コールブランド召喚 作:比叡たん♡
翌々日、コールブランドの姿は古鷹と共に艤装を持って埠頭にあった。
「いよいよですねぇ」
「はい……」
古鷹は至って気楽そうだが、対するコールブランドは大分緊張しているように見えた。
何せ、これから行うのは初めての艤装使用だ。以前は生得的に出来てたこととはいえ、元々そうなっているのと何かを身につけてそうなるのでは勝手が違う。不安が湧かないわけがなかった。
そもそもそれ以前に一つ、問題がある。
「すみません、私のせいで……」
二人の隣でそう溢すのは幾分萎れた様子の明石だ。
今コールブランドが持っている艤装は、一度彼女によって分解され、そして組み立て直したものである。一応(無理矢理連れてこられたとはいえ)
つまり、コールブランドの艤装が確実に動く保証は、ない。
「では、私がまず先に出ますね」
表情の硬いコールブランドに先んじて、古鷹がまず腰を下ろした。
彼女は足を海の上へ伸ばすと、取り出した脚部艤装を靴の上から装着し、海面へ降ろす。そのまま自然な動作で立ち上がると、彼女はすでに海の上に
振り返って、置いていた背負い艤装を豪快に回して装着すれば、完全装備の艦娘の出来上がりであった。
古鷹が笑いかけてくる。
それを見てやっとコールブランドも腰を下ろした。
落ちないギリギリまで前に出て、伸ばした足を海面に着けてみる。
寄せた波がかかって、当然の如く濡れた。
それを見ると彼女は脚部艤装を着け、その状態で再び足を波へ伸ばす。
それに目を見開いたのも束の間、古鷹にグイッと引っ張られてコールブランドは宙へ身を踊らせた。
「フ、フルタカさん⁉︎なんでいきなり……あれ?」
急なことに起き上がって文句を言うが、そこでコールブランドはあることに気がついた。
「立ってる……?」
立ってた。
見守っていた暇な職員ら数名が沸き立つ中、コールブランドは背負い艤装を装着、機関を作動させた。
古鷹の航行する姿を真似しながら、若干フラフラしながらも埠頭を離れた。
港から出て水路沿いに北上していると、古鷹が聞いてきた。
「基本は大丈夫みたいですね。機関の方はどうですか?」
「はい、そちらの燃料でもちゃんと動いてくれてます。でもやっぱり、大分燃費が悪くなっています」
「魔石がこちらにもあればよかったんですが……」
そう、現在、コールブランドが消費しているのは、魔石ではなく艦娘用の燃料だった。
どうも少しだけだが魔力を含んでいるらしく、効率は悪いが代用できると判断されたのだ。今回は燃料の試験も兼ねていたわけである。
もちろんそれだけの理由で初の艤装運用に試験を捩じ込んだわけではなく、そもそもコールブランドの艤装の中に残っていた魔石がごくごく僅かだったという切実な理由もあった。
「それで、航続距離はどれほど悪化したんですか?」
航続距離というのは一般には燃料を満載した状態で無補給で航行できる最大距離を指す。日本の誇る大和型戦艦は速力16ノットの時およそ12349浬*1、コールブランドと全長が同じくらいの長門型とイギリスのKing George Vでそれぞれ16ノットで8650浬と10ノットで7000浬、フランスのDunkerque級でも10ノットで10500浬ほどだ。
大体コールブランドも同じくらいであろうというのは想像がつく。
「以前の大体……3割ほどですから、せいぜい行けて6000浬強ってところでしょうか」
「えっ」
古鷹の顔が固まった。
「……そ、そんなに悪かったでしょうか?」
「そ、そういうことじゃないんですが……3割で、6000浬?」
「はい。すごい鈍行になりますが、それくらいは」
「……」
確かに戦艦としては物足りない航続距離ではあるが、これで3割だとすると、本来の航続距離は20000浬を超える。地球の赤道周に一歩届かないくらいの距離といえば、その長さがわかるだろうか。
古鷹がその値に慄いている一方、コールブランドはというと————
(そういえば、なんで職員さんは「クララが立った」なんて言ってたんだろう。間違って覚えてしまったんでしょうか。クララブランド……悪くない響き)
呑気にそんなことを思っていた。
ショートランド泊地は第二次世界大戦時に旧海軍が泊地としていた、ショートランド島南部の
よって、二人が移動にポポラング島との間の水路を選ぶのは必然であった。水路の両脇には、人がいなくなり自然に呑まれた人家がちらほらと見えた。人が住んでいた頃はちょうどショートランドの中心地のような辺りであった為、だいぶ奥まで構造物が見える。それら全てがコールブランドには興味深かった。
水道を抜け、そのまま北上していくと平坦な島が見えてきた。建造に投入されたイギリス人捕虜が虐殺されたことで有名なバラライ空港を有する無人島、バラレ島だ。
「外洋航海は問題なさそうですね。何か変な気分になったりはしてませんか?」
「いえ、大丈夫です!」
「舵の効きも道中で試してきたし、次は……武装の試験ですかね。では、あちらを見てください」
古鷹はバラレ島の方を指差した。
本来、滑走路である森の切れ目以外は特に目立ったものがない島だが、現在、コールブランドの目には、赤と白の同心円様の模様が描かれた標識のような的が手前の海面から伸びた支柱に取り付けられているのが見える。
「あの島の手前にある的に向かって砲撃してください。主砲、副砲、どちらでもいいです」
バラレ島はコールブランドからは水平線より少し手前に見えたので、的はそれよりさらに少し手前だろうと思われた。コールブランドは魔力探知レーダーで距離を測ろうとするが、付近に古鷹らしき光点以外が見えないのを見て光学観測へと切り替える。大方、的に含まれる魔力が低すぎてノイズとして処理されてしまったのだろう。光学観測のみでの射撃は難しいが、まあやれないことはない。
(とりあえず一射目は距離
普段乗組員の仕事ぶりを側から眺めていると——自分の体とはいえ——簡単そうに見えたが、いざ自分で動かしてみると、自分の体だというのに大分もどかしく感じることにコールブランドは驚いた。
それはともかく、これが異世界で発射する最初の砲撃となる。一抹の緊張と共に、コールブランドは叫んだ。
「発射!」
轟音が響き、コールブランドの両脇に展開されていた二つの主砲塔から砲弾が射出された。
前世界で最大最強を誇った6つの38.1cm砲弾は、自ら青く発光しながら噴進し飛翔する。
「……綺麗」
古鷹もそう溢すほどに見惚れる中、爆裂魔法の付与された砲弾はそのまままるでバラレ島の古い伝承*2にあるかのような青い光で綺麗な軌跡を描き————
——
「ええっ!?」
「……あれ?」
数秒後、水柱が島の反対側に立ったのが見えた。
「えっ、え?……ええっ?……こ、コールブランドさん?」
「……………………水平線の距離まで違うとは思わなかったんです」
その後、地球での水平線までの距離を教わった後で撃ったら、しっかり夾叉したという。
「遠距離砲戦については訓練をやり直さないと……」
「普通の深海棲艦が相手なら背丈の関係上距離感覚の修正程度で無問題ですが、鬼・姫級はだいぶでかいですから……。
次の試験は午後、瑞鶴さんが任務から帰ってきてからなので、それまでは感覚が掴めるまで練習しましょうか」
「はい」
ギリギリ年末に投稿する予定だったのに……課題め
これからも本業と主連載のせいで更新が月単位で間隔空くだろうと思われますのでここで謝っておきます
航続距離についてですが、6000浬というのは12ノット程度の速度域での値と言う想定です。全長だけでなく全幅も同じくらいのアメリカのSouth Dakota級で15ノットで15000浬、North Carolina級に至っては15ノットで17450浬を誇ります。また、コールブランドより大きいですが、Iowa級は12ノットで18000浬、1943年に行われた実際の公試ではNew Jerseyが15.3ノットで19240浬を叩き出しています。そう考えるとコールブランドの航続距離もそこまで現実離れしてはいません(米戦艦の足が長すぎるとも)
ちなみに同速度帯で揃えるとこんな感じ
大和:12349浬(16ノット)
長門:8650浬(16ノット)
DoY※1:6000浬(14ノット)
Dunkerque:7500浬(15ノット)
Iowa:14890浬(15ノット)
South Dakota:15000浬※2(15ノット)
New Jersey(1943):19240浬(15.3ノット)
なお、原作新世界の水平線は約7.1kmとしました。ウィキにある数値は人の身長で計測された数値ではないので……
※1DoY:King George V級3番艦Duke of York。KGVの同速度帯のデータが見つからなかったための代役
※2日本語版ウィキペディアの「サウスダコタ」個別ページでは17000浬になっていますが、それはおそらく17000マイル(mi)をノーティカル・マイル(nmi)と間違えたためと思われます。ちなみに何故かベトナム語版だけ20000浬になっている(速度は同じだと言うのに!)