やはり俺が彼女をレンタルするのはまちがっている。   作:肌石友樹

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第8話 不意打ちの彼女 -フイカノ-

「初めまして。八幡さんの彼女の水原千鶴です」

 

「なっ…なななっ!」

 

 声がした方を振り向くと、木部と栗林、そして材木座が放心状態で立っていた。

 

「なんでお前らここに…」

「買い出しの追加注文だよ!いや、そんなことよりも…」

「見損なったぞ、八幡!まさか貴様がそこまで愚かだったとは!」

 

 これまで生きてきた俺の中で、トップレベルで愚かな奴が何か言っているようですな。

 

「あんなS級美少女、美人局に決まっているだろうが!今すぐ縁を切れ!」

「すみません!こいつ、金持ってるわけでもないし、宗教とかはちょっと!」

「ちょ、ちょっと落ち着けって」

 

 こいつら、水原が俺の彼女だっていう事実を受け入れられていないな。いや、事実じゃないけど。

 

「だから水原は俺の…か、彼女だって言ってるだろ…」

 

 例えレンタルだとしても、彼女を紹介するのは少し気恥ずかしい。

 

「本当に彼女なのか!?」

「ぼー…」

「彼女ってアレか!?デートしたりパンケーキ食ったり、インスタに二人のセルフィ―挙げてお互いにいいねし合ってるアレか!?」

「ぺー…」

「Xの共同アカにキス写真とか挙げて『やだー見られちゃうー♡』とかやってるアレかぁ!?」

「ぱー…」

 

 よくまぁこんなに流れるようにリア充あるあるが出てくるもんだ。流石は妄想力は誰にも負けない栗林である。口をあんぐりと開け、材木座は身動き一つ取らず、パ行を呟いている。

 

「ま、まぁ。インスタとXはやってないけど、大体そんな感じだな…」

「「は、ははー!!!」」

「え、土下座?」

 

 やばい、正直目の前で人が土下座しているとかめっちゃ気持ちいい。優越感という奴だろうか。これまで土下座をする側だった俺が、まさかされる側に回るとか人生分からないものである。

 

「なんだよ比企谷!彼女さん呼んだんなら言えよなー!彼女さん、ちょっとこいつ借りていいっすか?」

「え、ええ。もちろんいいですけど…」

 

 なんで俺から許可取らないのかは後で聞くとして、俺は一ノ瀬から離れたところへと木部と栗林によって引っ張られた。今度こそボコられるのだろうか。

 

「ヤッたのか!?」

「何?ポケカの話?」

「S(5)X(24)したのかって聞いてんだよ!」

「せっ!?」

 

 あまりに急に聞かれたせいで、どこぞの副生徒会長のような反応をしてしまった。

 

「どうなんだよ比企谷!カマトトぶるんじゃねぇぞ!」

「や、やってない…」

 

 当たり前だ。俺は魔法使いになる予定なのだから。

 

「偉い!!!」

 

 ヤッてないことって偉いの?一応、人の三大欲求の一つを冠してるはずなんですけど。

 

「お前あんなので童貞捨てちまったら、一生忘れらんなくて人生の性生活棒に振るぞ!」

「そうだ!他の女がゴミに見えるぞ!悪いことは言わねぇ!ブスか風俗にしとけ!」

「ぴー…」

 

 こいつら…。ビーチで一ノ瀬を見たときはあれだけ散々言っておきながら、手のひら返し過ぎだろ。

 

「挨拶が遅れまして申し訳ございません、彼女さん。俺木部って言うでやんす」

「こいつが材木座で、俺が栗林っす」

「改めまして、水原千鶴です。いつも八幡さんがお世話になってます」

 

 どうやらあいつらに下っ端根性が植え付けられたらしい。それにしてもやんすって…。結構似合ってるな。

 

「千鶴さん、お忙しいところ恐縮ですが、是非ともビーチでの海水浴に招待したいのでやんす…」

 

 一ノ瀬がこちらを向いて目を合わせてくる。この場では一ノ瀬は俺が呼んだことになっているので、ここで遊ぶことを断ってしまうと一ノ瀬が来たことに矛盾してしまう。俺は首を縦に振った。

 

「いいんですか?ぜひ行かせてください!」

「では僭越ながら、不肖栗林がビーチまで先導させていただきます。どうぞこちらへ…」

「え、ええ…」

 

 俺たちはコンビニから出るだけにも関わらず、大名行列のように並んだ。

 

「自己紹介遅れちゃった~、私七海麻実で~す」

「よ、よろしくお願いします」

「あ、私ちょっと一本電話かけてくるね!」

「あ、ああ…」

 

 そう言って七海はコンビニの裏へ行ってしまった。流石に参勤交代が恥ずかしかったのだろう。もちろん俺も恥ずかしい。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

「千鶴さん、あそこの机とテントがある場所が俺たちのところでやんす!」

「なんかむずがゆいし、そんな変な口調で喋らなくても大丈夫ですよ?」

「そ、そうですか千鶴さん…。じゃあ普通に喋りますね」

「やっとその口調止めたか。だいぶ気持ち悪かったぞ、木部」

「比企谷、てめぇは黙ってついてくればいいんだよ!」

 

 俺への当たり強くない?仕返しに泣いてやろうか?

 

「えっ」

 

 スパークを溜めていると、突然一ノ瀬に腕を引かれ、海の家の裏へと連れ込まれた。

 

「私、適当な嘘考えて帰る!」

「…今からか?来たばかりで帰ると、不審に思われるんじゃないか?」

「知らないわ!これ以上の危険は冒せない!私の友達もいるし!」

 

 何も言い返せない。一ノ瀬は俺がトイレの中で話そうと言ってしまったことで生じた被害者なのだ。

 

「そうか、悪かったな。水原として出てきてくれて助かった」

「そりゃそうよ。一ノ瀬とトイレで二人っきりで居たなんてなったら大変だもの」

 

 しかし、今一ノ瀬が帰るとなると、水原が俺の彼女であるという認識は皆の中で変わらない。そうなれば、これからも一ノ瀬に迷惑をかけることになってしまいかねない。

 

「やっぱり帰るのは少し待ってくれないか?」

 

 かと言って、いきなり別れたと切り出せば、わざわざこの旅行に一ノ瀬が来てくれたことに矛盾してしまう。

 

「はぁ?なんでよ?」

「まず、俺の話を聞いてくれ。これ以上お前に迷惑をかけることのない案がある」

「…分かったわよ。とりあえず話してみて」

「いいか、まず───」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

「八幡と千鶴さんってどこで知り合ったの?」

 

 レンタル彼女でだなんて言えたならば、どれほどよかったでしょう。いまだーにあなたーのことをーゆめーみるー。

 

「あー…」

「げ、ゲームで知り合いました」

「えー!彼女さん、ゲームするんですね!見えなーい!どんなゲームですか?」

「キノコでn」

「スマホゲームです」

「へー!夢あるー!」

「そ、そうですか?」

 

 一ノ瀬さん、えへへーっていう笑い顔をしながら、机の下で俺の腿を思いっきりつねるのやめようねー。頭の中で歌ってたら答えるの遅れちゃったんですよ…。

 

「八幡くん、海入ってないんでしょ?入ってきたら?」

「え?いや、別に俺はッ!」

 

 イタイイタイ!もうそれ以上つねらないで!親父にもつねられたことないのに!

 

「…行ってくる」

「行ってらっしゃい!」

 

 どうやら言い訳が下手くそな俺は必要ないらしい。

 

「つめたっ」

 

 一ノ瀬は皆から質問攻めにあっているが、振る舞いを見るに難なく受け答えている。

 しかし、一ノ瀬との別れ話を皆へ切り出すタイミングを逃してしまった。さて、どうしようか。

 

「八く~ん!」

 

 呼ばれた声のほうを見てみると、岩場の影から女子が跳ねながらこちらに向かって手を振っている。

 

「七海?」

「こっちきて~!ちょっとターコイズのブレス落としちゃって~!」

 

 どうやら七海は息を落としてしまったようです。七海はポエマーだったのか。

 

「諦めて、新しく買ったらどうだ?」

「え~!高かったんだよ~!メルカリなのに五千円もしたんだよ~!」

「はぁ」

 

 代わりに買ってくれというアピールかもしれないが、流石にそんなことしない。材木座にでも頼んでくれ。恐らく一瞬で財布を開くだろうし。

 

「多分まだこの岩場の当たりにあるはずなんだけど~」

「探しますよ…」

 

 探すといっても、どうすればいいのだろうか。俺も七海もゴーグルを持っているわけではないので、潜って目視で確認することはできない。

 

「八くん、ボーっとしてないで探してよ~」

 

 七海は足を地面に擦り付けて探しているようだ。しかし、その探し方は危険だ。地面に鋭利なものがあった場合、足裏を傷つけかねない。

 

「おい、七海。その探し方だと危ないぞ」

「え?きゃっ!」

 

 七海がこちらに向かって倒れこんできた。どうやら足を滑らしたらしい。つい反射で七海の肩をつかんでしまった。

 

「わっ悪い七海。急に触ったりなんかして…。ケガしてないか?」

「…」

 

 七海が顔を赤らめながらこちらを見つめてくる。もしかして俺の顔になんかついてる?あれ、なんか両手で俺の頭が掴まれたんですけど。なんか顔を近づけてくるんですけど!

 

「んっ」




 材木座がパ行を呟いているのは、僕が一番好きなひらがなたちだからです。
 感想、評価など頂けたら、フー子が出撃します。
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