TS転生したらハーレム主人公の親友ポジだった 作:まよねえず
いよいよ今日という日が来た。
前々から予定していたあの日である。
「ちゃんと水着持ってきた?」
「いや忘れてたらおかしいだろ、持ってきたわ」
「……今親友の成長を感じてる」
「……俺はまだ何の成長もしてない子だと思われてたのか」
そう、プールである。
場所としては最寄り駅から二駅くらいでまあまあ大型な室内プールである。
たまたま近くに合ってよかった。遠すぎたら体力なくなるし……運動はきちんとしてます。
この場所には小さいころから祐樹と一緒に来ていた思い入れのある場所だ。
来るのは果たして何年振りだっけか、祐樹もまだ小さかった気がする。
あの頃は素直で優しかったのに……今ではいろんな女の子を侍らせる女たらしに。
私が育て方を間違えたのだろうか、どうしてこうなった。
「じゃあちょっと着替えようぜ、入り口周辺あたり待ち合わせな」
「ああ、はい」
「また後で」
「ん」
祐樹と別れて更衣室へと足を動かしていく。
目の前のドアを開けてみれば……まあ肌色空間。
夏休みシーズンで人がたくさん来ているのもあるだろうが、それでもかなりの人だ。
うーん、本当に自分の前世が男だったのか怪しくなるほどに何も思わない。
体が女なのだからか、単純になれてしまったからかどっちかは分からないけれども。
パッパと着ていた服を脱いで、例の水着を手に取る。
「……ぅ」
……ほんとに着るの?これ。
あの時つい勢いで買ってしまった水着だけれど今になって恥ずかしくなってきた。
別に葉風さんの前では普通に着ることができた。恐らく他の女の子たちの前でも着れる自信はある。
そしてクラスの男子たちの前でも着れるとは思う、中身男だし。減るもんじゃないしね。
けれど。
アイツの前でこの水着を着ている自分を想像すると恥ずかしくて着れたもんじゃない。
「……」
いくら恥ずか死すると言っても今手元にある水着はこの一着のみ。着るしかないのである。
減るもんじゃない……?別に着たからって何かあるわけじゃないだろ。
よし。
もう一度水着を見て覚悟を決めて──
着てしまった。
……選んだのは自分だし、覚悟を決めるしかないのも分かっている。
うん、しょうがないか。
それにいつだって祐樹を待たせるわけにもいかない。とっくにあっちは着替え終わって私の事を待っていることであろう。
時計を見ると更衣室に入ってから大体十分程度経過していた。着るか着ないか葛藤する間に十分である。
髪を軽くゴムで纏めて、必要なものを持ち更衣室を出る。
遠目からも分かる祐樹の影。
その近くには学校生活でよく見かける人がいた。
「綾乃ちゃん……?」
よく学校から帰るときに祐樹を待ち伏せしているツンデレ美人のあの綾乃ちゃんだ。
水着を着ているし、ここへ泳ぎに来たのだろうということが分かる。
なんという偶然か、私たちと同じ場所へ来ていたらしい。
「卯月さんも今日来てたんだ。その水着似合ってるね」
「えっ……まあ当たり前ですわね」
ふ……ふふふ、天然の女たらしかよ。それでこそハーレム主人公というものだ。
でも、そんな姿見てるとムカついてくるというかイライラしてくるというか。気に食わない。
なんでお前がモテるんだよ祐樹。モテなくていいよ。
……ていうかあの二人ずっと話してるな。そろそろ止めないと私の拳が勝手に動いてしまう。
「こんにちは、卯月さん?」
「ひぇっ……桐原さんも一緒でしたのね」
「おっ春香、ちょっと遅くない?」
「いやこっちはそっちと違って準備するものがあるんですけど?」
覚悟とか覚悟とか。
「ごめんなさい……私お友達の方へ行きますわ」
「はい、了解。じゃあ卯月さんまた学校で会おう」
「ええ……はい」
そう言って私たちに背を向ける綾乃ちゃん。残念だったな祐樹、ハーレムの娘消えちゃったな。まだ一緒に居たかっただろうに。
「なんか卯月さん怯えてるように見えたんだけど」
「?ちょっと水着だけだと寒かったとかじゃない?」
「……ならいっか。体大事にしてほしいよな」
妙なことを言い出す祐樹だが、こいつはそんな奴である。出会った当初から何も変わっていないところだ。
綾乃ちゃんが居なくなって祐樹との二人きり。
「……」
「……」
祐樹の方を見てみれば上半身裸に海パンスタイルだ。泳ぐ目的というよりかは遊んで楽しむ目的だろうか。
まあ遊ぶために今日は来たわけだし。
お互いにお互いの水着を見合う時間。
それは勿論祐樹の視線は私の体に注がれているわけで。
──恥っず!!!
頬が赤くなるのを感じる。
ジロジロ見てくるし何ならガン見である。
なんというか普段こういう姿を見せることもないし最後に見せたのは数年も前だし、いきなり成長した姿を見せるのは抵抗感があるというか。
少し前なら何の気持ちも沸いていないだろうになぜ今になってなのか。
「……ジロジロ見んな」
「あ、はいごめんなさい」
相手の顔を見ながら言うのは難易度が高すぎた。俯きながらせめてもの抵抗として見んなというだけだ。
……自分の気持ちが分からない。
ま、まあ今日は遊ぶために来たのだし気にしてたらダメだな。
楽しむときは楽しむ、それでいいだろ。
……。
……。
「……黙ってないで何か言うことないの?」
「……?」
せっかく私という親友がお洒落をして来たというのに気が使えないやつである。
さっきの会話を思い出してみれば?『卯月さんも今日来てたんだ。その水着似合ってるね』とか?
親友だからこそ言わないとか無しで、何か一言ほしい。
普段ハーレム作ってるくせに気の利く言葉も出ないのかこいつは。
「……ふむ。へぇ~今日の春香お洒落で可愛いね」
「……ぇ」
「え罵倒する流れじゃないの?」
いつもなら罵倒しているのだけど、今だけはなぜかその気持ちが沸いてこなかった。
◇
それから少し経って私も本調子に戻ってきた。本調子……いつもの状態である。
水着も吹っ切れれば何ともなくなった。何恥ずかしがっていたんだろう。
祐樹ともいつも通りに話せるようになった。
そうだ、今日はただ単に遊びに来ただけだ。
「あ、そういえば来る前携帯で調べたんだけど今ウォータースライダーやってるらしい、私は行くけど祐樹も来る?」
「じゃ行こうかな」
夏休み期間限定という文字につられてウォータースライダーへ行くことになった。利用できるものは利用していかないと人生ももったいないものだしな。
というわけで一緒に行くことになったのだけれど。
「では彼氏さんが彼女さんの事抱きしめてあげてくださいね~!」
『は~い』
「さん、にー、いち、いってらっしゃい!」
キャーと女性が悲鳴をあげながら滑り落ちている。その女性の後ろには彼氏と思われる人がしっかりと密着している。
女性と男性で一緒に滑るようだ。
……聞いてないんだが。
私が見た情報は現在期間限定でウォータースライダーをやっているというだけだ。
そしてこの場に来て気づいたのだけれどただのウォータースライダーではなく『彼カノ幸せスライダー』とかいう、頭の悪そうなウォータースライダーだった。
しかも並び始めてすぐに気づけたのなら良かったけれど、気付いた時にはもう後戻り出来ないぐらい列が進んでいた。
今ではなんと次の順番である。
「春香……本当に乗るのかこれ」
「……私は良いけど。……別にそんな関係じゃあるまいし」
「……」
祐樹のゴクリという息をのむ音が聞こえる。
緊張してるのだろうか。
多少緊張はしているというか、祐樹とそういう関係に見られるのがなんというかむず痒い。
「カップルですか……初々しいですね~」
「あ……あはは」
その時がきてしまった。
「彼氏さんもしっかりと離れないようにしてくださいね」
「……」
座って滑る準備ができた私の後ろに祐樹が付く。
……体ガチガチすぎじゃない?緊張しすぎだろってぐらい。
「……っ」
祐樹が体を寄せてくる。
嫌な感じはしなかった。
むしろ──
「──いってらっしゃい!」
「!?」
カウントダウン的なものがあるとばかり思って油断していたらいきなり落とされた。
ていうか絶対あった。前の客にはやってたじゃんよ。
勢いよく滑るおかげか風も少し火照った体に丁度良かった。
「──あはは!」
……緊張して損したな。
結局祐樹が後ろに居ることを忘れて純粋に楽しんでいた。
「いや~楽しかった。祐樹はどう?」
「ま、まあ楽しかったかな」
「もう一度乗ってもいいんだけど」
「えいやもういいんじゃない?!ほら、そろそろあっち行って泳いでみようぜ!」
「?それもそっかぁ。じゃああっち行こっか」
スライダーを強く反対する祐樹の熱い希望により流れるプールへ行くことになった。
前世でも今世でも、私が一番好きなプールは流れるプールだ。体力の消費が少ないけれど一番泳いでる気になれるから。
私の好みを知っていて指差してくれたのだろうか。少し見直したぞ。
ぐぅぅぅ
どちらのお腹から出たのか分からない音。
うん、まずはこの腹の虫をどうにかしなければ。
顔を合わせる。
「……時間もちょうどいいしお昼にするか」
「うん」
辺りを見回すと丁度良いところにお店があった。流石は大型施設、プール内完備だ。
「何食べる?全然俺買ってくるけど」
「ほんと?じゃああのホットドッグで」
奢ってくれるということなので甘えさせてもらう。
昔から無料という言葉が好きだった。タダより安いものはないわけだし。
「……ちょっとお手洗いに行ってくる。先座っといて」
「あ、はい」
祐樹と別れて手洗いに行くことにした。実はちょっと前から我慢していて今すぐにでも漏れそうだった。
危ないとこだった。
そして、手洗いを済ませ祐樹の元へ戻ろうとしたとき。
「ねえ、今暇?」
「……」
いわゆるナンパと呼ばれるものである。
私は完璧な優しく可愛い美少女であるがため、今までも何度かこのような機会があった。
……相変わらずだ。下卑た視線が自分のある一か所に集まっているのを感じることができる。女になって分かるけどやっぱりそういうし視線ってなんとなくわかってしまう。
不愉快極まりない。
「……急いでるので。話しかけないでください」
「いいじゃんいいじゃんそんな事言わなくてもさ。今はさ一人?可愛いよね、彼氏君とか居るの?」
「──っ!」
ゾワリと背中に悪寒が走る。
いきなり体を触られたし、何なら手を掴まれ逃げられない状況だ。
これまでのナンパでは断りの返事を一つ入れただけでどうにかなっていた。
……ここまで物語の中のナンパが来るとは思わなかった。
私は女で相手は男。生物学的に筋肉量にまで差が出てしまっている。
すぐにでも逃げ出したい。
相手の手から逃れようとするが、鍛えているのだろうか、ビクともしない。
足が震えて視界が滲む。
私何かしたっけか。遊びに来ただけじゃ?
さっきまで何事もなく楽しく過ごせてたっていうのに。
なんでこんな時にこのような目に遭ってしまうのか。
──だれか
「こいつ、俺の連れなんで。離してもらえますかね」
「……チッお手付きかよ」
……そっか。
「……ありがと。……情けないとこ見しちゃったね」
今はただ助けに来てくれた唯一の親友に感謝を伝えることだけで精一杯だった。
TS娘の可哀想は私たちの幸せ。
従って、
TS娘の可哀想=最高
という等式が表せるのです(?)