魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について   作:ひざぎ

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2-11 五月蠅い声

 

 自分自身が人を殺す可能性があるのかどうかを考えている。そこまで人を殺すほどの殺意を敵意を抱くのかを自分自身にずっと問い続けている。それに対しての答えは勿論否だ。そこまでの敵意を抱く人間も殺意を抱く対象も存在しない。だから、僕は人を殺すという結果を作らないことは説明できるかもしれない。いや、それで本当に人を殺さないということを説明することができるのだろうか。証明することになりえるのだろうか。それに対しての答えも否だ。人は殺意だけで人を殺すわけではない。だから人を殺さないという証明にはどこまでにもなりえない。自分自身がそう潔白であろうとしても、そうして人を殺すことはまだ現実的にあり得るからこそ、その時を考えるしかない。自分が人を殺したいかどうかなんてそういうところが問題なのではない。僕が人を殺すかどうかについて、自分に問わなければいけないのだ。どこまでもどこまでも思考の果てにたどり着くまで、僕は考えなければいけないのだ。

 

『いいや、お前はいつか誰かを殺すよ』

 

 劣等感が僕に問いかけてくる。忘れたふりをして、目を逸らすふりをしても、灰色に彩られた劣等感がどこまでも追いかけてくる。自分の身体にまとわりつこうとしてくる。自分の精神をむしばんでくる。自分自身を劣等感の塊だと認識させてくる。そもそもが劣等感でしかないことを思い出させてくる。

 

『事実、お前は一度殺そうとしたじゃないか』

 

 ──僕が誰を殺そうというのだ。僕はそこまでの殺意を抱いた人間はいない。今まで普遍的な日常を送ってきた人間として、普遍的な日常を送る人間ならば殺意を抱くような場面はあってはならないのだ。少しばかりの敵意であれば許容はできるのかもしれないけれど、それは殺意にはなりえない。

 

『それなら、思い出させてやるよ』

 

 ──いつかのように、記憶の投影が始まる。

 

 白い景色、果てがない白が地続きに無限に繰り返される世界。空間。どこまでも果ては存在せず、そうしてその白色に赤色のコントラストが映えてみえる。

 

 いつも見ている魔法教室の空間だ。でも、どうしてそこに血が垂れているのだろう。また、僕は魔法を使うことを失敗したのかもしれない。見慣れた光景なのだから当たり前のはずだ。だから、これは僕の血でしかない。

 

 ──でも、それにしては勢いが強い。ここまでの出血を行ったことは僕にはないはずなのに、どうして僕は首元から血を噴き出しているのだろう。

 

 どこまでも、どこまでも俯瞰的に見える世界。僕が空中からそれを見下ろしている。自分に笑顔で首にナイフを突き立て、そうして目の前にいる天原を見つめている。

 

 ──ひどく怯えている顔をしている天原の顔。僕はこの顔を見たことがあるような気がする。

 

『さあ、そのまま思い出すがいいさ』

 

 突き立てたナイフ、その出血量は普通の人間なら死に至るほどに。だが、その行動故に、その行動は人ならぬものでしかない。そもそも”魔法使い”がする戦い方ではない。

 

 これは、模擬戦闘での記憶だ。すべてがおぼつかない模擬戦闘での失われた記憶だ。僕はどうしてこれを覚えていないのに、どうしてそれを投影しているのだろう。

 

 足を蹴りだして、尋常じゃないスピードでナイフをもって天原に飛んでいく。まるで昔見たアニメのように弾丸みたいに飛んでいく。ある意味其れは跳弾のように。

 

 この時の僕は笑顔でしかない。どうして僕はこんな状況で笑っている。どうして自分にナイフを突き立てているのだろう。

 

 そんな目を見て思い出すのは──明確な、殺意。

 

 ──あの時にナイフをふるうことができれば天原を殺すことなんて容易だった。それが僕のするべきことであり、世界に対しての修正でしかない。それは浄化作用といえるようなものであり、どこまでも正しいといえるような行為である。だから肯定されるべき行為だ。

 

 ────違う、違う違う。そんなことはありえない。

 

 意識が劣等感に吸い込まれていく。劣等感に彩られる。曇天の空の色が心に蝕んでいく。それがどんなことよりも気持ちが悪く、──そうして楽しくて仕方がないんだ。

 

 あの時の僕は──、俺は天原が殺したくて仕方がなかった。だって、そうだろう?アイツだって俺を殺すようなまなざしで見ていたのだから。敵意を持っていたのだから、その殺意には応えるしかない。相互的な感情といえるようなものだ。互いに好意を持っているからひかれあうのと同じ。俺はアイツを愛するように殺さなければいけない。じゃないとイーブンじゃないから。アイツが俺に対して殺意を抱いているのなら、その殺意に答えて、アイツを切ってやらなければいけない。魔法がなんだ、知ったことではない。それが俺たちの流儀といえるようなものだ。意識が加速しないのなら加速するように行動するだけだ。だからこそ、俺はあの時に首に刃を突き付けて、死に対する演出を利用して、意識を加速させた。そんな時に見えたはずだ。アイツを殺すことができるタイミングを。確実に殺すことのできるタイミングを。心臓を切ってやればいい。心臓が切れなければ腕を、足を、首を切ってしまえばいい。自分にそうしたようにあいつの身体にナイフを刺してしまえばアイツを殺すことができる。でも、残念だ。ひどく残念だ。魔法なんかに頼ろうとする生活のせいで、貧血を起こすなんてばかげているよお前は。ああ、なんで事前に知っていたのに、俺は魔法なんてもののせいで負けてしまったんだ。お前が劣等感をぬぐいたいというのならば、あの時に確実に天原を殺せていれば劣等感なんて生まれていなかったんだ。そうする宿命だったんだよ。なんでそんなことに気づかないふりをして今まで生活をしていたんだ。お前は父親に誓ったはずなのに。どこまでもどこまでも愚鈍で劣悪なんだ。それがお前の気持ち悪いところだ。殺意なんて日常にあふれてしかいないのに、どうしてお前は呑み込むこともできずに拒否をしようとするのだ。それが気持ちが悪くて仕方がない。お前は劣等感を気持ちが悪いだなんて思っていない。自分自身を見て見ぬふりをしている自分が心底気持ちが悪くて仕方がないだけなんだよ。それを俺のせいにするなんてひどく勝手な話じゃないか。ずっと俺たちは上手くやってきたじゃないか。葵を救おうとしたあの日まで、ずっと心に寄り添って生きてきたじゃないか。今までなんで俺のことを愛さずに世界なんかのことを愛そうとしていたんだよ。お前、本当に気持ちが悪いよ。だからお前は灰色なんだよ。今さら取り繕うなよ。お前はどんな彩にもなれやしないんだよ。モノクロでしかないんだよ。白か黒にもなれない中途半端な灰色なんだよ。でも、それでいいじゃないか。それでいいじゃないか。それでいいんだよ。灰色でお前は──。

 

 ──五月蠅い。五月蠅い。五月蠅い。

 

  五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い 五月蠅い。

 

 

 

「……環くん、大丈夫かい?」

 

「ええ。俺は大丈夫ですよ」

 

 空間は、いつまでたっても白色だった。

 

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