お題小説   作:奥の手

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静けさを打ち破る電話のベル
ごつごつした大きな手
全ての始まり
柔らかい手
ムーンライト

以上五つのお題。
執筆時間:一時間。




 良い夜だった。

 開け放した窓から心地よい風が部屋を通り、俺の頬を撫でていく。

 

 部屋には裸電球の暖色が一つ。俺の事務机を頭上から照らす。逆に言えば部屋のそれ以外は照らされることもなく、闇の中に忘れ去られている。

 唯一、エジソン電球のオレンジ以外の光と言えば窓から差し込むムーンライトだろう。だが部屋全体を照らす役割は、あの月光では務まらない。せいぜい床の砂ぼこりや古い血痕をほんのり目立たせるにとどまっている。

 

 俺は机の上で分解した拳銃を見下ろした。

 バレル。ファイアリングピン。スライド。マガジン。その他もろもろ。細かく丁寧に舐めるように、その出来栄えをチェックする。

 そして舌打ちが漏れた。

 

「なめた仕事しやがって」

 

 悪態もついでにサービスだ。

 やはりもぐりのブローカーなどあてにならない。自前のパイプで探し出した武器商人のほうが数段良い仕事をする。

 信用のおけない人間から命を預ける商売道具を調達することは、金輪際ないだろう。あと、この雑な仕事の落とし前はつけなければならない。まったく骨折り損だ。明日にはあの禿頭に脳みそのかつらをプレゼントだ。

 

 ゴミ箱にバラした拳銃を放り込み、引き出しから愛用のトカレフを引っ張り出す。

 小傷も汚れも、今となっては俺の歴史を証明している。

 中心街のど真ん中で左腕をぶち抜かれながら十人をあの世に送った時も、この拳銃だった。八発しか入らねぇのにどうやってあと二人殺したんだっけな? 覚えてねぇや。

 

 窓から一際大きな風が入り込んで、机の上の書類を数枚、床に投げ落とした。

 俺は落ちた書類を席に着いたまま拾い上げ、体の手前で整えてから前を向いた。

 

 客のようだ。ノックもなしに俺の机の前に立っていやがる。

 

「……ここはお菓子売り場じゃねぇぞ。帰りな」

 

 何歳だろうな。小汚いスカートに小汚いTシャツ。小汚い顔に小汚い髪の毛。背中にはショッキングピンクの小汚いリュックサック。十歳か? いやそれより小さいか? たしか部下に娘がいたな。今年九歳のはずだ。あれより身長は低いし、体も痩せている。

 なにより窓から入る心地よい風がこのガキの体臭を運んでくる。ツンとした汗のにおい。何日もシャワーを浴びていないことを俺の目と鼻が一瞬で悟った。

 

 俺の言葉が聞こえていないのか、ガキはぶるぶると震えながら俺の目をまっすぐに見ている。もう一度言わせるのか? 

 

「帰れって言ってんだ。言葉がわからねぇのか?」

「わかる。しごと、して」

 

 あぁ? 

 こいつ、この国の人間じゃねぇな。なんだその片言は。

 

 と思っていたら、ガキは俺の机のすぐ目の前まで来て、背負っていたピンク色のクソみたいなデザインのリュックサックを机に置いた。

 身長が足りねぇで、だいぶ背伸びしながら放り投げたもんだから綺麗に俺のトカレフの上に覆いかぶさった。

 そしてずいぶん鈍い音がした。

 

「あけて」

 

 ガキが拙い発音で指をさす。机の目の前では俺の顔も満足に見えないと気が付いたのか、後ろに下がってじっと睨んできた。

 俺は何も言葉を返さず、リュックの口を開けた。

 

「……」

 

 なるほどな。〝しごと、して〟か。

 

「依頼内容は?」

 

 俺はリュックの下敷きになったトカレフを救出して、上着のポケットに入れた。ガキの目をまっすぐに見る。

 このガキ。

 目が腐ってやがる。なんて目つきだ。まるで何人か殺し────いや違うな。殺されたのか。

 

「おとうさん、おかあさん、しんだ。ころした、やつ。あなた、しごと、やる」

「情報が少なすぎる。俺は魔法使いじゃねぇ」

 

 席から立ち上がる。革張りの愛用椅子がギシリと鳴きながら後ろに下がった。

 俺はガキの目の前に立った。見下ろす。鼻につく臭いとむかつく汚さ。ひでぇもんだ。腹が立って仕方がない。

 

 ガキが俺を見上げた。ほとんど明かりになっていない窓からの月明かりでも、その目に浮かぶ涙ははっきりと見えた。

 

「……しごと」

 

 思わず舌打ちが漏れる。

 今日はついてねぇよ。そんでもって明日はもっとクソな日になる。

 最低でも二人は殺さねぇとな。

 

 でもとりあえずこのガキを風呂にぶち込むぞ。

 ガキの手を取った。柔らかい手。おもちゃみてぇだ。震えてやがる。

 

 今度は舌打ちではなくため息が出た。

 

 〇

 

 おじさんのては、ごつごつした、おおきなてでした。

 おおきなては、とってもちからがつよくて、あたまとか、からだをあらうのもちょっといたかったです。

 

 でもきもちよかったです。

 いつから、いつぶり? おふろにはいったの。

 まるでぱぱみたいでした。

 おおきくて、あたたかくて、つよいけど、やさしいてでした。

 

 おゆにつかりながら、おじさんはいいました。

 なにか、いいました。

 

 わたしにはわかりません。ことば、がんばっておぼえたけど、なにいってるのかわからない。

 

 おふろからでて、たべたあいすが、おいしかったです。

 

 〇

 

 ガキが俺の布団で寝てやがるから、俺は愛用の椅子で寝ることにした。逆のほうがよくねぇかと一瞬思ったが、あのベットよりこの椅子のほうが高い。椅子は俺のもんだ。

 

 真夜中だな。寝ることにはしたが、どうにも寝付けねぇ。

 だから棚からグラスとスコッチを取り出して、ツーフィンガーにした。たっぷりだ。眠れないなら呑むに限る。

 

 静かな夜。いい夜だ。間違いない。

 と、そんな夜をぶち壊すように俺の携帯が着信を知らせた。

 夜中でもお構いなしにベルが鳴る。鳴るということは、寝ていても叩き起こされる番号からの連絡ってわけだ。

 

 おもむろに取り出して、緑のボタンをスワイプする。耳に当てて、口の中のスコッチを飲み込み、甘いアルコールの余韻と一緒にクソめんどくさい電話に第一声を吐く。

 

「何時だと思ってんだ?」

「俺の部屋に時計はないんだ殺し屋。仕事の話だ」

「今日はもう店終いだ」

「まだ早朝の二時だぞ? 今日は始まったばかりだ」

「フカしてんじゃねぇ。用がないなら切るぞ」

「仕事だ。ガキを殺してくれ」

 

 俺はスコッチの入ったグラスを傾けた。喉を鳴らす音が電話の向こうに響いただろう。

 

「小汚いガキだ。年齢は八歳。二週間前に親は始末したが、ガキを逃しちまった」

「そのガキは何をしたんだ?」

「さぁな? デカい組織が一家もろとも命を狙っている。んで話が下りてきたってわけだ。何でも、誰でも、何処でも殺すのがお前のポリシーだろ? 詳細はデータを送る。報酬もそこに」

 

 それで電話は切れた。俺はもう一口グラスを傾けて、そして机に置いて息をついた。

 

 良い夜だ。最悪の夜だ。

 寝れねぇし、めんどくせぇし、とんでもねぇ。

 

 ガキが持ってきたバックの中には、十グラムでこの街三つが更地になるような先進爆薬が詰まっていた。ざっと持って一キロはある。末端価格だと……考えたくもねぇな。

 

「……~~~~」

 

 ガキが寝言を言っている。机の上の裸電球がわずかにその顔を照らす。涙の跡は、まだ乾いていない。

 

「あー、ちくしょう。この仕事嫌になるな」

 

 とりあえずこのガキの親を殺した奴は、まず最初に殺してやる。あの世で両親に土下座コースだ。

 

 〇

 

 あぁ、そういえばそんな夜だったな。このガキと最初に出会ったのは。

 あの夜を俺は一生忘れないし、忘れられないだろう。

 すべての始まりだった。この街も、俺も、俺の組織も終わる。そういう始まりだった。

 




まぁ一時間で書ける文量なんてこんなもんよ。
問題は質かな。描写のレベル上げに執筆速度との関係があるのかはわからんねぇ。
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