魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について   作:ひざぎ

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1-17 模擬戦闘、開始

 

「……顔、めちゃくちゃ死んでるけどやるの?」

 

「それで止めてくれる訳でもないでしょうに」

 

「……なんかごめんねぇ」

 

 先生は少し罪悪感を覚えた顔をしているけれど、結局それでやめさせることはないのだから、どうしようもない。

 

「僕、手加減とかしないですからね」

 

 ……なんせ、やる気満々な魔法使いが一人、僕よりも先に来るくらいには殺る気満々な魔法使いがいるのだから。

 

「別に、手加減なんてしなくていいさ」

 

 ──どうでもいい。そんな言葉を吐きそうになったけれど、やめた。これ以上格好の悪いところを周囲には見せたくはなかったから。

 

「……本当にいいのかい」

 

「いいですよ、別に。やれるだけのことはやってきましたし、やれるだけのことをやるだけですから」

 

 結局、僕に選択の余地は残されていない。決着がつけばそれでいいのだから、そこまで重く受け止める必要もないだろう。

 

 

 

 

「それじゃあルール説明といこうか」

 

 そうして先生が語ったルールはあまりにも単純だ。

 

 殺さない限りはルール無用。そもそも魔法使いが死ぬ場面がそもそもないから、実質ルールなんてものはないだろう、と先生は語る。

 

 確かに、とそう思う。今日までの一週間で、あらゆる自分の箇所を傷つけてみて、そうして血を吐き出し続けてみたけれど、それでも結局死に至ることはなく、人間でないことを証明するようにあらゆる傷口が瞬時にふさがるのだから、魔法使いがダメージを受けて死ぬ、ということは自分には想像することができなかった。それでも失血をしてしまった分、貧血のようにふらつく感覚がいつまでたっても拭えないけれど。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!本当にこんな状態で環を戦わせるんですか?!だって、彼は昨日もここに来ていない──」

 

「いいよ、葵」

 

 葵が慌てる声を出すけれど、僕はそれを制した。

 

「こんな状態でやることも想像していたし、別に魔法使いはそんなことでは死にはしないだろうさ」

 

「でも──」

 

「──いいんだよ」

 

 それ以上に葵に言葉を続けさせることはやめた。思ったよりも喉元の深いところから声が出て、葵はそれ以降は何も言うことはなかった。

 

 ──これが僕の歩く道。僕の色。色彩のない行動こそ、僕にはふさわしい。

 

「それじゃあ、始めようか」

 

 立花先生が声をかける。それを合図として間合いを取る。

 

「模擬戦闘、開始」

 

 

 

 

 先生の声かけで、天原は僕から距離をとる。その右手にはナイフが握られていて、すぐに魔法を使用しようとする光景が想像できた。

 

 ──結局、今日に至るまで僕は魔法を使うことはできていない。魔法の詠唱が上手くいかなかったのか、血液量が足りなかったのか、それとも自分に嘘をつくということがどこまでも突き通せなかったのか、そのどれが要因なのかはわからない。

 

 ──けれど、諦めているわけじゃない。この一週間でなんとなく理解できた身体のことを、僕は彼に対して実践していかなければならない。

 

 天原が後ろに下がった距離感を詰めるように、僕は足をバネのように地面に弾かせた。不慣れに動かした筋肉がどこか引き攣る感覚を覚えるけれど、肉を裂く痛みに比べてしまえば、どうということはない。僕は、そのままの勢いで天原へと走っていく。

 

「──!」

 

 天原は、戸惑いを隠せないというような表情をした。僕はその一瞬の戸惑いを無駄にしないためにも、一秒でも彼の近くへと走っていく。

 

 ──事は単純。要は魔法を使わせないというだけ。僕が距離を詰めるのは、彼にナイフを使わせないよう、それを取り上げるためだけに移動している。

 

 その後は正直どうなるかはわからない。魔法という行為を縛られた者がどんな戦いをするのか、単純な肉弾戦なのか、それとも裏に何かを隠しているのかもしれない。

 

 肉弾戦に持ち込めるのならばイーブンだろう。それならそれでいい。だが、裏がもしあるのならば、僕はそれに対してなにかをしようとする事はできない。

 

 ──ふらつく視界、酔いそうになる浮ついた感覚を噛みしめながら、天原の右手にあるナイフを目掛けて手を伸ばす。

 

「──そういうこと、です、か!!」

 

 天原に僕の狙いがバレたようだけれど、もう彼との距離はすぐに詰まっている。この、ナイフさえ取れれば──。

 

Enos(我、) Dies(希う),』

 

 目の前から、声が聞こえる。聞き慣れた言葉、言い慣れた言葉。なぜ、そんな言葉が聞こえてくるのだろう。出血をしていない彼が詠唱をしたところで、そんなことをしても意味がないのに──。

 

 ──そうして彼に向けた視線の中で、見つける赤い線。右手ばかりに意識を向けていて気が付くことはできなかった、一つの落とし穴のようなもの。おそらく、僕が想像した”裏”と言えるもの。

 

 彼の左手の親指にある指輪。ただのアクセサリーにしか見えないその指輪には──確かに短いものではあるが刃がついている。その刃が彼の左手を傷つけて、確かにそこに赤い線が描かれている。

 

 ──これは、まずい。

 

 どんな魔法が来るのかはわからない。葵のような火の玉か、それとも水流か、それとも僕の知らない何かか。そのどれもが僕には想像がつかない。だから、走らせた足の勢いを少しばかり横に転換して、もつれさせながら天原の目の前から逸れさせていく。そうして天原も体勢を崩して、腰から身体を落としていく。

 

 だが、それでも彼から言葉は紡がれる。

 

『──Dhict(氷の) Veiril(刃を)

 

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