ウマ娘 バーニングフェスッ!! -アルストロメリア・チャレンジ- 作:稚拙
……自分は今ロータス殿の言葉を聞いたのであります……
い、いや、体験したというよりはまったく理解を超えていたのでありますが……
あ……ありのまま、今起こった事を話すであります……!
自分はあんころもちを食べようとしていたと思ったらいつの間にか結婚を賭けたデュエルに巻き込まれていたであります……
な……何を地の文に書いてるのかわからねーと思うでありますが自分も何をされたのかわからなかったであります……
頭がどうにかなりそうだったであります……
無茶振りだとか流れ弾だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえであります……
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったであります……
つまり……
「これなんてポル◯レフ状態でありますかッ!?」
「ボンドさん?どなたに向かって言っておりますの?そっちは壁ですわよ?」
「ロータス殿ぉ!あんまりであります〜!」
「シップ様❤が代理の方を立てた以上、こちらも立てねば無作法というものではございませんか❤」
「そんなぁ!ロータス殿が大食いすればいーじゃないでありますか〜!」
「残念ながら蓮華は少食なのですわ。……であれば、あんころもち300個を御褒美にチーム入りしたボンドさんに勝機を託すのが道理というもの……というわけです❤お征きなさいませ❤『ジャイアント・プボ』!!❤❤」
「マ゛ッ!!……じゃないであります〜!!」
「大食い勝負かい……面白いコトになったじゃぁないか」
奥から、腕組みをしたおかみさんが出てくると、ニヤリと笑ったのであります。
「もうすぐ感謝祭……せっかくだから、ここは『感謝祭ルール』でやったらどうだい?」
「感謝祭ルール……??」
「い、イヤな予感がするであります……」
「さぁてご開帳、オープン・ザ・バトルステージ!!」
突然おかみさんがパチンと指を鳴らしたと思うと、さっきまで自分が読者殿に語りかけていた壁が重々しい音を立てながらスライドしていき、その中からつい先頃見た『ハチャメチャGP』の一種目―――
『大食いダービー』のセット、そのものが出現したのであります……!!
「お、おかみさん……!?コレはいったい……!?」
「こんなコトもあろうかと、商店街のどの店からでも使える大食い対決ブースを造っておいたのさ!」
「こんなコトって……」
「へぇ……噂に聞いた『商店街改造計画』の一環ってヤツか……面白ぇ」
「知ってるんですのゴールドシップさん!?」
「流石はシップ様❤博識でいらっしゃいますわ❤❤」
「そして、バトルともなれば実況も必要というもの♪」
見ると、実況席らしきブースに目を細めたにこやかな笑顔で座る、長い黒鹿毛のウマ娘の姿があったのであります。
「皆様こんにちは〜♪放送部所属の『辻実況』、いつも“ニコニコ”生中継♪でおなじみのシュシュブリーズが、このバトルの実況を担当させていただきま〜す♪」
トレセン学園界隈でウマ娘同士のトラブルが起きて、それを勝負で解決しようとすると、どこからともなく実況担当のウマ娘が出現すると、風の噂で聞いたことがあるでありますが……よもや本当だったとは。
「そして解説は、この『餡餅庵』の7代目にして、現役時代は“粘り強い逃げ”と“よく伸びる末脚”でご活躍されたトレセン学園OGのモチさんです♪今日はよろしくお願いします♪それでは早速、モチさんから詳しいルール説明をよろしくお願いします♪」
「そんじゃ、ルールを説明するよ!本番の『大食いダービー』とは同じようでちょいと違うから、聞き逃さないようによ〜くお聞き!」
いつの間にやら解説席に移動していたおかみさんが話し始めると同時に、スクリーンに映し出される説明映像……
こんなのいつの間に用意したのでありますか……!?
「制限時間は10分!ランダムにバラ撒かれる料理を配膳役の『サーバー』が確保して、食べる役の『イーター』に運んでひたすら食べさせて、イーターがどれだけたくさんの料理を平らげたかの勝負ってのは、本番の『大食いダービー』と変わらない。でもうちは『餡餅庵』……屋号に『餅』が入ってて、仕切ってるこのアタシの名前も『モチ』!よって今回出てくる料理は全部『餅』だよ!あんたたちには、『餡餅庵』名物の『餅』の大食いをやってもらうってワケさ!!」
なんと……!餅は歯ごたえがある上にある程度噛まなければ飲み込むのも一苦労、万一ノドに詰まらせたら大変なコトに……
大食いするにはひたすら向かない食べ物であります……!!
「さぁて、命知らずのイーターたちの胃袋を襲う、『餡餅庵』名物餅のお披露目だよ!!」
―――………………ぷぼっ!!!(キュピーン)
「……これら4種の名物餅を、イーターの3人にはひたすら喰って喰って喰いまくってもらうよ!本番同様、色分けした皿に載せて出すからね。同じ色の皿の好きな餅を狙って食べることが出来れば食べるペースもアップするかもね。サーバーの腕の見せ所だよ。でもま、餅ばっかり食べてても飽きるだろうから、お口直しの品も用意してるよ!」
「この3つは数が少ないから、出たらチャンスと思って速攻で確保するんだね。特におしるこは5皿分としてカウントするから、奪い合いになること請け合いだねぇ」
……つまり、抹茶ラテ=スイーツ、おしるこ=にんじん盛り合わせ、にんじんもち=にんじんハンバーグと考えればよいのでありますな。*1
「そして!配膳役はこの子たちだよ!」
「サクラモチで〜す!」
「ズンダモチです!」
「ボタモチですぅ♪」
「「「わたし達、『餡餅庵』の看板ウマ娘『おモチ〜ず』で〜す!心を込めて、お配りしま〜す!♪♪」」」
「最後に!!これだけは言っておきたいことがある!!この『大食いダービー』は、制限時間もあって『早食い』もしなきゃいけないけども、この餅や“お口直し”に使われてる材料を汗水流して作ってくれた生産者さんたちに感謝をしながら―――」
巻き起こる拍手の中、隣に立っていたゴルシ殿が「あ、そーだ」と思い出したように。
「感謝祭ルールでやるんなら、マックちゃんがイーターだし当然アタシがサーバーな!」
「ちょっと、やるとは言っておりませんわよ!?」
「マックイーン……これは『ハチャメチャGP』の模擬戦でもあるんだよ……ココでアタシ達<最強☆ゴルシちゃん軍>の株を上げときゃ、カイチョーやテイオーやおツルも悪い顔はしねぇぜ?」
「
「それに、だ。本番で誰がイーターやんのかわかんねぇ現状、大食いを鍛えておくのも悪くねえだろ」
「し、しかし……」
「…………ウマい餅、食い放題だぜ?」
「…………!!!」
ゴルシ殿の甘言に、マックイーン殿の目の色がぎらと変わったであります……
「トレーナーからも“やりたい放題許可”貰ってる。好きなだけ食いな、マックイーン」
「…………………………その言葉」
マックイーン殿の口角が上がって、鋭い視線がゴルシ殿に向けられ―――
「待っておりましたわ」
あぁ……マックイーン殿、完全にスイーツモンスターモードでありますよ……この状態のマックイーン殿にお餅の大食いで勝てと?鬼でありますかロータス殿……
「マックイーンは
ゴルシ殿はブルボン殿に真剣な表情で相対したであります。
「このドクターゴルシが極秘裡に搭載しておいた『スクランブルお給仕モード』……ついにその真価が発揮される時が来た。お前にはお米に迅速かつ丁寧に餅を配膳する任務を与える」
「任務、了解しました」
「勝利のための手段は問わない。これもアタシの嫁入り阻止のためだ。健闘を祈る」
「善処します。ライスさん、よろしくお願いします」
「う、うん……ライスもがんばる……!」
「よぅしお米!頑張れよ!!アタシとニッポンの未来はお前の胃袋に託された!!」
「ニッポンの……未来……!」
ライス殿の目も本気……研ぎ澄まされた身体に鬼が宿ってるであります……
「自分……泣いてもいいで、ありますか……?」
次々と外堀が埋められ、梯子も外され、逃げも隠れもできなくなってしまった自分……
しかしロータス殿は最早無言、目で語ってるであります……
―――愛❤のために❤尽くしてくださいませ❤❤
「あ…………」
―――――――――
《さぁ始まりました、ここ『餡餅庵』を舞台とした『大食いダービー』模擬戦!美味しそうなお餅が並ぶ中、早くもサーバーロータスランド、あんころもちを2皿確保!イーターディープボンドが今か今かと待ち構える!》
あぁは言っておられましたけれど、ボンドさんもどうやら覚悟を決められたご様子。
開始直前、小声でこう囁かれましたわ。
―――狙いはあんころもち、それのみであります。ひたすらあんころもちを自分にくださいであります。後はただ、食欲に任せて駆け抜けるのみであります……!!
果たして座ったままどう駆け抜けるおつもりなのかは理解できかねますけれども、とにかく、あんころもち好きのボンドさんには都合の良いルールということですわね。
これに勝てば……❤ついにシップ様❤と蓮華は結ばれるのです……❤❤そう思うと自然と足も弾むというもの❤❤❤
《ディープボンド早くも5皿完食!一方のメジロマックイーンとライスシャワーはそれぞれ3皿ずつと後方からのレースとなります!》
思っていたよりもお二方のペースが遅いですわ……
しかしシップ様❤とミホノブルボンさんの体捌き、そしてライスシャワーさんとメジロマックイーンさんの食欲はこんなものではないハズ……❤
《まもなく3分経過!トップは依然ディープボンド、現在12皿と大逃げ態勢!追いかけるメジロマックイーンとライスシャワー、ペースが上がらないか!?》
ボンドさんの大好物のあんころもち固め打ち作戦、功を奏しているみたいですわね……!まだまだ行きますわよ、ボンドさん―――
―――――――――
| 大食いダービー模擬戦 in 餡餅庵 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | チーム<アルストロメリア> | ロータスランド | 13 | ||||
| ディープボンド | |||||||
| 2位 | チーム<最強☆ゴルシちゃん軍ローズ> | ゴールドシップ | 7 | ||||
| メジロマックイーン | |||||||
| 3位 | チーム<???> | ミホノブルボン | 6 | ||||
| ライスシャワー | |||||||
―――――――――
……やはり『餡餅庵』のあんころもちは最高であります♪
普段ならよ〜く味わって食べたいところでありますが、今は勝負の時……
あんころもちだけ食べればいいというのであれば、自分でもマックイーン殿やライス殿の胃袋に遅れは取らないのであります!
そのお二人の様子をちらりと見るに、マックイーン殿もライス殿もペースを抑えている様子。勝負の前にいくつかスイーツを口にしていた分がアドバンテージになっているみたいでありますな。
「もう2皿追加ですわ!たくさん食べて蓮華とシップ様❤のキューピッド❤になってくださいませ〜❤❤」
そんなつもりは無いのでありますが……
さてこれが14皿目のあんころもち、このまま逃げ切ってみせるであります!
意気揚々と口に運んだ、次の瞬間でありました―――
―――――――――
「ンぐ!?」
《おっとここでディープボンドの
「ボンドさん!?」
《さっきからプボちゃん、あんころもちしか食べてないねぇ。アンコはお腹にガツンと溜まりやすいから、“固め食い”には向かないね……》
《さあ俄然色めきだった各ウマ娘が眼光鋭くスパートを開始!ゴールドシップが鋭く皿を飛ばしてここで伸びてきた!『メジロのスイーツモンスター』メジロマックイーンが本領発揮!!きなこもちとずんだもちを交互に食べて末
「へいお待ちィマックちゃん!!まだまだ行けるよな!?」
「もちろんですわ!こんな風に食べていい機会なんて、滅多にありませんもの!!メジロ家の誇りに懸けて食べまくりますわ~!!」
「状況:好機と判断。ライスさん」
「うん!もっと持ってきて!」
ここに来てペースアップ!?ボンドさんが失速したこの時を狙っていた……!?
蓮華たちはまんまと乗せられたとでも……!?
―――――――――
| 大食いダービー模擬戦 in 餡餅庵 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | チーム<アルストロメリア> | ロータスランド | 13 | ||||
| ディープボンド | |||||||
| 2位 | チーム<最強☆ゴルシちゃん軍ローズ> | ゴールドシップ | 10 | ||||
| メジロマックイーン | |||||||
| 3位 | チーム<???> | ミホノブルボン | 9 | ||||
| ライスシャワー | |||||||
―――――――――
ボンドさんが水を飲んで体勢を立て直す間、メジロマックイーンさんとライスシャワーさんの皿が見る見る裡にボンドさんの皿の数へと追いついてきますわ……!
「ボンドさんッ……!!」
ボンドさんはまだ給水中、箸を置いたまま……!
蓮華に……蓮華に出来ることは……!?
爆食ウマ娘お二人を、ボンドさんが引き離すために、蓮華は何をすれば……!
「次のお餅、入りまぁ〜す♪」
サクラモチさんの声、次の瞬間に蓮華の目に入ったのは、たくさんのお餅に混じっていた、虹色のお皿に載せられた抹茶ラテ―――
―――一か八か、ですわ……!!
蓮華の全身の『氣』を臍下丹田に―――
両脚に意識を集中―――
「いざ、駆け抜けますわ!!」
氣を張りつつ目標の抹茶ラテに一脚で踏み込み、さらに氣の炸裂で―――
《おおっとこれは!?ロータスランド鋭い踏み込み!!同時に周りの皿が撒き散らされた〜〜!!??》
最優先にお皿を確保しつつ、対戦相手の妨害も行える
―――――――――
「皿、飛散」
「マヂかよッ!?」
「お皿をかき集めるシップ様❤も素敵……❤❤ハッ!?❤いけません❤❤この抹茶ラテをボンドさんにお届けしなければ!ボンドさん!!これでお口直ししてくださいませ〜〜!!」
《ちなみに本番含めて、『大食いダービー』に使用されているお皿はメジロ家とサトノ家が共同開発した、たとえ逆さになっても載せたお料理がひっくり返らないツッコミどころしかないお皿『ジャイロバランサーディッシュ』を使用しておりますので、“もったいない”事態には絶対にならないのでご安心ください☆》
ロータス殿のアレはいったい……!?
と、ともかくここで飲み物はありがたいであります……!抹茶ラテで喉の詰まりを洗い流して、仕切り直すであります!
「
「おしるこ!!おしるこ!!おしるこ!!おしるこ!!」
「マ、マックイーンさん……!?」
ふと隣を見ると、マックイーン殿がおしるこを2皿も啜っているではありませんか!?おしるこは一皿で5皿分カウントされるボーナス料理、ゴルシ殿も抜け目ないでありますな……!
このままでは一気に追い抜かれる……早くあんころもちを―――
「ごめんなさいませ!これしか残っておりませんでしたわ……!」
ロータス殿、何を謝って……―――
「……!」
ハッとしてフィールドを見ると、赤いお皿―――あんころもちが1皿も見当たらないであります……!!
そしてゴルシ殿とブルボン殿がせっせとあんころもちを運んでいるのを見た自分は
―――
確かに安直でもありました……皿が色分けされている以上、こうして自分の後ろに
自分は……自分はあんころもちで生きてきたウマ娘であります……であるからして、他のお餅に逃げる不義理を犯すなど……ッッ。
「食べてくださいまし!」
「!」
ロータス殿が必死の形相で訴えかけてくるであります……!
「ボンドさんがあんころもちに情熱を傾けてこられたことは、蓮華もよく存じておりますっ……しかし!この場は“勝負”の場、謂わば『
「………………ハッ……」
涙をぼろぼろと流しながら大袈裟なコトを言ってくれるでありますなぁ……泣きたいのは自分でありますのに……
ロータス殿の言う通りであります……
「ははは……この
ワケもわからず大食い対決に巻き込まれ、他人の人生背負わされ、味覚の至福がアタマからすぐ追いやられてしまうでありますよ…………
おじいちゃん……自分、どうすればいいのでありますか……?
流されるままの自分に、なにか出来るコト、あるのでありますか……………………?
―――“ぼん”や、覚えておくんじゃ。
―――人生では、生くるか死ぬるか、瀬戸際に立たされる時が必ず来る。それは男も女も、人間もウマ娘も関係なく、な。そんな時にこそ、自分の中に残された、『最後の力』を信じるのじゃ
―――ヒトやウマ娘が、己の中に残された力を振り絞った時にのみ発揮される、運命すらも変える力―――
人、それを――――――
……思い出したのであります。
自分はまだ、諦めるわけにはいかないのであります……!
「やってやるであります……見せてやるで、あります…………!」
ふと目前を見ると、ロータス殿が必死に確保してくれた一皿が―――
「ロータス殿……正直、ロータス殿が結婚しようがしまいが、ぶっちゃけ自分には関係ないのでありますよ……」
「……ま゜ッ……!?」
「しかし……自分もウマ娘なのであります……悲しいんでありますが……これも『ダービー』と銘打たれてしまった以上―――」
「ボンド、さん……!?」
「ここからはロータス殿も一蓮托生……!ロータス殿とて負けたくないんでありましょう?ならば自分達は『戦友』であります!勝とうじゃありませんか!!ロータス殿は結婚のため!自分は自分が勝ちたいがため!!目指すところは同じであります!!だから!!これをカッ喰らって反撃の狼煙とするでありますッ!!!」
にんじんもち……おしながきには載っていない、この『餡餅庵』の裏メニュー……!知る人ぞ知る隠れた銘菓であります……!!
こんな形でお目にかかろうとは……こんな修羅場でなければじっくりと味わいたいところでありますが、断腸ッ……!
いただくであります!!
……………………!
ウマい……!
ウマすぎるであります……!
にんじんがこうまで五臓六腑にパンチするとは……ッ!!
そして、全身にみなぎるこの感覚は……!
―――ヒトやウマ娘が、己の中に残された力を振り絞った時にのみ発揮される、運命すらも変える力―――
人、それを――――――
―――――――――
| 大食いダービー模擬戦 in 餡餅庵 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | チーム<最強☆ゴルシちゃん軍ローズ> | ゴールドシップ | 22 | ||||
| メジロマックイーン | |||||||
| 2位 | チーム<???> | ミホノブルボン | 18 | ||||
| ライスシャワー | |||||||
| 3位 | チーム<アルストロメリア> | ロータスランド | 15 | ||||
| ディープボンド | |||||||
―――――――――
「猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!」
ボンドさん、先程までの表情は何処へやら、まるで野獣のような目でお餅を食べまくり始めましたわ……普段はまるで小動物のような、<アルストロメリア>のマスコット的な彼女が……
それも、あんころもちにこだわらず、あらゆる種類のお餅を、恐ろしい勢いで……
なけなしのにんじんもち……それがボンドさんを目覚めさせたとでも……?
「……!足を止めては居られませんわ!いち早くボンドさんにお餅を―――きゃっ!?」
何かを踏んで転んでしまいましたわ……蓮華としたことがシップ様❤にこんな失態を……❤❤
「……いたた……!?こ、これは……!?」
次に蓮華が見たのは―――目を疑う光景でしたわ……
《おおっとこれは!?フィールド一面にバナナの皮が撒き散らされている〜!?一体誰の仕業だ〜!?》
蓮華が目を離したほんの一瞬の間に、おびただしい数のバナナの皮……
カオスですわっ……!!
「……いや〜、走り回ってるとハラ減るんだよなぁ。栄養補給にゃ丁度いいぜ」
その御声はっ❤
「ダイエットにも最適な……ハヤヒデと“貴婦人”の大好物だ☆」
《ゴールドシップの仕業だ〜!!ゴールドシップ、懐に忍ばせていたバナナを食べて皮を投げ捨てていた〜!!しかし100本以上のバナナをどうやって懐に忍ばせていた!?そもそもポイ捨てとはマナーが悪いぞ!!》
「え〜?だってルールにゃ『バナナ持込禁止』とか『サーバーは競技中のおやつ禁止』とか『マ◯カーでバナナの皮使うの禁止』なんて載ってねーじゃん。ド◯キー使えねーぢゃん。クッ◯゜かワ◯オ使うしかねージャン。ハヤヒデがケルヌン◯スになっちゃうJAN。まなみせんせー、バナナはおやつに入りますかー?」
《しょ、少々お待ち下さい……まなみせんせーとは……??パラパラパラ……(ルールブック確認中)た、確かに載ってないですね~……♪失礼しました♪……ゴホン、さてこれは大変な展開になった!これだけ仕掛けられたバナナの皮、これを避けるのは至難の業!ロータスランドとミホノブルボン、進路が狭まっている!!》
なんという……❤
なんという御業……!!❤❤
瞬時にこれだけのバナナの皮を顕現❤させるとは、神にも出来ぬ超絶技❤❤❤
矢張り、シップ様❤は蓮華の常識の更に上を往くのですね……❤❤❤“素敵”という二文字だけではとても言い表せませんわ〜〜!!!❤❤❤
「ウマボーグ、今こそ“あの機能”の発動承認だ!!プログラム・ドラァァァイヴ!!!存分に暴れて来ぉい!!」
「了解―――起動します」
《ミホノブルボン、敷き詰められたバナナの皮を的確に避けながら皿を確保していく!なんという正確な動き!まったくヨレておりません!!置かれているバナナの皮も微動だにせず、さらに運んでいる皿の上の餅も動かない!!完璧な配膳だ!!》
《今すぐウチに雇いたいくらいだねぇ》
「ちょっとおかみさん!?」
「わたしたちがいるんですぅ〜」
《ズンダモチさんとボタモチさんから抗議が入ったところで窮地に立たされるチーム<アルストロメリア>!!しかしディープボンド、怒涛の追い上げ!ここに来て驚異の追い込み!!メジロマックイーンとライスシャワーに追いすがる!》
蓮華に出来るコトは唯一つ―――
一皿でも多くのお皿をボンドさんに届ける―――
それだけですわ!
「パクパクですわ!パクパクですわ!パクパクですわ!パクパクですわ!パクパクですわ!パクパクですわ!パクパクですわ!」
「ついてくついてくついてくついてくついてくついてくついてくついてくついてくついてくついてくついてく―――」
《メジロマックイーン、これは逃げ切り態勢に入ったか!?残り3分で更にペースを上げた!!そしてその後方から僅か2
勝手言ってくれやがりますけれど―――
ここでお餅を喰らっているのは、『3人』なのですわ。
ですわよね―――ボンドさん。
「猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!」
《だが
蓮華の―――
蓮華の夢―――❤
勝利とともに手に入れる愛❤―――❤❤
「パクパクですわ!パクパクですわ!パクパクですわ!パクパクですわ!パクパクですわ!パクパクですわ!パクパクですわ!」
「ついてくついてくついてくついてくついてくついてくついてくついてくついてくついてくついてくついてく―――」
「猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!猛威!」
届いて―――ください―――❤
―――――――――
《メジロマックイーン!!メジロマックイーン
その実況が聞こえた瞬間―――
自分は我に返ったのであります。
そうしてスコアボードを見ると―――
―――――――――
| 大食いダービー模擬戦 in 餡餅庵 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1着 | チーム<最強☆ゴルシちゃん軍ローズ> | ゴールドシップ | 56 | ||||
| メジロマックイーン | |||||||
| 2着 | チーム<???> | ミホノブルボン | 55 | ||||
| ライスシャワー | |||||||
| 3着 | チーム<アルストロメリア> | ロータスランド | 49 | ||||
| ディープボンド | |||||||
―――――――――
ふらりと全身から力が抜けていったのであります……
「や……やっぱりこうなったでありますかっ……も、もう食べられないであります……けぷっ」
「いやー、オメーもよく頑張ったよ。マックとお米についてこれるヤツなんて、オグリかスペぐらいだと思ってたぜ」
「ゴルシ殿……」
「わ……私……またやってしまいましたわ……スイーツを目の前にして我を忘れて……」
「心配すんなマックちゃん……野球観戦の時も我を忘れてっから」
「ぐ……」
「でもま、テイオーやカイチョーに自慢できるぜ?やっぱ最高だ、オメーはさ……」
「マックイーンさん……ライスも減量に付き合うから……ね?」
「ライスさん……」
「マスターが短期間減量用のスペシャルプログラムを用意しています。一緒に頑張りましょう」
「ブルボンさん……ありがとうございます……」
「―――さて」
ゴルシ殿が向き直った先には―――ロータス殿。
やはり……悔しかったのでありましょう……目を真っ赤にして泣き腫らしているのであります……
「ロ、ロータス殿……申し訳ないでありますッ……!!自分の力が及ばずッ……!!」
「…………いいえ……ボンドさんは……格上のウマ娘の皆様を前にしても……怯まず、勇敢に、雄々しくっ……堂々と戦って下さいましたわ……!そんなボンドさんを咎められるわけ……ありませんわ……!」
「……!!」
人生を懸けた大勝負、それに敗れた心境は如何程のものか……
それなのにこの方はこんなにも気丈に……自分を一切咎めもせず……
「ロータス殿……自分……自分、はッ……」
涙が……涙が止まらないであります……ッ。
未だ本番には遠い日の模擬戦……それなのにこの悔恨の情ときたら……
「……悪ぃけど」
そんな我々の上から、ゴルシ殿の声が落とされるであります。
「……勝たせてもらったぜ。約束通り、
「わかりましたわ……」
ロータス殿は、片方だけ署名された婚姻届をどこからともなく取り出したであります。しばしそれをじっと見つめた後―――
「……せめて、蓮華自身の手で、散らさせて下さいまし」
「わかった。ハサミ、使うか?」
「……何時になく御優しいんですのね、シップ様。御気持ちだけ頂戴致しますわ。しかし蓮華の
ふわりと、ロータス殿が婚姻届を放ると、右手で横薙ぎ手刀一閃。
一拍置いて、婚姻届が―――
細切れになって散っていったであります……
「さようなら…………蓮華の青春……………………」
もはや、一撃の手刀で婚姻届が細切れになったコトにツッコミを入れる者は皆無、なんとも言えぬ空気が場を覆っているであります…………
「……………………では❤改めまして❤」
ロータス殿は気持ちを切り替えるようにぱん、と両手を合わせると、カバンをごそごそと漁りだしたであります。皆一様に首を傾げていたでありますが、やがてロータス殿が取り出したモノは―――
「蓮華はこうして愛の試練❤を乗り越え、さらに『やべー女❤』へと近づきましたわ❤❤そういう訳で……❤❤さぁシップ様❤❤❤この婚姻届❤に聖なる御名前を❤❤❤」
「ちょっと待てーーーーーーーー!?!?!?!?!?」
……我々は何を見ていたのでありますか……??
今しがたロータス殿がその手で細断した婚姻届が、またロータス殿の手に細断前の状態で握られてゴルシ殿に突きつけられている―――……??
「いやいやいやいやいや!?オ、オメー!?そ、そ、
「いやですわ❤婚姻届❤は蓮華とシップ様❤が永遠に結ばれる❤為に必要な“聖約書”❤❤そんな大切なモノがこの世に一通しか無いなんて勿体無いではございませんか❤❤❤こんなコトもあろうかと❤常に何枚も持ち歩いているのですわ❤❤」
「念の為に訊くけどよ……その婚姻届、何枚持ってる?」
「う〜ん……❤100枚から先は覚えておりませんわ❤❤❤」
「オメーはどこぞの羅将かッ!?」
「それにシップ様❤先程、蓮華達が敗れた暁には
ロータス殿は先程とは打って変わってケロリとして、満面の笑みをゴルシ殿に向けて―――
「『シップ様❤との結婚❤❤を諦めろ❤❤』とは仰られておりませんわぁ❤❤❤❤」
「………………………………」(ち~ん)
―――やっちまった。
誰の目にも、ゴルシ殿の心中が読めた気がしたであります。
ゴルシ殿は愕然とした顔で絶句し、両膝をつき、天を仰いだのであります…………
「確かに蓮華達は敗北致しましたので婚姻届❤の
……なんだったのでありましょうか、今回の模擬戦ゎ……
量産型の婚姻届……ロータス驚異のメカニズム……
とりあえず自分の涙、返してほしいであります……
「いつもヒトを巻き込んでオモチャにしているゴールドシップさんには良いお薬ですわね。私は美味しいお餅がたくさん食べられましたので満足ですけれど」
「―――――――――――――――」
「ブルボンさんがフリーズしちゃってる……」
「そ、その……いろいろと申し訳ないであります……」
「お気になさらなくても結構ですわ。模擬戦として、良い経験も積めましたし……後で体重計に乗るのが怖いですけれど」
「本番へ向けての微調整も必要と判断できました」
ブルボン殿、割と早く復帰できたのでありますな。
……ん?“本番”ということは……??
「もしや、ブルボン殿も『ハチャメチャGP』に!?」
「はい。マスターの許可も得られましたので。『チーム<エリンジウム>』リーダーとして、正々堂々、相対しましょう」
「ライスもね、ビワハヤヒデさんたちと一緒に出るからね。ライスたち『チーム<クリサンセマム>』も負けないよ!」
実は我々、チーム登録したその日以来、『ハチャメチャGP』のエントリーサイトを見ていないのであります。
自分たちチーム<アルストロメリア>の知らない裏で、有力なウマ娘の先輩殿達が次々と名乗りを挙げていると思うと、油断ができないでありますな……
「今日は蓮華とシップ様❤の愛の日々❤❤新章開幕の記念すべき日なのですわっ❤❤❤さぁさ、皆様お集まりになってくださいまし❤❤記念写真を撮りますわ❤❤あ、そこの御方❤撮影をお願い致しますわ❤❤」
ロータス殿、負けたというのになぜこんなにも嬉しそうに……
しかしまぁ、一人の人に一途になれるというのは、ある意味羨ましいのかもしれないでありますなぁ……
……え?あんころもち?……いやぁ恥ずかしいでありますなぁ♪
今回は競技でありますからして、決して
今までもこれからも、自分はあんころもち一筋なのであります♪
「それじゃ、撮りますよー」
お餅もお腹いっぱい食べられたでありますし、ロータス殿もなんだかんだで上機嫌。
負けはしたでありますが……模擬戦も経験できたので、自分としては実入りの大きな一日になったでありますな。
それにしても……何か別の生物が入っているようなおなかになっちゃったであります……
明日、
自分も、ブルボン殿の減量プログラムに参加させてもらうでありますかなぁ……
―――――――――
「ありがとうございました❤」
「どういたしまして。……見てて楽しかったわ」
「本番の『ハチャメチャGP』も、どうぞ御覧くださいませ❤」
……最後にロータスランドから写真撮影を頼まれてちょっとびっくりしたけれど、いいモノが見れたわ。
『勝負』に懸ける情熱と競争本能、人間を遥かに超えた身体能力、そして―――
「……ウマ娘だけが発揮できる、不可思議な『
「長谷部先輩、早坂先輩からLANEです」
クニコちゃんが小声で伝えてくる。私は自分のスマホのアプリを開いた。グループ内メッセージを開くと、目を疑う一文があった。
「『トレセン学園の生徒の中に“ヤツ”との内通者がいる』……ですって……!?」
「どうします、先輩……?」
「どうもこうもないわよ……私は冷峰の生徒なんだし、トレセン学園に干渉できる権利は無いわ……」
おそらく、早坂君が言っていた『ウマ娘の協力者』が情報ソースなんでしょうけど、今回は相手のやり方も手が込んでいる。そうまでして“
『ハチャメチャGP』まで残り1ヶ月……もうイベントを中止させることは不可能に近い。けれども、イベントから“アイツ”の手を引き離すための手段はできるだけ講じないと。
とはいえ―――
こっちにも出来ることには限界があるわよ、ルドルフ……
ざっくり未実装ウマ娘紹介
シュシュブリーズ
放送部所属。
トレセン学園やその近辺でウマ娘同士のバトルが勃発すると、どこからともなく現れて実況を始める『辻実況』。
サクラモチ・ズンダモチ・ボタモチ
『餡餅庵』の看板ウマ娘3人組。
今回はたづなさんの代わりにお料理の配膳を担当。
ちなみに全員、実在した競走馬名である。なんなら『アンコロモチ』もいた。
ロータスランドのヒミツ①:『氣』を操る氣功術の達人。日本人の兄弟子がいるらしい。
ロータスランドのヒミツ②:ゴールドシップとの婚姻届を寮の自室に大量に常備している。その数不明。
ディープボンドのヒミツ①:田舎のおじいちゃんが大好きで、週に一度は手紙を出している。
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大変お待たせいたしました……
執筆中に体調を崩したり、演出に凝ってスコアボード作成にまで手を出した故に、なんと約1万6千字という大増量となりました。
お楽しみいただけたのであれば、胃を痛めたり下痢しながら気合を入れて書いた稚拙も嬉しいというものです。
そして稚拙がゴルシを書くといつもツッコミ役になっちゃうのは何故でしょーか……誰かゴルシを上手く書くコツを伝授してくだせぇまし……
次回、熱き血のドッジボーラーが来る。