悟空TRIP!   作:足洗

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一話 GTinインフィニット・ストラトス

 

 

 

 友人からの誘いは、当時の自身にとってまさに渡りに船だったのだ。

 だからあんなにもすんなりと乗船を決断できた。おそらくは片道切符。乗り込めば元居た場所には二度と戻れない大航海。苦難と懊悩、時には哀しみで身を焦がす道程。だがきっとその先に、求めるものがあるのだと信じて進む。決して振り返らない。立ち止まらない。そう覚悟して選んだ道。

 今にして思えば若気の至りなどという次元ですらない。

 それほどまでに心は追い詰められていた。精神は終わりない不安と恐怖に耐えられなかった。

 強くなりたい。家族を守る為に。たった一人の家族を。たった一人の家族の味方もまた自分一人だけなのだから。

 強くならねば、強く在らねばならない。不退転の覚悟を胸に、けれどその奥に潜む心は重圧で押し潰れそうだった。

 ――――馬鹿な。

 過去の自身を振り返る度、思う。もっと早くに気付くべきことだった。どうして気付くことができなかったのか。

 本当の強さとはなんなのか。当時の私は知る由もなかった。

 

 その男に、出会うまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 過たず、戦乙女(ヴァルキリー)は1,200発余のミサイルを斬り払った。

 その手に握った巨大剣が一閃される時、斬撃は刃渡りを超え真空を生む。無数に飛来するミサイル群はそのようにして僅か数分の内に屠られ、蹂躙された。

 西洋甲冑を模していながら、その身に纏われた鎧はこの世にありえざる超能を被装甲者に齎す。

 二枚一対の純白の翼――高出力推進器(スラスタ)で空を自由自在に飛び、(かぶと)に覆われた五感は極限まで高められ比喩表現を挟まず千里先の羽虫を捉える。筋力、速力、瞬発力、動体視力――身体機能と運動能力に大幅な増強(アシスト)を加え、人の身で超人と呼ばわる領域に足を踏み入れた。

 

「残ったミサイルはあと何発だ」

『残存数1,101。武装の変更を推奨』

 

 巧緻に人間味を帯びた機械音声が響く。同時に純白の騎士は大剣を光の粒子に変え、代わりに長大な砲を顕現させた。超小型荷電粒子砲。

 空想科学の産物。大規模施設と一都市を稼動させ得る程の大電力を要するその兵器は今、極小のありえない砲身スケールで現実のものとなった。

 

「……」

 

 引鉄を引く上で騎士に躊躇は微塵とて無かった。

 全世界12ヶ国の軍事施設より射出された2,000発を超えるミサイルが目指すのは極東の島国。日本だ。

 もしこれら全てが着弾したなら日本列島は火の海に沈むだろう。それを阻止する。それが騎士の使命、目的。

 事実、既にその半数を破壊した。残りの半数以下を破壊し尽くすに、先程以上の時間は掛かるまい。

 指向性を持って紫電が奔る。砲口から吐き出される電荷の渦は空を覆わんばかりに飛来するミサイルを呑み下した。

 

『残存ミサイル0。掃討完了』

「……見れば分かる」

 

 感慨も薄く騎士は言った。これは決まりきった結果であると、そう言外に表していた。

 現代に存在する有りと有らゆる兵器は断じて“これ”に及ばない。“これ”は全てを凌駕し圧倒する新時代の力だ。

 世界よ見ろ。そして跪け。認めざるを得ない現実(フェアリー・テイル)がここにある。

 それは一人の少女が生み出した幻想だった。夢物語と一笑に付され、忘れ去られた机上の空論。けれど少女にとっては机に設計図があればもはやそれだけで十分。

 理論から現実へ。飛躍とさえいえない超越を果たし、マルチフォーム・スーツ『インフィニット・ストラトス』は完成した。

 そして今日という初披露目の舞台を迎えた。

 

「ふんっ、これで立派な共犯か……」

 

 後悔など、ある筈がない。

 己は望んでここにいるのだ。この道を選んだのだから。

 

『敵性艦隊勢力接近』

「ああ、分かってる」

 

 最後の仕事。今日この日この時の大詰。

 PIC――慣性制御装置(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)を手繰り、最短距離の海上に位置する大型艦船を見やる。センサが指し示すその艦影の注釈には米国産(・・・)の文字。他のどんな国よりも迅速なその対応は流石世界の警察機構を名乗るだけのことはある。

 相対距離がさらに近接する。この翼ならば瞬く間に埋められる距離。

 事実、彼女はそうしようとしたのだ。

 

「オッス」

「――――――――――――――」

 

 散歩の出先で顔を合わせた友人と挨拶を交わす。それはそんな気安さで。

 背後、直近、五メートルと離れていない。

 各種センサーはどうした何故接近に気付かなかった故障?馬鹿などうしていやそもそも気配など微塵とて感じなかったというのに敵か?味方か?敵対の意志があるならわざわざこちらに存在を気付かせるものか違うもっと別の、目を逸らしている現実があるだろう――――

 海上より約10,000m。海原を見下ろす雲海に手が届く。ここは対流圏と呼ばれる大気圏内の最下層だ。

 

「おめぇあそこの……軍隊だよな? 闘うんだろ」

 

 そう言って、その“男”は眼下の海のその先に指を差す。その先に何があるのか見えていると、如実に物語りながら。

 男の黒髪が、空よりも蒼い胴着が、帯が風に吹かれて揺れる。

 悠然と、風を受けても男は変わらずそこに。空の只中、その身一つで静止している(・・・・・・・・・・・・)

 

「っ!?」

 

 その現実を認めた瞬間、背筋を悪寒が、心臓を血の濁流が奔った。

 在り得ない。いや在り得なかった。

 友人の作り出したこの超能の鎧以外にそんな超常は在り得ない、と。思い知った筈だ。それを信じた。信じて疑わなかったから飛びついた。差し出された“力”を欲し求めた。

 

 手にした力に、卑屈な安堵を抱いたではないか。

 

「…………なんだ、お前は……」

「手伝ってやるよ!」

 

 震える声音で発した言葉はどうやら風に溶けていた。無意識の問いかけはそもそも返答すら求めていなかったが。

 無邪気な笑顔で男は言う。

 言うや、飛翔する。

 予感はあった。眼前の存在は空を飛ぶのだ。

 

「まっ……」

 

 得体の知れない、未知とはただそこに在るだけで十分に恐ろしい。それが能動的に行動しようものなら尚の事。男は艦隊に向かうという。先進諸国から差し向けられた最新鋭軍艦隊を相手に戦闘行為を始めるという。

 狂人の戯言は往々にして現実を伴わない。夢幻。だから実害の及ぼしようがない。

 だが、目の前に突如として現れたソレは? その成人男性の形をしたモノはどうだ? 丹田から湧き上がる不吉な予感が騎士にさらなる制止の言葉を口走らせる。

 幸運にも男の耳にその声は届いていた。

 

「ああ、わかってるって。殺すつもりなんて無ぇんだろ? おめぇ」

「ぁ、ああ……」

「なぁに心配すんな。ガキん頃からああいうのの相手すんのは慣れてっからよ。そんでぇ……そん代わりに一コ頼みがあんだ」

「は……?」

 

 脳の処理速度が大幅に遅延を来たしている。男の言葉の半分と彼女は理解していない。

 声がただ耳に入り込み鼓膜を刺激し脳がそれを意味ある言語であると認識する作業に従事する。

 しかし次の男の言葉は、呆けた頭を叩き割る。それほどの衝撃を備えていた。

 

「オラ、おめぇと闘いてぇ」

 

 真っ直ぐな瞳が己を射抜く。

 バイザーで隠された筈の我が目を捉えて、放さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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