魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について 作:ひざぎ
「それはさておき、僕はずっと後ろから君たちを見ていたけれども、目撃したら逃げるくらいじゃないとダメかなぁ、って思うけどなぁ」
葵から特にキツイお仕置きがあるわけでもなく、実際に話すべきことを話しましょう、と誘導してくれたことで本筋の方まで戻してくれる。
「……というか、後ろで見ていたのなら助けてくれてもよかったのでは?」
「そういうわけにもいかなかったな。この前環くんにきつく言ったのがちゃんと効いているかを確認したかったから止めるなんてことはしなかったけれども、実際問題、君にあの言葉は響かなかったみたいだね」
……響かなかった、というか、なんというか。
──魔法使いと対峙するときに心を染める灰色の劣等がいつまでたっても拭えないのだ。それは衝動的にやってきて、自分の感情をすべてを上書きして、あらゆる自分の行動を無視をする。
魔法使いに対峙というか、敵と認識してしまった相手に対してそうなってしまうのだけれど、今まで生きてきたうえでそこまで敵意を意識する人間なんていなかったから、そんなことになるなんて自分でも思っていなかったのだ。
心の中で別人が住んでいる感覚はあったものの、最近になってここまで肥大化してくることも、自分自身で認識することはできなかった。
「……すいませんでした」
僕がそう言うと、立花先生が苦笑して、いいよ、と呟く。いつもよりも人を安心させる声音で。
「でもよかったねぇ、相手が魔法使いで。君がまだ魔法を使えないことが功を奏したね」
「まあ、そうですけれども」
「とりあえず、事態の整理をしようか。最初に何があって、そうしてこうなることになってしまったのか。改めて環くんの主観で僕たちに聞かせてみてよ」
◇
そうして話すのは、時が止まった世界の話。図書館にいたときから世界が止まり、一時間ほど経過をしたあたりで葵と出会ったこと。そこで──
「ああ、もうおっぱいの下りはもういいよ。流石にこれ以上言ったら大変なことになるから。主に僕と君が」
「……はい」
……葵と出会った後、後ろにいた立花先生には気づかずに、葵に連れられて立花先生に会うために路地裏に。誰もいない暗がりで、誰かが、少年のような魔法使いが死体を殴っていて、そうして吸血鬼事件の犯人らしき人物だったこと。更に戦闘に持ち込みそうになったところで、目の前から消えたこと。
「まあ、あれは普通に転移魔法だったね。場所についてはアトランダムの指定だったから逃げるにはいい魔法だよ」
「……なるほど」
そういえば、葵と一番最初に魔法教室に行くとき、同じような詠唱をしていたような気がしないでもない。二か月ほど前だから、少しばかり記憶に薄いけれども。
「それで、環くんはほかに気になるところとかはないのかい?」
「……そうですね。なんか声音は少年だったのに、めちゃくちゃ老人のような喋り方というか。演技をしているわけでもなく、ナチュラルにしゃべるような感じでした」
「……なるほど。なるほどなるほど。ちょっとわかってきたような気がするぞ」
「何がですか?」
立花先生はそうして話す。
「その魔法使いは、後天的な魔法使いだね」
◇
「後天的な魔法使い……、ってなんですか?」
「うん?普通に君のことだけれども」
「……はい?」
「いや、考えてみなよ。君は最初から魔法使いだったのか?」
そういえばそうだった。少しずつ魔法使いの生活に慣れていた気がしたから、単純に忘れてしまっていた。
「というわけで、あの魔法使いは君と同じように後天的に輸血された魔法使いなんだろう」
「……というわけ?」
いろいろと省略する癖がまた出ている。事態を認識できないのだから、いい加減にやめてほしいのだけれど。
「恐らくあの魔法使いは、環くんとは違って『巻き戻り』の耐性がない人間なんだろう。だからこそ、人間の血を欲しているんだろうね」
「人間の血……、なんでそんなものがいるんですか?」
「僕も詳しくは知らないけれど、魔法使いの血液を薄める目的で人の血を回収しているんだろうね。巻き戻る性質がそれで緩和されるのかどうかは知らないけれども、少年の姿で人を殺して血を奪っているということはそういうことなんだろう」
「……なるほど」
「おじさんみたいな口調だったのも、それで納得できるんじゃないかな。もともとはじいさんだった人が巻き戻って、そうして少年に。それを薄めての吸血鬼事件、ってことで僕はつながると思うね」
確かに、納得をすることができる。
というか、僕に巻き戻ることの耐性がなかったのなら、僕もああいう風に子どもになっていたのかもしれない可能性を考えると、少し怖い。
「それにしても凄い犯人だよね。本当なら魔法使いの血液を輸血されたら見た目だけではなくて、内部も巻き戻るから記憶なんて維持できそうにもないけれども、どうにかしているんだろうなぁ」
「……先生、ひとつ気になることがあるんですけど」
僕は、先生に疑問をぶつける。
「あの人、死体を見て血以外にも、ぼそぼそと呟いていたんですよ」
「……んん?そんなの聞こえていたのかい?」
「はい。なんか、天使の時間とかなんとかって──」
「──天使の時間、だと?」
──その時、今までに見たことがないほどに怒りの感情を含ませた顔をする先生の姿が、視界に映った。