やはり俺が彼女をレンタルするのはまちがっている。 作:肌石友樹
「もしかしてお前、水原千鶴か?」
俺の言葉を聞いたお隣さんは、驚いた表情をしていたのもつかの間自身の部屋へと急いで駆け込んでいってしまった。
「ちょっ」
俺は追いかけるかのように、隣室の玄関の前まで移動する。間違いない、服もメイクも全く違うが、彼女は水原千鶴だ。
「とりあえずインターホン鳴らすか」
こういうときでもマナーを欠かさない男が俺のように紳士と呼ばれる(幻聴)のだ。
『呑気にインターホン押してんじゃないわよ!そもそもなんであんたここにいんのよっ!』
水原千鶴の声が玄関のドア越しに聞こえてくる。声デケー…。
「いや俺となりに住んでるから…」
『なんでここに住んでんのかって聞いてんの!』
「俺一応四月から住んでるんですけど水原さん…。いや、一ノ瀬か?」
今は彼女をレンタルしているわけではないし、表札に書いてある一ノ瀬と呼ぶべき…か?。俺のことをあんたって呼んでくるし、呼び捨てでいいだろ。てか俺の存在感が無さ過ぎて、隣が空き室だと思われてたんだとしたら結構悲しいんですけど。
『もしかしてだけど、あんたまさか練馬大学に通ってるんじゃないでしょうね!?』
「通ってますね」
瞬間、目の前のドアが開いたかと思うと、中から出てきた手によって俺は部屋の中へと連れ込まれてしまった。突然の出来事に動けないでいると、一ノ瀬は俺に向かって勢いよくまくしたてる。人に向かって指を指すのは行儀が悪いですよ、一ノ瀬さん。
「いい!?私がレンタル彼女をやってること誰にも言わないでっ!私のことは一切知らない!私たちの関係は何もなかった!約束して!理由はわかるわよねぇ!偏見のある人間にあれこれ噂されるのが面倒だからよ!私はあの仕事が気に入ってるの!大学には友達だっている!あなたのせいでやめることになるなんてごめんだから!」
「わ、分かった…。大体言う相手だっていねぇし…」
「あなた昨日もそう言ってトラブルが起こったじゃない!だから言ってんのよ!」
「だからあいつらは…」
言葉が詰まる。
「…まぁとにかく!一切の交流は無し!干渉も!詮索もしないっ!ほら、あなたが行った後に時間ずらして行くからさっさと行って!」
「お、おい!」
今度は強引に部屋から追い出されこけそうになり、思わずコンクリートに手をつく。なんなんだあの女、普通に危ないだろ…。
「はぁ…」
俺の中で捕まっていた可哀想な幸せを逃がしてあげつつ、俺は練馬大学へと向かった。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「じゃあ今日の授業はここまで、おつかれさまー」
二限目の授業も終わり、昼休みへと突入した。さてどこで昼食を食べようか。この大学に入学してはや二か月ほど、俺はいまだにベストプレイスを見つけられずにいた。大学って広いけど人の数も多いから見つけるの難しいんだよなぁ。なんとか今年中には見つけたいものだ。
手持ち無沙汰に歩いていると、思い出すのは今日の朝の出来事。まさか隣の部屋に水原千鶴が住んでるとは思わなんだ。まぁめちゃくちゃ拒絶されたが。ああいうのとは関わらないのが吉だ。もしあいつが俺のことをストーカーとして通報したら、一目見られただけで捕まる自信があるしな。あ、あれ、なんか目から涙が…。
「きゃっ!」
「わっ!」
考え事をしていたからか、誰かとぶつかってしまったようだ。相手は金髪の女子で、地面にしりもちをついてしまっている。早く謝らないとそれこそ通報される、直感でそう感じた俺は急いで手を差し伸べた。
「いててて…」
「す、すみません。前見てませんでした。大丈夫っすか」
「う、うん。ありがと~」
そう言って、金髪女子は俺の手を取り立ち上がった。柔らかい…。いや俺気持ち悪。
「こっちが歩きスマホしてたのが悪かったよ~、あっ!」
「ちょっ!」
今度は何もないところでこちら側に転んだ金髪女子をすんでのところで受け止める。一体何にこけたいい匂いー。
「あ、ありがと~。ちょっとよろけちゃって…」
「い、いや…。それよりスマホ大丈夫っすか?割れたりしてたら弁償しますよ」
「えっとね~、見た感じ大丈夫そうです!」
金髪女子はこちらに背を向けて上半身をかがめ、地面に落ちたスマホを拾い上げている。何とは言わないが見えてますよ!ていうか一連の行動明らかにわざとだろ。あざとすぎるんだよ、このビッチが」
「は?」
いつの間にか心の声が口に出ていたらしい。普通に問題発言をしてしまった。
「いや、あの…」
「…何年生?」
「え?一年っすけど」
「私も一年なんだ~。だから敬語使わなくていいよ!」
「あ、ああ。わ、分かった」
「私の名前は七海麻実。あなたは?」
「ひ、比企谷八幡」
「じゃあ八くんだ!」
どうやら俺がビッチと言ったことは許されたらしい。八くんだと俺が砂の惑星作ったみたいになっちゃわない?
「あれ~マミ何してんの?」
七海の友人らしき女子がやってきた。俺たちが何してるのか俺が聞きたいです。
「何も」
「何もって…」
「またね八くん!ほら早く行こ!食堂の席埋まっちゃうよ!
「ちょ、ちょっと待ってって!」
七海たちはそう言って俺の前から去っていった。正直苦手なタイプだったから、これ以上喋らないで済むと思うと気が楽だ。あざとさで言えば一色に近しいものを感じるが、七海は一色なんか比にならないレベルに腹黒い気がする、ソースは俺の野生の勘。とにかくああいうのは関わらないに限る。(二回目)
世の中の女子の大半は関わらない方が良いのではないかという、宇宙際タイヒミュラー理論を使わなければ解けそうもない難解な予想を立てていた俺の思考は、遠くからの俺の名前を呼ぶ声で引き戻された。
「おーい、はちまーん!」
感想、評価など頂けたら、明日沖ノ鳥島が晴れます。