魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について   作:ひざぎ

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2-24 いつものたまきくん

 天使の時間がやってきた。どうしようもない天使の時間がやってきた。僕以外の誰もが動くことはなく、固着を続けるつまらない世界。だが、だからこそ出来る行動についてを頭の中に反芻する。

 

 天使の時間を発動した魔法使いを殺す。

 

 お願いではなく、命令。

 

 天使の時間の襲来とは、一つの世界の終わりであり、それ以上に要素は存在しない。だからこそ、僕は世界の命運を握っているのだと、立花先生は言っていた。

 

『はは、ははは。はははははははははははははははははははははははははははははははは』

 

 劣等感が笑いをあげる。どこまでも誰にも届かない、僕にしか聞こえない声を、ずっとあげている。

 

『お前はこれで公的に魔法使いを殺すことができるんだ。お前のすべてはこの天使の時間によって肯定される。天使の時間がお前の殺害を許諾してくれるんだ、許容してくれるんだ』

 

 ──灰色の劣等が、心を染めていく。歓喜がどうしようもない狂気を孕ませて、そうして世界は──明るい。とてつもなく気持ちが晴れる気分だ。どこまでも自分の行う行為が肯定されるその感覚。今まで感じていた感情すべてが、あらゆるすべてを肯定してくれる世界を、俺は愛することができる。

 

 俺は任された。公的に、絶対的に。

 

 立花という男については嫌いでしようがないが、だがあいつもたまにはいい役回りをしてくれる。

 

 吸血鬼だなんだと騒ぎ立てても、それが人間であるならばコイツは刃をふるえないだろう。

 

 ──だが、相手は間違いなく魔法使いであり、確実に殺すべき対象でしかない。だからこそ、いつだって抑えてきた殺人衝動を解消することができる。

 

 魔法使いはどこまでいっても汚らしい存在でしかない。もとより存在しないものを現実に上書きをして世界を汚す存在など殺しても大して問題ではない。だから魔法使いは殺すしかない。浄化といえるものだ。コイツはそれを肯定はしないだろうが、俺はそれを肯定しよう。いつか、魔法使いのすべてを根絶やしにしてやろう。そうすることで世界に安寧は訪れるのだから。

 

 とりあえず、どこから散策していけばいいだろう。天使の時間を発動したからといって、その目印になるようなものは何一つない。そうとなれば地道に探すしかないが──。

 

「──たまきくん、なにしてるの」

 

 そうして聞こえてくる、聞き覚えのある声。

 

「……は?」

 

 その声に後ろを振り向けば、思い出した声と合致するように、──天王寺天音が、そこにはいた。

 

 

 

 ◆

 

「……なんでお前がここにいる」

 

 天使の時間に縛られないのは俺だけのはずだ。黒い紋章を持つ俺だからこそ、この天使の時間に適性をもって過ごすことができる。

 

 だが、──目の前にいる天音の存在はあまりにもおかしい。

 

 適性を持たない魔法使いが、例外なく固着するこの世界に、どうして天王寺天音が声をかけてくる?どうしてここにいる?どうしてこいつは、この世界に適応して──。

 

「──そっちのたまきくんはきらい」

 

「──あ?」

 

 ──途端、腹部に対して強烈な衝撃。

 

 は、は?どうして──。

 

 

 

 ◇

 

 腹部が痛い。なんで痛いのかと目の前の現状を振り返ってみれば、天音さんが握りこぶしを僕の腹にぶつけていた。

 

「……な、なにを」

 

「……よかった。いつものたまきくん」

 

 天音さんは、そう呟いた。いつもなら無表情のままでいるのに、今日に関しては少し微笑みながら。

 

 

 

 ◇

 

「……それにしても、……なんで、いきなり……腹パン?」

 

 彼女の握りこぶしが確実に腹の内部を攻撃するかのような衝撃があったために、未だにその痛みをぬぐうことができない。男とか女とか、そういう話をするべきではないのだろうが。それでも彼女のようなか弱い存在が、いきなり喰らったこともない攻撃をしてくるものだから、動揺を隠せずにはいられなかった。

 

「……だって、いつものたまきくんじゃなかった、から」

 

 彼女はそう言うけれど、それだけで片づけられるものでもないだろうに。

 

「──知ってたんだ。僕のアレ」

 

 自分の心さえ支配して、あらゆる行動を上書きする劣等感の存在。誰もそれに対して言及をしていなかったというのに、彼女はさも当たり前かのように。

 

「……わたし、対極が見えるから」

 

「……たいきょく?」

 

 よくわからない単語を聞いて、咀嚼をしてみるけれども、何もわからない。たいきょく……。

 

「あの、中国でやってる拳法みたいな……」

 

「……こんど、説明するね」

 

 彼女はまた無表情になってそう答えた。どこか呆れているようにも感じる。そしてはぐらかされたような気もしないでもない。

 

「というか、なんで天音さんがここにいるのさ。というかなんで動けるの?」

 

 そもそもの疑問はこれだ。誰も彼も動くことはないはずの世界で。

 

 僕がこの世界で動くことができるのは、立花先生曰く、黒の紋章を持つ僕だからこそ黒魔法に対しての適性があるからだけれど、彼女については……。

 

「……もしかして、天音さんも紋章が黒かったりする?」

 

 そうして考えつくのは、天音さんが同じく黒の紋章をもつ魔法使いであるということ。立花先生でも把握をしていなかった紋章。彼女が隠していた理由は知らないけれど、それなら納得ができるような気が──。

 

「……ううん、わたしに紋章はないんだ」

 

「──え」

 

「昔はあった、けど、なくなりました」

 

「……なる、ほど?」

 

 ……意味が分からない。

 

 というか、また何もわからない状況か。いつも同じような状況に立たされ過ぎなような気がする。説明が下手な葵、説明する気がそもそもないように振舞う立花先生、そしてそもそも説明をしない天音さん。

 

「じゃあ、なんで動けるのさ……」

 

 それでも説明を受けたくて、疑問を彼女にぶつける。

 

「……ええと、なんて、言えばいいのかな」

 

 そうして彼女は考える動作を取る。

 

「”無い”はいつだって”無い”から、いつだってそこに”無い”の」

 

「……ない、ない?」

 

「”何も無い”はいつだって”何も無い”。だから、時間が止まっても、”何も無い”から関係ないの」

 

「……もっと、わかりやすく言ってくれませんか」

 

「──わたしは”何も無い”存在なの。”何も無い”から、時間が止まってても関係ないの」

 

「……」

 

 ──なにをいってるんだろう、この人。やっぱり関わらないほうが良かったのかもしれない。

 

 

 

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