ウマ娘 バーニングフェスッ!! -アルストロメリア・チャレンジ-   作:稚拙

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今回、「痛い」表現があるのでご注意を……


13枠 スズカランブルッ!!

「……『ウマドッジチャンピオンシップ』は、インターハイや国際試合でも採用されている『ランブルドッジルール』を基本として行われる。おさらいも兼ねて、説明するぞ」

 

 こうじさんは懐から手のひらに収まるくらいの平べったい、回路みたいな模様が描かれた透明なシールのようなモノを取り出した。

 

「『ランブルドッジ』では、内野の選手全員がこの超小型ショックセンサーを首筋に着けて試合をする。このセンサーと、ボールに内蔵された速度センサー、そしてコート外のカメラの映像……これらの要素をAIが総合的に判断して、ボールをぶつけられた際の“衝撃値(ダメージ)”を数値化する。そして内野の選手にあらかじめ設定された『HP(体力)』が0になると、ようやくここでアウトになる……というワケだ。『格闘制ドッジボール』と呼ばれることもあるルールだ」

「ほわぁ……なんだかゲームみたいで面白そうですね〜」

「確かにこのルールなら、1回当てられただけでアウトにはならないし、逆転のチャンスも狙えるわね」

 

 メジロブライト先輩とメジロドーベル先輩がメモりながら頷く。

 

「だが今回、ウマ娘の皆が試合をする『ウマドッジ』は変則ルールになる。まず……試合は個人戦、外野はいない。そして次に、試合人数は最大4人……コート内にいる自分以外は全員敵ってコトだ。ある意味わかりやすいな。試合時間は5分✕3セット*1、開始1分で2個目のボールが投入される。あと、3セット目開始時点で2個目のボールが“スペシャルボール”に変更される……だが……」

 

 ここでこうじさんは何故か眉をひそめた。

 

「部外者の俺が言うのも何だが……大丈夫か……?」

 

 視線を促してくるその先に、例の“スペシャルボール”が何個か置いてあった。練習用に用意されてるモノ、なんだけど……

 

「『でかでかボール』*2や『かるかるボール』*3はまだわかる……だが『おもおもボール』*4や『ぐるぐるボール』*5とか『ターボボール』*6とか……さっきのラスカルじゃないが、本気で心配するぞ……選手生命以前に死にはしないのか……?」

 

 ……確かに。

 あんなモノをウマ娘のパワーで投げ込まれた日にゃ、ヒトもウマ娘も等しくこの小説だと書けないコトになるだろーケド……

 

「我々生徒会でテストマッチをしてみたが、問題は無かったぞ」

 

 エアグルーヴ副会長さんがそう言うなら……

 大丈夫だ、問題ない。

 

「そ、そうか。それならいいんだが……他のプレイヤーを全滅させればその場でセット終了、長くコート内で生き残った順にポイントが加算されて、それを3セット行って最後にポイントが最も多かったプレイヤーの勝ちだ。試合時間内に2人以上残っていた時は、残り体力の一番多いプレイヤーが勝者となり、生き残りのプレイヤーは残り体力で順位が判定され、ボーナスポイントが加算される」

「……となれば、局面によっては逃げ回るのも策の一つでありますな……」

「そうでもないぞ。他のプレイヤーにボールをぶつければダメージ分がポイントとして加算されるし、2個目のボールが入ってから、最後にボールを手放してから30秒間ボールを持っていなかったプレイヤーは、ペナルティとして体力とポイントが半分に減らされるからな。*7逃げ回るのも程々にしておいた方がいいだろう」

「そんなぁ……」

「今回の模擬戦だが、わかりやすく1セット10分勝負、体力は全員「400」、2個目のボール投入は開始3分、スペシャルボールは省略とさせてもらう。さて、誰からやりたい?」

「はいはーい!わたしやりまーす!ウチのチームだとわたししか経験者いないからねぇ。ココはわたしが後輩ちゃん達にカッコいいお手本見せようじゃないの」

 

 くまさんがいの一番に名乗りを挙げた。今回の“コーチ”のコトもそうだけど、くまさんは『ドッジ』にかなり思い入れがあるみたい。

 

「姉さんも……やってみない?」

 

 と、くまさんはスズカ先輩に投げかけた。

 

「え……?」

「ほら、さ……わたしが編入してから、あんまし姉妹でこういうの、してこなかったじゃん?だからたまには、さ。それにレースじゃ姉さんに勝てないけど―――」

 

 くまさんの目が、暗く燃えるのが見えた―――

 

「『ドッジ』でなら、姉さんの()()()()()()な気がするんよね」

 

 瞬間。

 ぴくりと、スズカ先輩の眉が動いた。

 

「やるわ」

「いいのか?スズカ……その、ルールは理解しているか?」

「この間、みんなとあれだけ練習したんですもの。大丈夫よ……『ドッジボール』でも……()()()()のは私だから」

 

 スズカ先輩、瞳に火が入ってる……くまさんのことだし、さっきのは確実にスズカ先輩に火を点けるための誘い文句だよねぇ……スズカ先輩の焚き付け方を熟知してる。流石は妹。

 

「そうこなくっちゃ。ノッてくれて嬉しいよ」

「面白そーじゃん!ま、勝つのはオレだけど!年上でウマ娘だからって、手加減しねーぜ!」

 

 ……なんて言ってるケド……桜くん、マジのマジで大丈夫〜?スズカ先輩がじろりと見てるゾ。

 

「……決まったみたいですね。では、最初の試合はボクが相手になります」

 

 そう言って前に出てきたのは、今回来てくれたドッジボール部の5人のお兄さんの中でも、どこか頼りなげでナヨっとしてるひろしさん。

 

「桜くんの言った通り、実戦形式なので遠慮は要りません。皆さん、思い切りやりましょう!」

「模擬戦と聞いてやって参りましたでございますです〜!」

 

 出たな、辻実況。

 こないだのロータスちゃんとボンドちゃんの時もそーだったらしいけど、放送部のコたちのこの行動力の化身っぷりよ。どこから聞きつけてくるんだか。

 

「今回の実況は不肖このワタクシ、大井よりやって参りました『ライタ』ことレライタムが務めさせていただきますでございますです!熱血高校ドッジボール部の皆さんには解説をお願いしますでございますです!」

 

 独特な語り口のコが来たなぁ……面白そうではあるけれど。

 ……それにしても。

 

「くまさん、いいんすかぁ……?あのスズカ先輩にあんなタンカ切っちゃって……いくらお姉さまだからって、あからさますぎっすよ〜……先輩、小学生にもメンチビーム撃っちゃってるじゃないっすか……」

「いーのいーの。姉さんって前ばっか見てて、つっついてやらなきゃ横向かないんだから。どーせ『大障害』しか眼中になさそうだし。副会長たちもどうにかして姉さんに他の競技にも目を向けさせたがってるのがモロバレなんよね。それに……」

「……?それに、なんすか?」

「……姉さんにフンギャロ言わせたいの、割と本気なんよ」

 

 いたずらめいてるのか、それともマジなのか。

 あたしにくまさんの本心は未だにわからない。

 でも、ほどほどにしといた方がいいんじゃないかなぁ〜……コレ、本番じゃないんだよ〜?

 

 

\ダン!/

 

1枠 ラスカルスズカ

     チーム<アルストロメリア>

 

\ダダン!!/

 

2枠 サイレンススズカ

チーム<フリージア>

 

\ダン!/

 

3枠 ひろし

     熱血高校ドッジボール部

 

\ダダン!!/

 

4枠 桜 龍太朗

ファイアーブレイブス

 

 

 

\ドン!!/

 

 

ウマドッジチャンピオンシップ

 

模 擬 戦

 

 

\ドドン!!!/

 

トレセン学園 体育館 特設コート

10分間 晴 コート 良

 

 

\ドァァァァァン!!!!/

 

闘 球 開 撃

 

―――――――――

 

《始まりました!今回の模擬戦、本番でないのが実に惜しい組み合わせ!宿命の姉妹対決となりましたサイレンススズカVSラスカルスズカ!まず最初にボールを取るのは―――》

 

「オレだーーーーーーッッッ!!!」

 

 おっと、感動の姉妹対決にお水挿しちゃいますか小学生くん。

 そーいや“番長”、言ってたっけか……『見込みがある小坊がいる』って。それがこの子かなぁ?

 

「ウマ娘と試合すんのは初めてだけど、手加減無しで最初からトバしていくぜェッ!!」

 

 助走をつけて投げられたボールが青く光ったと思うと、投槍みたいな速度で突っ込んできた。

 

 ―――『貫通シュート』!?でもこの球威っ……

 警戒はしたけど手が追いつかず、わたしはとっさに身をよじって躱した。

 

 ―――チリッ……!!

 

 ……はずだけど、左の指先に『かすった』……!避けきれなかったか。

 しかしこのシュート、名前通りに1人に当たっただけでは止まらない―――

 

 ―――ドゴォッッ!!!

 

「!?」

「ごふっ」

 

 凄い音に振り返ると、姉さんの鳩尾にシュートが突き刺さり、その勢いのままU型特殊合金のフェンスまで吹っ飛んで叩きつけられる様が見えた―――

 

「か、はっ………………――――――」

 

《あぁっといきなり直撃〜!!サイレンススズカにまともに必殺シュートが入ったァ!!》

 

 さしものわたしもちょっとだけ血の気が引いたわ……

 見た目からして線の細い姉さん、紙装甲もいいところ……小学生だからって油断してたね……

 

―――――――――

 

TIME 9:30

ウマドッジチャンピオンシップ 模擬戦
1枠ラスカルスズカ0pt396/400
2枠サイレンススズカ0pt300/400
3枠ひろし0pt400/400
4枠桜 龍太朗104pt400/400

 

―――――――――

 

 

《サイレンススズカに『100』、ラスカルスズカに『4』のダメージ!!まさに致命的直撃(クリティカルヒット)!!体力の四分の一を消し飛ばされたサイレンススズカ、立ち上がれるか〜!?》

 

「スズカッ!!」

「ス゛ズ゛カ゛さ゛ぁ゛〜゛〜゛ん゛!゛!゛」

 

 10秒くらい、壁にもたれかかったままピクリとも動かなかった姉さんだったけど、副会長とフクキタルの叫びに―――

 

「………………大丈夫よ。ちょっと、びっくりしただけだから」

 

 ―――立ち上がってきた。

 姉さんもやはりウマ娘、傍目ではヤバ目に喰らってるように見えたけど、実際そんなもんか。

 ……でも一瞬、気絶してなかった?

 

「……平気?アニメみたいな絵面だったけど」

「これくらいは、ね。貴女の後ろに立っていた私も悪いわ」

 

 軽く言葉をかわしつつ、わたしはゆっくりと姉さんから間合いを離す。

 さて、今度は姉さんの番。誰を狙ってるんかねぇ。

 ―――目が合った。

 ……でもスルーか。となるとヒロシ兄さんか小学生くんか。巻き添え喰らわないように射線から外れてっ、と。

 

「……っ!」

 

 ターゲットはヒロシ兄さん。おもむろに放ったボールは何の変哲もないフツーのシュート。さしもの姉さんも必殺シュートは身につけてないか。しかしなかなかの球威―――

 

「甘いですね」

 

 ヒロシ兄さんが不気味に笑んだ瞬間、姉さんのシュートは簡単に兄さんにキャッチされた。

 さらにそれから1秒も経たぬ刹那、兄さんは姉さんの方向を見たまま―――

 わたしにシュートを放った。

 

「うっそ……!?」

 

 ノールック、完全な不意打ち。咄嗟にキャッチしようとしたけど、受けたボールはとんでもないスピンがかかっていて、受け止めてなお回転が止まらない。

 

「……っっ!!」

 

 たまらずわたしはボールを上へと弾いてしまった。

 ―――“いくら”喰らった……!?

 そうアタマに走らせようかと思考を割いた、その瞬間だった。

 

「イィィィヤッホォォォォォ!!!」

 

 なんと身軽にも、小学生くんはスーペリアダイヤモンドガラスの外壁を蹴って高々と跳び上がり、上へ吹っ飛んだボールと空中でランデブーを果たすと、すぐさま直下にいたわたしへとボールを振りかぶり―――

 

 脳天に隕石が落ちたかの衝撃とともに、わたしの視界の中に―――

 

 星が、舞った。

 

―――――――――

 

TIME 9:00

ウマドッジチャンピオンシップ 模擬戦
1枠ラスカルスズカ0pt306/400
2枠サイレンススズカ0pt300/400
3枠ひろし10pt400/400
4枠桜 龍太朗184pt400/400

 

―――――――――

 

《ひろしのスピンがかかったシュートを受け止めきれず、さらに桜のマッハシュートが脳天直撃ーー!!ラスカルスズカに合計『90』の大ダメージ!!思わず両膝から崩れ落ちたーーーー!!開始からわずか1分、ウマ娘2人が人間相手に翻弄されている!!》

 

「く、くまさぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 真上から超高速のシュートを頭のてっぺんに叩き込まれ、白目を剥いて大口を開けたくまさんがぐらりと倒れるのを観覧席から見ていたあたしは、思わずゾッとして叫んでいた。

 それでなくてもさっきから、シュートを腹パンみたいに撃ち込まれてダウンするスズカ先輩とか、スズカ先輩大好きなスペお姉さまが見たら間違いなく失神モノの光景だよ、コレ……

 もはやウマ娘じゃなくってバ◯かキャ◯゜翼じゃんってくらいの大惨事になってる。プリティーもダービーもへったくれもありゃしない……

 

「いちろうの旦那……普通ドッジボールは頭への攻撃は無効、と聞いておりやすが……」

「残念ながら、『ランブルドッジルール』では頭部を含む全身が攻撃範囲となります。仮令(タトエ)顔面だろうと脳天だろうと、当たればダメージ判定を受けます」

「……………………“顔面セーフ”は小学生までのルールだ」

 

 クワイトちゃんの質問に、いちろうさんとみつひろさんが無情な答えを返した。アイドルもやってる顔が命のウマ娘の顔面を何だと思ってるんだ、マスク・ド・テーストはッ。

 

「あの、これって個人戦ですわよね?先程のプレイからひろしさんと桜さんが協力しているように見えるのですが……」

「ま、まさか2人がかりでウマ娘のお二人を先に倒そうとしているのでありますか!?」

 

 そうそう、それそれ。ロータスちゃんとボンドちゃんがあたしが言いたいコトを訊いてくれた。よもやあの2人、グル!?

 

「そりゃ違うな。……少なくとも桜はよ。ありゃ好き勝手やってるだけだな」

 

 しんいちさんが笑って言う。

 

「……そもそもの話になるが……『ウマ娘』は『ドッジボール』というスポーツに根っから向いていないからな」

「……どういう意味だ、それは?」

 

 副会長さんの鋭い視線がこうじさんに刺さる。こうじさんの言葉を後ろ向きに捉えたのかもしれない。

 

「“そういう意味”じゃないさ。アスリートとしての(サガ)というか……スポーツとしての性質……だろうな。ドッジボールは元々チーム戦だ。戦略や戦術を組み立てて、如何に敵チームの布陣を崩すかの勝負だ。故に人間同士のコミュニケーションが常に求められるコトになる。だが―――ウマ娘のレースはどうだ?」

 

 副会長さんはハッとした。

 

「……!同じバ場に立っている者……同じゲートに入っている者は……全員……」

「そうだ。いくらプライベートで仲が良くても、仲間や友人たちとチームで汗を流しても、フィールドに出てしまえば自分以外は全員……“敵”だ。だから、“試合で他のプレイヤーと連携する”概念を知らない、まして“他人に力を向けてはならない”ウマ娘にとって、ドッジボールは鬼門と云えるな」

「し、しかしですよ!?『ウマドッジ』は個人戦ですっ!それほど問題ではないのでは!?」

 

 フクキタル先輩の言葉に、こうじさんは「ふむ……」と頷いて、少し考えてから。

 

「確かにそうだな。だからといって、『他のプレイヤーのプレイを“利用”してはいけない』訳ではないだろう?」

「それは……!?」

「普段から連携に慣れているドッジボーラーは、ボールや他のプレイヤーの挙動……いわば“流れ”を読んでプレイが出来るもんだ。だからこそ、他のプレイヤー……味方だけじゃなく、敵の動きすら利用して、意図せず『連携しているように見える』プレイもお手の物、というわけさ。もっとも……ひろしは“そう仕向けてる”フシがあるがな」

「“仕向けてる”……?どういうことかしら?」

 

 ドーベル先輩が首をかしげる。

 

「ひろしはしんいち程シュート力も無ければ、みつひろ程動体視力とキャッチ力があるわけでもない。そしていちろう程機敏に動けるわけでもなく、まして『主将(キャプテン)』のような万能選手(ユーティリティプレイヤー)じゃぁない。だが、ひろしは一度たりとも二軍落ちしたことはない……ひろしにしかない強みがあるんだ。それを見抜けない限り、たとえ身体能力の優れているウマ娘でも、ひろしを攻略することはまず無理だろう」

 

 そしてこうじさんは、こうも付け足した。

 

「……俺がもし、熱血ドッジボール部を相手にするなら―――まず最初に狙って潰すべきなのは……ひろしだ。アイツは敵に回すと恐ろしいぜ?」

「えっ……!?」

 

 そんな……あんなナヨっとした没個性なお兄さん(失礼)が、熱血ドッジボール部で最恐……!?

 最恐のお兄さんとスーパー小学生……!

 くまさんとスズカ先輩、大ピンチだよ〜!!

 

―――――――――

 

「ラスカル!?ラスカルっ!」

 

 ……姉さんの声が頭の上から降ってくる。

 なんだ、わたしも気絶しちったのか。

 たはは…………情けねえ。

 

「…………大丈夫。立てるよ」

 

 わたしは両の頰をばちんと叩いた。気合、リロードだ。

 

「……まさか小学生くんがかなりの使い手だったとはね……正直甘く見てた。……ゴメンねぇ」

「へへっ!番長の一番弟子、なめんなよ!」

「決め台詞もきっちり継承かぁ……カッコいいよ、少年❤」

「べ、別に褒めても手加減してやんねぇぞ!?」

 

 顔が真っ赤だゾ。ふふっ、ウブだねぇ。

 

「……姉さん。さっきおっかなびっくりで手を抜いたでしょ」

「!……貴女に隠し事は出来ないわね」

 

 球威はあるように見えたけど、ありゃ本気の半分も出しちゃなかったよ。まぁドッジボールなんてほとんどやったことのないだろう姉さんだから、力加減もわかんなかったんだろうけどね。

 

「身を以て感じてくれたと思うけど……本気出さなきゃ無事に終われそうにないよ、コレ。下手こくと地獄見えるわ」

「……そうかもしれないわね。……けれど」

 

 姉さんの瞳に、翠色の焔が灯った―――

 

 

「地獄ならもう見たわ」

 

 

 ……あぁ、そうだった。

 走ることが何よりも好きで、生き甲斐だった姉さんは、一度『走れなくなる』って『地獄』を見てきたんだった。

 ウマ娘にとっての『死の宣告』……それを姉さんは超えて、ココに生きて立っている。わたしも、その苦しみを間近で見た。

 “それ”に比べりゃ、ドッジボールなんてお遊びだねぇ。肝据わっちゃってるわ。

 

「……流石……地獄帰りの女は目力が違うねぇ」

「茶化さないの。……見せましょう。私達の力を」

「そだねぇ。“ウマ娘流ドッジボール”、やってみましょっか。……というわけで姉さん」

 

 わたしは姉さんの目を真っ直ぐ見て―――

 

「走ろっか」

 

―――――――――

 

《さあラスカルスズカ立ち上がり試合再開!残りはまだ8分半、戦いはまだまだ序盤!……おっと?ラスカルスズカとサイレンススズカ、何やら話しているが……早くも共闘の提案か?》

 

 くまさんとスズカ先輩、ほんの10秒くらい何かを話してたけど……なんだろう?

 ひろしさんと桜くんの即席タッグに、姉妹のアツい絆で立ち向かう!……って感じかな。アグネスデジタル先輩やビコーペガサス先輩が好きそうなノリだけど。

 ボールを持っているのはくまさん。その隣で、スズカ先輩はゆっくりと前傾姿勢を取って……って、アレって!?

 

《これはどうしたことか!?サイレンススズカ、レース前さながらのスタート態勢を取った!?これはドッジボールの試合だぞ!?》

 

「ス、スズカ!?何を考えてるんだ!?」

「レースじゃないんですよ!?そっちは不吉な方角ですっっ!!」

 

 副会長さんとフクキタル先輩が驚いて、あたし達が唖然とするけど、スズカ先輩は聞こえてるのかいないのか、ただまっすぐ、ひろしさんと桜くんを見据えている……

 でもそれ以前に、この特設コートはウマ娘の全力ダッシュには狭すぎる!走り出した瞬間には壁に激突、この小説では書けないコトに―――

 スペお姉さま号泣展開だけはやめてくださいよスズカ先輩―――!

 そして―――

 

《スタートしました!?この屋内競技場で『ひとりトゥインクル・シリーズ』を始めてしまったサイレンススズカ!!やはり一瞬で外壁に到達、このままでは―――こ、これはッ!?》

 

 その光景を見たくなくて、あたしは思わず目と耳を伏せていた。しかし実況の驚き声に、おそるおそる目を開けると―――

 

《サイレンススズカ、ただひたすらに外周に沿って走る!そしてラスカルスズカもサイレンススズカを追って走り出した!》

 

 走り回るスズカ先輩を絶妙にかわしながら、くまさんもコート内を駆け回り始めた……!?

 

《この脚!この(ハヤ)さ!これこそウマ娘!スピードで撹乱する作戦か!?》

 

 ……あたしの知ってるドッジボールと違う。

 と言うより、さっきまでドッジボールだったけど、いきなりレースか併走トレーニングが始まったような感覚だ。

 くまさん、スズカ先輩に何を吹き込んだの……!?

 

《今ここにトゥインクル・シリーズVSドッジボールの異種格闘技戦が始まろうかというこの状況、客席もにわかに騒然としておりますが……こっ、これは!?》 

 

 そしてついに―――

 

 あたしは……あたし達は―――

 

 

 ウマ娘の『新たな可能性』を目撃することとなった―――

 

 

 

 

壁だーーー!?

 

 

 

サイレンススズカとラスカルスズカが―――

 

 

 

 

()()()()()()()ーーーーーーー!!!!

*1
原作たるゲーム版では2分✕3セット。

*2
通常のボールの3倍程、バランスボールほどの大きさの巨大ボール。当たり判定が大きい。

*3
軽いゴムで作られたボール。通常のボールよりも勢い良く飛ぶが、威力は通常のボールよりも劣る。

*4
鋼鉄製のキケンな重量級ボール。当然ぶつけた際の威力は通常のボールより高くなるが、球速は通常のボールより遅くなる。

*5
原作ゲーム版の『必殺ボール』に相当。プラズマスピンモーターを搭載しており、投げた瞬間激烈な回転運動を開始して捕球を困難にする。

*6
ゲーム版にはないオリジナルボール。投げた瞬間小型ブースターが点火、どんなヘッポコ投球も剛速球と化す。ツインターボ「ターボが名前の由来だぞ!」なお、あからさまにゲーム的な『いただきボール』(ぶつけた相手が蹄鉄コインをばらまく)は本作には登場しない。

*7
ゲーム版にはない本作オリジナルのペナルティ。『ビビり散らかして逃げ出すような臆病者に用はない』というマスク・ド・テーストの思想が反映されている。




ざっくり未登場ウマ娘紹介

レライタム

 大井からの留学生。通称ライタ。
 シュシュブリーズの辻実況に魅せられて自らも放送部に入った。
 丁寧すぎる口調が特徴で、実況はまだまだ修行中。

―――――――――

気が付いたら前回投稿から1ヶ月経っちゃってました……

実は今回、もっと書いてから投稿しようと思ったのですが、少しでも早く読者の皆様にお届けするために「いい所」で区切らせていただきました。
1万字を超えてしまうとグダッてしまう可能性もあるので……

さて、スズカさん姉妹がついに重力の頸木(クビキ)を突破して壁を走りだしてしまいました。

かつてスズカさんは水上を走っていたと小耳に挟み、それならば壁だって走れるんじゃないかと。

頭バクシンしてますな、稚拙は……

次回、どーしてこーなったのかをくまさんに地の文で解説してもらうと同時にドッジ模擬戦決着編です。

おそらく今回が今年最後の投稿になるかと思います。読者の皆様、良いお年を~♪
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