やはり俺が彼女をレンタルするのはまちがっている。   作:肌石友樹

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第2話 レンタル彼女 -レンカノ-

「はぁ?あなたが私をレンタルしたんでしょう、彼女として」

 

 この女は何を言っているんだろう。俺の耳が正常ならば、水原さんは確かに俺が彼女を彼氏彼女のカノジョとしてレンタルしたと言っていたはずだ。最近話題のレンタル彼女ってやつか?いやいやそんなバナナ!え?一生喋るなって?さいですか…。

 

「俺が?あんたを彼女としてレンタルした?どういうことだ?」

「え?本当に分からないんですか?もしかして人違いかな…。あのー、本当に比企谷八幡さん、ですよね?」

 

 もしかすると哲学的なことを聞かれているのかもしれないが、俺が俺の名前を比企谷八幡だと認識している以上、答えは当然"Yes"だ。

 

「確かに俺は比企谷八幡だが…。でも本当にレンタルのことなんて知らないぞ?今日、俺は世界一可愛い妹と出かける予定だったんだからな」

「おっかしいなー。でもこんな珍しい苗字と名前が二人もいるわけないし…」

「何かの間違いだろ。とりあえず妹に電話していいか?多分一人で俺のことを待ってるはずなんだ」

「え、えぇ。大丈夫ですけど…」

 

 今頃俺を探しても見つからず、今にも泣き出しそうな顔をしているに違いない。小町に安心と安全を届けるため、俺は小町に電話をかけた。

 

『はぁーい』

 

 思っていたよりも元気そうというか、間の抜けた声だな。少し拍子抜けだ。

 

「小町?お兄ちゃんちょっとトラブルに遭って遅れそうなんだが、今どこにいる?すぐそこに行くから」

『あー…』

「どうした小町?」

『ねぇ、もしかして今、知らない綺麗な女の人が近くにいたりしない?』

 

 この男、図星である。この言葉、使いたかっただけである。

 

「あ、あぁ。確かに知らない女の人が近くにいるけど…」

 

 知らない女の人がこちらを睨みつけているが、無視する。初対面の人に綺麗だのかわいいだの言うわけないじゃないですかー。

 

『お兄ちゃん、ホントにごめん!!今小町、家にいるんだ!!』

「はぁ?」

『実は今日、小町がお兄ちゃんの代わりにお兄ちゃんにレンタル彼女使っちゃったんだ…』

「な、なんでや?」

『小町、お兄ちゃんが心配だったんだよ…。雪乃さん達と色々あってから、お兄ちゃん女子との関わるの完全にやめちゃったじゃん?これからもそれが続くんじゃないかと思って、女の子と喋る練習して欲しかったの…』

「小町…」

 

 俺のことを思っての行動だったのか…。泣かせやがって、この野郎…。

 

「お兄ちゃんは嬉しいよ、小町。こんなに妹に心配してもらえるなんて、なんて幸せ者なんだ俺は。ありがとな、小町」

『やったぁー!許してくれてありがとう、お兄ちゃん!』

 

 …。知ってた。どうせこういう展開になるだろうなって思ってましたわ。別に許すなんて言ってないから、ちゃんと後で話し合おうね小町ちゃん。

 

『レンタル彼女は当日キャンセルしても料金は払わなきゃいけないから、どうせなら楽しんできてね!!じゃ感想聞かせてねー!』

 

 昨日に続きまたも小町から一方的に電話を切られた俺は、呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

「えーっと、面白い妹さんですね」

「う、うちの妹がすみません…」

「いえ、別にいいんですけど…。とりあえず妹さんも言っていた通り、当日キャンセルするとしてもお金はきっちりいただきますよ?ほら、早く出してください。利用規約にも書いてあります」

 

 またしてもこちらにお手を要求してくる水原さん。彼女の目がネコの目のように見えたのは、きっと俺の幻覚だろう。俺は彼女の圧から解放されるべく、そそくさと□万円が入った封筒を渡した。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ…はい、確かに受け取りました!」

 

 この女、今日一番の笑顔である。

 

「で、どうしますか?一応当日キャンセルという形で終わらせることもできますが、私としてはお金をもらった以上、ちゃんと最後まで仕事をしたいと思うんですけど…」

 

 ほう、レンタル彼女をやってる女なんてどうせろくでもないだろうと思っていたが、水原さんはなかなかどうして真面目な性格をしているようだ。

 

「まぁ、せっかくお金を払ったんだし?どうせならレンタル彼女っていう業界に社会科見学しようかなーなんて…」

「社会科見学?あーつまり私とデートしたいってこと?ふふ、八幡君って面白い言い方するんだね!」

 

 明らかに先ほどとはテンションが違う。どうやら完全に仕事モードに入ったらしい。

 

「あと、八幡君のお友達に会った時はどうしたらいい?友達のふりとか…」

 

 ちょっと俺の地雷踏んできましたね、水原さん。ここで地雷であることを悟られると気まずくだろうから、ここは男らしく堂々と言おう。

 

「俺に友達なんていない。会うことは絶対ないから安心してくれ」

「わ、分かりました…。じゃあ今日は私は完全に八幡君の彼女ってことで!」

 

 申し訳なさそうにされると逆にこっちが悲しくなるからやめてくれ…。ぴえん。

 

「じゃあ、八幡君がっていうか妹さんが事前に決めたデートプラン通り、水族館行こうか!」

「あ、あぁ」

 

 小町は俺のデートプランすら作っていたらしい。あいつめっちゃ知能犯だったのかよ。

 

「えっと、二人ともコーヒー頼んだから、半分ずつで…」

「食事代は俺が払うぞ。女性と一緒に食べたときは男が払えって妹に教育されてるからな」

 

 財布を取り出し、小町から教わったデート術なんてこんな機会ぐらいでしか人生で使わないだろうし、確認テストみたいなものだ。とりあえず、今日は一日中歩道側を歩くことに徹しようと固く決意したイケメン大学生、その名も比企谷八幡。

 

「えっ…。あ、ありがとう…」

 

 そう言って水原さんは少し顔を赤らめた。普通の男なら自分に気があるのではと勘違いするだろうが、人間観察が趣味な俺はそんな簡単なトラップに引っかかったりしない。俺が初対面の女性に好かれることなど絶対にないのだから、彼女の表情はきっと演技なのだろう。

 

「会計も済ませたし、水族館行くか」

「う、うん!」

 

 しかし、彼女に特に悪印象を抱くということはない、なぜなら彼女はレンタル彼女なのだから。レンタル彼女という仕事をしているのなら、こちらに好意を抱いているかのように振る舞うことは仕事に忠実であると言った方が正しいだろう。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 喫茶店を離れた俺たちは、サンシャイン水族館へと到着した。水族館なんて何年ぶりだろうか。小学生の時に親父に連れられて行ったのが最後のような気もする。少し薄暗く照明も綺麗で、確かにデートにもってこいの場なのだろう。その証拠に周りにはカップルもちらほらいる。小学生の時以来親父が行かなくなった原因は間違いなくこれだろうな。親父…。

 

「わーすごーい!きれーい!」

「確かに結構広いもんだな」

「実は私水族館初めてなんだー」

 

 流石に嘘だとしても分かり易すぎないだろうか。一応本当の可能性もあるし、本人も言ってるんだから信じてるように反応した方がいいだろう。小町の教えその三、女子の会話を男の方から切らしてはならない。最低でも相槌とそれに付随した一言を返すべし。

 

「そうかのか。今時珍しいな」

「そうかなー?えーっあのコ可愛い!」

「ああ、確かに揚げたら美味しそうだな」

「えっ」

「…」

「…」

 

 …。あれ、早速会話が止まったんだけど、小町さん?明らかに俺の返答が不味かったらしいんだが、この後どうすれば良いのでしょうか。まだ未習なんですけど。

 

「ええっと違くてだな、あ、あれだ、インスタに上げたら人気出そうだなって言いたかったんであっていうか…」

「あははっ!変なのー!私初めての水族館が八幡君とで良かったぁ」

 

 俺の話で水原さんが笑ってるらしい。守りたい、この笑顔。いやこれも演技に違いない。演技だ演技。騙されるな比企谷八幡、彼女はレンタル彼女なのだから、俺の話で笑ってくれるのも演技に決まってる。

 熱でもあるのだろうか、俺は顔が少し熱くなるのを感じながら、水原さんと水族館をまわった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

「今日はありがとう、八幡君!楽しかった!ありがとう!」

「あ、あぁ。俺も結構楽しかったな」

 

 水族館を出た俺たちは、別れるため駅へと向かった。途中、水原さんが俺の手を握ってきたが、なぜか俺は思考能力が途切れていたため、正直あまり水族館のことは覚えていない。まさかスタンド攻撃か!?

 

「じゃあ八幡君、ま」

 

 しかし、俺に別れを告げようとしたであろう彼女の声は、俺にとってあまりにも聞き覚えのありすぎる声が遮られた。

 

「え、比企谷くん?」




感想、評価など頂けたら、パリオリンピックで日本選手が大活躍します。
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