、または推測したコールブランドの艤装についての話をしている明石の元へツカツカと歩いていく。
「明石?」
「hr?なんでしょうか扶、桑……さん?」
今になってやっと扶桑の尋常ではない怒気に感づいたらしく、明石の顔からは血の気が引き、提督も先ほどまで垂らしていた鼻血が止まる。
「一体なんで、なんの権限があって彼女の艤装を分解したのかしら?調査するといっても、分解なんていう、復元に手間のかかる方法を選ばなくてもよかったんじゃないかしら」
「——————」
「分解などせずとも中を見られるものはあるでしょう。私たちの年代でさえエッキス線というものがありましたし、100年以上経つ今の世ならいくらでもあります」
「——————」
「あと、先ほど彼女から聞いたのですが、彼女の生き血を取ろうとしたそうですね?初対面の、それも発見されたばかりで所属不明の艦娘に、いきなり採血させてと迫るなんて、正気?」
「——!」
ここまできて、やっと明石は先ほどから聞こえる悲鳴が自らの口から漏れているものだということに気づいた。
「え、X線照射は私だって考えたのですが、そもそもその手の設備がここにはなくてですね……第一今はエッキス線ではなくエックス線と言って——」
そう弁明を述べた途端、扶桑から発せられる怒気が増した。
「あなた、今、私が年寄りって言った?」
「ひ、い、言ってません」
「言ったわよね?聞こえましたよ、世情に疎い年増だって。年増ァ〜年増ァ〜洋語の発音すら出来ないお婆さんぴょん〜」
扶桑は怒りで正常な語尾が維持できなくなっているが、その圧倒的な怒気の前では、誰も彼女を笑うことはできなかった。
「そんなことは……とても若々しくてお綺麗です」
「あらそう。提督はどうなんです?」
「へ?」
「小官!?」
扶桑の怒気に扱かれた新人時代の上官を思い出した垣根は、思わず姿勢を正し、綺麗な敬礼をした。
「大変、美しくあらせられます!」
「もっと」
「は?」
「もっと頂戴」
垣根が答えられないでいると、扶桑はそれまでの表情から一変して不機嫌になり、再び一方的な舌戦を開始した。
「提督はこの女に甘すぎます」
「この女ってなんですか!」
「そうだぞ、この泊地を支えているのは間違いなく彼女——」
「お黙り!そういうところが甘いのです!ちょうど良い機会だから言いますけどね!この女の作ったものが三式弾改二以外に何か役に立ちましたか?この女が実験だか発明だか改造だかに失敗して工廠をダメにしたのは何回だか覚えてますか!」
流石にそう言った事故の類の書類の処理は提督の仕事のうちにあるため、垣根は記憶から引っ張り出して数えた。
「……13回?」
「139回よバカ!」
「バカとはなんだ扶桑、俺は上官だぞ」
「っ……この改造狂いに言ったのよ!」
「か、改造狂いとは何ですか!扶桑さんだって火力バカな体してるじゃないですか!」
「なっ……私が欲しいのは防御力と速力よ、この姉の七光り!」
「っ……軍機を軽々しく話すのはやめましょう、扶桑さん」
「…………そう、ね」
ここまできて、やっと扶桑は落ち着いた。
「にしても、異世界の戦艦か……扱いをどうしようか」
「とりあえず当面の間は秘匿ですかね。まさしく降って湧いてきたわけですし」
その時、大きな音ともに扉が開かれ、人影が入ってきた。人影は入るなり床に転がっていた鋲につまづいて転んだ。
「何も……の……」
「痛……不幸だわ…………あ、扶桑姉さま」
入ってきたのは山城だった。
「姉様、そこの耳の長い人が新入り?」
「……山城、どこでその話を聞いたの」
「すぐそこにいますよ、二人とも〜出ておいで〜」
山城が呼びかけると、二人の駆逐艦娘が入ってきた。天霧と夕霧だった。
二人はコールブランドを視認すると、すぐさまそちらに駆け寄り、彼女を抱きしめた。
「こりゃ、秘匿は無理そうだな」
垣根は右手にのせた工廠妖精へそう零した。
話しかけられた妖精は、ただ何もわかってなさそうないつもの表情で小首を傾げるだけだった。
ここ書くまで夕霧未実装だってこと忘れてた。さっさと霧姉妹揃えろ〜
もっと褒めてって言ってる時の扶桑の顔はどうぞ皆さんでご想像ください。下着の中に収まらないほど昂ること間違いなしの紅潮した顔です
因みに卯月はショートランドにはいません。なんなら東南アジアの鎮守府・泊地にもいません。多分横須賀か舞鶴か呉か大湊か単冠湾か馬公か父島か轟沈の内のどれかです。(要は未設定)