魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について 作:ひざぎ
◇
特に違和感のない景色が広がる。昔ならいつも見ていた景色、先ほど見た景色も目の前の光景と大して差はない。
昼間の教会は人がそこそこに行き来しているものだから、調査するのは目立ってしようがないだろう。
それに比べて深夜の教会は、誰もが寝静まっているからなのか、そこに人は介在しない。それが一つの安心感を覚えさせた。逆に言えば、葵と二人でこの時間帯に教会という場所にいることは少しだけ不安に近い、というかイケないことをしているような気分がする。
まあ、事実いけないことなのだけれども。
教会の奥には、幼い頃でも入ったことがない。そもそも幼い頃の記憶もおぼつかないから、もし入っていたとしても記憶にはないのだけれど。
だが、今日見ていても特に誰かが奥に入るという姿はシスターや保母以外では見かけていない。
別に関係者以外立ち入り禁止と書かれているわけでもないのだが、それでも入ってはいけないような雰囲気がこの年齢になっても感じるから、表立って入ることは難しい。
逆に言えば、一番怪しいポイントとすればここなのだけれど。
「よし、開けちゃお!」
少しばかり楽しそうに葵は奥の扉を開けようとするのだけれど、彼女がガチャガチャとノブを捻って動かしてみて、それは動くことはない。
「……鍵?」
「なのかな。とりあえず──」
そうして彼女は先ほどと同じように、魔法の準備をする。
教会の中は、先ほどの外とは違って月光が移って、淡く空間を照らしている。だから、彼女の所作ひとつひとつが視界に入って、少しどきどきする感覚。
ナイフを手に持って、彼女は腕に線を引く。見慣れてしまった光景に戸惑うことはなく、僕はその光景を見届ける。
「
先ほど聞いた言葉を再び聞いて、そうして血が無に還元──。
「──あれ?」
「ん?」
葵の戸惑いの声に彼女の全体を視界に入れるけれど、彼女の血液は垂れたままで、特に還元されることはなく、床は液体で彩られている。
「失敗したの?」
「……そうなのかな」
彼女が少し不安そうにしている。
目の前の扉を改めて視界に入れてみる。
ドアノブは特に鍵があるような、そんな仕組みでもなさそうだ。鍵穴も、それらしき機構も存在しないから、きっとそうなのだろう。
それなら、なんで開かないのだろう。奥に見えないように鍵があるとしても、今の葵の魔法で開かない、というのはどこか不自然だ。
僕はその不自然なドアノブに触れて、──反発する感触を覚えた。
──カチャリ。
「──え」
想像していなかった擬音が飛んできて、戸惑いを抱く。
「……開いたね」
「……そうっすね」
……よくわからないけれど、開いたのだから前に進むしかない。
──なぜ、あそこで反発する感覚がしたのだろうか。反発したということは、あれは魔法──。
そんな思索を巡らせながら、僕と葵は目の前の扉に進んでいって、──見慣れた”それ”を視界に入れる。
「……『空間』?」
葵が、それを視界に入れて、そうつぶやいた。
そこには大きな穴が開いている。不自然なほどに大きな穴が壁に。どこか中学校の裏側にある魔法教室の入り口に似ている。だから、葵がそんな感想を抱くのも仕方がない。
「……とりあえず、行こう」
訳が分からないことばかりが続くけれど、それでも歩みを止めるわけにはいかない。訳が分からないことが続くからこそ、その先に天音がいる感覚がする。
──この先に、天音がいる。絶対に。
暗い視界。いつも見慣れている暗さに視界を鳴らしながら、そうして繋がる白い景色に視界の明暗を戸惑いに抱きながら。
──いつものように、『空間』があることを認識して、さらに認識することは──。
──天音が、天王寺天音が、『空間』にいること。
「……アマ──」
天音の名前を呼ぼうとした。
でも、できなかった。
なんでかはわからない。
でも、聞こえた言葉はあった。
「『みつけた』」