やはり俺が彼女をレンタルするのはまちがっている。 作:肌石友樹
「おーい、はちまーん!」
この声、そしてあのフォルムは間違いない…
「…」
「ちょっ、ちょっと待ったー!我を無視して歩き始めるでないぞ八幡!」
間違いなく材木座だ。というか夏至も過ぎたというのに、分厚いコートを着て指ぬきグローブをしているやつが2人もいてたまるか。いつの間にか変態は既に近くに移動してきていた。走る姿も暑苦しい…。
「…あれだな、お前源義経みたいだな」
「急に褒めてくるとは、ついに貴様も我の魅力に気づいたか!」
「義経って遠くから見ても認識できるほど出っ歯だったらしいぞ」
「わ、我は出っ歯ではない!え、俺出っ歯じゃないよね?出っ歯なの?ち、違うよね!?」
動揺しすぎてキャラ崩れてきてるじゃん…。
「…で、なんの用だよ材木座」
「けぷこんけぷこん!そろそろ飲み会を開かないかと笹野殿がお前を誘っていたぞ!」
「あの人も物好きだよな…」
笹野先輩はテニスサークルの先輩だ。と言っても、俺がテニスサークルなんてヤリサーに入っているわけではなく、栗林や木部の先輩にあたる。
「どうせあれだろ?栗林もだろ?」
「うむ。まぁ我と栗林殿は最近メイド喫茶に行き過ぎて金欠なんだが。フェイ◯スたん最高すぎる!」
「へ、へえ、フェイリ◯たんねぇ…」
こいつと一緒に喋ると周りからの視線がキツすぎる。さっさと会話を終わらせて離れたい。
「まぁ、飲み会は行けたら行くわ。じゃ」
「いやそれ来ないやつ!」
そう言って材木座と別れた俺は、残りの授業を受け家に帰り寝た。終わり!
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
ところが、次の日から毎日同じイベントが起こるようになった。
『昨日ぶり〜八くん!学部ってどこ?』
『また会うとはな。てか俺の学部?』
『うん、急に気になっちゃって!』
『あー、実は教養学部から進振りで医学部狙ってて…』
『へ〜、そうなんだ!』
『やっほ〜八くん!本当の学部ってどこ?』
『えっ』
『昨日の話全部嘘でしょ〜。うちの大学に教養学部なんてないよ〜』
『…教育学部です』
『本当のこと言ってくれて良かった〜!これ以上嘘ついたらどうしようかと思ってたよ〜』
『…』
『はろ〜八くん!そろそろLIKE交換しない?』
『え、普通にいy』
『いいの?ありがと〜!』
『…。俺LIKEの交換の仕方知らないし、俺のスマホ渡すから勝手にやってくれないか?』
『えっ、いいの?』
『ああ、別に変なものなんて…いや、やっぱりやり方教えてくれ』
『八くんもやっぱり男の子ってことか~』
『いや、違うから。マジで違うから!』
『八くんって高校の時の友達ってこの大学にいないの?私は誰もいないんだよね~』
『友達じゃないが、文学部に材木座義輝って奴がいるな』
『へ~、いいねそういうの!』
『全く良くないんですけどね…』
『はぁ…』
『…もしかして材木座に話しかけに行ったのか?流石びっ』
『うざ。てかあいつキモ過ぎ』
『本性出てますよ…』
『あっ…。材木座くんって個性的で面白いよね~!』
『…』
『結構いい男っていうか~やさしいっていうか~』
『確かに(釣りやす)いい男というか、(貢がせるのが)易しいよな、材木座って』
『だよね~!』
毎日、腹黒(推定から確信へ)でビッチ(元から確定)な七海麻実とエンカウントするなんて、前世でなんかやらかしたかしら。というかスマホを渡さなかった俺グッジョブ。あのまま渡していたらホーム画面のレンタル彼女Diamondのアプリか、LIKEの会社監視アリの水原千鶴とのトークを見られていたかもしれない。そんなことになってしまっては俺の大学生活が肩身の狭いものになってしまうのは間違いなかっただろう。
休日の今日はたっぷり休み、明日こそ何も起こらない平穏な大学生活が送れるように願おう、ラーメン。とりあえず昼飯は決まったな。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
次の日、大学に行くと俺に話しかけてきたのは、材木座や七海でもなく意外にも木部だった。
「よぉ比企谷!お前も隅に置けないなぁ!」
「なんだよ木部、オールウェイズで集団の隅にいる俺に向かってそんな言葉を使うなんて」
「なんかすまん…。いや、そうじゃなくて麻実さんのことだよ!お前、あんな可愛い子とこれなのかよ!」
そう言って木部は小指を見せつけてきた。ロシアではゲイって意味だとか違うとか…(情報求む)。
「いや違うけど。急に何?」
「それがな?昨日俺、栗、材木座、笹パイと麻実さんたちで飲み会したんだけどよー」
俺が行けたら行くって言ったやつか。最初から誘わないとか材木座もなかなか俺の事が分かっているらしい。絶対行かないし、誘うだけ無駄である。
「麻実さんがお前のこと、他の女子に隠れてめっちゃ俺たちに聞いてきたんだぜ?あれは脈ありだ、俺が言うんだから間違いない」
「んな訳ないだろ。どうせ俺の黒歴史やら弱点を聞き出して俺を陥れようとか思ってんだよ」
「なんでそんなマイナス思考なんだよ…」
そうだろうか?七海麻実の腹黒度的に十分あり得そうなんだが。
「じゃあもう七海の話は終わりでいいな。じゃ」
「ちょまっ!この話はまだ終わってねぇ!」
「なんだよ…」
「俺たちは考えたわけだ、今回の飲み会のメンバーでもっと親睦を深めようと!というわけで一緒に来週の土日に一泊二日で伊豆半島に行くぞ!」
「えー…」
急過ぎやしないだろうか。大体、俺飲み会のメンバーって奴に当てはまんなくない?
「この旅行でくっついちゃえよ、比企谷!あんな可愛い麻実さんと付き合えるんだぞ!」
「だから違うって言ってんだろ…」
「そうじゃなくても、お前いつも一緒に遊ばないだろ?たのしーぞ、女子と海辺で和気あいあいとおしゃべり!」
木部に悪意がないのは分かっている。こいつは完全な善人だ。ただ、それが今回は裏目に出ているというだけで。
「いや、やっぱり俺はいいy」
「あれ~、木部っちと八くんじゃん!何話してるの~?」
「ま、麻実さん」
まるで会話を聞いていたかのように、七海が会話の間に割って入ってきた。
「昨日話した下田への旅行に比企谷も誘ってたんだよ」
「え~いいじゃん!八くんも行こうよ!」
「いや、だから俺はいいっt」
そう言いかけて七海の顔を見ると、海より深く、氷より冷たい瞳がこちらをのぞき込んでいた。殺される!
「…ヤッパ、オレモイコウカナー」
「おっ!ナイス決断だぜ比企谷!」
「やった~!じゃあ八くんのこと旅行のグループラインに招待しとくね~!ノートに詳細書いてあるから、読んどいて~」
そう言って七海は軽快な指さばきでスマホを操作し終え、ふわふわとした雰囲気でどこかへ去っていった。
「おいおい、麻実さんとLIKE交換してて、しかも八くんって呼ばれてるだなんて、お前やるなぁ!意外と女たらしなのか?」
「そんなんじゃねぇよ、たまたま交換する機会があっただけだ」
まぁ強制だったんですけどねっ!
「お、笹パイが車出してくれるってよ。あの人も相当の世話焼きだよな」
「それはそう」
「じゃあ旅行楽しみにしてろよ!あ、あともし俺がこの一週間で彼女出来たら連れて行くから、お前もそうしろよ。まぁその調子じゃ一生彼女出来ないか!」
「…うっせぇ」
やっとうるさい木部がいなくなった。ついに俺に静寂が訪れた。
「探したぞ、八幡!貴様、あの七海麻実とかいう女は一体何なのだ!」
…なにやら騒がしいが、きっとたまにいる不審者とかだろう。見た目的にそうにしか見えないし。
「おい八幡!我を無視するでない!まてぇーい!」
下田の旅行も適当にやり過ごせば大丈夫だろう。これからも俺の大学生活は平穏に過ぎていくんだろうなぁ。(決してフラグではない)
八幡に声をかけたのが戸塚エンジェルだと思った人、残念でした!義輝くんだよ!
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