魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について 作:ひざぎ
「まず言うべきことがあると思います」
葵の家に行き、上がることにはなったものの、最初に彼女から言われた言葉はそんな一言だった。
「ええと……」
そうやって、考えてみる。
思えば、思い当たる節がありすぎる。
なんというか、思い立ったら吉日というわけでもないけれど、とりあえず葵に会えば何とかなる、とか都合のいい考えをしていたから、いざ彼女が結構強気な態度をとると、どう対応すればいいかわからなくなる。
ええと、謝ればいいのだろうか。そうして謝るべきことを考えてはみたけれども、やはり思い当たる節が多すぎる。
天使の時間の中で、彼女の胸に触れたことだろうか。一応あの場では事態が事態だったからあやふやになったけれど、彼女に対して正式な謝罪は紡ぐことができていない。そうなると、それを謝らなければいけないような気がする。まあ、正式的に言えば、謝罪はしたものの、それを彼女が受け入れていないだけなのだが、加害者が被害者にそんな態度をとったら、更に怒るに決まっている。
もしくは、それではないとしたら、ここ最近魔法教室をサボり続けていることだろうか。どうせ行く意味はないと思い出してから、天使時間の後には行くことはなくなってしまった。立花先生にも無断で休んでいるから、そのことを謝罪しなければいけないのだろうか。
更にもしくは、最近の彼女に対して、あまり関わろうとしなかったことだろうか。後ろめたい気持ちが優先して、そうして彼女と関わることをやめようとしたことを謝罪しなければいけないのだろうか。
……駄目だ、思い当たる節が多すぎる。こういう時にどういう対応をするべきなのか、全くわからない。こういう時に義務教育は何も役に立たないのだと実感をする。生活に生かす知恵を授けてくれないのだから、本当に意味がない。
「……とりあえず、ごめんなさい」
思い当たる節が多すぎるにしても、謝罪をしなければ、話をすることもできないので僕はそう彼女に言う。どれに対して謝っているのか、とそう聞かれれば詰んだも同然だけれど、その言葉を聞いて彼女は、「……まあ、よろしいでしょう」と少し老人の口調のように冗談めかして返してくれたのだから、ほっとする。
「それでどうしたの?環から話があるなんて、なんか珍しいじゃん」
「……いや、まあ、話があるっていうほどのものでもないのだけれど」
いざ改めて彼女と会話をしたい、という気持ちだけでここに来たことを悟られるのは、どこか恥ずかしい。これだと僕が葵に故意をしているみたいになっちゃうから、どういう事情を取り繕うべきなのかを考えるけれど、結局思い付きはしない。
思い立ったら吉日、それにしては思い立ちすぎた。無計画さがここでほころびを生んでいるような気がする。でも、結局行動をしなければ変わらないのだから、どうしようもない。
「ふうん」と葵は、少し素っ気なく返してそっぽを向く。少し頬が膨れているのがいつもと違うから目につく。どこか少し不貞腐れているような雰囲気。
「それで、なんで魔法教室に来なかったんですか?」
「……それは、その、ですね」
……魔法が使えないことを自覚したから、とは少し言いづらい。
天音に言われたから、というのもあるけれど、そんなこと以上に、自分自身が魔法を使う想像ができない、というのが現状としてある。
もし、彼女にそれを伝えたら、またどこか苦しい顔をしてしまうかもしれない。だから、言葉を考えてみる。
「……天音ちゃんと出かけてたんでしょ」
……なんだって?
「は?なんで天音──」
「あ!ほら今天音っていった!前までは天音ちゃんのことを天音さんって言ってたのに、そうなんだ。やっぱりそうなんだ。もう付き合ってるんだ、ふーん、そんなことを話に来たんだ。見せつけに来やがったんだねこのリア充」
「いや、違います違います。天音は天音というか、なんというか、いつの間にか呼び捨てにしていたというか、なんというか」
「いつの間にか呼び捨てにするくらいに仲が良くなったってことなんでしょう!?最近の若者は展開が早くてよかったですね!!」
葵は無茶苦茶に怒声をまき散らしながら、部屋にある枕や衣類を投げ飛ばしてくる。周囲にはいろいろな硬いものがあるのに、それを投げつけないところが彼女らしい。
──そんな所作に、どこか落ち着きを覚える。僕はどこか少し変だ。
「まあ、でもいろいろあったけれど、天音とはそんなんじゃないよ。本当に。信じてくれるかはわからないけど」
実際、そこまで仲が深まったわけでもない。ただ、天使の時間を一緒に過ごしただけで、それ以上は……。
「……本当に?」
「本当だよ。天音に聞いてみればいいじゃん」
「……聞けないよ。環と同じでずっと休んでるし」
……え?
「休んでるの?天音が?」
「環と同じで、ずっと休んでるよ。だからデートとか行ったのかな、って疑ったんですよぉ」
消え入りそうな声で彼女は呟く。
──天音が、休んでいる?なんとなく彼女はいつも魔法教室にいるような気がしていたから、そんなことはないと思っていたのに。
「あ、今天音ちゃんのこと考えたでしょ」
「……いや、違います、違いますとも」
考えてはいたけれど、葵が思う方ではない。
──どこか嫌な予感を覚える。なんで、胸騒ぎがするのだろう。