魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について   作:ひざぎ

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2-8 這いよる乖離

 

「属性相性っていうのは確かにあるんだよ。例えば炎には水をやったり、水には氷をあてて流動性を止めたりね。そうして魔法の相殺をすることはまだある。瞬時に魔法の展開をできるのはなかなか難しいけれどね。

 

 でも、天音ちゃんの場合は違う。炎なら炎でそれを相殺する。氷なら氷、水なら水、風なら風と、そのままの属性ですべてを打ち消す。そもそも相殺なんて言うレベルじゃない。確実に対消滅する。

 

 だからこそ、僕は彼女に対しての称号は『化け物』がふさわしい。これはすごくいい言葉としてね」

 

 立花先生は彼女のことをそう語る。まだまほうについては発動することができない僕でもその理不尽さというか訳の分からなさはよく理解できる。水と水が合わさっても水嵩しか増さないだろうに、彼女は水同士でぶつければ、水は増えることはなく、そうして存在を消滅させる。

 

「ま、彼女については僕もよくは知らないからこれ以上の説明はできないよ。彼女もなかなか喋ってはくれないし、秘密が多いみたいだからね。環くんが頑張って口説いてくれたまえ」

 

「……口説くって」

 

「そんでもって、何か情報を得ることができたのなら、誰よりも迅速に内密に僕に伝えてくれると嬉しいかな!」

 

「本人が話さないことをしゃべるわけないでしょう」

 

 僕は苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 それはそれとして魔法の反発の練習。実際に反発しようと思って反発させているわけではないから、改めて意識をしなければいけない。

 

 今度、何かしらの事故で僕に魔法が当たることがあったとして、他の誰かに危害が加わるのならば早急に反発の性質を理解しておかなければならないのだ。だからこそ、危機感をもって取り組む必要がある。

 

「それじゃあ、また火の魔法を使うね」

 

「おっけーです」

 

 軽い口調で彼女に返して、僕は心の準備を整える。

 

 先ほどは触れただけで、そのまま火の玉は発動者である天音さんの方に飛んでいった。僕がやらなければいけないのは、魔法を発動した人に対して、魔法を反発しないように”逸らす”ことだ。

 

 触れるではなく、跳ね返す印象をもって。体育でやったテニスのように、ラケットではじく印象で。

 

Enos Dies(我、希う), Magna Dhiorr(炎の球体を)

 

 先ほどと同じように彼女は炎球の魔法を詠唱する。デジャブと感じるくらいに、すべてが同じ光景。飛んでくる炎弾。

 

 触れるだけではなく、弾いて逸らす。どうせ、触れても一瞬だから、炎の熱さはそこまで伝わることはないだろう。臆することはない。

 

 ……せっかく彼女が提案してくれたのだから、抱いてくれているかもわからない期待に応えるしかない。これからもこの魔法教室で穏やかに過ごすためにも。

 

 ──そうして炎が来る。炎の弾が来る。一度見た速度、もう分かり切っている魔法の展開。

 

 僕は、炎の球に触れる──じゃなくて横に弾くようなイメージを抱きながら。

 

 左の方向には逸らせない。天原や明楽、葵や先生、彼らがいるから、彼らに被害が及ばないように。

 

 球を──右に逸らす。テニスの打球に対するインパクトを思い出しながら、僕は、それを右へと受け流していく。

 

 ──どこか、懐かしさを思い出す感覚。

 

 ……受け流されたそれは、いともたやすく右に曲がる。軌道は直角に。

 

「な、なんとかできた」

 

「……その調子です。今度は氷でやります」

 

「あ、まだやるんですね」

 

 ……それもそうか。いちどだけじゃ感覚は自分の中には刻まれないからしようがないだろう。

 

 彼女はたんたんとナイフで血を垂らす。柔肌に垂れる血液が、髪色とのコントラストに揺れる。

 

Enos Dies(我、希う), Dhict Dhiorr(氷の球体を)

 

 ……まだ聞いたことのない魔法の詠唱。でも、氷というからには氷の魔法。そしてDhiorrという発音から球体のようなもの。つまりは、氷の球体だと予測してみる。

 

 ──射出される氷のつぶて。野球玉くらいの大きさの氷球は、炎の球の勢いとは違って、確実な加速が施されて、一瞬でこちらに来る。

 

 ──速い。身近で感じる速度ではない。明らかに銃弾ともいえる速度。実際に見たことがないから比喩表現でしかないけれど。

 

 ──これは捉えることができない。確実に思考の速度と身体の速度では釣り合わない、これは触れることさえも──。

 

『動け』

 

 ──脳の命令が意志を無視して、その氷球を右に逸らす。自分が自分じゃないみたいに、身体は本能のままに動く。それは死ぬ前の走馬灯を覚えるときと同じように、意識は加速して、緩やかに伸びる時間の中で、僕は氷球を捉える。

 

 ……氷が弾ける感覚。反発とは違い、勢いよく横にたたきつけるように触れたそれは、端的に砕け散りながら、右の方へと反発していく。

 

「……やっぱり、すごいですたまきくん」

 

 そんな光景を見て、彼女はぱちぱちぱちと拍手をした。無表情だから、本当に褒めているのかはわからないけれど。

 

「……なんか、できただけだよ」

 

 ──自分でもよくわからない感覚。自分が動こうと思った以上の脊髄的反射で、僕は身体を動かした。でも、その時の思考がどうだったのかはおぼつかない。

 

 だから、なんとなく怖さが心の中にはびこる。

 

 自分じゃないものが自分で活動している感覚がして気持ちが悪くて、怖い。

 

「それじゃあ、次は──」

 

「……いや、これ以上血を出して天音さんが貧血になったら申し訳ないから、今日はここまでにしようよ」

 

「……そうですか」

 

 半ば本当の心配を織り交ぜながら、僕は彼女との魔法の練習を終わる。

 

 ──心の裏側に蔓延る、自分が自分ではない感覚。魔法に触れるたびに、どこか浮つく乖離した自分の存在が気持ち悪くて、怖気づく。

 

 ……また、今度にしよう。

 

 僕は、そうして本日の魔法教室での勉強を終えた。

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