魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について 作:ひざぎ
「人の悩み事についてとやかく言うのは悪い趣味だなって思うけど、そんなことに悩むのは馬鹿らしいと思います」
葵は改めて僕の方へと向き直って、そうつぶやいた。
「……その前に暴力はやめておきましょうね」
結局、葵が宣言した通りに一発ぶん殴られた。殴られたと言っても、ぽむん、という擬音が聞こえそうなほど優しい火力で。
「それで環は魔法が使いたいの?使いたくないの?」
「……正直、自分自身で魔法が使える姿が想像できない。魔法使えないというだけで嫌になる、という気持ちがある。だから、どっちとも言えないさ。でも、使わないでいいのならば、それで救われるような気もするんだ」
この劣等感の正体は、他のみんなが魔法を使えているのに自分だけが使えない、という気持ちから来ているもの。この際、自分が魔法を浄化する天使というものなのであれば、それで気持ちが救われる、とそんな気持ち。
「環は、どうして魔法を使いたいの?格好いいから?」
「……」
確かに、そんな気持ちも最初はあった。
葵が見せてくれたように炎の剣とか自分自身で発動出来たら、ものすごくロマンがある。でも、それだけで魔法を使いたい、という気持ちがあるわけじゃない。
──僕が魔法を使いたいのは、彼女が僕を魔法使いにさせたから。その責任として──。
「──もう、いいんじゃない?」
葵は、言葉を語る。
「環が天使という存在で魔法が使えないって諦めた方が気も楽なんじゃないかな、って自分自身で思っているでしょ」
「……まあ、それなりに」
「別に、私はそれでいいと思うな。私、環に魔法で困ってほしくないもん」
「……そう?」
「うん」
葵は笑顔でそう言った。
「私を理由に魔法を使いたい、っていうなら、もうやめちゃおうよ。立花先生にも全部話して、すっきりした方が気持ちもいいでしょ。環は前みたいに普通の人生を送るっていうのも、ありなんじゃないかな」
「……」
……本当にそれで、いいのだろうか。
「だから、いいんだよ。それが私の願う環の姿だから」
「……結構、いいことを言いますね」
「自分自身、くさいこと言っている気持ちはあります」
葵が苦笑する、それにつられて僕も笑うようにした。
「それで、環はどうしたい?私の話を聞いたうえで、環はどうしたい?」
「……僕は──」
別に、僕はもう魔法なんてどうでもいい。そう思いたい。でもそれだけでは自分の気持ちは収まらない。
──天音に話を聞いて、そうしてすべての真実を知ってから、どうするかを決めていきたい。
「とりあえず天音に話を聞いてみる。それからどうするか決めてみる」
「……ほかの女子の名前が出るのはとても嫌ですが、環の決めたことならば尊重します」
少しばかり(?)の敵意を感じて、そうして僕らは笑う。
きっと、これでいいはずなんだ。
◇
そうして決めてからは、魔法教室に行くことを青いと決めて、それまでの暇つぶしで二人でトランプをして遊んだ。その勝負の結末は惨敗だったけれど、葵との久しぶりに過ごす時間は楽しかった。
いつもなら葵は転移魔法で魔法教室に行くけれども、今日は一緒に歩くことにした。その間に魔法教室であったことを葵は話してくれる。
明楽が指だけではなく腕を切ることが少しずつできるようになったこと。この前は間違えて動脈に近いところを切って散々なことにはなったらしいけれど、それでも少しずつ進歩しているんだよ、と葵は評価する。
雪冬についても話してくれる。相変わらず氷の魔法ばかりを練習していたらしい。たまに炎と氷で相殺するように練習をして、どこか天音を意識しているように感じた、と葵は呟いた。
──だが、天音はやはり教室には来ていないらしい。天使の時間を止めたあの日から、彼女は僕とタイミングを合わせるように、魔法教室に来ることをやめた。
立花先生はそれをどこか不安としている様子。僕についても、そして天音についても詳細が定かではないから、苛立っているとも、葵は付け足した。
「立花先生はさ、なんだかんだ生徒に対して熱心なんだよね」
「……まあ、なんとなくわかる気はする」
先生は僕に黒魔法の素養があると信じても、その信じる気持ちの裏で、本当に精神を代償にする黒魔法を教えていいものか、最後まで悩んでいた。人の裏腹を探るような嫌な性格はしているけれど、別に嫌いな魔法使いではない。
「……でも、不思議なんだよね」
「なにが?」
僕がそう返すと、葵は歩きながらぽつぽつと話し出す。
「立花先生は何が何でもその人の情報をつかむのに、天音さんについては何にも知らないのが不思議で仕方ないんだ」
「……それは、確かに」
前、雪冬との家に泊まるという話になった際にも、彼はいつの間にか僕の家庭事情を把握しているようだったし、天使時間の時だって、いつの間にか葵についてきていたし……、というか、それについてはストーキングとしか言いようがないのだけれど。
「そんな立花先生が天音について何も知らないのが不安かい?」
葵はその言葉を聞いて、躊躇うようにうなずいた。
「……うん。なんか、環をどこかに連れていきそうで、心配」
「どこか連れていきそうだなんて、そんなことあるわけないだろうに」
僕が笑って返すと、葵は僕の前に立つように歩みを進めて、そして止まった。
「……わからないじゃん。
私は彼女について何にもわかってない。魔法を相殺できる力についても不安だし、そんな彼女が環について何か知っていることがあるのが、ものすごく不安で仕方がない。
だから、環がどこかへ行きそうな感覚になる。私の手元から離れていくような気がして、すごくいやだ」
「……手元から離れるって、そんな──」
大げさな、と呟こうとしたけれど、言葉をさえぎって葵は話を続ける。
「やっぱりわからないものは不安だよ。彼女がどんなに言葉を尽くして説明をしても、きっと私はこの不安をぬぐえないと思う」
「……そうか」
「──だから、約束してほしいんだ」
「約束?」
彼女は、ものすごく大きな呼吸をしてから、言葉をつぶやく。
「──私のそばからいなくならないでね」
「──当たり前だよ。だからこその輸血関係、なんだろ?」
当たり前のこと。彼女が僕を生き返らせた責任をとるように、彼女が僕を生かしてくれる責任を自分がとる。
だから、この約束は絶対的なものだ。
絶対に破られてはいけないものなのだ。