やはり俺が彼女をレンタルするのはまちがっている。 作:肌石友樹
「七海さん、だよね?もしかして七海さんが由比ヶ浜さんが言ってた八幡の彼女さんなの?」
「は?」
…え?
「違った?ごめん…。由比ヶ浜さん、僕と八幡の高校生のときの同級生から、八幡にとっても綺麗な彼女さんができたって聞いてて…。そうなんでしょ、八幡?」
由比ヶ浜のやつ、俺と一ノ瀬、いや水原のことを戸塚に話したらしい。
「…八くん、彼女いたの?」
ここで否定してしまうと、戸塚経由で話が雪ノ下にまで伝わってしまいかねない。
「あ、ああ。一応…」
「うそ…」
「おいおい、今聞き捨てならないことが聞こえたぜ!」
しまった。どうやら俺たちの会話が木部たちにまで聞こえてしまっていたようだ。
「おい、比企谷!お前彼女いたのかよ!なんで言わなかった!」
最悪だ。かと言って、否定することもできず、俺にできるのは肯定することだけ。
「あー、言う機会が無くて…」
「いやいや、たくさんあっただろ!」
おっしゃるとーり。
「彼女ができたら連れてこいって言ったよな!」
「あー、流石に急過ぎたし…」
これは俺のほうが正しい。
「比企谷くん、彼女いたんだー!」
「ねーねー!彼女さんの写真とか見せてよー!」
「いや、それはちょっと…」
見せるも何も、そもそも持ってない。
「あれ!?今井さん!?」
「新保ちゃんじゃん!」
どうやら、七海の友達の今井さんとやらの知り合いが偶然下田に来ていたようだ。正直、この流れを断ち切ってくれて感謝しかない。ありがとう、おいしいタン塩と書かれたTシャツを着た女子、大きくハートが書かれたTシャツを着た女子、そして海に来てまで眼鏡をかけている女…
「えっ」
そこには一ノ瀬がいた。そう、アパートで隣に住んでいる一ノ瀬だ。どうやら驚いたいるのは俺だけではないようで、一ノ瀬も目を見開いてこちらを見ている。
「新保ちゃん来てたんだーっ!」
「何、みはるさんの知り合い?」
「あっうん。国際コミュで一緒で!奇遇だねーっ!」
「私たちもテストの解放感で…」
なぜ下田に一ノ瀬がいるのだろう。いや、考えても仕方がないことか。
「ああ、俺知ってるよ。文学部の佐藤さんと「川中です」市原さん。「一ノ瀬です」ご、ゴメン…」
「栗林くんサイテー」
逆に文学部に佐藤さんと市原さんがいるのか気になる。
「い、いやいや」
木部が何か言いたいことがあるようだ。大層驚いてどうしたのだろうか。
「あ、あんた海でも眼鏡を…?」
「馬鹿なこと言うのやめろとけ、木部。お前自身の馬鹿が丸出しだぞ」
「だ、だってよー比企谷。流石にツッコまざるを得ないだろ、これは」
恐らく、一ノ瀬は度の強い眼鏡で水原のときの目を小さく見せているのだ。一ノ瀬の手にかかれば、水原の魅力をすべて消すことも容易いらしい。
「じゃ曜子、行こ」
「ああ、分かったちづる。ごめん、うちらもう場所取ってあるから…」
「ああ、うん。またねーっ」
一ノ瀬の言葉によって、三人は自分たちの場所へと向かって去っていった。
「ありゃネクラだな。海で眼鏡とか海に入る気ゼロかよ」
「ああ、こっちまで盛り下がっちまう。ムネはまぁまぁあったけどな」
こいつら、節操が無さすぎるだろ。ついでに見る目も無いようだ。
「ちょ、ちょっと。木部くんと栗林くん、失礼だよ!」
「そうよ、戸塚くんの言う通りよ!男子たちサイテー!」
男子たちというのは主語がでかすぎるんじゃないだろうか。材木座はいいとしても、それでは俺と戸塚も含まれてしまうではないか。
「こ、こほん。気を取り直して、そろそろ昼にしよーぜ!」
「誰か食料買ってきてー」
「我、おなかが減る過ぎてもう動けない…。コポ…」
どうやら材木座の遺言はコポらしい。後世に語り継いでいこうと思う。
みんなが散り散りに解散し始めると、七海がこちらに寄ってきた。
「ねぇ八くん、本当に彼女いるの…?」
正直戸塚がいない今、七海に嘘をつく必要はないかもしれない。
「ああ、いや、実はだな…」
「おい八幡!あとそこで寝転がってる材木座も!誰が食材を買ってくるか、男でじゃんけんするぞ!」
「お、おう」
「あ、ちょっと八くん!」
七海とは話の最中で申し訳ないが、じゃんけんと聞けば男は本気を出さなければいけない。これは男の遺伝子に組み込まれたフェイトなのだ。
「行くぞ…」「血が滾るぜ…」「代々転生者にのみ伝えられてきたじゃんけん奥義…」「七番目の神として…じゃねぇや、やるぞ…」
「「「「じゃんけんぽん!!!」」」」
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「どうしよ…」
運命の悪戯か、じゃんけんに負けてしまった俺はコンビニのトイレに籠って考え事をしていた。
本当はいない俺の彼女の話が広まってしまった以上、どうにかしてけじめをつけなければならないのだが、果たしてどうするのが正解なのか。いまだ俺の中で答えは見つからない。
てかまだトイレの鍵閉めてなかったわ。誰かが間違えて開けてしまうことが無いよう、早く鍵をかけるとす
「は!?」
そう、目の前の一ノ瀬のような犠牲者を出さないために、ちゃんとトイレのドアは閉めようね!
「ひ、久しぶりだな。相談したいことあるから一緒にトイレ入らない?」
「えっと、1…1…」
「警察に電話するのはもう少しだけ待ってくれ!」
「で、何なのよ。一切の交流はなしって言ったわよね?」
「一応、お前にも関係あることだから話しておこうと思って…」
「はぁ、これっきりよ。私も友達待たせてんだからさっさと話して」
そう言って、一ノ瀬はトイレの個室へと入ってきてくれた。
「実はかくかくしかじかで…」
「要するに、由比ヶ浜さんの知り合いの戸塚?さんが来てて、その人がみんなの前であなたに彼女がいると言ってしまい、あなたはそれを肯定してしまった、と」
「ああ、それでおおむね合ってる」
七海については面倒なので省いて一ノ瀬に伝えた。
「で、どうするつもり?」
「そこなんだよなぁ…」
「やっぱり別れたって言うのが一番いいんじゃない?」
その通りだ。そもそも俺は、水原とは別れたことを雪ノ下達に伝えると、そう約束したのだ。そして、雪ノ下たちの連絡先を知らない俺が彼女らに別れたことを伝える機会は、今しかない。
「…それが一番だな。あいつらと戸塚には別れたって伝える。言葉にするだけだし、俺でもできるだろ」
「そう、あなたがそれでいいなら私が言うことはないわ」
「ありがとうな、こんなくだらない相談に乗ってくれて」
「いいわよ、これで私もすっきりするし」
「そう言ってくれると助かる」
『中にいるの…八くん…?』
「え」
『八くん?中にいるの?』
この声は七海だ。どうする!?いや、どうするも何もここは俺が出るしかないだろう。中が見られないよう、俺の身体の分だけドアを開け、外に出る。
「お、おう七海。どうしてここに?」
「買い出しの手伝いとさっきの話の続きに…。八くん、中に誰かいるの?話し声が聞こえたけど…」
「い、いるわけないだろ。電話してたんだよ、電話を…」
「嘘。八くんのスマホ、ビーチのテーブルに置いてあったよ」
「あ…」
確かに、今俺はスマホを持っていない。まさかこんなところで、スマホ中毒でないという俺の長所が悪い方向に働くとは思っていなかった。
トイレの中で一ノ瀬が動いたのか、物音がドア越しから漏れ聞こえる。
「もうホント男子って嘘つくのヘタだよねー」
「ちょっ!」
七海がドアノブに手をかけた。もうだめだ。トイレのドアはすぐに開かれるだろう。俺と一ノ瀬が一緒にトイレの中に入っていたことがばれてしまうのだ。考えろ、比企谷八幡。一ノ瀬の印象が悪くならないような言い訳を!
「あっ」
トイレのドアは開いた。いや、正確に言うと
「初めまして。八幡さんの彼女の水原千鶴です」
そこにいたのは、水原千鶴だった。
初投稿からちょうど一か月!順調に投稿できてますね!ねっ!(圧)
感想、評価など頂けたら、他人事を「たにんごと」と読むのは誤りで、正しくは「ひとごと」と読むことにワンチャン気付くかもしれないです。