コールブランド召喚   作:比叡たん♡

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ギリギリ1ヶ月投稿


5 調査と訓練、あと座学①

 天霧たちと共に愉快な朝食を終え、朝礼にて泊地に詰める艦娘全員と幹部たちとの顔合わせを終えたあと、コールブランドは朝食の時に見かけたオッドアイの少女、重巡だというフルタカに案内され、庁舎の隅の方の部屋にきていた。

 机にも椅子にもうっすらと埃が積もっていたが、コールブランドは気にせず席に着いた。

 

 「先ほども言いましたが、改めて自己紹介します。これからしばらくの間、あなたにこの世界で暮らすための知識、および艦娘としての務めを果たすための知識を教えます、重巡洋艦、古鷹です。」

 

 「よろしくお願いします」

 

 挨拶を済ませると、古鷹は先ほど倉庫から引っ張ってきたホワイトボードにペンで大きく「濶ヲ螽倥→豺ア豬キ譽イ濶ヲ」と書いた。

 

 「まずは基礎中の基礎、私たち艦娘とその相対すべき脅威、しんか——」

 

 「あの、フルタカさん」

 

 「なんでしょう」

 

 「その……書いてある文字が読めないのですが、一体なんて書いてあるんでしょうか」

 

 「えっ、でも……えっ?こ、コールブランドさん、日本語話してますよね?」

 

 「ニホン語……?みなさん、大陸共通言語を話していたのではないのですか?」

 

 二人は顔を見合わせた。ここに至って、ようやく自分達が意思疎通できていることの不思議さに気づいたのである。

 

 「ま、まあ、とりあえず話せるから、続けますね?まず教えるのは、艦娘と深海棲艦です」

 

 「シンカイセイカン」

 

 「ホワイトボードの右側の、この四文字の部分です」

 

 そう言って、古鷹は「豺ア豬キ譽イ濶ヲ」の部分を指した。

 

 「これでしんかいせいかんと読みます。簡単に言っちゃえば、人類を脅かす脅威ですね」

 

 古鷹はホワイトボードに籠手におどろおどろしく輝く目と口をつけたような姿の鯨にも見えるものの写真を貼った。

 

 「これが……?」

 

 「深海棲艦ですね。これは最も多く見かけるもので、イ級と呼んでます。他にもたくさん種類でいて……」

 

 これはロ級、こっちはハ級、ニ級、ナ級と似たような鯨や髑髏の写真を並べていく。

 

 「このナ級までが駆逐艦に分類されてます」

 

 「クチク艦……深海棲艦も艦種分けがされてるんですか」

 

 「はい。と言っても、別に戦力で分けている*1わけではなくて、主に規模で分けられてる……と思ってます」

 

 本人の推量なのが少し気になったが、コールブランドは流した。

 古鷹はそのまま装備を得てちょっとゴツくなった鯨の写真を、ついで先ほどまでの鯨と似たような配色の人形の写真貼っていく。

 ホ、ヘ、ト、ツ、チ、リ、ネの6つが巡洋艦で、さらに前四つが軽い巡洋艦、チ級がジュウライソウ巡洋艦、リとネが重い巡洋艦だ。

 

 「そういえば、先ほどのフルタカさんの名乗りでも言ってましたけど、こちらって、巡洋艦をさらに分けてるんですね」

 

 「はい、昔は区別がなかったらしいですけど、私の世代……というか主に私のせいで二つに分けられたんです」

 

 「……フルタカさんの?」

 

 仮面で目元は見えなかったが、その声色から彼女が驚いていると古鷹は感じた。

 

 「そうなんです!重巡というのはですね、私たち姉妹があんまりにも強い*2ので設けられた艦種で、たくさん良い所があるんです!」

 

 そう言って、古鷹は彼女のいうところの〝良いところ〟を力説し始めた。その熱量に気圧されて、コールブランドはひたすらに話を聞き続け、気づけば昼食の時間となっていた。

 

 

 

 午後は、引き続き深海棲艦の種別を教えられたあと、これまでの深海棲艦との戦いの歴史と共に艦娘という存在についての講義を始めた。

 曰く、艦娘とはかつて船魂だった者たち、深海棲艦から人類を守る盾の主要部。

 小さすぎる上に艦船並みの速度で動き回る深海棲艦相手にはミサイルが尽きたら5インチ砲しかなくなってほぼ詰みな現代艦と比べて、ほぼ同じ大きさで同じような性能のためそのパフォーマンスについていくことができ、また"成長”の速さが圧倒的に速い艦娘は全くキルレシオが違ったそうだ。

 深海棲艦の出現から艦娘の出現までの約3ヶ月間と、それから今日までの約8年半で沈められた民間船舶トン数がほぼ同じだというのだから、驚くほかない。

 また初期の2039年12月4日に行われたジブラルタル西方沖海戦が原子力空母10隻を含む参加戦力の9割の被撃沈と深海棲艦の地中海封じ込めの失敗という惨敗に終わり、各国の海軍の戦力が大きく減少したのも重用に拍車をかけたとか。

 その海戦の後戦域が大西洋や北海に広がったことで、不足する戦力を補うために艦娘は現れたが当時はまだ深海棲艦が現れていなかった太平洋沿岸国の艦娘が欧州方面に派遣され始めたそうだ。

 

 「かくいう私も遣欧艦隊に一員としてフランスに行きました」

 

 「なんと」

 

 意外なる告白に、コールブランドは思わず立ち上がる。

 

 「はい、私はまず地中海側のトゥーロンで陥落までの半年ほど戦い、その後第二次攻勢の勃発までブレストにいました。だいたいトゥーロンにいた頃が欧州戦域が最も過酷になっていた頃ですかね。あの頃は本当に地獄で——」

 

 いけないいけない、脱線するところだった。

 そう言って古鷹は講義に戻る。

 古鷹が日本に戻された要因、それが深海棲艦の第二次攻勢だった。

 その正確な開始日が記録されていない第一次攻勢(というか深海棲艦の出現)と違い、第二次攻勢は正確に記録されている。2042年12月7日、ハワイに深海棲艦が現れたのだ。

 大西洋から遠く離れたハワイにはフリゲート以上の艦艇及び巡洋艦以上の艦娘など配置されておらず、瞬く間にハワイは失われた。

 深海棲艦は野火が広がるように太平洋を覆い尽くした。洋上に点在する島々は一月もせずに失われ、年が変わる頃にはソロモンとニュージーランドから人が消えた。オーストラリアも艦娘含む多大なる犠牲を出しながら国民を避難させ、3月には大陸から去った。そこから東南アジアの島国が陥落するまで3ヶ月程度しかなかった。

 日本も多くの離島を失い、佐渡島や隠岐諸島、奥尻島に至っては半年ほど孤立を余儀なくされた。さらには2回も浦賀水道にて深海棲艦を撃退する事態すらあったという。

 しかし4月後半ごろになると小康状態になった欧州戦域から鉄道で戻ってきた艦娘たちが到着し始め状況が好転、8月頃から反撃に転じ、現在に至る。

 

 

 「こんなところです!覚えられた?」

 

 「んぇぇい……」

 

 コールブランドは茹っている気分だった。

 生まれてこの方これほど"頭を使う"作業はしたことがなかったため、気分的に疲れ切った彼女は大きく伸びをすると長机に突っ伏す。

 

 「コールブランドさん、まだ……」

 

 「んにゃ」

 

 どうも彼女は完全に疲れ切っている様子であった。

 

 「……じゃあ、もう今日は終わりにしよっか。ちょっと見せたいものがあるんですが、どうです?」

 

 「!!……どんな、物なんですか?」

 

 「それは、歩きながら話しましょうか」

 

 二人して廊下に出ていく。窓を見ると、陽は若干傾いているが、未だかんかん照りであった。

 

 「それで、見せたい物というのは——」

 

 パシャっ、と音がした。

 振り向くと廊下の突き当たり手前の部屋の戸口から、カメラを構えた手と濃紫色の髪が少し出ているのが見えた。

 風が吹き抜けるのを感じて横を見ると、すでに古鷹の姿はなかった。

 

 「あ〜お〜ば〜?」

 

 「ヒイッ!」

 

 すでに彼女は下手人の元にいた。コールブランドには全くわからなかった。

 

 「あれれ〜?そのカメラ、いったいどこから持ってきたのかなぁ?」

 

 「ふ、古鷹さん、これは……」

 

 「それ、今朝没収したはずだよね。営倉にも入れたはずだよね。なんで脱走してきたの」

 

 「ぃや、ちょっと……失礼しまァす!」

 

 「あ!待ちなさい、青葉!」

 

 かけてゆく二人を、コールブランドは呆然と眺めるのだった。

*1
駆逐艦という艦種で相手できるのはナ級まで、という意味

*2
※相対的に




おまけ:前話没シーン

 威勢のいい起床ラッパを聞き、天霧は飛び起きるとサッと寝具を畳み着替えを済ませ、二段ベッドの上段で未練がましく布団にしがみついている姉へおはようの挨拶をかます。

 「夕姉朝だ!起きるんだよ、さあ!気持ちのいい朝だっ!」

 「……うるさい。私の時間は夕暮れだもん」

 「……かぼちゃ」

 「また〜。朝は、好きよ〜?でも、うるさいのは、めっ! って、何度も、言ってるでしょう?」

 同室の涼月は慣れたため特にリアクションはなかったが、山雲は二人にデコピンをかます。
 それをされてやっと、渋々ながら夕霧がベッドから起きて支度を始める。
 ここまでが、毎朝のルーチンとなっていた。

 「そういえば、昨日言っていた新しい艦娘はどうなりました?あの、なんて言いましたっけ、こ、こ、コールカボチャー……?」

 「コールブランドさんだな。あの後から会ってないからわからないぞ」

 「優しそうなひとだったよね。ひょっとすると早速朝礼で言われるかも」

 「ちょっと運悪そうな感じもしたな!あと仮面つけてるから謎!って感じの雰囲気も持ってたな」

 「昨夜も聞きましたけど、なんで仮面しているのか疑問ですよね。それじゃカボチャの様子見に行ってきます!」

 そう言って涼月が出ていったのを皮切りに、残りの3人も顔洗いやランニング、アリの観察と言った朝のルーチンをこなしに部屋を離れていった。
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