他作品ネタが複数入ってます。オリ主はボンプです。恋愛はしません。くだらないギャグだらけの作品になりますので、それが嫌な方は見ない方が他のことに時間を有意義に使えます。
青年は悩んでいた。
芦毛の髪を抑えて頭を抱えている。二階の自室に設置された机の上は少し散らかっているが、そこの中心に陣取っている一つのビデオを見下ろして、青年アキラは唸っていた。
「さて、どうしようか……」
そのビデオは、あまりにも過激に撮影されたワンシーンの切り抜きと、際どい格好のした成人の女性大きく表紙を飾っている。
アキラだけに、なんつって。
それはさておき。アキラがこれほど悩んでいるのも、単に男としての矜持が働いたからではない。アキラも男の子だ。妹に隠れてこういったビデオを手に取るもの無理がないだろう。
しかしまさか、あのアキラにこういった趣味嗜好があったのは驚きだった。
「────」
アキラは腕を組み、天井を仰ぎ見る。既に賢者のモードに突入しているのか。ずっと彼の部屋にいたが、そんな音は一切なかった。妹にバレずに発電する方法を既に身に付けているのだろうか。
「これは困った……」
後悔しているようだ。
視覚モジュールを起動。ズームしてアキラの背後からビデオの詳細を読み取る。これだけ過激なものをどこから拾って来たのやら。ネットでポチるのは、かなりのリスクがある。なにせ妹がそれを宅配便から受け取ってしまう可能性があるからな。
それなら、誰かから貰ったのだろうか。しかしアキラとそれだけ仲が良い間柄の男性をあまり知らない。
まさかビリーか?
いやいや、周りにニコやアンビー、猫又もいる中でそんなビデオを買うわけがない。
それじゃあ、答えは一つに絞られた。
アキラが他のビデオ屋から直接購入。そうすれば妹にもバレずに自室に持ち込める。
だが、あれほど可愛い妹がいるにも関わらずそれをこっそり買うとは……アキラも男だな。
「まさか、これをリンが……いやいや、そんなまさか……」
アキラは妹の名前をボソボソと口に出しながら、顔を覆う。初めてそういったビデオを購入したのか、あまりにも落ち着きがない。カタカタとアキラの膝が小刻みに上下して、それの振動によって机の上の物が僅かに揺れていた。
ンナンナ(アキラよ、買ってしまった物は仕方がない。男たるもの堂々とせよ)
買ったことを後悔して捨ててしまうのは、そのビデオに関係している人たちやそれを買った者への冒涜。万死に値する。後悔してももう遅い。時間は決して戻らないのだからな。
こっそりとアキラの丸まった背中を見つめて、ビデオに視線を移す。可愛い妹がいるのにも関わらずそれを購入した理由を、漠然とだが理解した。
ンナ(なるほど)……。
ケツとタッパがデカイ女優のようだ。
好みの女は東○葵や虎○悠○と一緒か。確かにあの妹には無い。なるほどなるほど。
「はぁ……まったく……」
アキラ、そんな落ち込むことはない。堂々としていればバレることはない。逆に後悔して動揺していれば、そこからバレてしまう可能性があるぞ。
短い腕を組みながら頷いていると、どこからか足音が聞こえてきた。
だがアキラはビデオに気を取られて、足音に気が付いていない様子だった。
ンナ(この足音は、ボンプじゃない……)
冷静に分析して、足音の正体が一人に絞られた。
直ぐに休息状態を解除してアキラのもとに駆け寄る。ここは
瞬間、閉じられていた扉がノックされてアキラは身体をビクッと震わせる。そしてアキラが反応するよりも先に扉が開かれ、ビデオを隠す隙もなく妹のリンが顔を出した。
「ねえ、お兄ちゃん?」
青みのかかった短い髪を揺らし、リンはスマホを見ながらアキラを呼ぶ。アキラは慌てて机を隠すように前に立ち、平然を取り繕いながら「ど、どうしたんだ?」と震えた声で言った。
慌てて立ち上がった所為で机の上に置いてあったペンが落下。静寂の中に響く一撃はあまりにも大きく、リンは首を傾げた。
「なんか様子が変だよ?」
「ん? そ、そうかな。いつもと変わらないよ」
いやいや、明らかにおかしいぞ。
リンはおかしな様子を見せる兄を訝しんで目を眇める。そして「うーん?」と顎に手を置いてアキラに近寄って顔を見上げた。
「なんかおかしい……」
「な、なにが?」
息がかかるほどに顔を寄せ、アキラの顔色を伺う。アキラは必死に机を隠すように立ち位置を変え、リンにはバレないように動く。リンは一通りアキラの顔色を訝しんでから「あっ!」と声を上げた。
バレたと思ったのだろう。アキラは思い切り顔を引き攣らせた。
「──私に隠れて仕事サボってたんでしょ!!」
指を指すリン。彼女の言葉をゆっくりと噛み砕き、ようやく理解したアキラは安堵の息を漏らして胸を撫で下ろす。そこで頬が緩んでしまって、踏み締めていた脚の力を抜いてしまった。
その瞬間を、優秀な妹は見逃さなかった。
「──隙あり!」
力では決して敵わない兄の身体を勢い良く押しやり、なにかを隠したであろう机へと手を伸ばす。妹の突然の行動を予測できず、更には油断していたあまりに対応か遅れてアキラは声を上げた。
いけないビデオの存在が、純粋無垢な妹に知られてしまう。それはパエトーンとしてどころか兄妹の関係に傷が入りかねない。
終わった、アキラはそう思っただろう。だが机を見たリンは「あれ?」と首を傾げた。
「なにもないや……」
そこにあるはずのビデオが、影も形もなく消えていた。
「あっれ〜……何か隠したように見えたんだけどな……」と呟くリン。アキラもなぜそこからビデオが消えているのか理解できず困惑するが、流石はパエトーンというべきか直ぐに対応してみせた。
「なにも隠してないよ。少し経営の状態を考えてただけなんだ」
「ふーん、そっか」
「それより、なにか用があったんじゃないのか?」
「あっ、そうだ忘れてた。これ、ニコがツケを少しだけ返しに来たよ」
口座に僅かばかり振り込まれているのをスマホの画面に映して、それをアキラに見せる。アキラはそれを確認してから、平然を装って答えた。
「あのニコがやっと少しずつ払ってくれたのか……」
「この調子で全部返してくれるといいね!」
そうだね、それだけ返すとリンは花のような笑顔を浮かべて部屋を出る。階段を駆け下りる音が扉の奥から聞こえ、一階に下りたのを確認するとアキラは安堵の息を吐いた。
「それにしても、さっきのビデオは……」
部屋内を見渡して消えたビデオの行方を探すアキラに、短い腕を伸ばしてビデオを掲げた。
「キミが助けてくれたのか……13号」
状況を理解したアキラが、ベッドの上でぴょんぴょん跳ねるボンプを見ながらその
「ナ、ンナナ(ふっ、男には決して女にバレてはならないことがあるからな)」
「なにを勘違いしてるのか、これは僕のではないよ」
やれやれとでも言わんばかりの分かりやすい嘘を語るアキラに歩み寄り、肩には流石に手が届かないのでアキラの脚をぽんぽんと叩いた。
「ンナ、ナナ(俺に隠す必要はない。ちゃんも理解しているさ)」
首に巻かれたスカーフをなびかせる。そしてアキラを見上げては、ドヤ顔で告げた。
「ンナンナナナナ(今なら
アキラは全てを無視して俺ちゃんの手から夢を取り上げた。
「だから、僕のじゃないんだ。なぜか分からないけど、うちの棚にこれが置いてあったんだ」
「ンー、ンナ(あくまでもアキラのじゃないと?)」
そう、と頷くアキラ。俺ちゃんも頷きながら、アキラが手に持っているビデオが丁度ジャンプで取れる位置に下がったことを一瞥して確認。油断をしたアキラの隙をついて、即座にビデオを奪い取った。
「あっ!」
「ンナナっ!(アキラのじゃないなら、これは俺ちゃんが貰って行くぜ)」
トコトコ、そんな擬音が聞こえてくるような足取りでアキラの部屋を後にする。だが扉を開けて直ぐに腕を掴まれ、悠々と持ち上げられる。これだからこの身体は不便で仕方がない。
逃げても人間の歩幅には敵わない。全力で駆けたとしても、人間には僅か数秒で捕まえられてしまう。それにほぼ抵抗もできない。今も頑張ってアキラの顔面を蹴り飛ばそうとするが、足が短いから、宙ぶらりんにさり気なく♪的な感じでぶら下がっている。
……母猫に首を咥えられた子猫の気分だ。
なんとかしてこの巨人共を駆逐できないものか。
試しに自分の指を噛んで見る。まず歯どころか口がなかったので巨人化失敗。まったく、人間という生き物はなぜこうも大きな身体を持っているのか。昔が懐かしいぜ。
「13号、キミはそれを持ってどうしようっていうんだい?」
「ンナ、ン、ナナナ(貴殿の妹と観賞するのさ)」
「そんなこと僕が絶対に許さない」
アキラの目の色が変わる。静かな怒りと僅かな殺意を感じられる。初めてこの着ぐるみのような身体で悪寒を感じた。
ロボットのはずなのに背筋に嫌な汗が流れたような気がする。怒らせてはならない人間を怒らせてしまったらしい。まったく冗談の通じないやつだ。
「最近キミは性格がまるで変わったようだよ」
「ンナ(俺ちゃんはいつもこんな感じさ)」
「こんなにも饒舌なタイプではなかっただろう?」
「ンナナ(キャラチェンなり)」
「はあ?」
そんな声を漏らして呆れたような表情を浮かべるアキラ。まあ確かに例えボンプのような機械であれどいきなり性格が変われば、俺ちゃんだって驚く。機械といえどちゃんとした種族であり、人間とは見た目と中身が違うだけなんだからな。
俺ちゃんだって元人間の元男として、アキラの性癖は尊重する。そのビデオの女性に性を抱くのも無理はない。俺ちゃんだって、昔だったらそのビデオをいの一番に手に取ってたさ。
「まったくいったいなにを言ってるのかサッパリだ。これは返してもらう」
「ンナッ!(そうはさせるか!)」
ビデオを取り上げようとするアキラの手を振り払い、俺ちゃんは華麗な動きで小さな身体を翻す。顔を踏み付け、ドアノブを下げながら一気に扉の外へ飛び出した。
「ンナっ! ンナナナナナ!!(残念だったな! 俺ちゃんの方が100歩は
階段は下らず、一気に跳躍。一階へと躍り出る。そこでバッタリとアキラの妹リンと出くわしてしまった。彼女はいきなり飛び出てきた俺ちゃんに驚愕して可愛らしい悲鳴を上げながら、慌てて回避。その瞬間、俺ちゃんは飛び上がった。
「リン! 13号を捕まえてくれ!」
「えっ!? えっ!?」
驚きのあまりに状況をまるで理解できていないリンだったが、アキラは階段で一階に駆け下りてから「ごめんやっぱり探さないでくれ!」と叫んでレンタルビデオ屋を飛び出た。
愚かな男だぜ。
「お兄ちゃん、行っちゃったけど……」
リンと店番の18号は呆けてアキラが飛び出ていった扉を見つめる。そして静寂が残ったレンタルビデオ屋で、リンは自身の背中へと視線を移して俺ちゃんを困惑した表情で見た。
「ンナ、ンンナ(助かったぜ、リンちゃん)」
「いったいなにしたの?」
ずるずるとリンの背中からずり落ちていき、俺ちゃんは安堵の溜め息を漏らした。
人生で積んできた経験が違うのよアキラ君。俺ちゃんにとって君はまだまだ子供なのだよ。
ニシシ、と不敵に笑っているとリンが腕を組んで俺ちゃんを不思議そうな目で見下ろしていた。
「お兄ちゃんがあんなに焦るなんて珍しいし、なにか隠してるんでしょー!」
「ンナ!? ンンンナ(いやいやまさかそんな)」
慌ててビデオを左手で背後に隠し、首を横に振る。だがリンは首を傾げて訝しみながら、その距離を縮めて行く。そして膝を抱えて俺ちゃんと視線の高さを合わせた。
俺ちゃんはリンの圧に、さながらコ○ン君のように後退っていきビデオ棚の角まで追い詰められてしまう。いやこれは、まるでナ○シカだ。
「ンナンナンナ!(来ちゃだめ! なにもいないわなにもいないったら!)」
渡しなさい、とそんな声が木霊する。リンの眇めた瞳が鋭く俺ちゃんを射抜いた。
アキラから逃げることしか考えていなかったから、逃げた後のことをまるで考えていなかった。
「ンナンナ!(ダメだリンちゃん! 良いのか!? フォースインパクトを起こすぞ!)」
「フォース、なに……? 意味分かんないけど、なにか隠してるのは確かなようだね!」
まずい、このままではまずい。そしてなによりリンちゃんのその姿勢もまずい。ただでさえ彼女のスカートは短いのに、その両膝を抱えるような態勢は更に危ない。見えそうで見えない絶対不可侵領域──これがA.T.フィールドなのか。
「ほら13号ちゃ〜ん、隠してるものはなにかな〜?」
「ンナンナンナンナ!(18号助けてくれ! 同じボンプ仲間だろ!)」
リンの脇から18号へ必死に助けを求めるが、ぷいっと知らんぷりをしてそっぽ向いた。
この薄情者!! 短足!!
言って気が付いた。俺ちゃんも今は赤ちゃん足だ。
「ンナ、ンナナ!(これは男のプライドを賭けて守らなければならないんだ!)」
「ほ〜ら、訳分からないこと言ってないで、その隠したものをお姉ちゃんに渡してね〜?」
ぷるぷると恐怖が身体を支配する。昔なら力づくでもこの場を切り抜けたが、今じゃ目の前の女の子一人にも勝てない。唯一勝てるとすればくっそ無駄な人生経験ぐらいだろう。
「ほらほら〜」
リンが両手の指をくすぐるかのように動かし、俺ちゃんを捕らえようとしている。ここは腹を括って覚悟を決めなければならないようだ。
アキラの為にも、俺ちゃんの為にも。
全男の誇りを懸けて────ッ!
「──あっ!」
逡巡を押し切ってリンの脇を抜け、俺ちゃんは一気に駆け出す。全身全霊全速前進ヨーソロー! 夢と希望を抱えて魔の手から逃げなければならない。
走れ俺! マッハで駆け抜けたメ○スのように!
スタート○ップ! ハイパーク○ックアップ!
このまま扉を蹴破って、一気に楽園へと!!
「──よし捕まえた!」
そんな妄想が現実になるはずもなく、いとも簡単にハイパークロック○ップを超えたリンが俺ちゃんの身体をガシッと捕まえた。
瞬間、その衝撃で俺ちゃんの手からビデオが放り出されて宙に舞う。さながらそれはクロックア○プの如く、視界にスローモーションで映じた。
「あっ!」
リンの声が響く。
「ンナッ!?」
18号の絶叫が響く。
「ふぁっ!!」
俺ちゃんの悲鳴が戦慄いた。
ビデオは天井ギリギリまで舞い上がり、出入り口の方へと飛んでいく。そして奇跡的なタイミングで扉が開かれ、そこから見知った顔が気怠げな表情で現れた。
「ん」
現れた彼女は飛んできたビデオに驚く素振りすら見せず、手慣れた動きでその長い
「はあ、なにこれ」
真紅に染まった宝石のような瞳がそれを見下ろす。漆黒の髪によく映えるインナーカラーが髪の間から覗き、口の中でアメを転がしながら彼女──エレン・ジョーは一言だけ。
「………………は?」
一言じゃなかった、一文字だった。
そして更には彼女の背後から息を切らしたアキラが顔を見せ、エレンが持っているビデオに気が付いて声にならない声で絶叫。エレンは羞恥に頬を赤らめる訳でもなく、アキラやリン、そして俺ちゃんに視線を向けてから追加で一言告げた。
「────キモ」