魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について 作:ひざぎ
◇
……今、立花先生が話した言葉を咀嚼しているけれど、その突拍子のなさ、荒唐無稽さが、あまりにも尋常じゃないものであったために思考が停止する。
今、先生は何て言ったのだろうか。
殺せと、言ったのだろうか。
本当にそう言ったのだろうか。そう言ったんだろうけれど、それは現実の言葉なのだろうか。よくわからない。
「……それって、マジですか」
「ああ、マジだね。これ以上ないくらいにマジだよ」
立花先生は真剣な眼差しを逸らすことなく、僕を見つめている。確認を取ってしまったことで、今の発言が本当ということを認識してしまって、それから彼に対してどんな言葉を続ければいいかわからない。
殺す。殺すということは、その人の命を奪うということ。その人生を否定すること。
「な、なんで殺せだなんて。冗談もほどほどに──」
「冗談なんて何一つ言っていない。言いたいけれども言えない状況なんだよ。君しか対処できる魔法使いはいないのだから」
先生は、なんとも表しずらい感情を帯びた声で続ける。
「生徒に対して魔法使いを殺せ、だなんて、そんなこと僕の口からも命令はしたくない。でも、天使の時間が来たら、それは君以外にも止めることができない。君にしかお願いできないんだよ。
君の言っていたことが本当にあって、一回時が止まったというのならば。そしてその魔法使いが天使の時間について言及していたのならば、それは確実に天使の時間という黒魔法なんだよ。それ以外にも時が止まる要因なんてざらにあるけれど、それでも君が意識をもって垂直の時間を生きたのならば、それは天使の時間でしかない。まごうことなく天使の時間であって、それは世界の終わりのようなものなんだよ」
「──せかいの、おわり?」
何を言っているんだ、さっきからこの人は、いくらなんでもそんな世界の終わりなんて言う規模のものがあるわけないだろうに。
「大げさすぎますよ。流石にそれは」
「大げさなんかじゃない。さっきから冗談にしたいようだけれど、そろそろあきらめてくれ」
先生はため息を吐いた。僕のほうがため息をつきたいくらいなのに。
「現実感がないかもしれないけれど、天使の時間がやってくれば自ずと世界は終わる。その理由は、世界が垂直に時間を移動することによって、結末が見えてしまうからだ」
結末……?
「もともと世界だって最初から落下していたわけではない。世界が落下するにはもちろん原因がある。その原因を僕たちは理解することはできないけれど、最初から落ちているほどに世界は都合がよくはない。何か確実に要因はあるはずなんだ。誰のなんの意図があるかはわからないけれど、世界は確実に結末を求めて落下をしているんだ。
なんでもいい、何か物が落下するときに、……不謹慎ではあるが自殺を目的とした時に人が落下したとする。そして落下が止まった状態、つまりは落ち終わってしまったとなった状態を迎えたら、人は死ぬだろう。……いや、そういうことが言いたいんじゃない。どう言葉をまとめればいいのかわからないけれど、もし世界の目的が落下をして、その結果地面にたどり着くことだったとして、その目的を叶えてしまったのなら、世界に落ちる理由はなくなる。世界はもう僕たちの通常の時間軸を取り戻すことはないかもしれない。そんな世界を終わりと言わずして、終焉と言わずしてなんと喩えよう。それ以外に言葉は存在しないだろうさ」
「……」
よくわからないから沈黙を返すしかない。
「そして、もし天使の時間を迎えたとして、そして次に通常の時間軸は流れなかったとして、その場合、君は孤独に死ぬしかないだろう。周りの物体は垂直の時間軸に対応することができず、ただ停滞を続ける世界。その中で唯一君だけが生きる世界。その果ては確実な世界の終わりだろうに。何も動かない世界なんて死んでいるようなものだ。僕は、そんな世界を見たくはない。時が止まっているからそんなもの見ることはないかもしれないけれど、知らぬうちに終わっている世界なんてまっぴらごめんだ。そんな世界、誰も報われることはない」
「……でも」
その天使の時間を止めるために人を殺すという選択を取らなければいけないことを考えると、どうしても行動ができなくな──『いいや、いい口実をもらえたじゃないか。本当に公的に魔法使いを殺すことができるのだから、それでいいだろう』
「生徒に殺害を強要するなんてあまりにも倫理に反していることはわかっている。この前君に殺すことについての説教をしたのに、それで君にそれを命令するのは確実に都合がいいことも理解している。だけど、君にしかできないからこそ、僕は君にお願いすることしか、命令することしかできない。世界の命運を君が握っているといえば、少し格好つけた言葉になるけれど、それ以上に表しようもない。
だからこそ、命令だ。天使の時間を発動する、もしくは発動した魔法使いを殺せ。絶対に、絶対にだよ。
黒魔法を発動がされたら、その発動者が死ぬまで黒魔法の解除は止まらない。天使の時間が一度解除されたことについては僕にとっては幸運としか言いようがなかったね。だから君には──」
そうして、紡がれるべき言葉は、──紡がれなかった。
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────────────天使の時間が、やってきたのだ。