魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について   作:ひざぎ

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2-14 ……出かけるか

 ぼたっ、ぼたっ、ぼたっ。

 

 古びた空間に、路地裏に何かが垂れる音と、男の息遣いが聞こえてくる。

 

「──なぜだ。なぜだなぜだなぜだ!!」

 

 戸惑いと怒りを肉塊にぶつけながら、少年はただただ目の前の死体を見つめる。

 

 手順は完璧だ。あきらかにすべてを正しく行い、そうして結果が訪れるはずなのだ。それがどうして行われないのか。

 

 天使の時間は未だにやってこない。いつまで祈念を続けようと、そこに天使の歯車はやってこない。そんなものなど存在しないというように。

 

「──私は……、私は……!」

 

 時間がない。あまりにも時間がなさすぎる。私はそんなことのためにこんなことをしているわけではないのに。どうして世界とはここまで融通が効かないものなのだろうか。

 

 苛立ちを覚えずにはいられない。目の前の気色の悪い死体を作った原因である少年は、何度も何度も肉塊を殴りながらそうつぶやく。

 

 その意図は、誰も汲むことができない。せめて理解してくれる友人などがいれば世界は変わったのだろうが、もう”彼”は帰ってこない。

 

 ──だって、私が殺したのだから。

 

 ははは。ははは。はははははははは。

 

 ははははははははははははははははははははははは ははははははははははははははははははははははは はははははははは はははははははは ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。

 

 

 

 

 空虚な笑い声が路地裏に響く。

 

 そうして血の抜かれた死体だけが残り、彼はその現場を後にした。

 

 

 

 

 長い夢を見ていた感覚がする。

 

 目が覚めれば、いつも通りの自分の部屋に横たわっている。窓辺を覗いてみれば、確実に朝だといえるような明るさが視界をさしてくる。憂鬱な気分が拭えないのはなぜなのだろう。僕は体を起こした。

 

 時計を見れば、もう学校はとっくに始まっている時間。遅刻というだけじゃ済まされないような、そんな昼の時間帯。

 

「……まじか」

 

 今から学校に行ったところで何も意味はない。言った瞬間に放課後と言えるような頃合いだ。

 

 ……どうしたものだろうか。

 

 夜まで起きていたとしても、魔法教室に関してはしばらくは閉校らしいし、今日に関しては起きていることが無駄なような気がする。さらに睡眠に浸れば時間を過ごすことはできそうではあるものの、そうすることもできないくらいに今は眠気が介在しない。

 

「……出かけるか」

 

 じっとしていても仕方がない。僕は適当にし服に着替える。少し不良っぽいけれど、適当に街でもぶらつくことにする。

 

 

 

 

 

 九月の中旬ということもあって、吹く風はそこそこに冷たいものになっている。その風を感じるということは、魔法使いになったときからだいぶと時間の経過をしているということを認識せずにはいられないが、その間に僕は何も変化をすることができていない。

 

 困ったものだ。こういった思考を切り離すためにいろいろあがいたつもりではあったのに、そんな思考をすることしかできない。

 

『どうせ、俺もお前も変わらないさ』

 

 五月蠅い声が聞こえてくる。それから耳をふさぎたい感覚。でも結局そうすることはしなくて、っ僕は適当に図書館への道のりを歩いた。

 

『黒魔法、どうするんだよ』

 

 いつの間にかしまわれていた劣等感が僕に問いかけてくる。

 

 ……黒魔法。

 

 劣等感から目を逸らそうと必死な時に、確かにそんな話を立花先生はしていたような気がする。

 

 意識は結局剥がれないから、きちんと頭の中に内容は入っているけれども、どこか夢見心地という具合だ。

 

 ……そもそも世界を改変する力だとか、自分が黒色の紋章を持っているから素養があるかもしれない、とか、いきなりそんなことを言われても、どうすればいいのかわからない。

 

 黒魔法は、普通の魔法とは異なって血液ではなく精神を代償にするとか何とかも聞いたけれど、実際に精神を代償に捧げる絵図も想像できないのだから、たとえその素養があったとしても、きっと僕には使えないような気がする。

 

 そもそもの考え方が未だに魔法使いと違うのだ。だからこそ、立花先生に叱責されたわけで……。

 

「……うっ」

 

 舌を噛み切りたい衝動。嗚咽も出てきて吐きそうだ。

 

 自分自身がそんなことを裏で考えていることを認めたくなくて、心が乖離する気持ち悪さに嘔吐感を覚えずにはいられない。

 

 ──僕は天原を殺そうとした。どうしようもなく殺そうとした。言い訳の仕様もないほどに、僕は天原を刺し殺そうとした。

 

 だれもそれをとがめることはなかったからこそ、気づかないふりをし続けていた僕にとっては、その事実が何より思い。天原のお見舞いの時に、彼が怯えた目で僕を見ていたことも、僕が天原を殺そうとしていたと思われていたことも説明がつく。

 

 ……確かに、殺そうとしていたわけなのだから。

 

 魔法使いだから、そんなに死ぬ絵図が想像できない、なんてそんな言い訳は通用するわけはない。加速する意識の中で、確実に彼の体を裁断しようとしたのだから、その言い訳は確実に通用しない。

 

『だから言ったろ?お前は人を殺す人間だと』

 

 五月蠅い声が聞こえてくる。でも、今の感情を整理する分には、適当な声が聞こえてくる方がマシに感じる。

 

 ……別に、劣等感を受け入れるつもりなどはない。ただ、そうしていれば精神環境が安定を保てるから、今はそうしているだけ。

 

 元はといえば、天原を殺そうとしたのだって、心に燻る劣等感が語りかけてきたからに過ぎない。……でも、結局は行動に移したのは僕なのだけれども。

 

『はあ、少しは認めるようになったじゃないか』

 

 ある程度は自認しないと、前には進めないような気がするから。

 

 劣等感はそうして笑う。耳障りだと思うけれど、僕はそれを受け容れながら、図書館の中に入った。

 

 

 

 

 図書館の中は空調が特に働くこともなく、換気のためか、常時入り口が開けられている。

 

 その扉をくぐり中に入ってみたはいいものの、結局何をすればいいのかはわからない。

 

 もともと、天原が過ごしていた場所であり、ここは僕の場所ではない。何をすればいいのかは自分自身で判断がつかない。

 

 図書館なんだから、その目的は本を読むことではあると思うけれど、ここまで来たはいいものの別に本を読むという行為が好きなわけではない。

 

 学校に行っていないという少しの罪悪感が、なんとなくここまで身体を動かしたような気がする。少しでも勉強をしなければいけないような、そんな気持ち。

 

 ……仕方ない。ここまで来たのだから、それらしい勉強でもしてみよう。

 

 僕は中に入って、適当な学習に使えそうなものを寄せ集めて、誰も座っていない場所に座り込んだ。

 

 

 

 

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